田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

リリが夭折してからひと月が過ぎた。 麻屋与志夫

2016-05-31 10:52:19 | ブログ
  

「ねえ、パパ外に出たいよ。薔薇の花とあそびたいよ。パパはさんぽにいくの。あたしも、さんぽにつれてって。外に出たいよ」 

 

   

   

   
「外は暗くなったみたいね。ねむくなったよ。パパ。あしたも、あたし生きてられるのかしら」 



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月島にでも引っ越したいよ。 麻屋与志夫

2016-05-30 21:32:35 | ブログ
5月30日 Sun.

●テレビで月島の路地裏散歩という番組をみた。

飼い猫が町をノンビリト歩きまわっている光景をみた。

いいなぁ。

みんなが、猫を飼っている。

なんの気兼ねもなく猫を飼える。

羨ましいったらありやしない。

猫好きのひとたちが、大勢住んでいるのだろう。

猫にむけるひとの視線がすごくやさしい。

月島に越したくなった。

●田舎町に住んでいると、小説家なんて絶滅している。

本を読む人がいない。文学談義をたのしむ相手もいない。

現代文学をよんでいるひとがいないのだ。

悲しい。なさけない。

町の本屋さんは「コニシ書店」が一軒がんばっているだけだ。

●小説などかいていると奇異な目でみられる。

そこえきて、猫を飼っている。

●田舎町がすきだったのに、住みにくくなってきた。


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猫のいない生活なんて、寂しすぎる。 麻屋与志夫

2016-05-30 16:25:18 | ブログ
5月30日 Mon.

●街歩きをしているとよく野ら猫が寄ってきた。
立ち止まると、わたしの脚にすりすりをする。
そのあまえるしぐさが好きだ。
鳴きながら、見上げられると、ついだきあげたくなる。
だきあげて、あのもこもこした猫の体毛をてのひらに感じてしまったら、もうダメだ。
家に連れ帰って、飼ってあげたくなる。

●いまも、むかしもビンボー書生、二匹で餌代は精いっぱい。
「ゴメンな。余裕がないんだ。だれかほかのひとを探してな」
と別れる。
名残惜しそうに鳴く声をあとにした。
そうした経験からかんがえれば、裏路地から猫がいなくなったのは、かわいそうな野ら猫がいなくなったということは、喜ぶべきことなのかもしれない。

●リリに死なれて、いまのところブラッキ―だけだ。
塾生もすくなく、猫を飼うゆとりはない。
ブラッキーは18歳。ブラッキーがいなくなると、もうこのあとは猫と生活できないのだろうか。

●そんなのって、寂し過ぎる。



 ブラッキー
       チビ。ときおり遊びに来ていた外猫。                      


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猫の死骸を投げこまれたことがあった。 麻屋与志夫

2016-05-29 15:53:57 | ブログ
5月29日 Sun.

●裏路地を歩くのがすきだ。たったひとりの、裏路地探検隊といったところか。でもわたしの住む田舎町では、裏路地を歩くたのしみのひとつである、野ら猫とのであいがあまりなくなった。

●あまり、というか、このところまったく猫と会っていない。このまえも、ブログに書いたが、日曜大工の店――二軒あるホームセンターのペットコーナーでも猫が姿をけしてしまった。空前の猫ブームだというのに、この町では、猫嫌いのひとがおおいのかもしれない。

●わたしたちが、猫が好きなのを、そして飼っているのがウトマシイのか――。
猫の死骸をなげこまれたことがあった。あのときの、恐怖とおどろきはいまでもわすれない。トラウマとなっている。

●しかし、あのときイヤガラセをした老婆たち(裏の長屋は火事になり)はいまは、もういない。でも、どうしてそれほど猫がきらいなのか理解できず、わたしたちは苦しみぬいた。

