田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

1 天気輪//後生車

2022-11-25 08:39:09 | 超短編小説
                                          
超短編小説 第2部

「書くことがなかったら、おれたちのことを書けばよい」stand by me より。

1天気輪
ぼくらは十二歳だった。
その年の夏戦争がおわっていて。
十二歳だったぼくは、すでに中津博君と友だちになっていた。
戦争のはじまった年から彼を知っていた。
父親が工事現場の事故で重傷という知らせをうけた彼が校門から走り去る後ろ姿が、一番古い彼との思い出だ。
小学校の二年生のときだったと記憶している。
戦争が終わった年にはぼくらは小学校の最上級生になっていた。
戦争がおわってよかったことがぼくには一つだけあった。
体操の時間がなくなった。
いや、時間はあったのだが鉄棒はもちろん教練とよんでいた剣道や空手や竹やりで米兵を刺し殺す訓練はしなくなっていた。
とくに、鉄棒による体力強化の時間がまったくなくなったのが噓のようだった。
ぼくは虚弱だったので懸垂すらできなかった。
ぶらんと鉄棒にぶらさがったままのぼくを「マグロ」と担任のH先生が呼んだ。
魚屋にぶらさがっているマグロのようだ。
そのあだ名はぼくを生涯苦しめ、この歳になるまで、いまでもぼくをマグロとよぶやつがいる。
まあそのことは、あとでゆっくり書くことにする。
体操のH先生は卑屈なほどおとなしくなっていた。
なにもしないで、ぼくらを遊ばせておいた。
ボンヤリと青空を見上げていた。
ぼくはなにか、拘束から解放されたような気がした。
『リンゴの唄が』はやりだした。
そうした暗い学生生活の中でぼくらは敗戦を迎え、中津君とは進路がちがうのでわかれなければならないという不安にかられ、より一層遊び時間を増やしていった。
中津君の家の裏に千手観音堂がある。
土地の人は「千手さん、千手さん」と呼んでいる。
ヒロチャンは小柄だが全身筋肉でできているようでたくましかった。
ケンかのときはその筋肉がすばらしい効力を発揮した。
一度殴られると、敵はもう戦力を失って茫然としてしまう。
ぼくは彼をアラクマサンと敬意をこめてそう呼んでいた。
アラクマサンというのは横山隆一が朝日新聞に掲載していた『フクチャン』にでてくる柔道の強い家庭教師だ。
観音堂の横に『天気輪』があった。
六尺ほどのコンクリート柱があった。
その上部に正方形の穴がほられていた。
そのなかに鉄の軸があり丸い輪がはめられていた。
それを下に向って回す。
「あした天気になれ」といいながら回した。
ところが、どうかすると輪が止まった瞬間、逆回転することがある。
上に向って回る。
せっかく天気になってくるようにねがったのに、明日は雨ということになりぼくらはがっかりするのだった。
だって、雨が降ればここ、千手堂にはふたりで遊びにこられない。
物資が不足していて、傘など、どこの家にもなかった。
あるとき、ヒロチャンが回した金輪が逆回転した。
「大丈夫」あすも晴れるよ。
大丈夫、明日も晴れるよといってから、ぼくはそのときわかった。
ひらめいたのだ。
ぼくの前に、ヒロチャンの背中があった。
すごく寂しそうだった。
ぼくの眼にはそう映った。
ヒロチャンは天気輪を見ているが、天気輪としては見てはいないのかもしれない。
なにかほかのことをねがっている。
明日晴れますように。いやちがう。
ヒロチャンは後生車として見ているのだ。
穴のおくの死者の国いる父を見ているのだ。
暗い穴は無限につながりその奥に人の後生がみられるのだ。
この穴は黄泉の国につながっている。
そして、そこには死んだ人たちがいる。
彼はそこに死んだ父を見ている。
父と会っている。
なぜか、そう覚った。
彼が、あまりに悲しそうな顔をしていたからかもしれない。
『あなたが闇を覗くとき、闇もあなたを覗いている』このニーチェの言葉をぼくが知るのはずっとあとになってからだ。
ぼくは、彼をなんといって慰めてやればいいのか、わからなかった。
「正一ね。事故で急死した人や、自殺した人はこの世に未練がのこって後生が悪いの。あの塔はその人たちの冥福を祈るためにある後生車なんのよ」
中津さんには親切にしてあげなさい。母の言葉がよみがえっていた。
ぼくの眼の前では、ヒロチャンの肩がふるえていた。
彼をなんといつて慰めてやればいいのわからなかった。
それからというもの、ぼくは後生車の前には、ふたりで近寄らないようにした。
仁王門をくぐったところにある大きなイチョウの木の葉が、黄葉した葉を散らしていた。
そうした季節だった。

