田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

玉藻降臨 吸血鬼/浜辺の少女(2) 麻屋与志夫

2008-06-30 06:59:51 | Weblog
6月30日 月曜日

9

殺生石のまわりの噴気が消えた。
硫黄臭のある薄煙りが消えた。
那須火山帯が衰退期にはいったのではないか。
栃木県の観光業界では落胆していた。
殺生石を客寄せの目玉にしていた地元は狼狽していた。
これから、なにを客寄せの目玉にすればいいのだ。
煙が吹き出さないなんて。
そんな殺生な!! 
とオヤジギャグが囁かれていた。
それが……巨大な安山岩をふくめた南北約150メートル、東西50メートルの地熱地帯のガレ場がいま黎明の下で光りをはなっていた。
地底から光りが立ちのぼっていた。
赤い月が傾く。
皓々と那須山麓を照らしていた月が白く西の空に傾く。
朝日が東の空をそめている。
朝焼けの空。
潔斎をすませたすがすがしい山伏姿のひとたちが殺生石の光りの輪にむかって祈祷をしていた。
彼らがふきならすほら貝の響き。
吸血鬼の群れをけちらし隼人は夏子の気配に近寄っていた。
もう、夏子が視野にはいっていいはずだ。
山伏の一人が隼人に近寄ってきた。
「女の人がきませんでしたか」
「われわれが玉藻の怨霊とまちがった女人でしょうか?」
「黒髪を腰のあたりまでのばしています」
「そのかたなら、かなたの異変が起きているほうへ登っていきました。とめたのだが。ふいに現れてふいに立ちさった。夜目にも美しいひとでした」
「ありがとう。夏子……ぼくの恋人です。玉藻の前に会いにいったのです」
「なんと。……玉藻の怨霊と闘いにいったのですか」
「いや話し合いにいったのです……」
「そんな、むちゃな。ことばがつうじる相手じゃない。巨大な負のエネルギーの、怨念のかたまりですよ。千年におよぶ幽閉で地竜さえ動かすことのできる能力を蓄えたものですよ」
山伏が絶句した。
地の底が唸る。地底がさわいでいる
縦揺れがした。大地が裂けた。盛り上がる。
茶臼岳が断続的に噴火している。
火柱が中天をこがしている。
つよい衝撃波が那須の大地に立つ隼人をおそった。
また、溶岩が噴きあがった。
真紅のマグマが中天に火の柱を吹き上げた。
地竜が憤怒の炎を空に吹き上げている。
長すぎた幽閉の時を経ていま解き放たれた玉藻が屈辱の怒りを発している。
千年の怒りをいっきに解き放った。
「もう…だめだぁ」
犬飼山伏の面々が叫ぶ。
顔を赤あかと照らす溶岩をはったと睨みつけてはいるが、祈祷の声もとぎれがちだった。
「平安と平成は音声だけではなく、なにか通底するものがあるのかもしれぬ」
犬飼と名乗った山伏風の行者が炎をみあげながら隼人にいう。
絶望。
絶望の奈落におちこんでしいく顔。
顔。
顔。
顔。
もう……おそい。
封印が破られた。
安倍泰成さまの封印が破られた。
われらには、千年前の陰陽師の力はない。
封印しなおすなぞ、そんな法力はない。
「われら犬飼のものは千年にわたって玉藻の前の封印を守ってきた。土地のものにまじって、土産物屋になったり、旅館の番頭に身をやっしたりしてきた。こんな結果になるとは、先祖さまに死んでから顔を合わせることができない


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暁の戦い 吸血鬼/浜辺の少女(2)  麻屋与志夫

2008-06-29 20:43:04 | Weblog
6月29日 日曜日
「噴火はおれも望んではいなかった。予想もしなかった。おれはただ、吸血鬼族の頂点を極めたかった。おじいちゃんまでが、夏子の味方をしている。夏子が憎い。どうせおれも、一族のやっかいものだ」
「夏子が嘆きますよ。彼女はあなたがはやく再生することを望んでいました。そして、兄妹として話し合えることを望んでいるのです。むだな争いは、やめましょう。いまからでも、間に合います。夏子と話し合ってください。あなたはトウキョウの夜の一族に利用されているのです。彼らが、本気で遷都を考えるわけがないでしょう。いまかれらは、日本の頂点にたっています。その地位を大谷の一族にわたすわけがない」
隼人のことばをさえぎろうとして――。
Qが隼人に迫る。
黒のコートをはためかせ。
頭上からおそいかかってきた。

