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田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

気の放射 イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-10-17 08:00:49 | Weblog
3

胸の前で腕をくむ。
〈気〉の圧力がからだに満ちてくる。
怒りの蒸気となって全身をかけめぐっている。
手の掌に〈気〉を溜め。

一気に突き出す。
解放してやる。

敵に放射するのだ。
ノズルから放水されたように。
〈気〉が放射される。

劇画のヒローの気分だ

両手の平を人狼に向けて突き出す。
全神経を両手に集中する。
気が集まってくる。
気が濃くなってくる。
バッと突き出す。
手を敵にむけて突き出す。

青白い気を発射する。

炎が手の先からでる。
ボクは前から戦いかたを知っていた。
体が覚えている。
自然に動く。

ボクもパパも。
パパもボクも、両手を前につきだした。
手の掌を敵にむけた。
気合いをこめた。

「どけ、どけっ。ボクはジィジィを助けるんだ。ジィジィと一緒に、狼をやっっけるんだ」

狼が吠えた。
狼をはじきとばした。
狼がふっとんだ。
ジィジィのところまで道がひらいた。

猫が走る。
走る。
走る。
猫が狼の背にとびつく。
狼は背中の猫を防げない。
人狼にもどる。
二足歩行の姿になる。
人の手で猫を首筋から払いおとそうとする。


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ジイャン今助けに行くよ イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-10-16 18:24:27 | Weblog
2

わさわさと蛇が重なっていく。
竜になった。
空にとびあがった。
あれはバアチャンたちだ。
ボクのゴセンゾサマだ。
ボクには見える。
見えるんだ。
ひとには見えないものが見える。
あれはゴセンゾサマだ。

これは、ゲームだ。
リアルな世界ではない。
ゲームの世界なんだ。
ここでは、ボクは王だ。
バァチャルな世界の――。
勇者だ。
狼なんかこわくない。
負けないぞ!!
竜がおおきな口から火をふいている。

いいぞ。
いいぞ。

火は狼の群れにむかっておそいかかった。
火はまるで生きているようだ。
毛のやける、いやな臭いがする。
勝平ジイチャンがの中央、釣瓶井戸のそばで戦っている。
日本刀をきらめかせている。
ジイチャンが剣士だというのはほんとのことだった。

すごい。
人狼をきりたおしていく。
ボス狼にむかっていく。
副谷と戦っている。

でも、狼人間は大勢いる。
大勢いる。

「ジイジイ。ボクがいくから。負けないで。ボクも戦うから」

ボクたちの両サイドには蛇がいる。
蛇がボクたちを守っていてくれる。
ジイジイ。
ボクは叫びながら猫たちとつつこんだ。
狼にむかって進撃した。
どう戦えばいいのかボクのからだが知っていた。

超音波の〈声〉と〈気〉人狼の群れにたたきつける。

群れが両サイドに別れる。

そいつらを蛇がおそう。

海を別けて進んだモーゼの気分だ。

ぼくは進む。



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「永六輔 戦いの夏」を見る

2011-10-16 12:49:56 | Weblog
10月16日 日曜日
「永六輔 戦いの夏」を見る
●NHK。とっておきサンデーアンコール「永六輔・戦いの夏」をたまたま見た。
見たといってもラストシーンに近く、携帯を闇で光らせている群衆の場面からだ。
そのあとで、病院帰りのように見受けられたが、街頭でのシーン。
元気な顔をみてほっとした。
あれほどの弁舌家も声がもつれているのにはおどろいた。
やはり病気にはかなわないのだなとおもった。
それでも永さん、意気軒昂。
よかった。
よかった。

●永さんとは、なんどかあっているが、とおいむかしのことである。
名のりあったわけでもない。

●おもしろいことがあった。
河田町のT病院で5年ほどまえにすれちがった。
向こうでも「あれ……どこかで……会ったかな」というような表情をしてくれた。
なつかしかった。
モノカキは仲間の臭いがわかるんだ、とカミサンに得意になってはなしたものだ。
こちらはこのまま朽ち果てようとしている、売れない作家だ。
すれちがうときの、永さんのちょっとした視線にはげまされたおもいだった。