『十二歳だったあの時のような友だちは、それからできなかった。もう二度と……』stand by me より。

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悪霊に憑かれた。ペンをもつ死出の旅路の杖として 麻屋与志夫

2022-11-18 08:27:45 | 俳句
11月19日 土曜日

紅をさす死化粧までおのが手で
 
ペンをもつ死出の旅路の杖として

悪霊に憑かれた。昨日は奇怪なことばかり、死に直面するようなことが起きた。
黒本会計事務所の前でたたずんでいた。
黒服の男が寄って来た。
「だいじょうぶですか、送ってあげますか」もちろん、ことわった。
ていねいに、お礼をいいことわっが、なにをいわれたのかわからない。
男は事務所の駐車場にかえっていった。
タクシーの運転手らしかった。
それを確かめずに喜楽食堂の前を左折した。
さらに歩く。
天神町の信号機のある横断歩道。
緑だ。
行く手には交通整理のひとが三人もいた。
歩道工事をしているからだ。
キューと急停車の音。
わたしにすれすれで車が止まっている。
どうして歩行者が渡っているのに車が接近してくるのだ。
危うくひかれるところだった。
信号のない横断歩道で車が止まる率。
0.9をかってマークして全国最下位だった。
交通整理の三人はわたしに背中をむけている。
いまの、急停車音が聞こえないはずはない。
それから妻とベニマル。
わたしは、エイトインコーナーで待っことにした。
隣にすわっていた老婆に「ダイジョブケ」とやさしく声をかけられた。
マツキヨでもレジのわきの椅子を借りていつものようにすわらせてもらった。
女子店員が走って来た。
「気分でもわるいのですか。だいじょぶですか」
一度ならず、二度三度と優しい言葉がつづくとなにか不気味になる。
よほど影がうすかったのか。
あそこで、車にひかれる運命にあったのか? 
しばらくの間は、外出はできない。
不気味なことがつづきすぎる。
禊をかねて、俳句。
上は妻の心構えである。




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もみもみし毛布けば立つ夜寒かな  麻屋与志夫

2022-11-18 08:25:13 | 俳句
2022、11、18

もみもみし毛布けば立つ夜寒かな

もみもみし毛布けば立つ猫の夜

ルナは冬になっても妻の寝床にはもぐりこまない。
毛布をもみももみしている。
はやくわかれてしまった母猫のオッパイを想って妻の足元に眠っている。
寒いだろうと毛布を折ってかぶせてやる。
どんな夢を見ているのだろうか。



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冬鴉鷹に迫りて高くとぶ   麻屋与志夫

2022-11-17 09:43:35 | 俳句
11月17日 木曜日
内視鏡告知おそれて寒きたる

告知され寒さにふるえ寒椿

蔦しげるこの家に住みしひといずこ

初恋のひとをたずねて蔦の家

廃屋に住みにしひとや年の暮れ

哀憐の果ては廃屋星月夜

靴重し卒寿の道は落ち葉道

冬鴉鷹に迫りて高くとぶ

寒鴉鷹をめざして高く飛ぶ

烏とぶ鷹をめざして高く飛ぶ

作意。廊下から遥かに古賀志山を望む。冬空高く鷹がとんでいる。カラスがまねて鷹のように飛翔している。追いつけば食い殺されるのに。そんなことは知らないから必死で追いかけている。どうせカラスは鷹にはなれないのに。自嘲。