●いまは、しあわせだ。そうした、イヤガラセはされていない。これでリリが死なずに元気でいてくれれば、もっと幸せなのだが。

●でも、猫のいない裏路地をぼんやりと歩きながら、町の人が猫嫌いなのにはかわりないのかな。町から猫がいなくなっていく――。ものな……。

●昭和のテイストを残した裏路地だが、住んでいるひとがかわってしまつたのだろうか。

●元気な老人もすくなくなっている。

●弱者には住みにくいまちなのかもしれない。

●市長選の論戦のひとつが「人口減少問題」だった――。

●住みよい町とは、どんな町なのだろうか。

●住みにくいから、ひとが町をでていくのだ。






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リリ、「お留守いしててね」   麻屋与志夫

2016-05-28 04:38:52 | ブログ
5月28日 Sat.

●「リリ、おでかけするからね。ブラッキ―とおるすいしててね」
これでいいのだ。
カミサンにはまだリリとのわかれが、現実のものとしてみとめられていない。
もう二度とリリに会えない。
かなしすぎる。だから、リリの死をみとめられないでいる。

●リリはカミサンにべったりのねこだった。
家の中をかみさんの行く先々についてまわっていた。
わが家の玄関に迷いこんで来た時から、カミサンが世話してきたからだろう。
スリコミみたいなものだ。
カミサンを親か兄弟、友だちのように思っていたのだろう。

●リリを失ったかなしみ、ペットロスはカミサンのほうがひどい状態だ。
すっかりとりみだし、泣きつづけていた。
あまりはげしく泣くので、こちらも呆然として、抱きしめてなだめることを躊躇するほどだった。
一月ほどたつので、さすがにいまはリリの遺影に話しかけるくらいになった。
あるいは、わたしの目のとどかないところで、ひそかに泣いているのかもしれない。

●「リリ、ただいま。ブラッキ―ちゃんと、仲良くしてた」
カミサンがリリに呼びかける声が離れのほうでしている。






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リリ、今年も五月の薔薇が咲いているよ。  麻屋与志夫

2016-05-27 06:21:29 | ブログ
5月27日 Fri.

●そろそろ終わりを告げる五月の薔薇の季節。狭小庭園の薔薇を眺めている。ことしも、薔薇の花咲くこの庭で、リリとタワムレルことができると思っていた。

●この世にかわらないものなんて、ないのに――。まさか、リリがこんなにもはやく、死んでしまうなんておもってもみなかった。たった、一年八カ月の命だった。こんなことなら不妊手術などしないほうがよかった。子どもを産み、育てるよろこびを経験させてあげたかった。リリの……せめて、おもかげを偲べる……リリの子猫たちがいれば――と嘆いたりしている。あとになって、悔やんでも、しかたありませんね。

●こんなに早い別れがやってくるとは、どうして?

●リリはパーゴラ【pergola】からちらほらと落花するアイスバークの白い花びらを、蝶とよくまちがえた。中空をみあげて、ピョンととびあがり、花弁をキャッチした。

●花弁にジャレツク、リリの姿はいまはない。さびしい。

●花弁をうまいぐあいに中空でとらえた。得意そうにくわえて、わたしのところに運んでくるリリ。わたしの手のひらにのせて、あいらしくわたしをみあげていた、あの瞳のかがやきはもうみられない。

●ひらひらと舞い落ちる薔薇の花弁にとびつくリリのげんきな、あいらしい姿は、この庭ではみられない。

●リリ昨日のわたしの夢のように、わが家の屋根の稜線から虹の橋のタモトにたどりつき、天国へと昇天していった。

●天国の薔薇園でいまごろは薔薇の花弁とタワムレテいることだろう。


  

あっ、ちょうちょうがとんでいる。あたしも空をとびたいわ。




あたし、そろそろいかなくっゃ。ばいばいだよ、ママ、パパ。

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とつぜんですが引っ越してきました。  麻屋与志夫

2016-05-26 23:26:49 | ブログ
5月27日 Fri.

●とつぜんですが、「恋愛小説」のカテゴリーから引っ越してきました。もともと、プロフィールに黒猫、ブラッキ―のアバターを使っているくらいです。このところ、三毛猫リリに死なれて、ペットロスに一月ほどおちいっています。毎日のように、リリをしのぶことばかりいているので、こちらに越したほうがいいかなとおもいまして。

●元気な猫ちゃんとの生活をたのしんでいるかたには、もうしわけありません。まだブラッキ―という猫と同棲しています。そのうち、ブラッキ―のことをかくようにしますね。

●ペットロスから回復するためには、できるかぎり、記憶にあるリリのことをかいていくしかない。――といまのところは、思っています。

●愛猫に死なれるというのは、こんなにかなしいことなのですね。







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リリの夢をみた。リリは屋根の稜線をあるいていた。 麻屋与志夫

2016-05-26 03:38:56 | 夢見るGGの夢占い
5月26日 Thu.

●リリの夢をみた。リリが尻尾をピンとたてていた。リリはからだが弱かったためか、尻尾をピンとたてたことがなかった。それなのに尻尾をたてて屋根のグシをあるいていた。後ろには五、六匹の猫をしたがえていた。得意顔で、「ねえねえ、パパ。あたしこんなに大勢仲間がいるのよ」と訴えかけている。

●うれしくて涙が出た。「嗚呼。元気に生きているのだ。こことはちがう、スピリチャルな世界で生きていいるのだ。この世界でできなかったことを堂々となしとげている。よかったな」
と夢の中でわたしはリリに声をかけていた。

●リリは屋根をあるくことが苦手だった。いちどなど、上がったのはいいが、稜線までいきつくことができなかった。ずるずるとすべって落ちて来た。トタン屋根のせいでもあるが、かわいそうだった。いくら鉤爪をたててもすべってしまう。あやうく、大屋根からおちるところだった。リリの鳴き声に気がついた。わたしは二階の窓から屋根にでてリリを救出した。そうした、思い出があったからこのような夢をみたのだろ。

●目覚めてからもリリに会えたうれしさに、胸の鼓動がたかまっていた。
わたしはパソコンをひらいて小説をかきだした。机に飾ってあるリリのシヤシンに話しかけていた。

●妻に夢でリリに会ったことを話した。「いいな、わたしはまだリリの夢をみていない。ほんと、夢でもいいから会いたいわ」

●夢と現実のちがいは、どこにあるのだろうか。鳴き声をきき、触覚からリリのニオイまでした感じた。リリをだきしめているうちに、これは夢だと気がつき目覚めてたのだった。目覚めても、リリのぬくもりと重さがわたしの腕にのこっていた。



  

   

   

   City of York
   

   

   コーネリア
   

   ブルームーン アンジェラ
    

   

   イエローシンプリテー
   

   シヤリファアスマ
   

   レンゲローズ
   

   カーディナルヒューム
   

   ザ・ジェネラス・ガーデーナー
   

   都忘れ
   リリは廊下からよく眺めていた
      
   








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これいただくわ症候群  麻屋与志夫            

2016-05-21 17:26:30 | ブログ
これいただくわ症候群              

「おい、高野、たすけてくれよ」
イソ弁をしているぼくの携帯にかかってきた。携帯のディスプレイをみるまでもない。
声はマルチタレントの山田からだった。周囲を気づかってぼくは、パーティションのかげにかがんだ。
声をひくめた。
「どんなご用件です」
「なんだ。その声は。友だちだろう。もっとフランクにいこうや。たすけてくれよ」
たしかに、かれとは学友だ。でも卒業後は同窓会で会うくらいだった。タレントなのに内気な彼は数年前に結婚していた。その妻ともう離婚騒動だ。弁護をひきうけてくれ。という依頼だった。
彼の妻は超売れっ子のスーパーモデル。野生のパンサーをおもわせる。精悍な肉食系女子だ。彼女のほうから口説いた。などと週刊誌でよんだことがある。弁護士がスーパーの店長を務める世の中だ。東大の法学部が定員割れする時世だ。
「独立する、チャンスじゃないか。やってみたら」
と周りで励ましてくれた。妻の浪費癖が離婚のひとつの理由だった。山田がヒソかに保存して置いた領収書の束はぼくを驚かせた。ぼくの一年分の給料でも買えないような貴金属類。これでは、山田が離婚したくなるわけだ。見たものは、ともかくすべて欲しくなる。
「これいただくわ」
と衝動買い。金銭感覚がゼロ。
おれの収入なんか、まったくかんがえない。
なにかいうと、すぐに歯をむいてくってかかる。引っかく。
おれは、顔が売りもんだ。怖くなるよ。
弁護士が山田の学友ということで、ぼくはマスコミのインタビューをうけた。
週刊誌にも記事を書かされた。
名前が売れた。
仕事がはいってきた。
懐も潤ってきた。
裁判に勝った。
夢の独立をお陰で果たすことができた。
追い風にのった。
まさに、順風満帆。
得意の絶頂にあった。
そんなある日、山田の元妻からぼくの事務所に電話がかかってきた。
「所長、電話です」
ようやく、所長と呼ばれることにもなれてきた。ぼくの携帯に切り替えた。
プライベイトの用件は、ながいあいだの習慣でぼくは携帯を使用している。
だが、いまはじぶんの事務所だ。パーティションのかげにかがむ必要はなくなった。
山田の元妻だ。いやみでもいわれるのか――と覚悟した。ディスプレイの画面(ディスプレイ上?あるいは、ディスプレイの中)で彼女がにこやかにほほえんでいる。
「どう、ランチご一緒しない」
にこやかなほほえみ。でも……わたしの頭には山田の言った言葉が響いた。
「衣服や貴金属にキョウミが集中しているうちに、別れたいのだ」
そうか。このほほえみに、みんなだまされるのだ。彼女は〈肉食〉系。言葉どおりの、行動にでられたら逃げられない。
「いま、おたくの事務所のそばまできているのよ」
窓の外。ブラインドのすきまから覗く。向こう側の歩道で彼女が優雅に手をふっている。 ひらひらと右手をあげておいでおいでをしている。
左手は携帯をもっている。ぼくにはなしかけている。彼女の声はぼくの携帯からきこえてくる。
そして、ディスプレイの画面(「ディスプレイ」だけでいいのでは?)には……。
真紅のバラのような唇。
美しい。
キスをおねだりしているようだ。
ぼくは恐怖を覚えた。
それなのに、ぼくは階段をおりだしている。
ズルッ、ズルッと彼女にひきよせられていく。
戦慄。
でもどうすることもできない。
パンサーの獲物。
の。
ぼくにはどうすることもできない。
ぼくは彼女の獲物。
自動ドァ(ドア)が開く。
ぼくは彼女に捉えられた獲物。
もう逃げられない。
「あなた、いただくわ」
といわれても――ぼくは逃げられない。


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妖変 言問橋   麻屋与志夫

2016-05-21 17:08:07 | ブログ
妖変 言問橋

 ――政界を引退した。
 このところ、政変は泥沼化している。 
 若い元美人秘書とのスキャンダルで引退をよぎなくされた。
 妻とは離婚が成立した。政界の大物だった義父ともこれで縁がきれた。
 年の差婚と騒がれた。
 若く華やかな新妻とつれだって言問橋までさしかかった。
 空をみて「あっ。カモメ」とつぶやく妻。妖艶な美しさが眩しい。
 妻はキヤノンの一眼レフをかまえる。
 シャッターを切る。小刻みにひびく連続音。
 なにげなく欄干に両手をついた。遠いおののきのような震動がつたわってきた。
 いや――おののきではなく。
いままさに心肺停止となりそうな恐怖。死に臨み。よわよわしくなっていく乱れきった鼓動が。幾重にも渦を巻いているようだ。戦慄が、欄干においた手から全身にひろがってきた。瘧(おこり)でもおこしたようにふるえはとまらない。
「あっ。飛行船」
 妻がむじゃきに声をはりあげる。カメラをさらに鋭角に空に向けてかまえている。青空をゆったりと浮遊する飛行船。
「あらあら、汗かいているわよ。あなた」
 白いハンカチで額の汗をぬぐってくれた。すんなりとした指をみていると「アッ。キャップがない」妻がひくく悲鳴をあげる。橋のたもとでカメラをバックからとりだしたときに。レンズのキャップを落としてしまったのだという。
「キャップだけ買えばいいだろう」
 妻は小走りに橋をひきかえしていく。追いかけることは、とてもできない。見る間に、妻の姿は小さくなる。
 ひとり、とりのこされた。橋の上の歩道にわたしは立っている。からだの震えはとまらない。この言問橋では昭和二十年三月十日の東京大空襲で、おびただしいひとびとが焼死している。わたしの祖母がここで焼け死んでいる。猛烈な火炎旋風は周囲の空気を白熱化した。推定一万人(言問橋付近だけ)が大火炎につつまれ死んでいるという。
 橋の親柱の黒く焦げた跡。
 この黒ずんだ汚れは――。
 ひとが――燃え尽き、灰が固まってこびりついたものだ。
 どこかでよんだ、古い記憶。
 だれかにきいた、古い記憶。
 ……この橋に……戦災いらいまとわりついている死者の怨念が凝固した橋げたにふれてしまったのだ。
またまた冷汗がふきだす。若い彼女と結婚するための……スキャンダルで失脚した。それは表面的な理由だ。政界からリベラリストを追放する機運が高まっているのだ。これでよかったのかもしれない。右に傾きつつあるこの国の政治の流れに逆らった。戦争の悲惨さを忘れてはならない。戦争犠牲者の魂の叫びがこの言問橋には現存する。彼らの鎮魂。彼ら犠牲者の冥福を祈りつづける。ふたたび戦争などはじめてはいけないのだ。その平和を愛する主張は在野にあっても、叫び続ける。
 額にハンカチをあて、やさしく汗をぬぐってくれた妻が――。
 彼方で両手をあげた。
 おおきな○のジェスチャーでおどけている。
 レンズのキャップが見つかったようだ。
 拾ってきたキャップをはめようとして、妻の顔が不審そうにくもる。
 眉をひそめている。
「合わないわ。あわない。あらぁ――おかしい。わたしのキャップは、ここにある」
 バックの底のほうから同じように見える、すこし小さめのキャップをとりだしてはめる。
 ぴったりと合う。
「じゃ、その拾ってきたフタはどういうことなのだろう」
「だれかが、おとしていったのね」
 同じキヤノンのレンズキャップが妻の落としたとおもっていた場所にある確率は。どの程度のものなのだろうか。
 妻の周辺ではときどきこうした奇妙な現象がおこる。妻には、物品移動能力があるのではないか。
 この橋からつたわってくる震えだって、ただごとではない。
 彼女の存在に呼応しているのかもしれない。
 彼女とはじめてあったときにもからだに震えがきた。感動のあまりふるえたものとおもっていたが。あれは……。場所すらおもいうかばない。だいいち、あれは、よろこびのために、感動して震えたのだろうか。
「はい、チーズ」
「おまえなぁ。ものを引き寄せる能力があるなら、なにかもっと価値あるものをよびよせられないのか」
「あら、もうそうしたわ」
 妻が笑っている。
 なにを、〈そうした〉というのだろうか。
 妻にはまちがいなくapport能力がある。
 妻は戦争犠牲者の霊魂をここに召喚したのかもしれない。
 震えははげしくなるばかりだ。


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