蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

アルテミス

2018年08月11日 | 本の感想
アルテミス(アンディ・ウィアー ハヤカワ文庫)

月面基地のアルテミスは、数千人の人口を抱えて、緩めの自治領的な統治が行われている。主人公のジャズは、運送業をしているが、生活は苦しく副業?として密輸に手を染めている。ある日、密輸業の得意先で富豪のトロンドから、アルテミスの主要産業であるアルミ精錬所の設備(原料鉱物の収集機械)の破壊を依頼される。巨額の報酬に目がくらんでジャズは依頼を引き受けるが・・・という話。

火星の人」に続く第2弾だが、続編的な要素は全くなく、登場人物も重複しない。前作に比べると、科学的蘊蓄を傾けた部分は少なめで、アクション映画的なストーリー展開に重きが置かれている。

それでもアルテミスにおける生活の「リアルさ」(科学的知識がないので何が本当のリアルなのかわからないのだが、なんとなく本当っぽく思える、という意味)は並のSF作品にはないもので、読んでいると(スーパーマン的活躍する主人公はウソっぽいものの)今でもアルテミスが月面にあるような気分になってくる。

故郷としてアルテミスを愛し、地球への送還を怖れる主人公が、ただおカネのためだけにアルテミスを破滅に導きかねないような破壊活動を始めてしまうというのは、設定としてやや無理があるかな、と思った。

ジャズの一人称の軽快な語りもとてもよかった(訳のうまさもあると思う)が、「火星の人」のワトニーのそれには、ちょっと及んでいないかなあ、という感じ。次回作ではワトニーの再登場に期待したいところ。

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