矢野が携帯を耳に当てたまま叫ぶ。
「八重子さんたちがきます。もうそこまできています」
吸血鬼の群れがざわついた。
『黒髪連合』にひきいられたバイクの群れ。
元『空っ風』のレディスも。
戦列にくわわった。
階段をのぼってくる。
さすが、日本一といわれた鹿沼、宇都宮を中心とした族。
が大同団結しただけのことはある。
そのかず、およそ500。
数のうえからすれば吸血鬼に勝る。
バイクのライトは夜の一族を狩る猟犬の目。
何百という光りが薄闇で交差していた。
彼らは中世の騎士のようにパイプを小脇にかかえ夜の一族の軍列につきすすんだ。
整然と槍ぶすまをかまえる彼らはまさに勇者。
中世の騎士さながらの覇気があった。
「眞吾。眞吾。ひさしぶりにあばれさせてもらうわよ」
「たたくな。パイプ槍をつきさせ」
「わかっているわ。わたしにも、あいつらの正体は見えてきたの」
吸血鬼の群れも黒々と数をますばかりだ。
まるで地底から沸きでるように増殖する。
「隼人さんをたすけるんだ。夏子さんを探してこの先にいる」
「こんどはわたしたちが恩をかえすばんね。キンジも。たすかりそうだわ。わたしここで眞吾と死ねたら本望だからね。野州女の意地をみせてやる」
八重子はうれしかった。
こうして眞吾と行動を共にすることができて、うれしかった。
「また会ったな」
Qがニタッと笑う。
怒るより笑ったほうが凄味がある。
だが、八重子は怯まない。
「さそいにのってきてあげたわよ」
「おまえの血もおいしそうだ。女、覚悟しろ……たっぷり吸ってやる」
「なによ。あんたを殺せば、キンジの回復もほんものになる。そうでしょう。死んでもらいます」


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魔倒丸と麻の鞭  吸血鬼/浜辺の少女(2)  麻屋与志夫

2008-06-29 10:35:01 | Weblog
6月29日 日曜日
大谷の一族もまじっているようだ。
でなかったら……。
これほどの集団にはならない。
「待ち伏せされていたのですね」
「東京の吸血鬼は首都機能が那須にうつされるのには反対している。移転推進派の大谷の夜の一族とは敵対関係にある。それなのに、鹿人が欲に目がくらんで判断をあやまったのだ」
隼人は眞吾に説明する。
「やっと……敵の姿がはっきりとしてきました。闘う理由もできました。わたしもこの下野の、野州の地がすきです。この大地を守ることに命をかけます」
眞吾の野州勅忍の血が騒ぐ。
護国至高の思想が体のすみずみまで脈動する。
眞吾が麻の鞭をふるう。
隼人も剣をぬいた。
肌身離さずもっている唯継の魔倒丸が黎明の薄闇にきらめいた。
隼人の降魔の剣が闇を切り裂く。
そこにはかならず闇の者がいた。
隼人は夏子の存在にむかって群がる夜の一族をなぎたおしながら進む。
夏子。
夏子。
夏子。
鉄パイプで殴りつけても。
ナイフで、切りつけても。
倒せなかった。
異形のものが。
隼人の剣に苦鳴をあげる。
麻の鞭が吸血鬼の腕を切り裂く
眞吾もたたかっていた。
高見と矢野は携帯で八重子たちに現在地を連絡した。
闘いの状況を説明する。
「はやきてくれ。眞吾と隼人だけではあぶなない。敵がおおすぎる」
怒号と絶叫。
「どこまでもわれらが計画の邪魔をする気なのか」
鹿人が群れの中心にいた。
「おまえたちだけできたのか」
鹿人が隼人の前に立ちはだかった。
「この連中と手をくんだのですね」
「玉藻の前の封印を解くには、おれたちだけの憎悪の念ではたりなかった。世間を恨む、テロルには助けがいった」
「なぜ、それほどまでにして権力にこだわるのだ。トウキョウの吸血鬼はこの土地を原野にもどし、溶岩流の瓦礫の原野にもどし、遷都などといったたわごとを夢にしようとしている。あなたたち大谷の一族とは敵対する考えをもっているのですよ」
隼人が鹿人に叫ぶ。
どうか、ぼくと夏子のいうことに耳をかたむけてください。
必死の願いをこめる。
説得できるとは思っていない。
でもいわずにはいられない。








