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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「ゴルディアスの結び目」(著:小松 左京)

2012-05-30 23:11:31 | 【書物】1点集中型
 「マインド・イーター」の衝撃を忘れないうちに。ということで、水見氏があとがきにて引き合いに出されていたこの作品で、小松左京初読み。

 全体的には、SFだけどちょっとホラーみたいな雰囲気。SFと言って言えなくもないけど……くらいの印象の「岬にて」から始まりながら、表題作「ゴルディアスの結び目」ではオカルティシズムも漂ってくる。で、「すぺるむ・さぴえんすの冒険」にはクラークっぽいイメージも(個人的には、だけど)想起されて、最後はいっそ壮大な宇宙論ですらあるだろう「あなろぐ・らう゛」。
 1作1作を読んでいくうちに、正体の知れない深淵、あるいはそれこそ宇宙をどこへともなく彷徨っているような気分になる。まったき闇に吸い込まれても、存在の証としての記憶は受け継がれ、宇宙は巡っていく。生物が母なる海から生まれ、海へと還る存在であるならば、宇宙という海を産み落とすのもまた「母」である。そんなふうに、「すぺるむ・さぴえんすの冒険」と「あなろぐ・らう゛」はどこかで繋がっている感じ。

 作家の頭の中、思索の宇宙。この連作は、読めば読むほど小松氏の中にある宇宙に対する捉え方を、余すところなく見せてもらっているように感じられる。だから氏自身の「メモ」という言葉にも納得。
 その言葉の迸りが結ぶ像を脳裏に描けば、果てしない海に沈むように抱きとめられて漂うような不思議な感覚が訪れ、読後に何とも言えない余韻を残す。おそらくそれこそが、小松氏の言った「旅」なのだ。