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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「陰翳礼讃」(著:谷崎 潤一郎)

2012-05-26 23:11:18 | 【書物】1点集中型
 読もう読もうと思っていて、長らく手をつけていなかった本のひとつ(そんなんばっかり)。

 日本人にとっての陰翳とは。その視点で谷崎が語りかつ表現する陰翳の数々は、想像するだに艶かしく、そしてまた日本間がよく似合う。ぶっちゃけ、「そこまで入れ込むか~」と突っ込みたくなるときもあるほどものすごい力説というか、陰翳への愛情なのだが(笑)ちょうど時代の分かれ目にいたからこそ見えていたのだろう考察で、なるほどと思えたのは事実だ。
 蝋燭や行灯の薄暗い明かりだけで見る部屋の中と、電気の明かりで煌々と照らされる部屋の中の印象の違い。であれば、たとえば西洋画はもっと明るい展示室で見てもいいんじゃないかな~という気はする(って、そこそこ明るい展示室もないことはないけど)。

 この「陰翳礼賛」に、「懶惰の説」(谷崎曰く、本当はりっしんべんに「頼」だそうだが辞書で出てこなかった……)や「恋愛及び色情」が加わって、谷崎文学の耽美で退廃的な雰囲気の源泉に少し触れられたような気がする。下世話な言い方をすれば、いわゆるチラリズムが人の心をそそる色気を感じさせる所以を述べているようにも思うし、「『女』と『夜』は今も昔も附き物である」という言葉からは、やっぱり陰翳との切手も切れないつながりが見えてくる。
 しかし「厠のいろいろ」にはちょっと笑ってしまった。丁子とか汽車のトイレとか、これ、笑っていいところだよね?(笑)