蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

国を蹴った男

2013年09月14日 | 本の感想
国を蹴った男(伊東潤 講談社)

あまり有名とは言えない武将をとりあげた短編集。

「牢人大将」は、武田家につかえた牢人部隊(領地をもたず合戦のたび賞金?をもらう傭兵隊のような位置づけ)の長(那波藤太郎)と副長(五味与惣兵衛)の活躍を描く。牢人部隊があまりに爽やかすぎてやや現実感に欠けるけど、読んでいて楽しい気分になれる歴史小説が久しぶりに読めた。

「戦は算術に候」は、豊臣政権の経理部長・長束正家と石田三成が、関ヶ原に臨んで小早川秀秋を買収しようとする話。うーん、経理の才能しかない正家のおかしみはうまく描かれていたけど、ストーリーとかオチはあまりに非現実的だった。

「短慮なり名左衛門」は、上杉謙信につかえた小領主の話。謙信亡き後、直江兼続の罠にかかってしまう姿を描く。「愛の武将」のはずの兼続がじつは権謀術数にたけたとてもいやな奴として登場するのがおかしかった。確かに、その後の兼続の行状からすると、きっとそんな感じの人だったんだろうなあ、と思わせた。

「毒蛾の舞」は、賤ヶ岳の柴田方の主将佐久間盛政が前田利家の正室まつに誘惑されて・・・という、これまたありそうにもない話。盛政は実は名将という話は何度か聞いたことあったけど、本作では利家なんか問題にならないほどの格の高さになっていた。

「天に唾して」は山上宗二の話。これは、まあ、普通の話だった。

表題作は、今川義元の後継者氏真の話。義元亡き後、なすすべもなく徳川と武田に切り取り放題にされた愚人とされることが多いが、実は蹴鞠と短歌に長じた風流人で流転の運命の中で戦国を生き延び、最後は江戸時代の高家として大大名なみの扱いをうけるまでになった、という話。氏真の人生なんて全く知らなかったので、とても興味深く読めた。
蹴鞠というは貴族の遊びくらいに思っていたが、サッカーのリフティングみたいな感じのけっこう激しいスポーツだったらしく、とても意外だった。ただ、蹴鞠の毬に爆弾仕込んで信長を暗殺しようとした人がいたというのは、これまた作り過ぎでしょ、と思えた。

語り口がよくて、どれも面白く読めるのだけど、上に書いたように筋をひねりすぎというか、ケレン味がありすぎのような気がした。

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