田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

蔵の町のインペーダ―3  麻屋与志夫

2010-02-28 10:09:28 | Weblog
part9 蔵の町のインペーダ―3  栃木芙蓉高校文芸部(小説)


41

日光例弊使街道の中本陣跡。
屋敷の奥にその蔵はあった。
正面の古びてはいるが、
堂々とした長屋門をくぐると、
広い枯山水のにわがあった。
一般公開されている。
市の重要文化財に指摘されている場所だ。
自由にその庭までははいることができた。
でもそのさきは立ち入り禁止。
標識が歩みつづけることを拒んでいる。

その奥に、樹木の影に土蔵はみえていた。
黒漆喰の壁だった。
白壁がウリの観光課の宣伝なので、
通りからみえる部分だけ白壁にしたのだろう。
文子はためらわず土蔵にむかってあるきつづける。
足もとの蘚苔類がじめじめしている。
すでに薄暗くなっていた。
なにか潜んでいるよだ。
「咎められたらどうする」
「あらぁ、龍でもそんな常識的なこというの」
「不気味だし、なにかでそうだし、ヤッパこわいな」
「怖がること知ってる男のこってすきよ」

「やぁ、いらっしゃい」
不意に――。
下野高影番、
鬼村が樹木の影からわいてでた。
「よく、ぼくの家がわかりましたね。お客様として歓迎しますよ」
「きみの家? 知らなかった」
「そうか。これは失礼。
きみらはふたりとも転校生だった。
それにしても山田文子さんはどこの高校からの転校生なのかな?
いつの時代からなのかな??」
「あらわたしにも、よくはわからないのよ」
「まさか平安時代からとか??? それはないよな????……」
「そうかもしれないわよ。清盛ちゃんこと知ってるもの」
「ゲェ!!! ほんとかよ」


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蔵の町のインペーダー2  麻屋与志夫

2010-02-27 11:51:12 | Weblog
part9 蔵の街のインペーダ―2 栃木芙蓉高校文芸部(小説)

40

「龍。いかないで」
 後ろで声がした。
「動かないで」
 声は文子のものだ。
 龍之介は足を止めた。
 なにか、危険がせまっているのだ。
 文子の声には緊迫感がみなぎっていた。
「急がずば ぬれざらましを 旅人の あとからはるる 野路の村雨」
 文子の放歌がきこえでくる。
 霧が晴れた。
 文子が近寄ってくる。
「心配したんだよ。霧の中でもがいているみたいだったから」
「血の霧だった。
全身血を浴びているかんじだった」
「吸血鬼の霧にとりこまれていたのよ。
あのままあの霧の中にいたらいくら、
龍之介が剣の道にすぐれていても、
血をしぼられていたわ。
この街は新鮮な血をすいたがっているのよ」
「土蔵の壁が血をながしていた」
「そうなの。
蔵が蔵として機能しなくなってから何年たっているとおもうの。
蔵は外から観賞するものではない。
その内に、麻、ロープ、荒物、ミソ、醤油……
を保管しておくためのものだった」
「街は最盛期をすぎて、
そのミイラをさらして観光客を呼び寄せ生きていこうとしているの。
京都のように観光資源のあるところはいい。
栃木はこれから観光客を呼べるものを模索していかなければならないのよ。
はやく再生してもらいたい。
そのためだつたらなんでもしてあげたい」
「なにかあるかな?」
「ミステリースポットを再発掘するなんて観光課の企画はいいとおもう」
「ああ、知美さんがはなしていた……」
「龍は『宇治拾遺物語』をよんだことある」
「恥ずかしながら……」
 と、龍之介が微苦笑する。
「慈覚大師、纐纈(かうけち)城(じゃう)の入り行く事――あそこ読んでみて。
人の血を絞って布を染めるはなしがのっているの。
いわば吸血鬼のはなしなのよね。
そして慈覚大師はこの栃木は岩船の出身といわれているの。
そして玉藻さんは大師について日本にきたの。
だってわたしも一緒だったからたしかなことなの」
「だったらここは唐から来た吸血鬼が最初に侵攻したところなんだ」
「そういうことね」
「そしてこんどは、ルーマニアからの外来種に攻め込まれている」
「そういうことね」
「何やらびいびいさえずっている、生血を欲しがる蝙蝠そっくりだ。
その蝙蝠たちの攻撃にあっているのだ」
「そういうことね」
「あの蔵の中をみたい。蝙蝠の巣があるはずだ」
 さきほどまで、血をながしていた土蔵は青いトワイライトの闇に沈んでいた。

