田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

とある田舎町の「学校の怪談」 episode 24 砂場のオバケ 麻屋与志夫

2015-04-14 08:30:56 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode 24 砂場のオバケ。
ひどいイジメだった。
だって殺しちゃったんだもの。
「まさか、死ぬとは思わなかった」
なんて、三人ともいってるけど。
うそだ。
何回もあんなイジメをやっていれば、なれてくる。
どこまでやれば、失神する。
これからさきに進めば、死ぬ。
そんなことわかっていたはずだ。
アイツラには快感だった。
イジメラレル生徒には、死の恐怖だった。
アイツラは死の恐怖でクラスを支配していた。
怖くてだれもイケニエの子を助けられなかった。
みてみぬふりして、ぼくらは、クモの子を散らすように逃げた。
だから夕暮れどきの校庭にはだれもいなかった。
イケニエは砂場に連れていかれた。
みんな二階の教室からそれをみていた。
「殺されちゃうよ」
とはだれもいわなかった。
ただ、だまって恐怖にふるえながら砂場をみおろしていた。
あらかじめ掘って置いた穴にイケニエは埋められた。
頭まで砂をかぶせられた。
アイツラは、たのしそうに、その作業をしていた。

「おいでよ。こっちへおいでよ。あそぼう。いっしょに、あそぼう」

ソンナ声が砂場でする。
何人もの生徒がソレを聞いた。
でもそれを聞いた生徒のほとんどは――。
砂場に顔をおしつけて死んでいた。
だから生き残っている生徒の口から。
「こっちへおいでよ」
という声を聞いた。
……と告白されるまでは、だれもそのことをしらなかった。
砂場から声がする。
「こっちへおいでよ。いっしょに、あそぼう」
学校の、いまは伝説となっている。
殺された生徒のリベンジがはじまったのだ。

「こっちへおいでよ」

呼ばれるのがイジメッコではなく――。
二階で死の遊戯を目撃していた生徒だった。
なにもしないで、見ていただけ――。
友だちを助けないで――。
殺されるのを、見ていただけ――。
二階から見ていただけの子が呼ばれていた。
殺すより、罪が深かったのだ。
ただ見ていて、イジメッコの死の遊戯を黙殺した。
ほくもその目撃者だった。
そのことが恐怖をさらにつのらせた。
なにもしなかった子が、呼ばれてつぎつぎと死んでいく。
友だちが殺されるのを黙認していた者が――死んでいった。
じゃ、イジメッコはどうなったのか。
ある朝、砂ダンゴを口いっぱいに詰め込まれて死んでいた。
砂場に川の字になって、三人きちんと並んで死んでいた。
もちろんあの子と同じように窒息死だった。
いまでもあの砂場はアル。
でも砂場にはだれも近寄らない。
砂遊びする子もいない。
ぼくらの学校の都市伝説だ。

「こっちへおいでよ」



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とある田舎町の「学校の怪談」episode 20 明日香の進学希望校 麻屋与志夫

2015-04-11 10:58:35 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode 20 明日香の進学希望校。

