田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

超短編34 UMA(未確認生命体)の下足痕(ゲソコン)

2013-03-31 09:14:45 | 超短編小説
34 UMA(未確認生命体)の下足痕(ゲソコン)

「おい、河川敷公園のsee saw をみろ」
野鳥観察クラブ部長の川澄がぼくに呼びかけた。
高校生にしては甲高い声だ。
ぼくは、彼の声に同調することはしない。
平静をたもちつつ、双眼鏡を青鷺のいる川面から、公園のほうに寄せた。
彼のうろたえた原因をつきとめた。
演劇部の鹿沼真子がシーソーに腰をかけていた。

「彼女のミナ・ハーカーハすばらしかった」
ぼくはのんびりという。
「なにかおかしい。だれも向かい側にのっていない。それなのに、真子は高くあがったままだ」
きょうの真子はロリータルック。
ソックスは水玉模様。
ドットまでよくみえる。
だが確かに、板の支点から向こうにはだれものっていない。
いや、いる。
それは黒衣のマントの襟をたてた男だ。
でも、その姿は能力のあるものにしかみえない。

「だれものっていないのに」
川澄が恐怖にみちた声をぼくになげかけた。
すでに走り出している。
ギッコンバッタンと音がするわけではない。
そんな音がきこえてくるようにシーソーは動きだしている。
肉眼で真子の表情がよみとれるほど近寄っていた。

「真子!! 真子!! 降りるんだ」

川澄が必死で呼びかける。
愛する者の直感で危険を察知している。
なんだ。
きみらは、そういう関係だったのか。
だったらすなおに真子とつきあってやればいいのに。
受験勉強が忙しくて真子の気持ちにこたえられないというのか。
スクールカーストの最下層のぼくだ。
誰が誰と好き合っているなどということは耳にはいってこない。

ギギと支点のあたりで音がしている。
ぼくらはそれほど間近に走り寄っていた。
真子はうっとりとした表情で頬を紅色に染めている。
川澄にはだれも相手のいないシーソーで真子が独り遊びをしているように映っている。
ひとりでに上下しているシーソーの動きを異常と感じないのか。

ここから見えるFデパートの屋上から女子高生が三名ほど飛び降り自殺をしている。
出血が極端に少ないのが不可解だった。
消えたままの女子高生もいる。

こういうことだったのか。

Dがついにこの田舎町にも現れた。
フツウのひとにとっては未確認生命体。
芸術的好奇心が高ければ見えてくる生物。
小説の世界では伯爵。
劇画では血を吸う者。
そんな招かざる客がやってきていた。

予感はあった。
だからこそ、川澄のあとをのこのこついてきたのだ。
これでは収穫、アリスギ。ワイルドダゼ。

川澄もなにかおかしいと思ったのだろう。
野鳥を撮るために胸に提げていたオリンパスの一眼レフでカシャカシャやっている。

「逃げろ。逃げるんだ。真子を連れてにげろ!」
ぼくと真子は幼馴染だ。
真子の声がきこえてくる。
「わたし、この時間に川澄センパイがバードウオッチングで河原にいるの、わかっていた。だから、センパイの見てる前で噛まれてもいい。噛んでもらいたい。……と思っていた。わたし告ったのにセンパイは無視した。あなたには、女心がわからないのよ。あなたにみとめられないなら伯爵に噛まれたほうがロマンチックよ」
ようやくトテツモナイことが起こりそうだ。
これは異常だ。
危険だ。
と感じたのだろう。
川澄が真子の手をひいて後ずさる。
「そんなことのために、伯爵たるわたしを召喚したのか。伯爵をあて馬にするきだったのか。ゆるせん。おのぞみどおり噛んでやる」
「させるか!! abjectionは排除する」
「アブジェクション。おぞましいいものと、この伯爵を呼ぶのか」
ザワッと空気が騒ぐ。
氷の破片を叩きつけられたようだ。
Dの凶悪な波動をジャンプして避ける。
これじゃ、ドラゴンボールの戦いだ。
悟空でないぼくは日本古来の指剣を左手でかまえる。
伯爵の脳裏にうかんだものが透視できる。
血だらけの女子学生。
襟首にクサビのようにうちこまれた牙。
ズルっと血を吸う音までつたわってくる。
空いている右手から竹串を連射する。
「鹿沼は焼き鳥の串の日本一の産地だ。知らなかったのか。皐月の手裏剣はもっときくぞ」
ぼくは伯爵のからだに突き立った竹串に指剣から念波を照射した。
このパイロキネシスがあるためだ。
うっかりひとまえで怒りにみをまかせられない。
この発火能力があるため学校ではめだたない存在として生きている。
燃え上がるDに向けて川澄はシャッターを連写した。