注 何やらびいびいさえずっている――ゲーテ『ファウスト』より引用。

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蔵の町のインペーダー  麻屋与志夫

2010-02-26 05:48:00 | Weblog
part9 蔵の街のインベーダー  栃木芙蓉高校文芸部(小説)

39

春の濃霧が蔵の街、栃木をおおっていた。
龍之介はさきほどから感じていた。
だれかに後をつけられている。
ひりひり焼けるような感じが背中にはりついている。
ひたひたと迫ってくるものがある。
鬼気迫る……。
害意が霧の中で渦を巻いて迫ってくる。
ぼんやりとみえる土蔵の白い壁。
黒いシミが浮き出ている。
ぼくがこの街にきたことは、
あまり歓迎されていないようだ。
霧がさらに濃くなった。
さっと追いすがってきた。
霧にのみこまれた。
一寸先は闇。
古いことわざが似合う街だ。
起きなかった。
霧に埋もれた。
霧なのに棘とげした肌触り。
だがなにも、起きなかった。
そうだろうか? 腕が霧でぬれた。
雨のなかを歩いているようだ。
血なまぐさい。
腕にあてた掌。
ぬらっとした。
血だ。
でも、ぼくの血ではない。
痛みがない。
ぼくがながした血ではない。
血をふくんだ霧だ。
霧の向こうに人影がわいた。
直ぐ目の前だ。
突きあたる。
いやなんの抵抗もない。
さらに人影が。
龍之介は真っ赤に染まっていた。
さらに人影が……。
試されている。
脅かされている。
悲鳴をあげるのを待っている。
もっと怖くなるぞ!!
もっと怖いことが。
降りかかってくるぞ。
だれかが。
楽しんでいる。
龍之介を脅迫している。
楽しんでいるのだ。
人影が集団となった。
ふらふらとゾンビーのように接近してくる。
白いはずの蔵の壁が。
血をながしている。
真っ赤な血がツウーっと滴り落ちた。
一筋。
二筋。


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文芸部の怪談/馬首の井戸4  麻屋与志夫

2010-02-21 07:35:00 | Weblog
part8 文芸部の怪談/馬首の井戸4 栃木芙蓉高校文芸部(小説)


38

小太郎は自刃を覚悟した。
ところが、愛馬が鎧の袖をくわえて離さない。
ジイッと小太郎を見ている。
亡き母のような優しい目をしていた。

「兄が、あなたのことを助けてくれなくて……許しておくれ。
信長に焼き打ちにあった比叡山の例もあるでしょう。
兄は必死でこの寺を守ろうとしているのです。
許してあげてください」

愛馬は小太郎の切腹を止めようとしている。
袖口をくわえてはなさない。
涙をこぼしているように見えた。
イモ畑にどかっと小太郎は坐した。
もう逃げられない。
馬が泣いている。
涙はほんとうだった。
おおきな目に涙をいっぱいにうかべている。
小次郎は心を鬼にした。
長いこと苦楽を共にしてきた、
愛する馬の首をはねた。
井戸になげこんだ。
井戸の底の深いところで、
くぐもった悲しい音がした。
そして小太郎は自害した。