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決戦  吸血鬼/浜辺の少女(2) 麻屋与志夫

2008-06-29 06:49:04 | Weblog
6月29日 日曜日

7

硫黄が青く燃えていた。
あきれるような年月をかけて地表に層を重ねてきた硫黄。
岩肌にこびりついていた硫黄の成分が地熱の上昇にともなって燃えだしていた。
青くただよう硫黄の流れ。
硫黄の燃えたつ青い流れ。
燃えたつ青い炎の川。
赤く燃える溶岩流と青い硫黄の流れが合流する。
まざりあって、じわじわと山麓をめざして流れている。
まさにあらゆるものを溶解する。
地獄の流れだ。
喉と目につきささる煙りの痛み。
紅葉がはじまりかけている。
広大な雑木林。
那須の山々。
もうもうと煙りがふきこんでいる。
まさに炎熱地獄だ。
そうよ。これは地獄の風景だわ。
地獄の青い炎が燃えさかっていた。
溶岩の流れは止まらない。
空の青い闇が明るくなっていた。
夜が明けた。
いや、夜明けにはまだ時間がある。
ふきあがる噴火の赤い炎。
空まで赤く染まっている
……からだ。
那須山系が火山活動期にはいった。
噴火した。
このままでは流れる。
茶臼岳から噴きでた溶岩が低地に流れる。
人家にたっす。
時間がない。
人家に達すれば、膨大な被害がでる。
なんとしても、この流れを住宅地まで流出させてはいけない。
止めなければ。
「どうすれば、いいの」
夏子はひっしで策をねっていた。
「はやく、はやくきて。隼人」

8

隼人も眞吾も殺生石のある方角に走っている。
噴煙が吹き上がっている。
噴火の炎が天を焦がしている。
「このさきに夏子がいる」
那須温泉神社の石の階段。
隼人と眞吾は、かけあが。
「ぼくはさっきから夏子の悲しみの念波をキャッチしている。なにかある。とんでもないトラブルが彼女をまちうけていたのだ。彼女を引き寄せたエネルギーの渦を感じる」   鳥居の影から人がわきでた。
うかびでたのは、黒のロングコートをきたQと吸血鬼の群れ。
黒いロングコートは日除けをかねていることは確かだ。
都会に生息する吸血鬼だ。
直射日光に弱いのだろう。
それにしても、どこにこれだけの吸血鬼がかくれていたのか。
おどろくほどの吸血鬼の群れ。
わきでてきた!!
わきでてきた!!
あとから。
あとから。







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説得 吸血鬼/浜辺の少女(2)  麻屋与志夫

2008-06-28 10:57:41 | Weblog
6月28日 土曜日
高速を走る車を強い衝撃がおそった。
横転や衝突した車を避ける。
高速のいたるところで、事故が同時に多発していた。
「噴火だ。あの方角だと茶臼だ。殺生石だ。玉藻の前の封印が解かれたのだ」
隼人が眞吾に叫ぶ。

