田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

九尾族の恨みはらします イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-10-13 10:00:18 | Weblog
2

尾形は廃屋と化していた。 
朽ち果ていた。

ところどころにはのこっていた。
昭和20年までつづいてきた。
古き良き時代の日本の農村風景。      

道端に道祖神がある。
なかよくだきあった二神は苔にふちどられていた。

川では水車がまわっている?

「おれが楔をはずした。まだ動くとはおもわなかった」
となつかしそうに勝平がつぶやいた。

三人は九尾と蛇神を合祀している神社の境内に陣取った。
大きな鈴の向こうの社の欄間には絵が描いてあった。
古く幼い感じの絵だった。
狐の尾は蛇のように広がている。
九本の尾はあらゆる方角をにらんでいた。
誠もハジメテ参拝する神社だった。

「これってすごい。すごすぎるよ。うちの先祖は忍者だったの」
翔太は〈ナルト〉のなかに封印されている。
九尾の狐をイメージして興奮している。
「そうかもしれないな」
誠はあえて否定はしなかった。

「ようきた。ようきたな。ぬかるまいぞ。われらもついているからな」
勝平のこころには伝わってきた。
無数の心強い励ましのことばが、ひびいてきた。

妻、並子の一族。
九尾族の60年の恨み。
敗戦の夏の暑さの下の。
陰惨な事件をおもいだした。

いやもっと古い平安の御代。
鳥羽上皇に仕えた白面金毛九尾の狐の長い恨みを晴らすため。
この地を、人狼との決戦の場として、勝平は選んだ。
玉藻の前は、九尾族の女王は人狼に敗れたのだった。

九尾の落ち武者、尾形の女はあのとき抹殺された。
は再生されないままだった。
しかし、彼女たちのスピリットは死なない。
人狼の正体を見抜く心眼。
人狼への恨みは1000年の時空を超えてめんめんとつづいている。
その血は成尾家に継承されている。


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ハルマゲドン イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-10-12 14:08:20 | Weblog
第八章 尾形でのハルマゲドン

「身を慎んで目を覚ましていなさい。あなたがたの敵である悪魔が、ほえたける獅子のように、だれかお食い尽そうと探し回っています」  ペテロの手紙1第五章八節
                         

1

誠の携帯が胸のポケットでふるえた。
小野田からだった。
ぜひ会いたいという。
いつになく強引だ。

「ちょうどよかった。小野田に見せたいものがある。慧くんの敵がどういうヤツか見てみないか」
「息子を死に追いやったのは、体育教師の……」
「ちがう。ちがうんだ、小野田。おまえも北小の卒業生だから例幣使街道の尾形を覚えているよな」
「わかった。これからむかう」

勝平は蛇の谷へつづく斜面のすそでバイクを止めた。
翔太がリャーシートからとびおりる。
ジイチャンといく。
バイクにのるのだといってきかなかった。

「ジイチャン。風が顔にあたってたのしかったよ」
勝平はしっかりと孫の手を握った。
林の中には霧が立ち込めていた。
温気がとどこおっていた。
深く濃密に霧となっていた。
注意しないと目前の木の枝すら見えない。
迷子になって、蛇の谷に迷い込むのをおそれて里人は近寄らない。
サンクチャリイだ。
「この霧はいつもこうなのだ」
濃い霧がの在処をあいまいにしている。
隠している。
にむやみに里人が近付くことがないように。
霧に守られていた。
は霧の底に沈み、家はほとんど朽ち果てていた。
人気はなかった。

年を重ねるとはいいものだ。
過去の思い出の重なりがどんどんふえていく。
その思いでの重なり。
記憶のひとつひとつが勝平が生きてきた証しだ。
背後で誠の4駆動のエンジンが切られた。

「これからいくところには蛇が群れをなしている。でもおれたちには害はあたえない」
「知っているよ。並バアチャンを守っていた蛇だよね」

翔太はジイチャンからなんど聞かされてきた話を覚えている。
ジイチャンがぼくの年の頃に経験した冒険のはなしだ。
運命の導くままに並バアチャンと出会った話だ。

「すごいかずだぞ」
「ぼく、怖くないよ」

勝平が60年前に並子の手をひいて越えた蛇の谷だ。
いま逆の方からの中心へと近づいている。
孫の翔太の手を握って。
蛇は敬意をあらわすように3人が歩けるだけの道を開けてくれた。
ミュウとムックも蛇にとまどいながらも追いついてくる。

