この一年間、日本の政治は「政治とカネ」だけで終始したといって過言ではない。メデイアは飽きもせず執拗に、小沢一郎の「政治とカネ」問題を報道した。今や小沢一郎=金権政治家=古い体質=悪という図式が定着。小沢一郎を放逐する事が政治の目的であるかのような報道を繰り返した。
ところが、不思議な事に小沢一郎がどんな金権政治を行ったか、と言う事を詳細に報じた記事は皆無と言ってよい。一体全体、小沢一郎は、どこからお金をもらい、そのお金の見返りにどういう形で国策を曲げたのか、誰もはっきり答えられない。それでいて、小沢一郎=金権政治家=悪と報道して誰も不思議に思わない。要するに、小沢一郎の政治資金は膨大だから、彼は悪い事をしているに違いない、という憶測で報道しているとしか思えない。
東京地検の捜査が小沢一郎に及んだとき、これで小沢一郎も終わりと思った国民は少なくないはずだ。ところが、一年間に及ぶ東京地検の執拗な捜査にもかかわらず、収賄罪はおろか、利益誘導も、口きき疑惑も何の証拠も見つけられなかった。
腹立ちまぎれに小沢一郎の秘書三人を逮捕・拘留・無理やり起訴まで持ち込んだが、彼らの容疑は、政治資金法不実記載で、過去、これらの疑惑は、通常修正申告で済んだ。この程度の問題を「政治とカネ」問題に膨らまし、小沢一郎=金権政治家=悪のキャンペーンを張った事になる。この内容をメディアが知らないわけがない。知っていて、「政治とカネ」問題を一年間にわたって報道し続ける姿勢にメディアの尋常でない「悪意」を感じるのは私だけではないだろう。
今回の鳩山首相の辞任、小沢幹事長の辞任は、米国と官僚とメディアによるクーデターだという指摘もあながち妄想ではない。それほど、この一年間のメディア報道は異常だった。
鈴木宗男とともに逮捕された元外務省職員佐藤優は、小沢一郎は「悪党」になる以外道はないという。「悪党」とは、足利幕府終焉期、地域の民衆のために権力と抵抗した土豪たちの事を指す。例えば、楠正成は、河内地方の土豪で「悪党」と呼ばれていた、権力側から見れば、文字通りの秩序紊乱者(悪党)だが、地域の民衆から見れば、理不尽な権力と戦う頼りになる人物、と言う事になる。
米国・官僚・メディアなどの悪徳ペンタゴンから見れば、小沢一郎は文字通りの秩序紊乱者(悪党)であり、逆に虐げられた地方の民衆から見れば、頼もしい革命家に見える。この小沢一郎を巡る評価の分裂こそ、現在日本が抱え込んでいる矛盾の深さを物語っている。「政治とカネ」問題に特化した報道姿勢は、日本政治なかんづく小沢問題の本質を正面から取り上げる事を避ける事を意味している。
菅政権が標榜する「クリーンな政治」というスローガンは、このように見ていくと、国民が政治の本質を考える事を妨げる事になる。
たしかに、政治資金はきれいな方が良い。政治資金も少ない方が良い。このような思考法を極限まで突き詰めると、お金を一銭も持たない人間以外政治などできなくなる。政治家は、ぼろを着、車など使わず、昼飯はコンビニ弁当で済まし、ただただ質素倹約する人間以外政治などできなくなる。このように書くと、それこそ極端だという批判が出るだろうが、日本国民の「クリーン」好きは、そう言われても仕方がない。
マキャベリは「善を行うことしか考えない者は、悪しき者の中にあって破滅せざるを得なくなる」と書いているが、少し世古長けた人間なら、この事は人間学として常識的に知っている。例えば、会社経営を行う経営者が、あまりにも道徳的・倫理的でありすぎると、会社それ自体を危うくすると言う事がしばしばある。「悪いことのできない人より、悪いことができて、悪いことをしない人が成功する。事業界とはそういうものです」(阪急電鉄相談役 清水 雅)(「東洋経済学入門」伊藤肇(評論家)ゴマブックスより)
少し視点を変えてみよう。「情報は政治の命」。「情報」の入らない政治家は判断を間違う。ところが、「情報」を手に入れるには、金がかかる。貴重な情報ほど金がかかる。ただで手に入る情報などはおおよそ役に立たない。
昔、有名な好事家がいた。彼は骨董収集に目がなかった。事実、多くの骨董品が彼の下に集められていた。その彼のところに多くの骨董屋が足を運んできた。彼は、骨董屋の持ってくる品物をよく買ってやった。側近のものが、「何で偽物と分かっていて買ってやるのですか。お金が無駄ではないですか」と尋ねると、彼はこう答えた。「偽物を買ってやらないと、本物が手に入らないのだ。」
この話、「情報」にも当てはまる。「情報」の多くはガセネタ。しかし、大多数のガセネタの中にキラリと光る本物の情報がある。これを見分けるのが、その人の目(能力)と判断力だ。しかし、それもこれも「情報」を集めてからの話で、良い情報を集めるには、壮大な無駄が必要だと言う事になる。日本でも大物と呼ばれる政治家ほど、情報集能力が高かった。それだけ、情報収集のために「お金」を使えた、と言う事になる。だから、「政治判断」を間違えなかった。