春の雨がしとしとと降りだしていた。
教室の窓ガラスがすっかり濡れている。
芽のふくらんできたバラが霞んでしまった。
窓を細めに開ける。
雨のにおいのする夜風がそっと吹きこんできた。
「先生、わたし栃南高校に進学決めたよ。学校の先生が、新しい高校だから受験希望者も少ないから、合格できるって」
「えっ、どこにあるの」
「やだあ、先生、知らないの。駅の南だよ」
明日香ちゃんはにこにこ笑ってこたえた。
木村は動揺した。
ソンナ高校の名前は聞いたこともない。
明日香はかわいらしく、首を傾げていた。
英語の問題集に黒板の解答を記入している。
いくら注意しても、ただ自動的に回答欄を埋めているだけだ。
なにもかんがえない。
発音もしない。
――音読しなければ英語は身につかないのにな。
穴埋だけの授業をしているプリント塾から移って来た生徒だ。
一対一の個人指導と宣伝している。
実態は机を仕切り板で、間仕切りしただけの。
「バタリー鶏舎方式」の塾に長いこと在籍していた。
いくら注意しても穴埋め作業をせっせとやっている――。
「栃南高校ってあるの」
木村は次の中二の時間に生徒たちに訊いた。
みんなキョトンとしている。
――そうだよな。あるはずがない。
わたしの知らない新設校がこの街にあるわけがない。
おそらく、あまり成績がわるいので、どこも県立高校は受験させてもらえないのだ。
それで、かわいそうに苦し紛れに、空想上の新設高校をつくりあげたのだ。
かわいそうに。
外では雨足が激しくなっている。
春の雨にしては激し過ぎる。
木村はそっと胸のポケットからメモをとりだした。
明日香ちゃんが、教室を去る時、手渡してくれたものだ。
「先生、ながいこと、お世話になりました。さようなら」
そう書いてあった。
――これで明日香ちゃんの笑顔がもう見られない、寂しくなるな。
やるだけのことは、やった。
明日香ちゃんだって、せいいっぱい努力した。
勉強のやり方は、はじめて教わった学校や塾の先生の影響をうける。
勉強態度がわたしの意に添わなかったのは仕方ないことだ。
明日香が受験の当日。
消えた。
元気に家を出たというのだ。
でも、どこの高校を受験したというのだ。
まさか、ありもしない、空想上の栃南高校を受験するために、出かけたのではないだろう。
警察の必死の捜査にもかかわらず三日が過ぎた。
マスコミが東京から駆けつけた。
誘拐事件として大騒ぎになった。
木村は明日香に聞いた、駅の南にあるという高校の場所にいってみた。
路肩に明日香のピカチュウの鉛筆ケースが落ちていた。
雨にぐっしょりと濡れていた。
ほとんど原形をとどめていなかった。
ここに次元の割れ目がある。
そのスリットから明日香は向こう側に行ってしまったのだ。
木村らはようやく咲きだした街路樹、彼岸桜の梢を見上げていた。
明日香のこころを思うと桜の花がくもって見えなくなった。
春の雨が、明日香が教室を去った時のように降り出していた。
遠望する駅の明かりが影った。
霞んでしまった。
雨のためではなかった。
木村は明日香ちゃんを想い、その場に立ち尽くしていた。
塩辛いものが唇にたれてきた。
雨水ではない。涙だった。
「なにも……力になってあげられなくて……ゴメンナ」
木村は、泣いていることにも気づいていなかった。









 

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episode 23 弘樹の幻のピッチング。 麻屋与志夫

2015-04-06 07:25:00 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode 23 弘樹の幻のピッチング。

誰もいなくなった音楽室の窓から、玲奈はグランドを見下していた。
もう長いことそうしている。
野球部の練習は終わっていた。
でもそこに、マウンドに、弘樹がいる。
黙々とピッチングをつづけている。
あの日、弘樹と玲奈は府中橋にさしかかってしいた。
「来週から中学の県大会ね」
「ああ、玲奈のためにもがんばるから」
「あら、うれしいこと弘樹ちゃんはいってくれますね」
胸に抱えていた猫のミューに話しかけた。
「うれしいわね」
玲奈がミューを揺すり上げた。
抱き直そうとした。
ミューがふいに身をよじった。
道路にとびだした。
トラックが驀進して来た。
その音に驚いたのだ。
トラックはブレーキをかけることもしなかった。
玲奈の悲鳴が路面にひびき、木霊するような声が中空に消えた。
あとには――、ミューの毛皮だけがのこされていた。
平面となった猫の毛皮だけが車道にへばりついていた。
一瞬のできごとだった。

弘樹はピッチングをつづけている。

「ぼくが話しかけたから。気が散ったのだ。ごめん」
「そんなことない。わたしが、網にでもいれて、抱っこしていれば、よかったの」
「ミュー、ごめんな。こんな姿になってしまった」
「わたしが、不注意だったのよ」
大会も迫っていた。
弘樹に玲奈は二三日会っていなかった。
携帯が鳴った。親友のキヨコからだった。
「玲奈、おどろかないで。上都賀病院にすぐ来て」
「なにがあったの」
「すぐ来て!!」
間に合わなかった。
弘樹は息をひきとっていた。
トラックに轢かれて、ほとんど死にかけていたらしい。
ひとことも声はだせなかった。
胸になにが抱き締めているような姿勢。
わたしならわかる。
ミューを助けてくれたのだ。
いや、ミューの事故死の幻影をみて車道にとびだしたのだ。
玲奈はそう思った。