藤蔓のもつれてなおも空めざす


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ホテルに宿泊する夢をみた  麻屋与志夫

2022-11-13 13:34:02 | 夢見るGGの夢占い
11月13日
夢見るGGの夢占い31
●ホテルに宿泊する夢をみた。フロントで100番の部屋番号のキーを渡された。わたしの隣では若い男が101番のキーを渡されている。チラッと見るとそれまでロビイにいたういういしい女性がいつのまにか、彼によりそっている。

●カチッと解錠するかすかな音を残してふたりはドアの向こう側に消えた。わたしは隣の部屋だ。キーを差し込んだが開かない。よく見ると真鍮の表面のナンバーがちがう。

●ソレカラガタイヘンダッタ。ひろい廊下を、無機質なドアを交互に確かめながら、歩いた。夜遅く無人の廊下がつづく。

●結局、夜っぴてホテルの廊下をさまよった。

●チェックアウトしようと、フロントにいくと大騒ぎ。101の部屋で死体でお客が発見された。ひとりで宿泊した若い男性だった。

●あの女はこの世のものではなかっか。

●わたしは彼女は魔女だったのではないかと推察した。こちらは老いぼれ爺なので魔女にも相手にされないのだ。

●夢判断はみなさんで考えてください。

●夢判断では、ホテルに泊まる夢は――現実をリセットしたいという願望のあらわれらしいですね。


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思いで小路を今日も散歩 麻屋与志夫

2022-11-11 10:36:28 | ブログ
11月11日 金曜日
●またしても蜂谷柿を追加購入したくなった妻のお供で「思い出の小路」を歩くことになったのはよろこばしいことなのだが、あいかわらず足が苦痛を訴えて、彼女の歩みについていけない。

●長年連れ添った妻なのだから、いまさら体裁をとりつくろう必要はない「待ってくれ、いますこしゆっくり歩いてくれ」と彼女にせがみ、懇願すればいいのだが、あまりたびたびおなじ言葉を彼女になげかけるのはやはり遠慮したい。

●「わたしは早く歩かないと、おなかの贅肉をおとせないのよ」と冷淡な口調でいわれることを危惧してそれができない。

●はじめて彼女と手をつなぎ宇都宮の「二荒さん」の前から作新学院のある三ノ沢まで、焼けるような戦慄を体感しながら歩いた、記憶の奥底に重なり合っている一片を白昼の元に引き出して、うすら寒い幻惑感に現在さいなまれているじぶんを労わることにしている。

●妻にたいしてなにか不満がある時には、はじめて彼女に声をかけた時の、ときめきに身をゆだねることにしている。65年も前のことですよ。その間、波乱万丈とまではいいきれないが、いくたの困難をくぐりぬけて、わたしと妻がある。いちども喧嘩したことがない。それは人間だからいい争いくらいはしてきたが――。

●足元のこげ茶色の落ち葉の路がつき、今宮神社の鳥居のあたりに、県警の車が数台止まっていて警官がおおぜい集まっている。何ごとかと声をかけるが返事は誰からももどってこない。

●妻は歩道のついた大通りを遥か彼方、中央小学校のすっかり黄葉した銀杏の大木のかげにかくれるところだった。



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思い出の小道  麻屋与志夫

2022-11-10 09:57:12 | ブログ
11月10日 木曜日
思い出の小路
●ひとは誰しも思い出の小路がある。
わたしの場合、ふるさと今宮神社の東側の小道だ。
西側はいま建築がつづいている市役所になっている。

●この東側の細く車も入ってこられない、もじどおり蛇行する日のあたらない小道がいまもかわらずのこっていることは奇跡にちかい。
なんでもかんでも壊して新しくするのが好きなこの街にしてはめずらしいことだ。