「すごいね。ジイチャン。ぼくたち蛇の道をあるいているんだね。蛇に歓迎されているんだ」
「ああ、並子や貞子、鹿子ヒイバアチャンが生きてきた聖なる土地なんだぞ。ここは……」
「わかるよ。キブンがおちつくもの」


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traumaとの戦い イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-10-12 07:53:40 | Weblog
16

我田先生がトドメを刺そうとする。
ナイフから。
凶刃から!!
富子は逃げ出せた。

でも、全身血だらけだ。

富子はとびこえた。

友だちの血だらけの死体をとびこえた。
まだ断末魔の苦しみにもがいている。
友だちの体をとびこえて。

こんどこそ――。
廊下にとびだした。

翔太は地下にいた。

保健室だ。
上は保健室だ。
だれかが生け贄となった。
血をながしている。

「やめろ」
 
翔太と誠が絶叫した。

生徒たちのシットやいがみあいからくる憎悪の感情。
教師からうける体罰の恐怖。
スポーツ練習でのしごきの苦しみを。
それらすべての負の感情を糧として生きながらえてきた人狼が。
翔太と誠の超音波攻撃にたじろいでいる。

「いまここで戦いをしかけたら生徒たちが、巻き添えをくう。校舎が破壊されてしまう。そっとなにもなかったことにして退散するんだ」

人狼よ。
尾形で雄雌を決しよう。
必ず来いよ。   
勝平は人狼にむかって念波をたたきつけた。

このときすでに勝平は人狼のなかに。
井波小尉と副谷軍曹の面影を見ていた。

半世紀以上も前の――。
敗戦直後に――。
尾形で目撃した。
いまでは幻影として――。
勝平の心にのこっていた。
惨殺の光景。
とても信じられない残虐な光景の中の男たちが。
いま目前の怪物のなかにいる。
アイツなら、尾形は知っている。

すべてを『あの時』に返して戦い直すのだ。
並子の母、鹿子の仇。
の惨殺された女たちの恨みを。
今こそ晴らしてやる。


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人狼の狩り場 イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-10-11 13:42:01 | Weblog
15

人狼は、びっくりしている。
こちらをハッタと睨んでいる。
不快と怒りがないまぜになった表情がうかがえる。
じりじりと後退りしている。

「効果があるみたいだな」
「反応してますね」
「ジイチャン、やったね」
「誠の声がいちばん効いているようだ」
「いや、翔太のこえがいちばんだ」
「誠。翔太。このまま尾形まで逃げるぞ」

勝平が逃げるという言葉を強調する。
人狼に聞き取れるような声でふたりにいう。

「そうだね。とても、三人がかりでも、かなわないものね」

翔太が勝平の意図を察している。
誠にはふたりのやりとりがうれしかった。
これでつながった。
親子三代の意気がぴったりとあった。

とこのとき、人狼がふたたび顔を上にあげた。
滴ってくるものを飲んでいる。
滴ってきたのは血だった。
血が流れ落ちてきた。

「やめろ」

翔太が絶叫した。

人狼がたじろいだ。

保健室では我田先生が一瞬ひるんだ。
首をかしげている。 

「あら、なにかしら。聞いたことのある声だわ」

我田先生が聞き耳をたてる。

「やっぱりまちがいない。この気配、翔太ちゃんよね。いつ先生のところに帰ってきたの……こんどは燔祭のイケニエにしてあげる。こんがりと焼いて、わが主に捧げましょうね……」

にたにた笑っている。
楽しそうだ。

「どこにいるの。姿をみせなさい」

この一瞬のためらいが――。

富子をナイフの凶刃から救った。




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人狼、その名は悪魔 イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-10-11 06:12:18 | Weblog
14