弘樹はまだピッチングをつづけている。

わたしのせいだ。
ミューをもっときつく抱きしめていればよかった。
わたしのせいだ。
あんなに悲しまなければよかった。
弘樹の胸で泣きつづけた。
わたしの悲しみの激しさが、弘樹にミューの幻影を見せてしまったのだ。
ごめん。弘樹。 ごめん。
あんなに、県大会で投げるのをたのしみにしていたのに。
わたしの、ささいな不注意が、弘樹を破滅させた。

玲奈は携帯をとりだす。
弘樹にメールを打った。
「ミューと三人で暮らしましょう。弘樹わたしを呼んで」
翌日から玲奈の姿が消えた。
音楽室にいたはずなのに。
そのあとで、玲奈を目撃した友だちはいない。


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とある田舎町の「学校の怪談」 episode 22 わたしの告白にソク応えて、でないと……麻屋与志夫

2015-03-20 15:39:30 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode 22 わたしの告白にソク応えて、でないと……

校庭の隅のブランコが揺れている。ギィーギィーギィー。
広美ちゃんが、 ブランコをこいでいる。
ブランコの座板の上に立っておもいっきりこいでいる。
ブランコを吊っている鎖が鳴っている。
ツトムはブランコを見ている。
下校時間のチャイムがなってからだいぶ経った。
もう、だれも校庭にはのこっていない。
間もなく、先生が見回りにくるだろう。
「わたしツトムくんこと、好きかも」
広美ちゃんに告られたのは先週の金曜日だ。
もうあれから、一週間が過ぎている。
そして広美ちゃんが交通事故で死んでから、同じく一週間になる。
ぼくの責任かも――。と、ツトムは思う。
「ぼくも、広美ちゃんのこと好きだよ」
と応えればよかったのだろうか。
それから、先はどうなるのだ。
わからない。
ツトムは広美ちゃんのことをきらいではなかった。
どちらかといえば、好きだった。
遠くを見ているような、きれいな目をしていた。
じっとみつめられると、ドキドキした。
あまりとつぜんの告白だった。
なんと返事をしていいか、モジモジした。
きらわれた。
と……思ったまま広美ちゃんは事故にあったのだろうか。
ギイーギイーギイ。あれからずっとブランコは揺れている。
中学生になれば、みんなパートナーがいる。
彼女が、彼がいてあたりまえらしい。
デートなんかするのは、時間のムダだ。
好きだとか、愛しているとか、そんなことで迷ったりしたら。
時間がもったいない。
高校は開成を受験したい。
私立中学の受験には失敗した。
ツトムは屈辱感に苛まれていた。
そんなときだった。
タイミングが悪すぎた。
中学生になると離ればなれになるの。
彼女は私立T女子学園に見事合格していた。
合格できなかったぼくをなぐさめてくれる気でいたのかもしれない。
そういうやさしいところのある広美ちゃんだった。
広美ちゃん、そんなウラメシイ目でぼくを見ないでよ。
ブランコからおりておいでよ。
校庭の隅のブランコは揺れつづけている。
そこにツトムは見てしまった。
広美ちゃんにはブランコから降りられないわけがあった。
広美ちゃんは、事故で両足がグシャグシャだった。
という話だ。ほとんど即死だった。
両足で座板にのっていると見たのは、ぼくの錯覚だった。
ギィー、ギィー、ギィー。
広美ちゃんは両手で鎖につかまっている。
そして足がない。両足がない。
上半身だけでブランコをこいでいる。
ぼくを怨まないでよ。
ごめんな。
広美ちゃんに、彼女がよろこぶかもしれない、言葉を返すべきだった。
「遊ぼう。ツトムくん。むかしみたいに、いっしょにブランコにのろう。こっちへきて」
跳び上がった。ポンと肩を叩かられた。
おどろいて、ツトムはふりかえった。
「先生、ブランコが揺れている」
「ああ、春の疾風だ。強い風があるからな」
「ちがうよ。だれかブランコをこいでいる」
「ツトム。勉強のし過ぎだぞ。早く帰れ。だれもブランコにはのっていない」
ツトムは校門の先の大通りに向かった。
広美の恨めしそうな目が消えない。
あんなに注意深い広美ちゃんが事故にあうなんて――。
信じられない。
ほくに告白したことを悔やんで――。
ぼくにきらわれたと誤解して――。
考え事をしていたのだろうか。
広美ちゃんの目が。
どこまでも憑いてくる。
わたしツトムくんのこと、好きかも……。
むかしのように、一緒に遊びましょう。
遊びましょう。
ごめん。広美ちゃん。
ぼく広美ちゃんのこと、きらいだったわけではないよ。
広美ちゃんの恨めしそうな顔がどこまでも憑いてくる。
ツトムは広美ちゃんのことばかり想っていた。
校門前の大通りを歩きだした。