●もうひとつ。
南千住で「人間座」を主宰しているIさんが永さんと親交がある。
彼が出す芝居のパンフレットに軽妙なコメントを永さんは寄せている。
Iさんとは「21世紀の会」いらいの仲だから、ずいぶんながいつきあいになるなぁ。
ことしは、「人間座」の公演をみにいけなかった。
ざんねんだ。

●ひとはかならず、老いる。
友だちにも、不義理をしてしまう。
Iさん。
ゴメン。
らいねんはかけつけるからね。
えっ、おまえ、まだ走れるのか。
アヤ。
ことばの綾だよ。
ごめん。
ごめん。

●わが家の大谷石の塀の外にハコネウズキの枝がのびている。
その枝にカラスウリがなっている。
同じツルの同じ場所に、赤く色づいたものと青いままのカラスウリがなっている。

    

●わたしはふとたちどまった。
赤く熟れた実はつややかにかがやいていた。
わたしはその光沢のある実にともだちの顔をだぶらせていた。
作家や画家。
実業家として成功したともだち。

●わたしは青い。

    

いつまでも青いことばかりいっている。
世間智にたけたものにはいつもだまされている。
わたしは青い。
いつまでも青春していて、ビタースィートの小説ばかりかいている。
おとなをこわがらせるような、恐怖小説がかけない。
大人の読者をうならせるような推理物がかけない。
青い。
未熟。

●田舎町でほそぼそと「アサヤ塾」という学習塾をやって食いつないでいる。

●カミサンを旅行につれだしたこともない。

●北関東の小さな田舎町の裏路地の古い家のホリゴタツでまいにちブログ小説をかいている。

●これからだって青いままなのだろう。
熟することはないだろう。
秋風にかすかにゆれるカラスウリを見ながらかんがえていた。

    

●玄関のカギをかけているカミサンの気配がする。
カチカチとカギを閉めている。

●「おまたせ……」カミサンのハズンダ声。
買い物かごを手にしている。

●「なにみてたの……」



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ご先祖様の助け イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-10-16 08:07:32 | Weblog
第九章 翔太の戦い。翔太――ボクの視線。

 義なる者の角は高められるのです。
                               詩編 七十五 

1
 
 ボクはおどろいた。
 
 ミュウとムックが仲間を呼び集めた。
 
 猫族ってすごいな。
 
 いざとなれば、ヤッパ、群れで戦うんだね。
 毎晩、猫の集会をひらいている。
 地域の情報を共有している。
 なにかあればすぐに仲間のすみずみまで伝わっていく。
 そして助け合う。りつぱよ。
 猫が動き回れるのは、せいぜい500めえとるくらい。
 そんなのうそだ。
 みてよ。この猫の大群。
 
 ボクはうれしくなった。
 ミュウとムックはボクの家来だ。
 ボクはサムライだ。
 ミュウとムックを従えた。
 侍大将だ。狼の群れにむかった。
 
 前進した。
 なにもこわいものなんかない。
 
 このとき、並バアチャンの声が頭にひびいた。
 会うことはなかった貞子バアチャン。
 そしてそのバアチャン。
 大勢の女の人の声がする。
 ボクらを励ましてくれている。ゴセンゾさまの声だ。
 翔太。声を使いなさい。あいつらはボーイソプラノが嫌いなの。
 翔太の高い声に弱いのよ。
 
 勝平。誠。翔太。
 わたしたちも共に戦うからね。


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人狼VS猫の群れ イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-10-15 20:49:53 | Weblog
8

めまぐるしく人から狼へと変貌する。
その能力をたのしそうに誇示している。

勝平に迫ってきた。
誠に迫ってきた。
翔太に迫ってきた。

九尾神社の正面階段をじわじわと上ってくる。
三人は撃ちまくった。

「ジイチャン!! 倒しても、倒しても人狼は減らないよ」
「そのようだな。でも確実に倒した人狼は生き返ってはいない」
「それだけ、数が多いということだ、翔太!! ひるむなよ」