あれはなんだったのだ?
川澄にきかれたが、こたえられない。
カメラにはなんにも映っていなかった。
真子にもみえていたものがカメラには映っていなかった。

ただ、河原の遊歩道には大きな足跡がのこっていた。
黒く焼け焦げたよう足跡だ。



作者注 鹿沼は黒川の河川敷、府中橋の下にその足跡はまだ残っている。


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超短編33 トイ・プードルとコギ―の幸せ

2013-03-29 10:01:57 | 超短編小説
33 トイ・プードルとコギ―の幸せ

ペットショップのショーケース。
二匹の子犬が隣りどうしのケースのなかにいた。
トイ・プードルのメスとコ―ギのオスだ。
ショーケースだから正面はもちろんガラス張り。
お客さんがよくみることができるように全面は大きな一枚のガラス。
曇りひとつなく照明をあびて光っている。
中仕切も清潔な透明なガラス。
隣同士の子犬たちがたがいにジャレあっている。
仕切は子犬が前足をかけられるくらいの高さだ。

「きみなんて名前」
コギーが隣のトイ・プードルに声をかけた。
「あなた、そんなこともしらないの。わたしたちには名前はないの。飼い主がつけてくれるのよ」
おねえさんぶっている。
真っ白い毛並みに赤いリボンがよく似合う子犬だ。
ちょこちょことあるくしぐさが、とてもかわいい。

「飼われるまでは名前がないのよ」
「そうだね。ぼくだって名前がないもの」
「でも……ほんとは、あるのよ。わたしはじぶんのことパピヨンと呼んでいるの。自由に青空をとびたいワ」
「パピヨンちゃんのあたまに蝶が止まっているようで、かわいいね」
「ありがとう。ほめられて、ウレシイワ」
「ほんとはね、ぼくも名前あるんだ。翔太っていうんだよ。飼い主がね、きゅうにフランスに留学することになって、またここにもどってきちまったのさ。たった60日の縁だったけど――」
「わたしたちながくはここにいられないのね。さびしいわ」

そして、その翌朝。
「翔太。翔太」
という呼びかけに目覚める。
パピヨンが可愛い女の子にだかれていた。

「さようなら。翔太。また会いたい。会いたいわ」

翔太はねぼけまなこでパピヨンをみおくった。
あまりにも、きゅうな別れなので、一声も鳴くことができなかった。
悲しむこともできなかった。
ただぼうぜんと、冷たいガラスに顔をおしつけていた。

それから無情にも歳月が流れた。
「翔太。翔太。翔太でしょう」
なつかしいパピヨンの鳴き声がする。
「ぼくをよんでいるのは、パピヨンなの」
「あなたまだじぶんのことを、ボクなんていうのね」
つとめて明るい声で隣から呼びかけているのはまちがいなくパピヨンだ。

赤さびのういた鉄の格子のある不潔なペットケージ。
保健所の殺処分待ちのケージのなかでパピヨンと翔太は再会した。
二匹には、過ぎこしかたの想いを話し合う時間はのこされていなかった。
こうした状況で会うということは、お互いにあまり幸せではなかったのだろう。

「死ぬまでにもういちど会いたかったよ。あのとき、さよならもいえなかったもの。ぼくねぼけていてさ」
パピヨンがなつかしそうに笑った。
「わたし、あのときの翔太のねぼけ顔いまでもおぼえているよ」
翔太が深いため息をついた。

保健婦が二匹の犬をそれぞれのケージからひきだした。
「仲良さそうだから、いっしょに逝かせてあげましょう」
翔太とパピヨンは臨終の床にならべられた。
「パピヨン。最後にこうして会えてうれしいよ」
「わたしもよ。翔太。うれしいわ」
こうして二匹はじめておたがいのカラダのヌクモリを感じた。
鼻をつきあわせた。
ペロペロなめあう。

「まるで恋人同士のようね」
保健婦がいう。
二匹ははじめて、そして最後のlastキスをしていたのだ。

保健婦の手には注射針が光っていた。


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春の河川敷 麻屋与志夫

2013-03-25 15:05:42 | ブログ
3月25日 月曜日

●川面を吹きわたってくる風は冷気を帯びていた。
でも……土手の桜は三分咲き。
桜色の霞がたなびく並木の風情。
春のきていることを感じさせてくれる。

「いつもの年より10日は早いわね」

    

●カミサンは桜の梢にカメラを向けて仰け反っている。
毎日庭仕事をしたりバラの世話をしているので、体がしなやかだ。

●枯アシが、いやススキかな――下流まで連なっている。
風にゆれていると眺めていたら、
小雀がわたしたちの近寄っていく気配におどろいたのか、
いっせいに飛び立った。

   

●流れに青サギが浮かんでいた。
いや立っているのだが、渇水期なので流れが極端に浅い。
川床の石の上に立っているのが水面に浮かんでいるようにみえるのだった。

      

●カモも泳いでいた。

   

   

   