6

ついに那須岳の噴火が始まってしまった。
予期できなかった。
いや予感はあった。
なんの変調も見られなかった。
だが、爆発した。
那須岳の噴火だ。
地鳴りがつづいている。
まばゆい光りが那須岳をおおっていた。
茶臼から噴煙が上がってていた。
溶岩が噴き上がっていた。
煙りの中に人影がみえていた。
煙りで目がかすむ。
夏子はきっと光りのなかを見詰めた。
十二単の美女がこちらにあるいてくる。
「あなたは、玉藻さんね?」
「おまえは」
「ラミヤ。大いなる夜、大谷の夜の一族の娘夏子」
「わたしは、おぼえている。わたしは那須一族のものに追われていた。わたしを狩るために犬飼一族のものが猟犬をあつめて参加した。下野の部族でその、玉藻追討、中央の命令にくわわらなかった一族があった。それが大谷の夜のものだと。わたしの九人の配下がいっていた。きのうのことのように覚えている」
「玉藻さん、あなたはだまされている。那須に遷都なんてない。それに人間はもうなん十代もうまれかわってししまっています。あなたの愛する鳥羽院はもうどこにもいません」 那須に首都機能が移転されるという。
それを促進しようとしている。
鹿人に従う大谷の夜の一族の暴挙。
テロ。
怨みをこめて潜んでいた玉藻を刺激した。
呼び覚ました。
召喚した。
玉藻の前の復活。
トウキョウの吸血鬼集団の暗躍。
遷都を拒む。トウキョウの、あくまでも中央集権を守ろうとする夜の一族。
兄の鹿人はトウキョウの夜の部族を利用したつむりで、逆にてだまにとられている。
だまされているのだ。
彼らは、玉藻の前をつかって、この那須の地をもとの荒野にもどし、遷都できないようにしようとしているのだ。
それでこそはじまった茶臼岳の噴火。
夜の底に点在する人家や土産物屋はある。
だが、眺望するかぎり荒れ果てた原野の感がある。
「飛ぶものは雲ばかりなり石の上」
と歌われた殺生石のあるガラ場だ。
時空を超えることのできる女がにらみあっていた。
背後で川に流れこんだ溶岩が蒸気の柱を天空につきあげた。
夜空に稲妻が光る。
「この地を滅ぼすおつもりですか」
夏子が悲痛な声をあげる。
「犬飼一族もともに……」
玉藻が甲高く笑いながら近寄って来る。
「いちどは、すべてを滅ぼし、この那須の地に帝とわたしで……」
「それは、わかっているでしょう。もうないのですよ。都が移ってくるなんてことは夢のまた夢……あなたを召喚するための口述、兄の鹿人が考えだしたトリックなのです…… 那須の地を溶岩で焼きはらう。……そんな途方もないことはやめてください」
夏子は必死で説得していた。
声にならない声で。
念波による会話だった。

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那須岳噴火 吸血鬼/浜辺の少女(2)

2008-06-28 05:29:54 | Weblog
6月28日 土曜日
「わからない。玉藻がわたしを呼んでいる。中国から渡来した、伝説の九尾の狐が。夜な夜な皇帝の血を吸ったという吸血姫の祖が、わたしを呼んでいる。わたしは彼女の悲しみを理解していた気がするのよ」      
隼人にも予感があった。
呪詛。
呪っている。
恨んでいる。
そのあげく。
世のすべて。
破壊してやる。
黒い悪意の波動。
閉じ込められた。
閉じ込められていたもの。
……呼んでいる。
……強烈な……。
粘性のゼリー状をした害意に満ちていた。
そのなかに飲み込まれたら窒息死することまちがいなしだ。
「招かれている」
「ひきよせられていくわ……」
「もどることはできない……かな。いまからだったらまだ間に合うだろう」
「心にもないこといわないで。わたしのこと心配してくれるのはありがたいけど」
「戦うべきときは、戦かわなければならない」
「わかってるジャン」
夏子がわざとおどけた。
緊張をときほごそうとした。
おどけた。
が。
さらなる緊張をうんでしまった。
ふたりはだまった。
ルノーのルーフに秋の雨が降りだした。
時雨が北関東の夜をぬらしていた。
「ダメだ。ハンドルがきかない」
隼人が叫んだ。
「わたしを呼んでいるのよ。わたしがいけばクルマは運転がきくようになるはずよ」
「だめだ。夏子」
隼人がひきとめた。
「やめろ。夏子!!」
夏子は窓から身をのりだした。
妖気にすいこまれていく。
夏子は蝙蝠に変身した。
黒い羽をひろげ、またたくまに、小さな点となる。
「後からきてェ」
夏子の絶叫が隼人の心にひびく。
いままであげたことのない悲鳴。
エコーとなってなんどもひびく。
すさまじい妖気がうすれた。
運転機能が回復した。
「あれはなんだったのですか。夏子さんは……」
眞吾がバイクを隼人の車のわきにつける。
前方の空に赤い炎が噴きあがった。
ドンというすさまじい直下型の地震が車をはね上げた。






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玉藻の前 吸血鬼/浜辺の少女(2)