惨劇の現場。
保健室の地下。

勝平、誠、翔太が大声で――。
人狼を威圧するように叫んでいた。

甲高い超音波攻撃みたいな声だ。

床上の乱れた気配を。
保健室で起きていることを。
三人とも。
いちはやく感じた。

湿った土の臭い。
そして、ケモモの臭い。
ここでは、土が腐っている。

前方に白骨がある。
白骨。
なにか得体のしれない。
恐ろしいもの。
でも、あの白骨はちがう。
勝平がふいに気づいた。
なつかしいような……。
それでいて。
ひどく痛ましい感じ。
ああ――。
この白骨は。
由美先生の骨だ。
集団疎開の生徒を引率してきた。
保健のきれいな先生の。
骨だ。
あの恐怖がよみがえる。
先生を救えなかった悔しさが。
よみがえる。
老人となった。
勝平の心によみがえる。

まだ、いきていた。
あの悪魔が。
まだいきていたのだ。

悪魔のテリトリーでは戦えない。
いったんはひいて、外にでようと後退していたのだが。
異様な気配に呼び戻された。

誠にははじめてあげる大声だった。
音痴。
音痴とイジメられた……。
この小学校の講堂で。
人前で大声はだすまえときめて以来のことだった。
友だちに軽蔑され、バカにされてきた声だ。
その声になにか力があったのだ。

その力を温存するための音痴だった。
中年になったいまでも、そのトラウマからはぬけだせない。
音域の高すぎる大声だった。

声は金属音のようにひびいた。
だが、高いソプラノ。
いや、常人の可聴領域を超えている。

超音波の衝撃波。

キーンというような音だ。
こんな声がでるとはしらなかった。

誠が音痴と侮辱されてきた理由がこれだったのだ。
人の音域とちがっていた。

超音波の攻撃をうけて――。
不定形のモンスターは。
人狼に変貌をとげつつあったのに……。
たじろいでいる。

人狼へと変形しようとしている。
いろいろな形に自由に形を変容させることができる存在。 
見る者の恐怖のイメージを吸収して。
闇の獣に姿を変化させることのできる生物だ。     

こんなモノにあたえられているのは〈悪魔〉という名だ。
 
翔太そう確信した。

誠もそう視認した。

勝平はいまこそ、由美先生の仇をうつときと。
少年の日の惨劇。
悪魔の仕打に。
復讐するとき。
と――。
武者震いしていた。



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殺されるのは、イヤダァ イジメ教師は悪魔の顔/ 麻屋与志夫

2011-10-10 21:55:44 | Weblog
作者からのお詫び。
まちがいました。ごめんなさい。
12と13節を入れ違いました。
この12節をアップするのが、あとになってしまいました。





12

「わが主。わが主は、今朝はお疲れのようです。夜の間なにかあったのですか。なにか起きたのですか。もっと精のつくようにいくらでも新鮮な若い血をさしあげます。燔祭の焼き肉でも捧げましょうか。主。わが主、声を聞かせてください」

職員室の方角に逃げるもの。
校庭に向かうもの。
廊下をただ走っているだけのもの。

満足しきった声を張り上げている。 
我田先生は楽しんでいる。

だれに、聞かせているのだ。
だれに、話しかけているの。

生徒たちは夢中で逃げながら、不思議に思った。

だれと話しているのだ。
だが、確かめてはいられない。
そんなことを!!
確かめようと立ち止まったら。
殺してくださいというようなものだ。   
切り裂かれ!!
ピンクの肉を見せている被害者たちを。
のたうちまわって痙攣し苦鳴をあげているものたちを。
血だまりを……。
先生は見つめている。
ニタニタ笑いながら――。
楽しそうに――。
じっと――。
見つめながら――。
ボソボソつぶやいている。  

富子は保健室にのこっていた。
親友の秀子の身を案じていた。
それに恐怖から立ち上がれでいる。
金縛りにあったように。
体が竦んで動けないのだ。  

秀子の運命がわかった。
殺されていた。
カッターナイフの薄く鋭い刃で刻まれている。

こんどは、富子だ。
襲ってくる我田先生をさけようと富子は前に手をつきだした。
フロントのワイパーのように両手を扇形型に動かす。

「あら富子ちゃん。秀子みたいにきざまれたいのね。いい子だわ。なかよしでしたものね。秀子と天国へいったら。あらまちがえたわ。あんたらのいくとこは地獄だよ」

「アッチヘイッテ」

「あらどうしてかしら」

「コナイデ、コナイデ」

「富子ちゃんのすきな我田センセイですよ。どこから刻んであげましょうかね。どこからでもいいですよ。はっきりこたえてくださいな」

いつもとちがう。
優しすぎる声。
目は白目だ。
眼球が反転している。
白い目が床を見ている。
瞳のない白い目が床を見ている。
ときどき真っ赤に光る、白い目が生徒たちの動きを追う。    