それからというもの、
井戸からは馬の鳴き声がするようになった。
山門のまわりで、
馬の駆け巡るひづめの音が、
カッカッと鳴り響いた。

山門を叩く音が絶えなかった。

こわがって、
寺の僧も小僧も逃げ出した。
そのあまりの怪異な事件に恐れをなしたのだ。
こうして住職がひとりのこされた。

ある夏の夜。
大中寺は炎上してしまう。
焼け跡からは。
固く閉ざされた門扉の、
カンヌキにすがった、
住職の焼死体が見つかった。

「どう、怖い話でしょう」
部員が読み終わったパンフレットを机の上に置く。
部長の知美がみんなをみつめている。
だれもが怖い話を読み終わった後でほほを紅潮させていた。
「パソコンで検索したの。「新潟の怪談」にのっていたのよ。
そのお世話になったの。
みんなも、この土地の怖い話を収集して。
おねがいします。
市の観光課で……。
この栃木の街のミステリースポットを再開発することにきめたの。
そして、怪談の短編小説を募集するんだって。
文芸部として参加することにきめたの」
「賞金でるのですか」
怖い話よりも、現実的な由果がきいた。
「それは、もちろん。
だって「深大寺恋物語」だって賞金10マン円よ」
「イタダキ」
「わぁ。由果。書けるの?????」
繭がからかう。
「いま、書道ブームでしょう。
こんどは文芸部のブームがくるとおもうの。
そしてご当地「小説」がワタシ的には、
ばんばん書かれるようになるとおもうの。
わたしたちのナジンダ地名や商店名や、
言い伝えを読めるなんて楽しいもの。
そのブームの火付け役にわたしたちがなりましょうよ」


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文芸部の怪談/馬首の井戸3  麻屋与志夫

2010-02-20 05:31:30 | Weblog
part8 文芸部の怪談/馬首の井戸3 栃木芙蓉高校文芸部(小説)

37

栃木ミステリースポット 馬首の井戸 石原知美

息がくるしかった。
馬をおりてから石段を上がってきた。
寺の門前になんとかたどりついた。
ここなら匿ってくれる。
ともかく、小太郎の叔父がこの大中寺の住職をしているのだから。
手を固く握るのさえやっとだった。
叩く。
なんとか、拳をつくって山門を叩く。
「小太郎です。
佐竹小太郎です。
叔父貴。
小太郎です。
匿ってください」

門はとじられたままだった。
あきらかに小太郎を拒んでいる。
「叔父貴!! 叔父貴!!」
「小太郎とやら」
他人に語りかけるような声がした。
見知らぬ人に語りかける声がした。
白々しい音声が分厚い門扉の向こう側からした。
「ここは仏に仕える者の神聖なる場所だ。
俗世の争いごとをもちこまれては迷惑だ。
早々に立ち去りなさい」
むごいことばだった。
仏門に仕える僧侶の口からでることばではない。
慈悲のひとかけらもない。
つねづね仏の慈悲について、
説教してくれた叔父のことばとはおもえなかった。
みがってな鬼だ。
鬼のこころをもった叔父貴だったのだ。
そのこころをしることのなかった、
じぶんの愚かさを、
ひとをみる目の拙さをこの期に及んで小太郎は嘆いた。
もはやこれまでだ。

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文芸部の怪談/馬首の井戸2 麻屋与志夫

2010-02-19 23:36:10 | Weblog
part8 文芸部の怪談/馬首の井戸2 栃木芙蓉高校文芸部(小説)

36

「龍くん」
はっと現実にもどった。
白日夢をみていたらしい。
「龍くん。どこにいってたの」
文子にはわかっていた。
「血の臭いまでつけてきている」
繭や由果たちにきこえないようにさらに声をひくめた。
「わたしとつきあっているので、
龍にもタイムリープの能力が付加されたのね」
文子は過去からリープしてきたのではない。
未来にもリープできる。
と龍之介はおもっている。
だから文子がリープなんてとばを使ってもおどろかなかった。
なんでもありの文子。
吸血鬼監察官の文子。
大好きな美少女文子。

