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田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

襲い来る人狼 イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-10-14 16:31:38 | Weblog
5

並子の並は杉並木にちなんでいる。
あのときのおれは、翔太と同じ年だ。

「逃げて。森の奥に逃げるのよ」
 ……という、声だけでしか会っていない伯母。
並子の母の鹿子。
の女たちはあのとき井波少尉と副谷軍曹に惨殺されている。
人狼の集団に蹂躙され。
廃屋となった。
傾いた屋根に月影がおちている。

もちろん、勝平の母。
貞子の生れた場所だ。
並子の母の鹿子が母の姉だと知らされたのは。
ずっとあとになってからだ。

あれは人狼による襲撃の最後の局面だった。
もしこの年まで生きられなかったら。
なにもわからないまま死んでいったにちがいない。

人に変身できる狼がいる。
いや、悪魔はなんにでも姿をかえることができる。
だれのこころのなかにでも、入りこむ。
だれにでも憑依できる。
こわいそんざいなのだ。

そんなことを考えてもみなかった。

「おれたちには、人狼が見える」
「そうだね、ジイチャン」
「邪なこころをもつ悪人に、人狼がダブッテ見えてしまう。ただその能力のために、ここの女の人たちは皆殺しにあった」
「人の世界にとけこんで平和に生きていたのに、終戦のどさくさまぎれて、井波や副谷に皆殺しにされた。かれらが人狼であることを見極めることができるというだけで……」
「くるぞ」
勝平が目には見ない気配を追う。
草むらにむけた視線を移動させていく。

「ジイチャン。あそこだ。セイタカアワダチソウのところ」

なるほど。
アワダチソウの。
秋のあいだは黄色の群落であった。
アワダチソウの枯れ草と。
ススキの穂がさわさわと月影にゆらいでいる。

「アイツは月の光を浴びるとパワーが全開する。このときをアイツはまっていたんだ」

いつのまにか、雷雨はあがっていた。

「わかっているよ。だいじょうぶ」




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勝平、亡き妻をおもう イジメ教師は悪魔に顔/麻屋与志夫

2011-10-14 13:35:06 | Weblog
4

そしていまこの現在の尾形の廃墟は。
――60年前のと。
シンクロニシテイとして――
存在している。
同じ場所に同時に。
ふたつの空間がある。

この国の敗戦からたしかに半世紀以上もたっているのに。
ここにはあの頃のの意識が生きている。
過去と現在が同時存在としていまここにあらわれている。
こので死んでいった女人たちのエネルギーを三人は吸収していた。

「翔太。これが使えるか?」
勝平は孫にボウガンをわたした。
九尾神社の境内には勝平が持参した。
金属の工具箱が置かれていた。
工具ではなく武器がつまっていた。

「うん。日光の野外公園でウッタことがある」
「こんどは、標的はいきものだ。おもいきりよく射撃するのだ」
「非情なきもちになればいいんだね」

〈非情〉などというおとなびたことばを使った。
翔太。勝平は頼もしそうに孫を眺める。

「試射してみろ!!」

翔太は境内の石の柵まで歩いた。
水車の屋根にカラスが止まっている。
きょろきょろとこちらを窺っている。

「みごとだ」

カラスは矢風におどろいた。
飛びだった。

「わざとはずしたな」

勝平がほほえんだ。
ムヤミヤタラ、殺生をしない。
そのやさしい心根がうれいかった。

「だが!? これからの実戦では……」
「わかっているよ」

孫ともども、体のすみずみに力が漲ってくる。
が、この場所が勝平を招いた。
妻の並子が、生まれた村だ。
幼い並子と出会った森のある村落だ。
幼い並子の耳たぶを陽光が透かしていた。
薄いピンクにそまっていた。美しかった。
決戦の場にのぞんで、勝平は亡き妻との出会いをおもっていた。
並子。
きれいだったよ。


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人狼と戦う意味 イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-10-14 04:52:15 | Weblog
3

翔太がおとなになっていくとき。
どんな若者になっていくのだろうか。
今宵のこの戦いが。
翔太の未来の記憶のなかで。
どんなふうにおもいだされるのだろうか。
たのしみだ。

おれはそのころまで、生きているか。
そうあってほしい。
たのしみだ。

九尾の正義の心は永久に生き続けている。
あのときは幼かった並子をのぞいては。
並子がたったひとりの生き残りだった。 
だがいまは、ことごとく体は失われている。
母の貞子も並子も。
もはや――。
この世界に肉体は存在していない。

だが誠がいる。
翔太がこうして。
おれの脇にひかえている。

血脈は。
どこまでも。
とだえることなく。
つづいていく。

勝平は妻の並子や。
母の貞子。
最後のの長であった母の姉。
――鹿子に。
そして。
千年を越すの祖霊に。
語りかけていた。

悪の波動を感じる能力。
悪のはびこるのをゆるせない心。
悪と戦う勇気を持つ。
そうしたものが。
ひとりでも増えるように。
いまここでおれたちは戦うから――。
と話しかけていた。

あの殺戮にどのような意味があり。
どのような形で実施されたのか?
いま、そのナゾはとけかけている。

勝平はあの日。
あの敗戦の8月のある夏の日。
蝉しぐれのはげしかった午後。

の女人が皆殺しにされる場を目撃したのだ。
そしてたったひとりの生き残り。
幼い並子と出会った。
並子は長じて勝平の妻となった。

日光例幣使街道。
青黒く天空にのびる杉並木の梢。
雲間にでたばかりの満月が光っている。
ここには尾形一族のかつては女人だけのがあった。
の入口に道祖神の小さな祠がある。
すっかり苔でおおわれている。
すこし離れて、野辺の地蔵が寂しく並んでいる。
廃墟としてうちすてられて半世紀以上も過ぎた。

しかし今宵はいつもとちがっていた。
勝平、誠、翔太がいた。
尾形の血をひくものが3世代そろった。
それも、九尾族武闘派成尾家の血を優性遺伝している男が3人。
ふたたび、人狼と戦える日が到来するのを。
3世代にわたって嫡子がそろったのは幾世代ぶりであろうか。
いや何世代を経ながら待ち望んだことか。
勝平はなんの躊躇もなく、決闘の場をここに選んだことを。
じぶんでもおどろいていた。
この場所が勝平を呼んだ。



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