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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「さよなら、サイレント・ネイビー ――地下鉄に乗った同級生」(著:伊東 乾)

2011-04-03 23:35:27 | 【書物】1点集中型

 著者は地下鉄サリン事件実行犯の1人、豊田被告との大学の同窓であり現役の東大助教授。「日経ビジネスオンライン」で氏のコラムを時々読んでいて、そのつながりで読んでみた。
 豊田被告本人の言葉を前面に持ってくるような内容を勝手に想像していたので、そういう意味では思っていたような表現とはかなり違った。でも筆者が伝えたいことは伝わってきた気がする。おそらく多くの人がそう思っていたように、そして著者が指摘したように、私自身も「自分とは無関係」と思う一人だったから。
 けれど「筋書きの中にいる方が楽」つまり、敷かれたレールに乗っかる方が楽だし、時にそれに甘えて安心してしまうことがあるのは事実なのだ。たとえばひとつの嘘を隠すために次の嘘を作ろうとするように、たとえば自分の小さな過ちを繕うために、「正当化のストーリー」を築こうと一瞬でも考えたことがない人などいるだろうか。言うなれば、そんな心理を巧みに操り肥大化させたのが「オウム」だったということなのだろう。

 「行動」に対しての罪は個々の裁判で裁かれるが、本当の意味で再発を防ぐためには何が必要なのか。私自身は死刑廃止論者ではないけれど、その命題において筆者が言いたいことは理解できたと思う。
 当事者ではない自分が簡単に0か1かの答えを出すことはできないが、豊田被告はもとよりサリン事件に限らず、さまざまな事件のそれぞれの被告が、償いとして、死のほかに社会に対して償えることがあるなら、どんな形でもすべてやりつくしてほしいとは思う。そのことによって、二度とあのような事件が起きない社会をつくることに近づけるのなら。