5
並子の並は杉並木にちなんでいる。
あのときのおれは、翔太と同じ年だ。
「逃げて。森の奥に逃げるのよ」
……という、声だけでしか会っていない伯母。
並子の母の鹿子。
の女たちはあのとき井波少尉と副谷軍曹に惨殺されている。
人狼の集団に蹂躙され。
廃屋となった。
傾いた屋根に月影がおちている。
もちろん、勝平の母。
貞子の生れた場所だ。
並子の母の鹿子が母の姉だと知らされたのは。
ずっとあとになってからだ。
あれは人狼による襲撃の最後の局面だった。
もしこの年まで生きられなかったら。
なにもわからないまま死んでいったにちがいない。
人に変身できる狼がいる。
いや、悪魔はなんにでも姿をかえることができる。
だれのこころのなかにでも、入りこむ。
だれにでも憑依できる。
こわいそんざいなのだ。
そんなことを考えてもみなかった。
「おれたちには、人狼が見える」
「そうだね、ジイチャン」
「邪なこころをもつ悪人に、人狼がダブッテ見えてしまう。ただその能力のために、ここの女の人たちは皆殺しにあった」
「人の世界にとけこんで平和に生きていたのに、終戦のどさくさまぎれて、井波や副谷に皆殺しにされた。かれらが人狼であることを見極めることができるというだけで……」
「くるぞ」
勝平が目には見ない気配を追う。
草むらにむけた視線を移動させていく。
「ジイチャン。あそこだ。セイタカアワダチソウのところ」
なるほど。
アワダチソウの。
秋のあいだは黄色の群落であった。
アワダチソウの枯れ草と。
ススキの穂がさわさわと月影にゆらいでいる。
「アイツは月の光を浴びるとパワーが全開する。このときをアイツはまっていたんだ」
いつのまにか、雷雨はあがっていた。
「わかっているよ。だいじょうぶ」
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だれのこころのなかにでも、入りこむ。
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「おれたちには、人狼が見える」
「そうだね、ジイチャン」
「邪なこころをもつ悪人に、人狼がダブッテ見えてしまう。ただその能力のために、ここの女の人たちは皆殺しにあった」
「人の世界にとけこんで平和に生きていたのに、終戦のどさくさまぎれて、井波や副谷に皆殺しにされた。かれらが人狼であることを見極めることができるというだけで……」
「くるぞ」
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「ジイチャン。あそこだ。セイタカアワダチソウのところ」
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