血を見たい。
血の臭いをかぎたい。 
血を主が飲みたがっている。
血がほしい。
切り裂きたい。
やわらかな瑞々しいこどもたちの肉を。
殺したい。
断末魔の叫びをききたい。
血が見たい。
飲みたい。
ドクンドクンと血を飲みたいと、主がいっているの……。

我田先生のまわりにブルーのフレイヤーが揺らいでいた。
だれか他の人がいるみたしいだ。

フレイヤーに縁取られた先生が狼みたいに見える。

わたしは狼に襲われる赤ズキンちゃん。

もう助からない。    
現実にはいない狼を想像したことで、恐怖はさらに強くなった。
 
後にすさる。
ベットの縁に背中がつきあたった。 
もうこれ以上後ろにさがれない。

ダメだぁ。

なにかが手にふれた。

冷たい手。

秀子なの? 

富子は股のあいだが濡れている。

オシッコをもらしたのだ。
オシッコをもらした。

秀子の手をひいた。
秀子の運命がわかった。
殺されていた。
カッターナイフの薄く鋭い刃で刻まれている。

青い血のけを失った顔がベッドのしたからのぞいていた。

青白い、死んだ顔。

頸椎だけを残してほとんど円を描くように切り裂かれた首。
恐怖のために、顔はゆがんでいた。
痛みのために顔はひきつり泣いていた。
顔が涙でくしゃくしゃだ。
こんな顔で死ぬなんてヤダァー。

こんどこそ富子は絶叫していた。

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ミンナコロシタイ!! イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-10-10 11:33:08 | Weblog
13

「わたしまえから。知っていたよ。先生がナイフで翔太の鞄、切ったの見ていたよ」

我田は手近にいた。

逃げ遅れた。

生徒の喉首を。

冷ややかに切り裂いた。

いっきにナイフをさしこみリンゴの皮でもむくように円く切り裂いた。
だいぶ、なれてきた。
もう何人殺したろう。
どうせなら、生徒をみんな殺してやる。
ナイフから伝わってくる生徒たちの恐怖がたまらなく楽しい。
教室の支配者は先生だということを刻み込んでやる。
わたしは喉切り魔。
生徒たちのかわいい喉を切り裂いてやる。

ナイフが迫ってくる。
富子は必死で避けた。
それでも肩に痛みが走った。
 
このとき、床下で高い声がした。
ボーイソプラノ。
いやもっともつと高いハイトーンのひびき。
ひびき?
そしてやがて――。
そのこえは三重にかさなってひびいた。
超衝撃波のような振動がする。
あまり高すぎて肌がひきつれる。
耳に衝撃がある。
先生の動きが一瞬とまった。
富子はそのすきに逃げた。

「翔太の声みたい。どうして翔太の声がするの。イジメぬいて追放したのに」

そうだ。
あれは翔太の声だった。
富子は肩を押さえて廊下を逃げた。
翔太に救われた。
どこにいるの。
翔太。

「我田先生。止めなさい」

やっとほかの先生が保健室に飛び込んできた。
中島先生だ。

「我田先生。止めなさい。止めるんだ」
とは中島はいわなかった。
生徒が期待したようなことばは。
中島先生の口からはでなかった。

「どいてよ」
だから我田先生もそんなことはいわなかった。

「きみたち、どうしたの? 我田先生にさからっちゃダメだよ。先生にさからうとどういうことになるか……ヨウク考えたかな。先生にさからうとこうなるんだよ」
中島先生もニタニタ不気味に笑っている。
血をふいてたおれている生徒をゆびさして。
女児を頭の毛をつかんでひきまわしている。
まだ血を吹いて呻いているのに――。
逃げ遅れて保健室いた生徒たちが悲鳴をあげてドアへ殺到する。
我田がナイフを横に振る。
そこに中島に胴があった。   
ドバッと血がふきだす。
「我田先生。ぼくを刻むなんてヒドイ。ヒドイですよ」


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カッターナイフの恐怖 イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-10-10 05:43:03 | Weblog
11

