老人党リアルグループ「護憲+」ブログ

現憲法の基本理念(国民主権、平和、人権)の視点で「世直し」を志す「護憲+」メンバーのメッセージ

明治以降の貧困へのアプローチ

2019-04-17 10:09:41 | 社会問題
パンドラさん、コラムへのコメントありがとうございます。

以前にも書いた記憶があるのですが、新自由主義的経済論は、資本主義の先祖返りです。

イギリスで言えば、資本主義の黎明期、無秩序な労働が放置され、子供の長時間労働(一日15時間など)などが問題になった時代です。資本階級が圧倒的に強く、労働者階級はほとんど無自覚なまま低賃金と長時間労働を強制されていた時代です。

日本では、いわゆる西欧型資本主義の洗礼を浴びるのは明治に入ってからです。

最近になって江戸研究が進み、江戸の経済成長は世界に冠たるもので、日本の資本主義は世界的に見ても相当なもので、そんなに馬鹿にしたものではなかったようです。一説によれば、当時の世界の中で最も高い経済成長率を誇っていた、と言います。

当たり前の話で、経済力がなければ、当時の世界の都市でNO1の人口(100万超)を誇った江戸の町が持つはずがないのです。

たしかに、明治時代は、新しい職種や新しい労働形態が生み出され、「散切り頭を叩いてみれば 文明開化の音がする」ご一新の時代を迎えたようですが、その基礎は江戸時代の商人たちの活躍にあったのです。

日本人の悪いところで、明治維新になった時、世界は進んでいて、日本は遅れている、という固定観念にとらわれ、西欧流資本主義を金科玉条のごとく取り入れたのです。次の1万円札になる渋沢栄一などがその中心だったのです。

しかし、新しい時代になってから、新たな形の貧困が見えるようになりました。それは江戸時代にはあまり顕在化しなかった形での貧困です。

江戸時代の場合は身分制社会の中での貧困であり、資本主義社会の中での貧困とは違っていました。明治になってからの貧困は、資本主義社会(近代社会)での貧困であり、多少形態が異なっていたのです。

このような日本の貧困(下層階級)を考えるとき、今から100年以上前の1898 年(明治31年)に横山源之助が書いた「日本の下層社会」を避けては通れません。明治時代の作品にも関わらず、きわめて緻密な取材に基づいた貧困層に対する社会調査・ルポルタージュで、当時の貧困層の実態が浮かび上がります。

「日本の下層社会」は、岩波文庫で読むことができます。また、原本を読もうと思われるのでしたら、下のサイトで読むことができます。
国会図書館 デジタル 「日本の下層社会」 横山源之助
 http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/798849

例えば、横山は、東京市(当時は市でした)を以下のように書きます。
『東京市15区 戸数29万8千 人口136万余 多数は、生活に如意ならざる下層の階級に属す』

このような筆致で、横山は、東京の貧民の生活状態を数字入りで、事細かに書いています。職人、手工業労働者、工場労働者、小作人など職種に応じ、事情に応じて調査をしています。さらに、失業者などについても言及しています。

それも現代の統計にも負けないくらい、事細かに調べています。
〇生活実態 〇職位別の労働実態 〇労働契約や自由時間の有無 〇労働者の教育水準

横山はその調査を自ら現場に出かけ、自ら聞き取り調査を行うという風に足で稼いで書いています。その為、きわめて説得力に富み、信頼性の高いものになっているのです。

わたしはこれを読みながら、現在の日本のBLACK企業と相似形ではないか、と思いました。時代は違えど結局人間の考える事はそんなに差がないのでしょう。

それともう一つ最近読み直している本に「日本残酷物語」があります。平凡社から出版された本で、監修に宮本常一とか山本周五郎や山代巴などが名を連ねています。
https://www.amazon.co.jp/日本残酷物語1-平凡社ライブラリー-宮本-常一/dp/4582760953

この本は、近代日本の最底辺で蠢いていた民衆の記録です。この本の内容紹介は以下のように書いています。

・・「これは流砂のごとく日本の最底辺にうずもれた人々の物語である。自然の奇跡に見放され、体制の幸福にあずかることを知らない民衆の生活の記録であり、生きながら化石として抹殺されるほかない小さきものの歴史である。追い詰められた民衆のごく当たり前な日常的な生活こそもっとも反体制的であり、その生活断面に施したさまざまな陰刻から強烈な生の意味を汲み取ろうとする衝撃の書・・・

もし、政権当時の民主党の政治家連中が、民主党政権が掲げたスローガン【国民の生活が第一】の意味を、上記の「追い詰められた民衆のごく当たり前な日常的な生活こそもっとも反体制的である」という文脈で捉えていたら、あのような無残な政権瓦解をしなくて済んだはずです。

わたしは、当時、何度も日本での政権交代は、他国での【革命】に匹敵すると書いたり、言ったりしましたが、「国民の生活が第一」という理念の革命性から考えると、そうなるのです。その理念の理解度の低さ、政治的未熟さが民主党政権の失敗だったと考えています。

現在の日本は、いまだ高度成長期の成功体験から脱却できていません。しかし、「夢よ、もう一度」は通用しないのです。

「日本の下層社会」をあれほど緻密に考察してきた横山源之助ですら、日本の貧民の実態は、資本家に搾取されて生じた経済貧民 というより、教育不足や自立心の欠如による人生の不幸者であり、その問題を 改革すれば、貧困問題は解決できるという立場をとっていました。

貧困からの脱却を自分自身の頑張りと教育の力で可能であると書いています。当時盛んだった社会主義的イデオロギーをそのまま適用して、資本家の搾取による貧困という解釈をとっていません。