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怪談書きませんか/栃木県芙蓉高校文芸部
著者麻屋与志夫
250円(+税)  (税込 270円) 

古い怪談のある栃木。いま新しい怪談誕生。恐怖、戦慄保証付き


栃木には大中寺の七不思議がある。特に『馬首の井戸』や、秋成の日本吸血鬼物語の嚆矢(こうし)ともいわれている『青(あお)頭巾(ずきん)』は有名だ。―― その土地は、いま外来種ル―マニヤ吸血鬼の侵攻(しんこう)を受けている。吸血鬼監察官の文子と龍之介は敢然(かんぜん)とその敵に立ち向かう。龍之介のジイチャン翔太も愛する九(きゅう)尾(び)玉(たま)藻(も)と、命がけの抵抗をする。二組の恋人同士が最後にたどりついた境地(きょうち)、1000年の時空(じくう)を超えた愛の不滅(ふめつ)の物語。あなたは恐怖し、そして純愛に涙する。

角川ブックウォーカーで検索してください。
ジャンル文芸レーベル惑惑星文庫出版社名惑惑星




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とある田舎町の学校の怪談 21  麻屋与志夫

2015-02-11 11:20:08 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode 21 少年老い易く〈恋〉成り難し。

こんな大雪になるなんて――。
ぼくが風邪を引いてしまうなんて。
美智子ちゃんを見送りに行くと約束した時には、おもってもみなかった。
クラスの皆が美智子ちゃんを見送りに行くのだろうな。
ぼくがいくと、からかわれるだろうな。
「やあい。マグロが美智子ちゃん、好きなんだ」
「ああい。マグロが恋をするのかよ」
マグロというのは、ぼくがぶら下がったままだ。
醜く、鉄棒にぶらさがったままでいる。懸垂が出来ないで――。
そんなぼくが、魚屋にぶらさげられて、うられているマグロに似ている。
そういって、体操教師につけられた〈あだな〉だ。
「寝てなさい。熱が下がるまでは起きたらだめよ」
非情な母の声が枕元にひびいた。
いまごろ美智子ちゃんは、省線鹿沼駅でひとりさびしくぼくをまっている。
どうしょう。会いたいな。
いま、会わなかったら、もう、一生会えないかもしれない。
どうしたらいいのだ。
ぼくらは国民学校の六年生。
戦争が終わって疎開児童は東京にもどっていった。
いま見送りに行かなかったら……。
これっきり、美智子ちゃんには、会えなくなってしまう。
 
省線駅は国鉄駅となった。
国鉄駅はJRの駅となった。
そんなことは老人にはわからない。

「わたしが、10年たってもどってきて、ふたりは結婚したのに、それも忘れてしまっているのですよ」
介護に疲れたのか、老婆はしょぼしょぼした目でベッドの老人を見下ろしていた。
「美智子ちゃんに会いに行く」
老人は同じ言葉を、まだくりかえしていた。

外はあのときの朝のように大雪。
五センチメートル先も見えないような大雪だった。
 

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とある田舎町の「学校の怪談」episode19 赤いランドセル。  麻屋与志夫

2014-06-21 03:13:02 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode 19 赤いランドセル。