「先生、秀子はどうしたの」

我田先生に声がとんだ。
先生の顔が赤い。
興奮している。
なにか楽しいことをしてきたみたい。

クラスの女生徒全員が不安を感じた。

保健室から先生だけがひとりでもどってきた

「気分がわるいっていうから、やすませておいたわ」
「うそよ。先生……秀子になにかしたでしょう。なぐったの」

富子が叫ぶ。
すばやく立ち上がった。
クラスの過半数の生徒が秀子の身を案じて教室をとびだした。

「血だわ。血だ。先生……」

あとから保健室に駆け込んできた先生を生徒たちがふりかえった。

そして、固まった。   
瞬間冷凍にあった魚のように口を開いたままだ。 

だれも、動けない。

なにか滴が先生の手からポトっと落ちた。

水ではない。
汗でもなかった。

滴には色がついていた。
スッと糸をひいて落ちた滴は赤かった。
血だ。
血だ。

どうして、先生の指先から血が滴っているの。                  

「あらあ、秀子ちゃん、どこにいるの」

先生もおどろいている。
秀子の死体が消えていた。

「おう、わが主(マイ ロード)、わたしの捧げた生け贄を受け取ってくださったのですね。もっともっと捧げます。もっと生け贄をお望みなのですね。ハイハイ。わかりました。わかりました」

まるで、できのわるい少女ホラー漫画のようなセリフだ。
漫画のフキダシのなかだけでしか通用しないセリフだ。

先生がポケットから大型のカッターナイフをとりだした。
まるで死神のもつ刈り取り鎌のようにみえる。

白く鋼が光った。    
刃が白くきらめいた。

何人かの生徒が絶叫した。    
腕や肩が血を噴いた。

天井まで血が噴き上がった。
そして排水口に流れ込むように。

床の一か所に集まる。

血のスダレ越しに我田先生が顔をひきつらせた。

笑っているのが異様だ。

「わが主。わが主」

恍惚の表情にかわった。
うっとりと虚空を凝視する。
表情に残忍な笑いが浮かぶ。

先生は楽しんでいる。 
あんなに、楽しそうな先生を見るなんてはじめてだ。

「わが主。わが主。もっともっと生け贄をささげます。どうぞ、その御姿をあらわしてください。拝ませてください」

ナイフが生徒たちに襲いかかる。
やっと、生徒は逃げること。
逃げなければならないことに気づいた。
先生から逃げなければ。
コロされる。
コロされてしまう。
切り刻まれた友だちが床でのたうっている。
友だちをたすけている余裕はない。
痛みを訴え泣きさけんでいるクラスメイト。 
でもじぶんたちだけで逃げなければ。  

コロされる。

コロされる!! 



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いまこそ戦うときだ イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-10-09 08:21:42 | Weblog
10

「わが尾形の一族は『蛇神性』のもの。植物や人の豊穣、繁栄を司る者。道祖神。その周囲の人を守護する蛇神の末裔なのよ。玉藻の前さまに使えた、九つの九尾部族のうちの1つ。尾形一族の子孫なのよ。そしてあなたたちは、その尾形と成尾の純血種。人狼を感知できるものなの」    

その心にひびく声。
いままで分からなかったことが、あきらかになった。
それですべての謎がとけた。

いままでの苦難の道はこの境地にたつための試金石だったのだ。
すべての記憶に中の不可解にことが氷解した。
すべては九尾族の玉藻の前が人狼に追いつめられて。
那須が原で滅びたときにまでさかのぼる対決だった。

勝平が敗戦の年。
「逃げて」という言葉によって死を免れたこと。
並子の母、鹿子の声をきくことができたのも。
その声に導かれるようにして、並子とあったのも。
ご先祖様のお導きだったのだ。

親子三代イジメにあって苦しんできたことも。
すべてこの対決のときのためだったのだ。
じぶんたちを生かしつづけてくれた地霊。
そしてご先祖様。
わたしたちは、その恩義にむくいなければならないのだ。
わたしたちが現実の歪みを改める。
わたしたちならできる。
その能力を、それができる力をわたしたちにあたえてくれたのだ。
わたしたちしかアイツと戦うことはできないのだ。
わたしたちが戦うのだ。
どうしょうもない。
戦いは避けることができないのだ。
戦わなければならないときには。
戦わなければならないのだ。
戦うことを忘れた回避しょうとしているものには。
平和を守ることはできない。
この期におよんでは、臨戦態勢にはいることだけだ。
そのために、一族が滅びても。
わたしたちの代で終わりをつげたとしても。
戦かわなければならないのだ。      
戦うことしか、この異常な苦境を乗り越える道はない。
おれたち男が三代そろったのもそのためだ。
三人が能力に目覚めたのはコイツと戦うためなのだ。
そうときまれば作戦をねることだった。