2008-06-27 13:06:29 | Weblog
6月27日 金曜日
妖気の発現点がカーナビにも映っていた。
赤い不吉な炎。
怪しく揺らいでいる。
だいいちインプットされてもいない映像が映るというのもおかしい。
リアルタイムで赤く炎が燃え上がっていてる。
カーナビをとおして、隼人は幻覚を見ている。
人には見えない。
それが見えている。
その、なにか……を見てしまう。
人であって人ではない夏子。
彼女と行動をともにしている。
隼人。彼も人を越えた能力を発揮している。
不可視の炎が見える。
あまりいい心地のものではない。不安がある。
フロントの向こうに那須野が原が広がる。
なにが起きようとしているのか。
なにが起きているのか。
なにがぼくらを招いているのか。
妖気がたゆたゆとたなびいている。
隼人の視線の先で、妖気が迫ってくる。
揺らぎ。
ただよい。
ふくらみ。
縮み。
燃立つほむらは強くなるばかりだ。
「見えた。あそこだ」
「わたしにも見えた」
どこか場所は特定できない。
部屋だ。
それも小さな、部屋とはいえないようだ。
地下の石室。
ビジョンがふたりの頭に同時になだれこんできた。
「隼人は,九尾の狐の伝説を知っているかしら?」
「殺生石の話しですね。むかし、殷の国王紂が、妃の妲己を愛して酒色に溺れ、国をほろぼした。周の幽王。天笠は摩掲陀国の班足王。と誑かし、あげくのはてに吉備真備が唐からかえるさいにその船にひそみ隠れてわが国にわたり玉藻の前となり帝をまどわした。あの傾国の美女のはなしでしょう」
「すごい記憶力ね。でも……それは、社会科の教科書で学んだのよね。でなかったら、小説とか、漫画とか……」
「バレタ……]
隼人がいたずらっぽく笑う。
「妲己ちゃんのことは、藤崎竜の『封神演義』でベンキョウシマシター」
「時の鳥羽院が毎夜衰弱した。原因は玉藻の前だ。陰陽師が封じ込めた。わたしが伝えきいた話しはすこしちがうのよね……」
どこだ。どこだ。
カーナビに古典的な美貌の女性が、ふいにうかびあがる。
ものめずらしそうに、あたりを見回している。
夏子に似ている。
輪郭しかわからない。
背景がない。
髪が見える。
顔立ちがわかる。
美しい髪が肩にながれている。
はっきりと見える。
背景がうつらない。
どこに、いるのかわからない。
隼人と夏子がめざす那須の方角だ。
ふたりの方向感覚に誤りはない。
美女は悲しんでいる。
ハイウエイをはしる車の中でとらえた。
かすかな低周波の震えを。
いや、車の中の夏子と隼人だからこそかんじられる地鳴りをともなった微動だ。
悪意の波動だ。 
「ゆれている。那須火山帯がうごきだした。女の悲しみにシンクロして、火山帯が戦慄している」
「殺生石からふきだしていた噴煙がとだえたと野州新聞にでていたわね」
「那須火山帯にはもう噴火をおこすエネルギーが枯れたのだろう、と地震研究所のコメントがのっいた」
「それは、ちがうのかも……。地下のマグマの流れが変わったのかも知れないわ」
「九尾の狐。玉藻の前の霊がよみがえるのか」





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殺生石 吸血鬼/浜辺の少女(2)

2008-06-26 14:06:11 | Weblog
6月26日 木曜日
バイクの音もたからかにかれらは鹿沼のインターにむかった。
いまは伝説となっている。
レデイス『からっ風』の元リーダー、八重子がよみがえったのだ。
八重子の周囲はレデイスが固め、興奮のため泣いている。
はやくも鹿沼インターをでた。
百台ちかいバイクが加わった。
宇都宮の駅前で巡幸していたグループだ。
「八重子さん、おひさしぶりス」
「声かけてくれて、ありがとうス」
「八重子さんたのしませてもらいますよ」
「なにがおきてもひるまないで」
「もちろん、命は八重子さんにあずけます」
「八重子さんとごいっしょでしきるなんて夢みたいです」
「わたしたちもよ」
話しでしかきいていなかった八重子の勇姿をみてみんなが奮いたっていた。
「わたしのカレがさきにいってるの」
「眞吾さんですね」
「わたしカレとともに闘う。敵は、敵はヒトではないのよ」
「ワタシタチダッテ、ヒトデナシとののしられていますから」
この場に臨んでジーョクがとびたした。
バイクの集団はスピードをあげた。
眞吾、しんご、シンゴ。わたしがいくまで戦いをはじめないで。シンゴ。しんご。眞吾。愛している。愛している。これからはどんなことがあってもいつもいっしょにいよう。いつも、どんなことがあっても、隼人さんと夏子さんみたいに、いつもいっしょにいる。離れているのは……いやだからね。
離れない。離れない。離れない。
愛してる。
愛してる。
愛してる。
愛してる。死ぬまでいっしだよ。
愛してるからね。
夏子さん、隼人さん。
まだ仕掛けなで……わたしたちがいくまで、オイシイとことっておいてぇ。