誠が翔太を励ます。
翔太はひたむきな、真っ直ぐな目で父親を仰いだ。

「この街がわれ人狼の故郷だということを知らないのか。元犬飼村は、犬を飼っている村ではない。われわれが人狼なのだ。望めば異形のものに変身できる異能集団なのだ」

離れているのに頭にびんびんひびいてくる。
心から心に伝わる声だ。

人狼が青い月にむかって猛々しく吠えた。
狼の群れが鼻面を月にむけて吠えた。
勝平、誠、翔太の三人のいる境内は半月型に取り囲まれていた。

いくら射倒しても、確かに、敵はへらない。
石垣にとりついた。
石のさくを乗り越えようとしている。
階段を駆け上がってくる人狼もいる。

このとき、虎縞の二匹の猫、ミュウとムックはピンと尾をたてて唸りだした。
さきほどから低く唸っていた。
いや、コナラ、白ブナ、カエデの林についたときから唸っていた。

境内の樹木の下草をわけて黒猫がミュウの脇にあらわれた。
大きい。
雄猫だ。
ミュウがうれしそうに体をこすりつけている。
黒猫があらわれたのが合図だった。  
うそだろう。
と、翔太は声をだした。

うそだぁ!!

なにが起きているのだ。
あとからあとから、猫の群れがつづく。   
人狼と相対した。              
境内の石垣の真下だ。
月に吠える人狼の群れ。
人狼に歯をむく猫の集団。
人狼と猫との戦いの開始をつげる遠吠えだ。


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人狼は不滅なのか イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-10-15 16:18:18 | Weblog
7

光る獣の目。
目。
目。
目。
目。
目目目目目。

ドウモウナ唸り声。
攻め寄せて来る人狼に。
矢をはなった。
翔太は矢をはなった。
ギャンという悲鳴があがった。
青い燐のような目がいくつか消えた。
すかさず射つづける。

どこにこんなに狼がいたのだ。
勝平、誠、翔太の三人は。
九尾神社の境内から群がる人狼を見おろしていた。
ボス狼のよびかけにおうじたのだ。
副谷は仲間を呼び寄せるために。
すぐには勝平を追って来なかったのだ。
教室の地下にのこって血をすすり仲間を呼び寄せていたのだ。

日本狼は絶滅しているはずだ。
外来種なのか?

いやこいつらは悪魔の化身だ。

狼でもない。
ひとの形はしていても人でもない。
外からの侵略なのか?
人狼は不滅なのだろう。
みるまに人の形態に変身する。
いやこの姿のほうがわかりやすい。

なんの変哲もない人形の獣。
人の体をのっとる悪魔。

夜霧のあちこちから凶暴な人狼があらわれた。
人の形態のままのもの。
狼の姿に変身したもの。
猟銃をかまえた。
勝平と誠も猟銃を撃ちだした。

銃声が森の上空にこだました。



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人狼月にほえる イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-10-15 07:36:34 | Weblog
6

「やっぱり……あのときのコゾウか」

声だけがひびいてきた。  
枯れ草の動きが止まっている。 
静かな宵の静寂が破られようとしている。

「おまえの横にいる。マゴだな。名前はなんという」
「翔太だよ」
「ほう、翔太にもおれの声がきこえるのか。勝平よ、あのときのおまえとそっくりだな。ずっとおまえのことは、気になっていた」
「おれを追いかけてきたのは人狼、おまえだったのか」
「副谷軍曹と呼んでもらいたいな」    

人狼が吠えた。
怒号だ。

「なんでなんだ。どうしてだ。今頃になって動きだすとは……食欲を満すだけではあるまい。なにがねらいだ」
「人狼の世界を拡大するためさ」
「どうして、いまになって」
「わからないのか。終戦の日から、六十年と六か月六日……経過したのだ。その日に完全に人狼として復活したのだ」