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血をすするもの イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-10-08 17:29:11 | Weblog
9

「ここにカツヘイジイチャンの匂いがのこっているよ」
奉安殿の跡に造成した『岩石公園』の植え込みの影だった。
注意して見ないとわからない。
なにやら人が潜れるくらいの穴になっている。
最近だれかが蓋をあけたらしい。
周りの苔が剥れていた。     
もちあげる。  
マンホールのように地下へむかって鉄の梯子が落ちこんでいく。

降りた。
腐った? 土の臭いがする。
いや、土ではない。
ほかのものが腐っているのかもしれない。

「ジイチャンの匂いがどんどん強くなるよ」
「パパにはなにも嗅ぎ取れない。なにも、感じられない」

誠には、腐臭しかかぎとれない。
「こんなに匂うのに……パパかわいそうだね」
「こいつ」
「この時間だと上の教室では授業やってるよね。みんな元気かな」
「ああ、元気だろうよ」
ふたりは声を低めて話あいながら進む。
おぼろげながら勝平のすがたが前方に見えてきた。

「翔太がジイチャンの匂いを追いかけてきました」
「そうか、翔太がおれのいる場所をかぎ取ったのか」
父はそっと翔太に頭に手をやった。
この狭く暗い所で父は恐怖と戦いながら潜んでいたのだ。
 
闇のなかに祖父が穏形していた。
黙っているようにという、サインを翔太におくってよこした。      
ぐいと孫をだきしめて前方を指差す。
黒々とうごめくもの。
形体がある。
でも実体があきらかではない。

誠も見た。
遥か彼方に黒々したた生物がわだかまっている。
口らしきものをあけて上から落ちてくる滴を飲んでいる。
悪魔は食事中なのだ。

「だれかが、生け贄を捧げたのだ」
疲れているはずなのに低くささやく勝平の声にははりがあった。
長い時間、ここにいたはずだ。
翔太が黒飴をジイャンの口にもっていく。
うなずきながら、父が口を開けるのを誠は見ていた。
能力を使い過ぎて疲労困憊していた勝平。
たった一粒の黒飴のカロリーと翔太と誠の存在が勇気をあたえた。

誠は目前の闇が凝固したようなものに注意を集めた。
校舎の地下に、住みついた人間ではないもの。

あらゆる悪の元凶。
悪魔。
人狼らしい姿が見えてきた。

この人狼と戦うのには、ここではだめだ。
ここはヤツのテリトリーだ。
わたしたちに味方してくれる場所。
そんなところがあるとしたら、尾形だ。
 
「ともかく、見てはいけないものをみてしまった。戦いを挑んでも勝算のない相手だ」

「わたしはなんの能力もないけど、お父さんと共に戦います。わたしたちがイジメにあってきた理由がわかりました。翔太だってあのままこの街にいたら命がなかったでしょう。アイツのこの世での存在をあばきだす能力。悪の存在を白昼のもとに暴露できる。その能力があるために、わたしたちは迫害されてきた……」   

「死ぬかもしれないなぞ。負けたら終わりだ」
「生き死には問題ではない。戦うことに意義がある」
「よく言った。おれはながいことなにかこの学校の地下にはいると感じてきた。とても常識ではかんがえられないことがここでは起こりすぎた。ひとではないものがいるのではないかと疑ってきた。そのちからがこのところ強くなった。それでこの場所が特定できた」

「あの、蛇の棲む谷におびき寄せるのよ。尾形で戦うのよ」

お母さん、お母さんなのか? 

並子の声だ。

頭にひびいてきた母の声に誠はおどろいている。
母がわたしたちそばにいる。
そうだ。
現実を超えた声を聞きとる能力はわたしのものだ。
わたしにも、それくらいの能力はあったのだ。

「並子どういうことだ」
勝平が亡き妻にきいている。

三代の家族、勝平と誠と翔太は横穴の入口のほうにすこし後退した。


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