蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

聖母の部隊

2009年06月07日 | 本の感想
聖母の部隊(酒見 賢一 徳間書店)

奥付を見ると1991年に発行された本。
「後宮小説」の圧倒的な面白さにしびれた私は、この本も読みたいと思っていながら、ついに20年近くも実行しなかった。
もう忘れかけてたのだけど、最近、何かの雑誌で(確か)桜庭一樹さんが、本書を薦めているのを見て思い出し、図書館でたまため見つけて読むことになった。

途上国での内戦を思わせる戦闘地域で、主人公が住む村は全滅するが、主人公をふくむ子供は助けられて15人の子供たちは女性の戦闘指導員に育てられ、ゲリラ戦の戦闘員に仕立て上げられる。
主人公たちは戦闘指導員を母のように慕い、戦闘指導員にもいつしか母親のそれに似た感情が芽生える。

まあ、ありそうな筋立てで、オチもある程度予想はつくのだけれど、指導員と子供達のあいだの愛情の芽生えと発展ぶりが、少ない紙数の中ながら、巧みに語られ納得性が高く、著者の力量を感じた。

「陋巷に在り」はSFとも言える内容だけれど、この本以来、著者はSFを書くのをやめてしまったみたいで残念。山田正紀級の実力の持ち主だと思うんだけれど。

ところで、本書(ハードカバー)の表紙画は、生頼範義さんによるものだけれど、これが一目見ただけで物語世界をすぐに想起できるような素晴らしい出来。
生頼さんというと「幻魔大戦」のイラストとかスターウォーズのポスターを思い出すけど、最近あまり作品を見かけないような気がする。
近頃の表紙絵って抽象的・デザイン画的な指向が強くて、小説の中身を一枚のイラストで表現するみたいなのが少ないので、生頼さん系の作品による装丁ももっと見てみたいと思う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする