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「ここにカツヘイジイチャンの匂いがのこっているよ」
奉安殿の跡に造成した『岩石公園』の植え込みの影だった。
注意して見ないとわからない。
なにやら人が潜れるくらいの穴になっている。
最近だれかが蓋をあけたらしい。
周りの苔が剥れていた。
もちあげる。
マンホールのように地下へむかって鉄の梯子が落ちこんでいく。
降りた。
腐った? 土の臭いがする。
いや、土ではない。
ほかのものが腐っているのかもしれない。
「ジイチャンの匂いがどんどん強くなるよ」
「パパにはなにも嗅ぎ取れない。なにも、感じられない」
誠には、腐臭しかかぎとれない。
「こんなに匂うのに……パパかわいそうだね」
「こいつ」
「この時間だと上の教室では授業やってるよね。みんな元気かな」
「ああ、元気だろうよ」
ふたりは声を低めて話あいながら進む。
おぼろげながら勝平のすがたが前方に見えてきた。
「翔太がジイチャンの匂いを追いかけてきました」
「そうか、翔太がおれのいる場所をかぎ取ったのか」
父はそっと翔太に頭に手をやった。
この狭く暗い所で父は恐怖と戦いながら潜んでいたのだ。
闇のなかに祖父が穏形していた。
黙っているようにという、サインを翔太におくってよこした。
ぐいと孫をだきしめて前方を指差す。
黒々とうごめくもの。
形体がある。
でも実体があきらかではない。
誠も見た。
遥か彼方に黒々したた生物がわだかまっている。
口らしきものをあけて上から落ちてくる滴を飲んでいる。
悪魔は食事中なのだ。
「だれかが、生け贄を捧げたのだ」
疲れているはずなのに低くささやく勝平の声にははりがあった。
長い時間、ここにいたはずだ。
翔太が黒飴をジイャンの口にもっていく。
うなずきながら、父が口を開けるのを誠は見ていた。
能力を使い過ぎて疲労困憊していた勝平。
たった一粒の黒飴のカロリーと翔太と誠の存在が勇気をあたえた。
誠は目前の闇が凝固したようなものに注意を集めた。
校舎の地下に、住みついた人間ではないもの。
あらゆる悪の元凶。
悪魔。
人狼らしい姿が見えてきた。
この人狼と戦うのには、ここではだめだ。
ここはヤツのテリトリーだ。
わたしたちに味方してくれる場所。
そんなところがあるとしたら、尾形だ。
「ともかく、見てはいけないものをみてしまった。戦いを挑んでも勝算のない相手だ」
「わたしはなんの能力もないけど、お父さんと共に戦います。わたしたちがイジメにあってきた理由がわかりました。翔太だってあのままこの街にいたら命がなかったでしょう。アイツのこの世での存在をあばきだす能力。悪の存在を白昼のもとに暴露できる。その能力があるために、わたしたちは迫害されてきた……」
「死ぬかもしれないなぞ。負けたら終わりだ」
「生き死には問題ではない。戦うことに意義がある」
「よく言った。おれはながいことなにかこの学校の地下にはいると感じてきた。とても常識ではかんがえられないことがここでは起こりすぎた。ひとではないものがいるのではないかと疑ってきた。そのちからがこのところ強くなった。それでこの場所が特定できた」
「あの、蛇の棲む谷におびき寄せるのよ。尾形で戦うのよ」
お母さん、お母さんなのか?
並子の声だ。
頭にひびいてきた母の声に誠はおどろいている。
母がわたしたちそばにいる。
そうだ。
現実を超えた声を聞きとる能力はわたしのものだ。
わたしにも、それくらいの能力はあったのだ。
「並子どういうことだ」
勝平が亡き妻にきいている。
三代の家族、勝平と誠と翔太は横穴の入口のほうにすこし後退した。
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「ここにカツヘイジイチャンの匂いがのこっているよ」
奉安殿の跡に造成した『岩石公園』の植え込みの影だった。
注意して見ないとわからない。
なにやら人が潜れるくらいの穴になっている。
最近だれかが蓋をあけたらしい。
周りの苔が剥れていた。
もちあげる。
マンホールのように地下へむかって鉄の梯子が落ちこんでいく。
降りた。
腐った? 土の臭いがする。
いや、土ではない。
ほかのものが腐っているのかもしれない。
「ジイチャンの匂いがどんどん強くなるよ」
「パパにはなにも嗅ぎ取れない。なにも、感じられない」
誠には、腐臭しかかぎとれない。
「こんなに匂うのに……パパかわいそうだね」
「こいつ」
「この時間だと上の教室では授業やってるよね。みんな元気かな」
「ああ、元気だろうよ」
ふたりは声を低めて話あいながら進む。
おぼろげながら勝平のすがたが前方に見えてきた。
「翔太がジイチャンの匂いを追いかけてきました」
「そうか、翔太がおれのいる場所をかぎ取ったのか」
父はそっと翔太に頭に手をやった。
この狭く暗い所で父は恐怖と戦いながら潜んでいたのだ。
闇のなかに祖父が穏形していた。
黙っているようにという、サインを翔太におくってよこした。
ぐいと孫をだきしめて前方を指差す。
黒々とうごめくもの。
形体がある。
でも実体があきらかではない。
誠も見た。
遥か彼方に黒々したた生物がわだかまっている。
口らしきものをあけて上から落ちてくる滴を飲んでいる。
悪魔は食事中なのだ。
「だれかが、生け贄を捧げたのだ」
疲れているはずなのに低くささやく勝平の声にははりがあった。
長い時間、ここにいたはずだ。
翔太が黒飴をジイャンの口にもっていく。
うなずきながら、父が口を開けるのを誠は見ていた。
能力を使い過ぎて疲労困憊していた勝平。
たった一粒の黒飴のカロリーと翔太と誠の存在が勇気をあたえた。
誠は目前の闇が凝固したようなものに注意を集めた。
校舎の地下に、住みついた人間ではないもの。
あらゆる悪の元凶。
悪魔。
人狼らしい姿が見えてきた。
この人狼と戦うのには、ここではだめだ。
ここはヤツのテリトリーだ。
わたしたちに味方してくれる場所。
そんなところがあるとしたら、尾形だ。
「ともかく、見てはいけないものをみてしまった。戦いを挑んでも勝算のない相手だ」
「わたしはなんの能力もないけど、お父さんと共に戦います。わたしたちがイジメにあってきた理由がわかりました。翔太だってあのままこの街にいたら命がなかったでしょう。アイツのこの世での存在をあばきだす能力。悪の存在を白昼のもとに暴露できる。その能力があるために、わたしたちは迫害されてきた……」
「死ぬかもしれないなぞ。負けたら終わりだ」
「生き死には問題ではない。戦うことに意義がある」
「よく言った。おれはながいことなにかこの学校の地下にはいると感じてきた。とても常識ではかんがえられないことがここでは起こりすぎた。ひとではないものがいるのではないかと疑ってきた。そのちからがこのところ強くなった。それでこの場所が特定できた」
「あの、蛇の棲む谷におびき寄せるのよ。尾形で戦うのよ」
お母さん、お母さんなのか?
並子の声だ。
頭にひびいてきた母の声に誠はおどろいている。
母がわたしたちそばにいる。
そうだ。
現実を超えた声を聞きとる能力はわたしのものだ。
わたしにも、それくらいの能力はあったのだ。
「並子どういうことだ」
勝平が亡き妻にきいている。
三代の家族、勝平と誠と翔太は横穴の入口のほうにすこし後退した。
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