では、「クリーンな政治」を徹底するとどうなるのか。田中良紹氏の主張するように(※田中良紹の国会探検)政治家個人で「情報収集」などできなくなる。それでも「情報」は欲しい。となると、いきおい最も情報を持っている【官僚】に頼らざるを得なくなる。「官僚」たちは強かだから、当然自分たちに都合の良い「情報」を厳選して渡すことになる。いきおい、「官僚主導」の政策が行われることになる。
つまり、「クリーン」な政治を標榜すればするほど、官僚の重要性が増す、という矛盾した構図になる。菅直人が「クリーン」な政治を標榜し、それをメディア・国民が大喝采すればするほど、「官僚」たちの思う壺で、わたしには、「官僚」の高笑いが聞こえるような気がする。
民主主義の根幹に、「情報の公開・共有化」が据えられなければならない、という意味は、上記の「情報独占」が政治の私物化を招くからである。だからこそ、「情報公開」が求められるのだが、「情報の独占」こそが権力の源泉と心得ている「官僚組織」に風穴を開けるのは容易ではない。
自民党政権時代は、「情報独占」した官僚組織が、時折、政治家に都合の良い「情報」を提供し、政治家は自らの権力維持のためにその「情報」を使うという構造が定着していた。要するに、官僚の掌の上で政治家が踊っていた。文字通りの「官僚主導国家」。メディアも記者クラブ制度を通じて、「情報」のおこぼれを頂き、自社のステイタスを保つ、と言う意味で、共犯だった。
民主党政権は、この「構造」に風穴を開けるはずだった。当然、この予定調和的構造に胡坐をかいていた官僚及び共犯者であるメディアの抵抗は凄まじかった。彼らは、政治家のアキレス腱であり、潔癖すぎる日本国民が最も嫌う「政治とカネ」問題に焦点を絞り民主党政権を攻め立てた。
「政治とカネ」問題に特化した報道が一年間行われたという事は、その裏には「日本の政治構造」をそのまま温存したいという「官僚」「メディア」など既得権益層の思惑及び日本をこのまま米国の従属国家にしておきたいという米国の意図も絡み合っていた事は想像に難くない。それだけ、彼らの危機感が強かったという事になる。
菅直人政権が、その第一声で「クリーンな政治」を標榜したという事は、彼らに屈伏したという事を意味する。新自由主義者の巣窟である菅政権の政策を見ていると、消費税を含む増税論議一色で、このままいけば、菅内閣は、見事な「増税内閣」になることは明らかだ。「国民生活が第一」の民主党から「国民負担が第一」の民主党へモデルチエンジしたと言われても仕方がない。
菅直人首相が本気でこのような政権運営をするのか、それとも参議院選挙対策で官僚・メディア主導の世論に迎合したかに見せて、民主党政権を安定軌道に乗せた後、元の民主党路線に戻すのか。ここのところが、まだ判然としない。
わたしは、小沢一郎の狙いは、かっての自民党のように、民主党政権内で疑似政権交代を繰り返しながら、日本を自立方向に変革していくのではないか、とも考えているが、それも判然としない。その政策的分岐点は、以下のように要約できる。
共生主義 VS 市場原理主義
自主独立 VS 対米隷属
官僚利権排除 VS 官僚利権温存
金権政治排除 VS 金権政治温存
(植草一秀 知られざる真実)
現在の菅政権の布陣、菅総理の発言、各閣僚の発言などを見ていると、どう見ても、市場原理主義に舵を切ったかに見える。もし、この方向性が本当なら、民主党分裂、政界再編含みの争いは避けられない。9月政変が現実味を帯びてくる。
小沢自身の覚悟は、赤坂の小沢事務所に掲げられている日露戦争の仲介役で知られているT・ルーズベルト大統領の檄文に尽きると思う。
「重要なのは、批評する者ではありません。強い男のつまずきを指摘したり、りっぱな仕事をした者にケチをつけたりする人間でもありません。
真に称賛しなければならないのは、泥と汗と血で顔を汚し、実際に戦いの場に立って勇敢に努力する男。努力に付きものの過ちや失敗を繰り返す男です。
しかし彼は実際に物事を成し遂げるために全力を尽くします。偉大な情熱と献身を知っています。価値ある大義のために全力を傾け、最後には赫々たる勝利を収めます。たとえ敗れる時であっても敢然として戦いつつ敗れます。だからそういう男を、勝利も敗北も経験しない無感動で臆病な連中と断じて同列に並べるべきではありません」・・「ゲンダイネット」
http://www.gendai.net/articles/view/syakai/124473
要は、小沢一郎と菅直人の間でどれだけ話し合いができているかにかかわる。その結果は、9月の代表任期切れまで分からない。できうれば、小沢と菅の間で、話が付いており、9月の内閣改造で民主党内の新自由主義者の粛清が行われることがベストだと思う。
「護憲+BBS」「政党ウォッチング」より
流水