二宮神社の境内で毎月4日に開かれる骨董市だった。
木枯らしが吹きすさんでいた。
男体山がその日は、初冠雪。
街も山々も寒々としていた。
春になれば定年となる刑事のS。
Sのたったひとつの趣味である骨董市巡り。
そのSの眼が赤いランドセルを見ていた。
ブルーシートの上にならべられていた。
骨董というよりもガラクタ。
刑事のSの持論は。
「骨董とは――骨が草の重みで古なっていくもの」
草が生えて、枯れる。
生えては枯れして。
歳月の重みに耐えてこそ骨董品なのだ。

老婆がじっと伏し目がちに冷やかしの客を見ていた。
ときどき声をかける客もいた。
老婆からは、返事はもどってこなかった。

「このランドセルは生々し過ぎる」
刑事の勘がそうつげていた。
あの事件は解決した。
赤いランドセルを背負った幼いK子チャンのポスターもとりはずされた。
Sにもあの同じ小学校にかよう孫娘がいた。
赤いランドセルのK子チャンの姿を見るのが痛ましかった。

Sの意識にはあの赤いランドセルがあった。
よく見ると無数の刺し傷がある。
千枚トウシのような鋭利な刃物で突き通された傷だ。
冠(かぶせ)の反射鋲の上のほうにのこっている。
無数の刺し傷。

あの犯人は小学校でイジメにあっていたにちがいない。
すでに帳場はたたんだ。
あの陰惨な事件の犯人のことを思っていた。
感情を押し殺したような、無表情な顔。
遠い国から母につれられてきたこの街。
言葉もろくにつうじない。
いじめにあってひきこもりぎみだったと近所のひとが証言していた。

だれが、このおれを、ヒキコモリにした。
クソヒキコモリのおれは……いつか復讐してやる。
リベンジだ。
リベンジだ。
そう叫びながら赤いランドセルの冠に千枚トウシをつきたてた。
ツキタテタ。

細かな穴のひとつひとつから悪意に満ちた怨念が吹きだしていた。
おれの思いすごしなのだろう。
こんなかんがえは、アンリアルだ。幻想だ。
刺し傷だらけの赤いランドセル。

「お客さん。買ってくれんけ」

いつまでも動かないSに老婆が上目ズカイに声をかけた。
Sはしぶしぶそのランドセルを買った。
こんな品は骨董品ではない。
際モノだ。
あの事件を連想させる今だけしか売れない、メッタニないしろものだ。

学校でのイジメは――。
虐めるものには一時。
イジメラレルものには一生トラウマとして残る。
イジメの被害者が、恨みをエスカレートさせる。
「誰でもいい。殺したかった」
なんてことになる。
何年もたってから縁もユカリもないものに狂った殺意がむけられる。
痛ましいことだ。

「おばちゃん。また売れたじゃないか」
となりに店をだしている青年が老婆に声をかけた。
老婆は応えない。
もじもじと座ったまま毛布のかげからとりだした。
赤いランドセルだった。
ランドセルの反射鋲が男体颪のなかで光っていた。
カブセがパタンパタンと音をたてて揺らいでいた。






平安の昔より続く「九尾(吸美)族VS人狼」の怨念の戦いが今蘇る。勝利して月に吠えるのは、どっちだ!

猫の動きから「人狼(じんろう)」の出現を予感していた一人の老人がいた。老人の予感通り人狼が出現し、民族学者の石裂(おざく)は争いの渦にまきこまれていく。那須野を舞台に展開する千年越しの怨念の戦い。勇猛果敢な妻は「あなたのことは、わたしが守る」といい、長女の祥代は「お父さんのことは、見捨てないから」といってナギナタをふるって人狼の群れに斬りこんでいく。那須野ガ原の『玉藻狩り絵巻』さながらの戦いが妻の故郷で勃発したのだ。平安から連綿と続く「都市伝説」は平成の世にも生きていた!痛快無比の壮絶な戦いの幕が、ここに切って落とされた――。

●角川ブックウォーカー惑惑星文庫で検索してください。
 はじめの4ページくらいは立ち読みコーナーがあって気軽に読めますよ。
 ブログとは違ったGGの小説の文章を読んでみてください。