横山源之助の説は、実証的な実態調査に基づいていて、きわめて合理的な要素がありました。しかし、横山説の弱点は、空間的(包括的)な経済理論への無関心さがあります。資本主義という経済理論理解の弱さです。

それだけ、時代の希望があったのです。人口は増え、職業は多彩になり、生活形態も劇的に変化していたのです。“末は博士か、大臣か”という時代の実相があったのです。一言で言うと、時代が若かったのです。だから、彼は、貧困からの脱却が可能ではないか、という幻想を抱けたのです。

しかし、現代は違います。日本は、横山が抱いた幻想の行きつく先を見てしまったのです。「成熟社会」とはそういうものです。「見てしまったゆえのニヒル」「知ってしまったゆえの絶望」が日本の若者たちを蝕んでいるのです。

私などは、成熟とは程遠い出来損ないの人間なので、いまだ「希望」という言葉に執着心を持っていますが、どうやらそんな人間は時代遅れの骨とう品なのでしょう。しかし、彼らももう少し時間が経過したら、大きく後悔するに違いありません。

これから日本を襲う大暴風は、想像を絶するものになるに違いありません。「日本の下層社会」や「日本残酷物語」で書かれた本当の貧困が襲い掛かるはずです。その時になったら遅いのですが、やむ負えないと思います。

何度も言いますが、政治は、その国の国民の民度を超える事はできません。政治や政治家を馬鹿にすれば、政治家が国民を馬鹿にするのです。国民が政治を馬鹿にし、政治に関心を失った罪は重いのです。

「護憲+BBS」「コラムの感想」より
流水

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Unknown (Unknown)
2019-04-18 21:04:07
賃金低下の諸原因
1・新自由主義経済政策
http://money-and-finance.hatenablog.com/entry/2016/02/11/145609
企業は最高益なのに賃金が増えないのは、企業トップが雇われ経営者であることが一因。彼らは株主に報いることが第一であり、利益を減らす賃金Upには後ろ向き。

2経済発展の反動
スペイン・ポルトガル・オランダ・イギリスの経済発展の
後には必ず経済の停滞時期があった。

3・日本の失われた30年は、戦後日本の高度成長の反動である。

とするならば、発展と反動をつなぐ理論が必要になる。

理論を組み立てるための作業として、歴史の中に関連する事象を集めなければならない。

ローマ帝国の反映の後には長い暗黒の中世ヨーロッパが有った。ローマ帝国が繁栄を誇ったころ、アジアでは漢王朝が栄えた。漢の後、アジアでは、インドで起きた仏教の伝播によって、経済発展が起きている。例えば南宋である。日本では仏教の普及によって、鎌倉、室町時代に経済発展が行われた。

具体的なデーターの収集と検証が必要であるが、仏教の平等思想が東洋と西洋の違いとして現れている。

明治維新政府が行った廃仏毀釈は、仏教を撤廃しようとする試みで、今日の経済政策にも、平等思想の破壊というブラックな雰囲気を醸し出している。

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Unknown (Unknown)
2019-04-19 07:45:43
次期産業の中核となるit とか人工知能の研究で日本は遅れ、中国と韓国にも負けている。10年後、トヨタが韓国、中国と勝負しなければならなくなる時期が来る。
私はアルゴリズムを勉強しだが、日本の国家試験に出てくるアルゴリズムは、一万あるアルゴリズムの1%の重箱の隅をほじくっている。自由な発想がない。私の予想では、今後100年間日本は後進国になる。独裁政権の天下である。あべちゃんの元で声を潜めて生きていくのだろうか。
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Unknown (Unknown)
2019-04-20 10:38:22
レ・ミゼラブル(フランスの作家ユゴーの小説《レ・ミゼラブル》(1862)

日本版(レ・ミゼラブル)が始まった。
1年で方針転換 廃炉作業に特定技能外国人を送る政権の狂気
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/252281

あなたは10年後の日本を想像できるか。できなければ、あなたの脳は死んでいる。
返信する
Unknown (Unknown)
2019-04-20 11:14:28
長崎原爆直下に刑務所があった。100名弱の収容者が即死した。なかに外国籍の人が数十人いた。日本政府は原爆の悲惨さを隠そうとして、収容所のレンガの基礎を取り去ろうと計画したが、市民団体の強い反対にあった。その地には外国籍の数十人が被害にあったと看板がたっているだけである。被害者の名前と出身地と死亡日時もわからない。日本政府は原爆被害の悲惨さを隠し、人々の記憶から消し去ろうと一貫して努力している。
隠そうとすればするほど、いつか強い逆噴射になって日本に帰ってくるだろう。
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奥の深い日本の歴史 (Unknown)
2019-04-21 20:38:01
新自由主義経済下の貧困
新自由主義経済下で起きていること。
日本経済はゼロ成長なのに、企業の内部留保は400兆円もある。
”企業の「内部留保」が4年で100兆円増加”
https://business.nikkei.com/atcl/report/15/238117/090700058/
企業ファーストである。
かって、「貧乏人は麦飯を食え」と言った首相が内閣総辞職した。当時、それほど「国民は皆平等」という意識があった。
当時と比べると、今の日本人は全てにおいて萎縮している。

国民総生産が500兆円あっても、企業、金持ちファーストで生産物を先取りするのが、今の政治である。それに対して、国民は反対、抗議する方法がない。
だから日本経済は今後、長期停滞するしかないのである。

日本の歴史は奥が深い。
西暦700年ころ、時の宰相(首相)が皇太子に暗殺されて、大化の改新が始まったのを思い出す。


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