「なにみてきたの? どこにいってたの……」
「馬首の井戸」
「ああ。大中寺の……」
「あそこならわたしもかけつけた。
でも一瞬おそかった。
鬼の残虐行為はすんでしまっていた。
それで……どうだった? なにをみたの」
「鬼が馬の首から血をのんでいた。
戦にやぶれた死者の群れに歓喜して群がり血を飲んでいる気配がした。
その気配をかんじただけで怖くなった」
「吸血が好みの鬼。
かれらは純日本産の吸血鬼なのよ。
わたしは、かれらのヤリスギをとめるためのお目付やくなの」

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文芸部の怪談/馬首の井戸1  麻屋与志夫

2010-02-19 08:28:12 | Weblog
part8 文芸部の怪談/馬首の井戸1 栃木芙蓉高校文芸部(小説)

35

くすんだ板壁に彫られた鬼の顔。
すさまじい害意にみちた鬼の顔。
シミュラクラ現象だ。
これはただの点で。
これはただの線だ。
鬼の顔であるわけがない。
ぼくの思いこみだ。
だが。
吸いこまれていく。
頭がクラッとした。
体がふるえた。
体が縮まる。
体がふるえ、縮まった。
そして跳んだ。
暗い。
暗い、山の中だ。
が泣いている。
山がふるえている。
山の鳴動にシンクロして跳んだのだ。
ここはどうやら太平山の山腹にある大中寺の周囲の森の中だ。
死体がある。
鎧をきている。
刀や槍をもっている。
そして死体は、折り重なるように倒れている。
血を流している。
まだ死んでからそれほど時間はたっていない。
いや、苦しみもがいている武者もいる。 
遠くでときの声がする。
まだ、戦っているのだ。

さらに跳ぶ。
お寺の境内だ。
門扉が開かれない。
「匿ってくだされ。佐竹小太郎だ」
門扉は開かれない。
「もはや、これまでだ。
おまえは馬だから殺されはすまい。
いままでながいことありがとう。
どこへなりとも行くがいい」

しかし、愛馬は小太郎の鎧の袖をくわえてはなさない。
小次郎は愛馬の首をはねた。
馬の首を抱えたまま、井戸に身を投げた。

門が開いた。
悪鬼がぞろぞろとはいでてきた。
ああここは鬼の住み家だったのだ。
鬼は、馬の首の切り口からズルッと血をすっている。

戦いの場からも、
なにか水をのむような音がする。
なにかをすすっている音がする。
龍之介は鳥肌だった。
背筋がぞくぞくする。

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文芸部の怪談  麻屋与志夫

2010-02-17 11:51:22 | Weblog
part8 文芸部の怪談  栃木芙蓉高校文芸部


34

変異があらわれていた。
かすかにふるえている。
部屋の古びてくすんだ板壁。
 
板壁に人の顔がうきでている。
シミュラクラ現象ではないか?
と龍之介は思った。
一種の錯覚だ。
壁にある点をみても。
シミをみても。
人の顔のように。
思えてしまう。

東京にいたとき、
暴走族におそわれて肋骨を折った。
あのときは、
整形外科の医師や看護師が、
みんな吸血鬼にみえた。
戦慄した。
そのとき。
Gが。
「幻覚だ。
頭を冷やせ。
幻覚だ。
これもシミュラクラ現象だろう」
といっておしえてくれたとばだ。

でも、これはちがう。
カッターナイフで彫ったらしい鬼の面。
手の平サイズの鬼の顔が!!
戦慄しながら大きくなっていく。 
頭に二本の角。
吸血鬼ではない。
日本古来の鬼だ。
はったと部屋を睨んでいる。
リアルだ。
なかなかよく彫れている。
「なにみてるの?
リュウこっちへきて。
ミーテングはじめるわよ」
「えっ、どうなってるのだ」
知美にはみえていないのか。

だれにも、なにもみえていないのか。
あせった。
やはり幻覚をみているのか。
鬼が笑った。
うれしそうに笑った。
鬼が笑うと、不気味だ。
ぼくは一つか二つの点をみて。
鬼の顔と錯覚してたのか。
あわてて文子をさがした。
文子の姿がみつからない。
「はやく……すわって」
こんどは繭の声だ。
「龍、どこにすわるの」
由果の声がしている。
文子はどこにいったのだ。