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とある田舎町の「学校の怪談」episode18 ぬ毛子さん

2013-07-31 03:36:27 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode18 ぬ毛子さん

ある小学校にイジメッ子がいました。

女子生徒の髪の毛に異常な興味をいだいていました。

クラスの女の子の髪の毛をぬいてはノートにはりつけていました。

ぬいた子の名前や、ぬいたときの女の子の反応などを記録していました。

「きゃ」と悲鳴を上げた。

「痛い」と泣き出した。

青くなってふるえていた。

先生にいいつけた。

国語の作文を書くのは苦手なはずなのに――。

実に細かく書いてありました。

クラスの女の子全員のコレクションができあがりました。

ほかのクラスまで遠征するようになりました。

そして、ある昼休み。

髪の長い、色白の下級生の女の子が彼のクラスの廊下を歩いてきました。

女の子の髪に手を伸ばしました。

引きました。

バサッと長い髪が束となってぬけました。

そのあまりの量にイジメッ子は仰天しました。

それだけではありません。

声が聞こえてきました。

「うちの孫の毛を抜いたのは誰だ……」

長い髪の毛の束が彼の喉にまきつきました。

「わたしの髪をぬいたのは誰なの……」

髪の毛か喉をしめつけます。

髪の毛が口をきいています。


「あわあわわわわ……。たすけてくれ――」

髪の毛を、ほどこうとして、彼は夢中で喉元をかきむしったそうです。

いまでも、かれの喉元にはソノときの引っかき傷が残っています。



その女の子の髪は死んだお婆ちゃんの髪でつくったウィッグでした。
薬の副作用で一時的に髪の抜けた孫を心配したお婆ちゃんが。
じぶんの髪でつくってくれたウィッグだったのです。


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とある田舎町の「学校の怪談」episode17 お化け教室  麻屋与志夫

2013-07-30 12:31:02 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode17 お化け教室

●夏休みだ。

萌のクラスでは成績表を渡される日には――。

二学期からの席替えのとおりにすわることになっていた。

萌のうしろにはK小学校のいじめっ子ワーストの中島くんがすわった。

「いいですか、これからはこの席順ですわるのよ。では成績表をわたします。呼ばれた人はまえにとりにきてね」


先生の声がいつになく厳しい。

クラス全体の成績が5クラスある6年生のなかで、最下位だったからだ。

萌への中島くんのいたずらがはじまった。

シャーペンの先で萌の背をつつく。

それも布をつきとおして肌に傷がつくほどだ。

痛い。

黒いホクロになるかもしれない。

萌はたえた。

つんつんつん。

痛い。萌はガマンシタ。

つんつんつん。

萌は必死でたえ、ガマンシタ。

つんつんつん。

こんどつつかれれば、10回目だ。

ほらきた。

萌は背中を少し傾げた。

痛みに耐えかねて机に顔をふせた。

中島くんのペン先がぶすりと萌の背中につきささった。

鮮血が噴水のようにふき出した。

ギャッと悲鳴を上げたのは中島クンだった。

椅子を倒して後ろに倒れ込んだ。

ワァワアと意味のない叫び声をあげて教室をとびだしていった。

どういうことが起きたのか。??????????

●みなさんで、謎ときをしてください。

●皆さんの回答はコメントにどうぞ。


作者の解答は夕方のブログのアップまでおまちください。

●萌のお父さんはテレビ局のSFX(特殊撮影)に携わっている。赤いインクのパックを萌はあらかじめ背中にしこんでいた。十回めにそこにペン先がつきささるようにからだをずらした。
 

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とある田舎町の「学校の怪談」 episode16  どうして勉強するの?  麻屋与志夫

2013-07-28 04:27:15 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode15 どうして勉強するの

いますこしだ。
いまにはじまる。
秒読み開始。
5,4, ホラ、ホラ、ホラ。
Kクンがすっくとたちあがった。
席を離れて教室の中を歩きだした。
両腕を横にぶらぶふりながらモウロウトシタ視線を虚空に向けて……。
まるでそこに――。
何かいるみたい。
誰かいるみたい。