夜の空に赤い月がでている。
無幻斉と鹿未来。
直下型の地震に誘われて道場の外にでていた。
「これだったのですね」
「やはり玉藻の前の封印が解けかかっている。はやくいって封印しなおさないとたいへんなことになる」
「もうの遅いかも知れません。わたしがかんじていた不吉な予感はこれだったようです。わたしが棺の中の長い眠りの中で不安に耐えきれず夏子に呼びかけたのは、このときのあることを予知してのことだった……まちがいないわ。……隼人さんと夏子があぶない……」
「封印されているものの巨大さがわかっていない。ふたりだけでは、むりかもしれないな」
「殺生石の噴煙がとだえたから、那須火山帯の活動は休眠状態にはいったという、県のあやまりの情報にまどわされてはいけなかったのだ。那須岳火山防災マップをくばった気象庁の判断があたってしまったな。水蒸気噴火は約百年に一度の割合、溶岩流などが伴うマグマ噴火は数千年に一度。その一度が巡ってきたことになる」
無幻斉はレンターカーを呼ばせた。
「小型バスを三台だ。通いの道場生にも非常招集をかける。そして吸血鬼との戦にそなえた武器をつみこむのだ」
「押忍」
住込みの道場生があわただしく準備にかかった。
ふつうの剣道場ではなかった。
破邪の剣。
死可沼流を修行するのは。
ほとんど親戚縁者同族の子弟だ。
結束はかたい。
すでに吸血鬼との戦いを経験している。
那須山麓にむかって出陣する。

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「空っ風」復活 吸血鬼/浜辺の少女

2008-06-25 16:50:56 | Weblog
6月25日 水曜日
眞吾たちが危険だ。
吸血鬼の群れがまちうけている。
そのまっただなかにつっこもうとしている。
まず初めにかけた。眞吾には通じない。
圏外の表示がでてしまう。
八重子は携帯をうちまくった。
『からっ風』のOGにかけまくった。
登録してある全員に連絡した。
「あんたらのダチにも、みんな先のとがった戦闘用のパイプ持参の招集かけて。連絡できるかぎりのダチに、緊急出動をかけてよ。これは戦争だからね」
自治医大の広い駐車場に『黒髪連合』の精鋭は治療中のものをのこして全員のこっていた。黒く浮かびあがるかれらのバイクのかなたに茫漠とした関東平野がひろがっていた。
遠く国道4号線を車両が光茫をひいて移動していた。
さらに遥か、彼らが戦った石橋の雑木林がみえていた。
眞吾の親戚のもの、ふいに現れてわたしたちを助けてくれた皐隼人と夏子さん……こんどはわたしたちが恩をかえさなければ。
義理が廃れれば、この世は闇よ。
闇につよいは、吸血鬼。
だけどわたしも野州の女。
鬼をたおして、生きていく。
演歌もどきのメロデーが頭にひびく。
八重子はごきげんだ。
八重子は那須山麓のほうに目を転じた。
夜空があかい。小雨をもたらしている雲間に月が赤い。
なにか不吉なことが起きそうな空の色だ。
赤すぎる月だ。
バンと縦にゆれた。
地鳴りがする。
縦揺れ。
地面がつきあがるような地震だ。
揺れは一度だけでおさまった。
地鳴りはつづく。
なにか巨大な獣が、地下で呻いているような薄気味悪いひびき。
いや、竜が目覚めたのかもしれない。
この、関東八州の地下には竜がいる。
それがときどきあばれるのだ。
とジッチャマに囲炉裏ばたで聞いたことがある。
遥か北の大地から縦断してきている那須火山帯で巨大な地竜が蠢きだしたのだ。
北海道は利尻島に端を発している。
東北をとおり那須岳から浅間へ至る。
那須火山帯。
眞吾には伴走をとめられた。
なすこともなく駐車場にたむろしていた。
金次たち仲間のようすを心配していたものたち。
急に活気づいた。
リーゼント。
長ラン。
特攻服
眉をほそくそり……。
80年代最後のつっぱりのイキをのこしている。
全国でもめずらしい。
ここ宇都宮の暴走族。
『黒髪連合』が、携帯をかけまくる。