666。
やはりこの者は悪魔なのだ。

史上まれにみる残虐な犯罪が増えている。
とくに児童にたいする鬼畜にひとしい殺しが起きている。
ここから5キロとは離れていない日光の今市大沢で。
1年生の女児が刺殺される残虐な事件がおきた。
人狼の放つ凶悪な波動に触発されている。
変質者がその波動に同調しているのだ。
鋭利なナイフを人狼の牙がわりにして児童を襲いだしている。

勝平は呆然と副谷をみる。
こいつらやはり悪魔だ。

「それにしても、人間ってやつは、どうしてそんなに早く歳をとる。わしが、うとうとしている間に、すっかりジジイだな……」
「いうな。だからおれには、息子がいる。孫がいる。こうして永遠にいきつづけるのだ」
「人はこうして……命を長らえていくんだよ。ジンロウのオジサン」
「気安く、呼び掛けるな」
「もういちど訊く。なぜおれたち迫害する」
「わかっているはずだ。人狼の姿を見ることのできるあんたらの能力が邪魔なんだ」
「やはり、ただそれだけのことで」

人狼はあの頃から井波と副谷の体をのっとって生きてきたのだ。
いままでも、むかしから、つぎつぎと人の体をうばってきたのだろう。
勝平に理解できるようにいまは副谷の体で現われている。

だがすべて擬態だ。  
いかなる姿にも変容することができる。

悪魔だ。 
こいつらは悪魔の化身だ。
青白く冴えた月。
銀色に粉を人狼の周辺にまきちらしている。

銀色に輝く星々のなかの女王。
青白き月。 
狼は月に吠えている。
遠吠えに呼応して群れてきた。
 


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襲い来る人狼 イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-10-14 16:31:38 | Weblog
5

並子の並は杉並木にちなんでいる。
あのときのおれは、翔太と同じ年だ。

「逃げて。森の奥に逃げるのよ」
 ……という、声だけでしか会っていない伯母。
並子の母の鹿子。
の女たちはあのとき井波少尉と副谷軍曹に惨殺されている。
人狼の集団に蹂躙され。
廃屋となった。
傾いた屋根に月影がおちている。

もちろん、勝平の母。
貞子の生れた場所だ。
並子の母の鹿子が母の姉だと知らされたのは。
ずっとあとになってからだ。

あれは人狼による襲撃の最後の局面だった。
もしこの年まで生きられなかったら。
なにもわからないまま死んでいったにちがいない。

人に変身できる狼がいる。
いや、悪魔はなんにでも姿をかえることができる。
だれのこころのなかにでも、入りこむ。
だれにでも憑依できる。
こわいそんざいなのだ。

そんなことを考えてもみなかった。

「おれたちには、人狼が見える」
「そうだね、ジイチャン」
「邪なこころをもつ悪人に、人狼がダブッテ見えてしまう。ただその能力のために、ここの女の人たちは皆殺しにあった」
「人の世界にとけこんで平和に生きていたのに、終戦のどさくさまぎれて、井波や副谷に皆殺しにされた。かれらが人狼であることを見極めることができるというだけで……」
「くるぞ」
勝平が目には見ない気配を追う。
草むらにむけた視線を移動させていく。

「ジイチャン。あそこだ。セイタカアワダチソウのところ」

なるほど。
アワダチソウの。
秋のあいだは黄色の群落であった。
アワダチソウの枯れ草と。
ススキの穂がさわさわと月影にゆらいでいる。

「アイツは月の光を浴びるとパワーが全開する。このときをアイツはまっていたんだ」

いつのまにか、雷雨はあがっていた。

「わかっているよ。だいじょうぶ」




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勝平、亡き妻をおもう イジメ教師は悪魔に顔/麻屋与志夫

2011-10-14 13:35:06 | Weblog
4

そしていまこの現在の尾形の廃墟は。
――60年前のと。
シンクロニシテイとして――
存在している。
同じ場所に同時に。
ふたつの空間がある。

この国の敗戦からたしかに半世紀以上もたっているのに。
ここにはあの頃のの意識が生きている。
過去と現在が同時存在としていまここにあらわれている。
こので死んでいった女人たちのエネルギーを三人は吸収していた。