「Kクン。Kクン。席について。受験生なんだよ。みんな、真剣にいま勉強しているのだよ。さあ、席について勉強しょうね」
先生はやさしく、諭すようにはじめのころは言った。
だが、あの質問に応えられなくなってからは、もうなにも言わない。

「どうして進学するの。どうして勉強するの。勉強って何ですか。どうしてぼくは、ぼくなんですか。どうして、ぼくはここにいるのですか」

先生にはそのひとつとして、質問にこたえられなかった。
Kクンの「どうして」に解答するとはできなかった。
それからとうもの、Kクンのなすがままだ。
Kクンは教室の巡行がすむと席に戻りすやすやと眠りだした。
席に着いたとたんに睡眠におちいる。
みごとなものだ。

「おやすみ。Kクン。いい夢をみてな」

その街のごみ屋敷の住人。
廃校になった中学から拾ってきた黒板が山積するゴミのなかにある。
ちゃんと壁に固定されている。
なにやら、文字らしきものがチョークで書いてある。

「どうして、勉強するの……」

彼は仮想教室のなかにいる。
真剣に答えようとしている。
黒板の前で、なにも言えずにいる。
立ち往生。
そうして、今日も一日――。
根本的な問題について。
解答をもとめる生徒と対峙している。
生徒なんていないのに。
教室でもないのに。
彼はもう先生ではないのに。
腰が曲がっているのに。
まだKクンの唐突な発問に応じられないでいる。


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とある田舎町の「学校の怪談」episode15 先生は教室からでられない 麻屋与志夫

2013-07-23 11:48:22 | とある田舎町の「学校の怪談」
episode15 先生は教室からでられない

「こうして、教壇に立っているから先生なんだよ」
席に着いた生徒たちをみまわして木村先生はいった。
生徒の中にバンパイアの子どもたちが増えてる。
宇都宮餃子。
ニンニクが粒のまま豪華にはいっている。
それを幾ら食べても、バンパイアを忌避することはできない。
まあ幸い、バンパイアが活動する夜には教室をでることはできない。
塾の先生だからな――。
木村はつづけた。

「夏休もこの街の学校は休まない。生徒は毎日、学校に行く――。部活で運動だけやっていればいい。とはわたしは塾の先生だから、言えないんだよな。勉強しっかりやって、ハイレベルの高校に合格してよ。いつ、勉強するか、イマデショウ」
だれも笑わない。
バンパイアの子どもたちは、うとうとうたたねをしている。
盛り場をうろつき捕食活動に精を出す親たちについてまわっているからだろう。
寝不足なんだよ。
起こすのもかわいそうだから、そのままにしておく。
すやすや可愛らしい寝息をたてている。
まわりの友だちをいじめないだけでも、人間の子どもよりはるかに優れている。

イジメて、死に至らしめる。
イジメて、簡単に友だちをころす。
根性焼き。殴る。蹴る。首をしめる。ナイフで殺傷する。
人間の方が、はるかに怖い。
子どもが、孫が、嬉々として親や、祖父母をころす。
恐いですね。怖いですね。

きらめく鋭い犬歯で、牙で、あなたは頸動脈を噛みきってもらいたいですか。
あれは小説や映画、テレビの世界の出来事です。

「わたしは、夜間授業の塾の先生です。この教室からはでられません」

でられたとしても、街を彷徨しても怖くない。
だって、バンパイアはひとを殺す事はしない。
Just one bite. ほんの一噛み。ひと啜り。
痛みもない。
蚊にさされたようなものだ。
でも人間とむすばれて、子どもを増やすのは感心しないな。
生まれながらのバンパイア。
子どものときから、すでに将来がきまっているなんてかわいそうだよ。

「さあ、勉強しょう。余計なことはかんがえないで、勉強しょう」

それがこの街から脱出できる唯一の方法なのだから。

「先生は教室からでられない。ここからみんなの輝かしい未来を祈っているよ」

永遠にこの教室で教えつづける。
死ぬことはない。
だって、昔、オリオン通りでバンパイアに噛まれているのだよ。
だから結婚もしないで、塾生をわが子と思い、毎晩、教壇にたっているのだ。



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