●昨日、わたしは妻と「まちの駅 新鹿沼宿」に干し柿にする蜂谷柿を買いにこの道を歩いてとぼとぼとでかけた。とぼとぼというのは、寒くなってきたので、宿痾ともいうべき足の痛みにたえきれず、常に前向きに歩いてきたが、その歩みは遅々たるものになっている。
立ち止まっては、もうおわりだ。
歩きつづけている。
いたわりながら歩く足元で赤さび色の枯れ葉がかさかさと寂しそうな音をたてている。
境内の北の隅にあったケヤキの古木は切り倒されてしばらく経つが、こんどは、根こそぎにされて石の柵が建てられた。
境内の樹木がすくなくなった。
見上げる八重桜の枝がバッサリと切られ、その切り口から樹液がふきだしている。
俳句になりそうな小景なのだが、わたしにはその技がない。

●日の鷹がとぶ骨片となるまで飛ぶ 
樹氷林男追うには呼吸足りぬ  寺田京子
この凄まじい句を目にしては下手気な句作はでない。
永田耕衣の句を読んで以来の衝撃だった。
俳句でこんなことを表現できるのか。
感動した。
そんなことを、最近俳句をつくりだした妻と話しながら歩いた。
この思い出の小道にまたあたらしい挿話がくわえられた。



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体が縮む

2022-11-08 08:46:49 | ブログ
11月8日 火曜日
体が縮む
●体が縮む。といっても「ミクロの決死隊」の話ではない。
寒くなってくると、冬着に衣替え。

●驚く。セーターの裾が長すぎる。胴回りもやせ細ってきているので、底辺が尾てい骨までとどく。これは、よろこばしいことだ。ジャンバーからはみ出している。いまの、スソダシルック。流行にかなっているようでうれしい。

●「あら、あのオジイチャンしゃれてるネ」それはない、ナイ。道行く女性は路傍の石を
見るような視線をなげかけてくる。

●ズボンの裾もおりかえさないと、床とキスしてしまう。ベルトの穴だって今年も一つ減じている。85キロあった体重もいまは、65キロ。

●この冬は、脚がしびれて膝がガクガクして歩けなくなるようなことが起きないといいな。
それこそ、身も心も萎えて、デスぺレート(desperate)な気分になってしまう。

●心だけは気宇壮大。これからなにか賞をいただき、プロとしてカムバックを果たしたい。どなたか、敬老精神を発揮して、人生100年時代のホープとして、手をさしのべてくれないかな。それが、白魚の手であったら、なおうれしい。

●体はシュリンク(Shrink)。また一まわり縮んでいるが――GGの希望と期待は膨らむばかりだ。



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小説は晴。俳句は曇天。 麻屋与志夫

2022-11-06 13:10:06 | ブログ
11月6日 日曜日
●朝起きて、裏の縁側に立つ。ここから古賀志山が見えれば今日は一日晴。

●このところ、予期していたように、俳句がまったくうかばない。こういうことは、小説を書くときにもある。簡単に考えればスランプだ。

●俳句でも小説でも鑑賞する能力がついてくると自作がつまらなく感じる。

●観賞する力と自分の作品が一致しているときには、どんどん筆が進む。こうしたことを繰り返す波がなんども訪れる。そのつど、悩み、苦労して成長していく。

●悩んでは書き、書いては悲嘆にくれる。じぶんの才能のなさに、もう作品をかくのはやめようかとなんど思ったことか。

●俳句の方はさておき、小説の方はもっか好調。

●いつも結末で息切れしてしまい、上手くいかない。終わり良ければ総て良し。とはいかないのがいままでの作品だ。このところ、じぶんでも、小説技巧がだいぶ身についてきたと思う。歳を考えたらもう技巧的なことでは、あまり悩まないことにした。内容的なことで悩む。これは死ぬまでつづくだろう。

●俳句のほうは、そうはいかない。もっか、猛勉強中。はやく初心者の域を脱したいものだ。

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