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胸騒ぎ 吸血鬼/浜辺の少女(2)

2008-06-24 22:29:03 | Weblog
6月24日 火曜日
口から鞭のように伸びた舌で床にながれた血も吸い込んでいる。
吸血行為を。
たのしんでいる。
ナースは恐怖にたえられず、失神していた。
吸血鬼は殺戮をたのしんでいるのだ。
「おれのオヤツをどこにやった? おれの、餌をどこにかくした」
「それならここよ。あんたのあいてはわたしよ。なに血まよっているの。わたしが見えない」
「おまえ、そこにいたのか。キンジとかいうボーヤとなるほどおなじ血の匂いがする。姉弟だな。ボーヤはどこだ。おまえらは血は勇ましい。新鮮だ。パックの血には飽きた。おまえも弟のように生きがいい。おいしそうだ。純粋だからおいしいのだ。おれ好みだ」
「わたしがあいてよ。吸血鬼さん」
八重子はおそれていなかった。
眞吾に見えて、わたしに見えなかったものの実体。
いまはっきりと視認できた。
眞吾との再会が彼への愛情をさらに深めた。
それで異界のものをみる可視能力がたかまったのだ。
うれしかった。
もう離れない。
これからは、いつも共に闘う。
夏子さんと隼人さんのように。
眞吾と生死を共にする覚悟はできていた。
八重子の感覚がワンランク向上したのだ。
人の目でははっきりととらえることができなくても、心の目には見える。
目に見えないものの実体を見透かすことのできる眼力が備わった。       
そして弟を捕食した。
弟を餌としか見ていなかったもの。
殺してやる。弟をひどいめにあわせたやつ。ゆるせない。
仲間を殺戮したやつら。ゆるせない。
怒りは、憎悪は吸血鬼に向かう。
そうだ。
敵は王子の奴らではない。
吸血鬼だ。吸血鬼だったのだ。
敵が吸血鬼だから、眞吾はわたしをおいていったのだ。
「光りをあてて。こいつは光りによわいはずよ」
可働できるかぎりの光源が吸血鬼にむけられた。
医師や看護婦、ベットの患者にはこのものはどんな形態で映っているのか。
わからない。
しかし、医療チームの全員が、さすが血は見慣れているので動揺した気配もなく、臨戦体制をとった。
騒ぎをききつけ看護師がなんにんか飛び込んできた。
医師がおおぶりのメスをかまえてきりつけた。
ナイフできった。
バールでなぐった。
でも傷つかなかった。
爬虫類の分厚いごつごつ凹凸した膚。
いまや興奮しているためか埋没鱗があらわれていた。
メスがくいこんだ。
鱗がとびちった。
緑色の血がふきだした。
さすがにこの色は視覚でとらえることができるらしい。
「このひと緑の血をながしている」
「なんなんだ、これは特写か、トリックか」
医師は貧乳のだが魅力的微笑の看護婦を見た。看護婦は巨根とうわさの医師を見た。
八重子は点滴のポールを吸血鬼につきたてた。
手元が狂い太腿にささった。
「あのままトウキョウにもどると思ったのか、おろかもの。南に去るとみせて、いまごろは北は、那須山麓におれたちの仲間が集合している」
「だましたのね」
「麻の鞭を振る男と、破邪の剣をもつもの、そしてあのバンビーノあいてではぶがわるかったからな。だがあいつらはは吸血鬼の群れのなかにいまごろつつこんでいる。みな殺しだ」
「逃げる気」
吸血鬼Qのからだが霧のように消えていく。目だけが最後まで赤光をはなっていた。
「せっかくきたのに、逃げる気……さあ餌はここにいるは、弟の敵をうってあげる。さあおそってきて」
「いきがけに、食事していこうとおもったが、まあ……これで満腹とするか」
声だけがひびいてきた。
「早苗さん、金次のことたのむね」
八重子の胸騒ぎが現実のものとなろうとしていた。








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