「翔太。これが使えるか?」
勝平は孫にボウガンをわたした。
九尾神社の境内には勝平が持参した。
金属の工具箱が置かれていた。
工具ではなく武器がつまっていた。

「うん。日光の野外公園でウッタことがある」
「こんどは、標的はいきものだ。おもいきりよく射撃するのだ」
「非情なきもちになればいいんだね」

〈非情〉などというおとなびたことばを使った。
翔太。勝平は頼もしそうに孫を眺める。

「試射してみろ!!」

翔太は境内の石の柵まで歩いた。
水車の屋根にカラスが止まっている。
きょろきょろとこちらを窺っている。

「みごとだ」

カラスは矢風におどろいた。
飛びだった。

「わざとはずしたな」

勝平がほほえんだ。
ムヤミヤタラ、殺生をしない。
そのやさしい心根がうれいかった。

「だが!? これからの実戦では……」
「わかっているよ」

孫ともども、体のすみずみに力が漲ってくる。
が、この場所が勝平を招いた。
妻の並子が、生まれた村だ。
幼い並子と出会った森のある村落だ。
幼い並子の耳たぶを陽光が透かしていた。
薄いピンクにそまっていた。美しかった。
決戦の場にのぞんで、勝平は亡き妻との出会いをおもっていた。
並子。
きれいだったよ。


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人狼と戦う意味 イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-10-14 04:52:15 | Weblog
3

翔太がおとなになっていくとき。
どんな若者になっていくのだろうか。
今宵のこの戦いが。
翔太の未来の記憶のなかで。
どんなふうにおもいだされるのだろうか。
たのしみだ。

おれはそのころまで、生きているか。
そうあってほしい。
たのしみだ。

九尾の正義の心は永久に生き続けている。
あのときは幼かった並子をのぞいては。
並子がたったひとりの生き残りだった。 
だがいまは、ことごとく体は失われている。
母の貞子も並子も。
もはや――。
この世界に肉体は存在していない。

だが誠がいる。
翔太がこうして。
おれの脇にひかえている。

血脈は。
どこまでも。
とだえることなく。
つづいていく。

勝平は妻の並子や。
母の貞子。
最後のの長であった母の姉。
――鹿子に。
そして。
千年を越すの祖霊に。
語りかけていた。

悪の波動を感じる能力。
悪のはびこるのをゆるせない心。
悪と戦う勇気を持つ。
そうしたものが。
ひとりでも増えるように。
いまここでおれたちは戦うから――。
と話しかけていた。

あの殺戮にどのような意味があり。
どのような形で実施されたのか?
いま、そのナゾはとけかけている。

勝平はあの日。
あの敗戦の8月のある夏の日。
蝉しぐれのはげしかった午後。

の女人が皆殺しにされる場を目撃したのだ。
そしてたったひとりの生き残り。
幼い並子と出会った。
並子は長じて勝平の妻となった。

日光例幣使街道。
青黒く天空にのびる杉並木の梢。
雲間にでたばかりの満月が光っている。
ここには尾形一族のかつては女人だけのがあった。
の入口に道祖神の小さな祠がある。
すっかり苔でおおわれている。
すこし離れて、野辺の地蔵が寂しく並んでいる。
廃墟としてうちすてられて半世紀以上も過ぎた。

しかし今宵はいつもとちがっていた。
勝平、誠、翔太がいた。
尾形の血をひくものが3世代そろった。
それも、九尾族武闘派成尾家の血を優性遺伝している男が3人。
ふたたび、人狼と戦える日が到来するのを。
3世代にわたって嫡子がそろったのは幾世代ぶりであろうか。
いや何世代を経ながら待ち望んだことか。
勝平はなんの躊躇もなく、決闘の場をここに選んだことを。
じぶんでもおどろいていた。
この場所が勝平を呼んだ。



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