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文芸部の怪談  麻屋与志夫

2010-02-16 08:14:36 | Weblog
part8  文芸部の怪談  栃木芙蓉高校文芸部(小説)

33

廊下に足音がひびいた。
文芸部室のほうにやってくる。
扉が開かれた。
部室には繭と由果しかいなかった。

「繭、机くんが文芸部にはいるってほんとなの!?」
「由果、龍ちゃんが文芸部への入部きめたって??」

にぎやかなこと。
にぎゃかなこと。
かしましいこと。
かしましいこと。

ゼッメツ寸前だった部室がきゅうににぎやかになった。
部屋の床か心地よい重みによろこんでいる。
部屋の周囲の壁も窓ガラスも感激してふるえている。
本当だ。
窓ガラスなどおおぜいの女生徒の声と動きでふるえている。
「ねぇ、ちょっと、あんたたちどうしたの」
「たんまたんま。どうしたっていうの」
質問攻めにあっていたふたりが。
繭と由果が、どうじに訊ねる。

「わたしたちみんな入部希望者デース」

「あら、うれいしこと」
扉がひらいた。
やっと部長の知美がやってきた。
部屋の中のさわぎは、廊下まできけていた。
「よろしくおねがいします」
「センパイ、よろしくね」
同級生から、センパイと呼びかけられた。
繭と由果はニコニコしながら入部申込書をみんなにくばっている。

扉がひらいた。
みんなの視線が入口にあつまった。
入ってきたのは文子だった。
みんなが、ガクット、劇画よろしく首をたれた。
そして、あごをあげて。
黄色い。
金切り声。
「キャ」
「きゃ」
「龍ちゃん」
芙蓉高校の小栗旬。
の、
人気だ。

龍之介が文子の後で扉をしめている。

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悲恋/吸血鬼との別れ  麻屋与志夫

2010-02-15 06:12:42 | Weblog
part7 悲恋/吸血鬼との別れ 栃木芙蓉高校文芸部(小説)


32

「龍、お九さんのおでましだ……」
転校第一日目。
下野高校の影番鬼村の鉤爪をたたき落とした日。
初めて栃木名物ジャガイモ焼きそばを食べた店「巴波」で。
携帯からひびいてきたGのことば。
あれは50年ぶりで初恋の人にあった声だったのだ。
龍之介は吸血鬼の襲撃かと勘違いした。
お化け屋敷といわれてきた家まで走った。
あのGの声の裏には、悲しい昭和の恋の記憶がかくれていたのだ。

文子にさそわれて離れの角の月見台にでた。
四畳半ほどの広さがあった。
床も手すりも竹で造られていた。
ふたりですわった。
竹の感触がここちよかった。
春まだ浅く、
ひんやりとした風がふき、
月はおぼろにかすんでいた。
ゴールデンリトリバーのハンターがうれしそうによってきた。
「わあ、かわいい。
ハンターて名前なの。
よろしくね」
「Gがあんなにうれしそうにしてるの、
しばらくぶりだよ。
バァちゃんが死んでから、
独りだったから」

「ふたりだけにしておいてやるといいわ。
玉藻さんがこの街を離れられないのにはわけがあるの。
そしてその責任はわたしにあるのよ」 

「どういうこと」

「玉藻さんは傾国の美女といわれていた。
天竺・唐土とわたって王を夢中にさせた。
日本では鳥羽院の女官として宮中に仕えていたの。
陰陽師、阿倍泰成に正体を見破られて、
那須野で滅ぼされたことになっている。
わたしは監察官としてその追討軍に参加していた。
東国の武士は玉藻さんを守る一族のものを、
殺し、
犯した。
その残虐な行為にさすがのわたしも、
たまりかねて玉藻さんを救ったのよ。
にどと、都には近づかない。
この野州は大平の地からでないという約束をさせて……」
     
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