life goes on slowly

或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「マインド・イーター [完全版]」(著:水見 稜)

2012-05-15 19:59:15 | 【書物】1点集中型
 表紙の雰囲気と、裏表紙に載ってたあらすじというか設定が気に入ったので読んでみた。この文章からすると、なんかすごいおどろおどろしく壮絶な戦いが繰り広げられるかに見えるのだが、実際に読んでみるとバトル満載という感じではほとんどない。でも、M・Eことマインド・イーターに侵された者を待つものが、それぞれに凄惨だったり不気味だったりすることは事実だ。

 読後感を一言で言えば、単純に「面白い」としか言いようがない。それも、あんまりおおっぴらに話の筋には触れたくない(笑)ような面白さである。なんだろう、事件の解決(たとえて言えば、人類とM・Eの全面戦争が始まって終わる、みたいな)を問題にした作品ではなくて、その舞台装置の中で、読者がそれぞれに自然と考えさせられる感じ。
 極端なことを言えば、筋はこの際どうでもいいのだ。そこに何が展開されるかだ。でも、面白い。印象に残る。もう1回読み返したいと感じさせられる。

 それにしても、30年近くも昔に書かれたものとは知らずに読んだのだが、全然古くない。むしろ新鮮ですらある。
 SFは本当に、人間のアイデンティティに踏み込む作品が多いように思うし、そういうところが好きだ。そしてこの「マインド・イーター」シリーズの作品群はそこからさらに、「生物とは」というところまで突き詰めていく。人間という生物と、M・Eという無生物の間を分かちがたく結びつける言語と音楽、それぞれの妙なる調べ。生物が生物である証の動的平衡、そして「生物であることの誇り」。死を前提に生きるということ。
 人間は、いや生物が死して「土に還る」ことと、この連作の結末は、決して偶然ではないと思う。

 時々哲学の境地にすらすんなり入っていけるような気がするのが、私にとってのSFの魅力のひとつなのかも。とか言いつつ恥ずかしながら小松左京氏もまだ読んでいないので、近いうちに「ゴルディアスの結び目」も読もう。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