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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「魔術師 [イリュージョニスト] (上)(下)」(著:ジェフリー・ディーヴァー/訳:池田 真紀子)

2015-01-29 23:46:18 | 【書物】1点集中型
 気づけばこちらも前作「石の猿」を読んでから1年以上ぶりのライムシリーズ。アメリアが昇進試験に取り組む一方で、怪しげなマジシャンの殺人ショーがひとつ、またひとつと展開される。しかしその狙いが、複数の事件を経てもなかなか見えてこないのである。
 マジックの心得があることからコンサルタントとしてチーム・ライムに加わる助っ人・カーラによって、いわゆるマジックやイリュージョンが観客を欺く手法も事細かに描写されていて、そういうHow to部分もかなり興味深く読める。そしてその、常人には考えられない超絶テクニックを駆使する犯人「魔術師」に翻弄される捜査チーム。さらにまさかまさか、ライムその人の目の前に「魔術師」自身が現れて、絶体絶命! な事態まで巻き起こる。

 相変わらずのジェットコースターぶりは、例によって下巻でさらに加速する。一見、何がどうつながるのかわからない別の事件とも次第に結びつきが見えてくるとともに、誤導に次ぐ誤導、変身に次ぐ変身、そして「誤導には誤導を」と言わんばかりのライムとサックスの、魔術師との鍔迫り合いが繰り返される。
 挙句、犯人逮捕であっさり終わらないのがこれまた例によってのライムシリーズで、ライムの口から飛び出す大どんでん返しがまだ残っている。犯人のステージネームの意味も、ここにきてようやく明かされるという次第。加えてカーラの人生にも、果てはアメリアの人生にもどんでん返しが待っていた。そして新たな事件がまた始まる。この途切れなさ、ある意味落ち着かなさがライムシリーズらしさ。相変わらずのエンタメまっしぐらで、さくさく読めすぎて困る(笑)。

 「ライムは証拠さえあれば満足する。犯人の心理や人となりまで吟味する忍耐は持ち合わせていない。しかしサックスの心は善悪の問題に引きつけられる」という話が印象的。今さらながらなるほどと思ったし、だからこそ補い合って捜査ができるということなんだなと。これからもこの2人のチームには思わぬ横槍が入ってくることがありそうだけど、そこをどう乗り越えていくのかも楽しみのひとつになりそう。