カミサンとの会話を楽しみながら河川敷の遊歩をつづていると。
……このまえブログに書いた例の黒い大きなげそ痕がみえてきた。

   

●今日はカミサンがカメラをもってきていたのでパチパチ撮ってもらった。

●ネ。チョット不気味でしょう。
そのうち超短編をこの靴跡をテーマに書きます。


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春を歩く  麻屋与志夫

2013-03-17 08:09:27 | ブログ
3月17日 日曜日
春を歩く

●昨日はしばらくぶりで散歩に出た。
寝込むほどではないのだが、
ストレスと疲労がたまって、
このところ塾の授業をするほかはなにもしていなかった。
ブログもごぶさたしてきたし、
小説も一行も書いていない。
そこへきて、
パソコンの具合が悪い。
迷惑画面が不意に現れたりして、
いいことがない。
なにかいいことが起きないかと待っていた。
でも待っているだけでは、
なにも起きない。
暖かになってきたことだし、
と思い外に出た。
ひとりで、
散歩にでるのは何ヶ月ぶりだろうか。

●弁天池の脇をとおって母校である北小学校にむかった。
池には置物のようなカメが甲羅干しをしていた。
ときおり首を、のっとつきだすので生き物だとわかる。
まったくムダな動きをしな。
のほほんと生きている。
カメは百年生きるという。
ひょっとするとわたしが奉納したカメもまだ生きているかもしれない。
そう思うと、
むかしのことがふいに脳裏に蘇ってきた。
学校の裏の野道を歩くことにした。

●池から少し行く。
このへんに石井文房具店があった。
石井のコウチャンという同級生がいた。
いま思うとダウン症だったのではないか。
わたしも体が弱くてあまり学校には出席しなかった。
ふたりとも、
いじめられっ子。
それで、
気が合ってよく下校の道すがら、
おしゃべりをした。
あのころのことが、
ムショウに、
懐かしい。
そのうち書いてみたいものだ。

●野道にでた。
小川をまたいで進むのが楽しい。
男体山の雪もだいぶ融けて、
遠目にも青い山肌がくっきりとしてきたのがわかる。
ああ、春になったのだなと納得しながら歩をすすめる。

●川の流れにメダカが泳いでいた。
この小川ではドジョウやフナやオタマジャクシをすくったものだ。
あの川遊びを共にした仲良しだった中津博君は――いまはもういない。
さびしい。

●スズメの囀りが遠く近く、きこえてくる。
芽吹きだした雑木林が薄紫色にけぶっている。

●『寒明の風にふくらむ雑木林』 
今は亡き小学校の時の恩師石島朝治の秀句をくちずさみながらあぜ道を歩く。
北小は当時作文教育がさかんだった。
わたしがこうしてまがりなりにも小説家となれたのは、
あのころの先生方のおかげといまも師恩をありがたく思っている。

●畑の中に咲く紅白の梅の花。
イヌフグリ、
名前にはそぐはない、
水色のカレンな花の群生。

●道端の長年の風雪でくだけた道祖神。
その肩のあたりがかけおちているさまが枯淡の味があっていい。
黒川には釣り糸をたけるひとがいた。
すれちがったひとが小さな手帳をわたしのように持っているのが目にとまった。
俳句の吟行なのだろう。

●鹿沼の里に、どうやら春が訪れていた。


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春の花香る部屋にて  麻屋与志夫

2013-03-02 11:45:33 | ブログ
3月2日 土曜日

●かすかに花の香りをふくむ空気が部屋からへやへと移動するわたしの鼻孔につたわってくる。

ブラッキーのしぐさを真似て鼻を中空に上げて「クンクン」とやっていたら背後でカミサンの笑い声がした。

「なにやってるの」

「花の香りが鼻についてはなはだいいきぶんだ」

とオドケて応えていると洗濯物をもった彼女の姿はもうそこにはない。

裏庭に干場をつくったので、二階まで洗濯物をもってあがらなくてすむようになった。

●中学生が卒業していった。

最後の授業のあとでH君から花束をいただいた。

   

   

   

うれしいことをしてくれるものだ。

卒業生のひとりひとりが入塾してくれたときの様子を思い浮かべながらふけいく春の夜の静寂の底で蹲踞するわたし。

●来週から塾は新学期だ。

どんな生徒との出会いがあるだろうか。

●そうそう、カミサンのブロ友からも房総の花がとどいた。

   

家の中がまるでお花畑になったようだ。

ふだんはあまりつかわない花器をとりだして各部屋ごとに花をがかざってある。

絵心のあるカミサンの活ける花には風情がある。

●春一番が吹きだしそうな今日このごろのあたたかさだ。

男体山の雪もこころなしか薄くなったかんじがする。

●ハナミズキはいつごろ咲きだすのだったろうか。

図書館のまえで、しばしたたずみそんなことをおもったのは昨日だった。

明日はひな祭り。



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