田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

ミイマ目覚める/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-31 23:26:25 | Weblog
4

「ミイマ!!」
 翔子と純がかけつけた。
 そのあとから百子。
「ぶじでしたか」
 GGが百子にうなずく。
「ミイマ、どうやってコウモリをおいはらつたの」
 と、翔子。それはGGもきこうとしていたところだ。
「なにか呪文をとなえていたみたい? ……だったわ」
 という玲加に「あら、隣にいたのにきこえなかったの」
 ミイマはみんなにふりかえった。
「アンタラの嫌いな匂い。忌避スプレーを吹きかけるわよ」
「それだけ?」
美少女戦士たちがあきれる異口同音。
「スーパーコウモリジェット。イカリ消毒株式会社の忌避剤はよくきくわよ……」
「それだけ??」
「はい。それだけよ」
「なんだ、ウモリ避けのオマジナイでもあるとおもったのに??? つまんないの」
 隣にいたので玲加だけは、そんな簡単な撃退法ではなかつたことを知っていた。
 エネルギーを使い果たしたのか、ミイマがグラッと揺れた。めだたないように支えた。
 そのまま玲加はミイマを隣の部屋に連れ込んだ。ソファにミイマを横たえた。
「しつかり。しつかりして、ミイマ。無茶したからです。オバサマ、しっかりして」




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野口恭一郎氏を悼む/麻屋与志夫

2010-10-30 21:56:19 | Weblog
10月30日 土曜日

●おどろいた。こんなこともあるのだ。昨日ブログで作者注として、むかしの朋によびかけた。ところが……、今少し前、たまたまネットサーフィンをしていて知った。ネットにも載っていることだから実名をあかしてもいいかな。野口恭一郎が16日に死亡していた。竹書房の創設者。名誉会長だった。彼とはシナリオ研究所の四期生とし共に学んだ。

●神田の喫茶店で板坂と三人でココアを飲んだ。あの熱く香ばしいココアの味はいまでもわすれません。あなたにごちそうになったのでしたよね。

●いちど同窓会をやりたかったですね。元気なあなたに会いたかった。

●ご冥福をおいのりします。

●わたしはいますこしこの娑婆で小説を書きつづけます。わたしの精進を見守っていてください。

●こんど会うときは、おれもお陰で作家になったよ、と言いたいものです。

●それまでは、さようなら。 (木村正一)


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生涯現役/麻屋与志夫

2010-10-30 16:22:09 | Weblog
10月30日 土曜日

●朝から雨が降っている。
午後には、初冬にはめずらしく台風が来るとのことだ。

●昨夜は「さすらいの塾講師」を2時ごろアップした。
思うように書けた。
これで二階の寝室に上って……寝ようかな……とホリゴタツから立ちあがった。
足がカクっとした。
エコノミー症候群だ。
何年か前に罹ったのでおぼえがある。
金曜日で塾の時間がなかった。
十時間ほど座っていたことになる。
歩きだすのが怖くなりそのままホリゴタツでよこになった。
ダブル座布団くらいのおおきさの、カミサン特製の布団が敷いてある。
そのままうとうととした。

●カラスウリの精が夢に出てきた。
「わたしは小野小町なのよ」といっている。
カラスウリが――艶やかに赤く光っていたのに急速に色褪せた。
凋んでしまった。その移ろいいくカラスウリを毎日、悲しく眺めていた。
それから先日「卒塔婆小町」をしばらくぶりで読んだためだろう。
小町の老残、老醜が書かれている。
美しいものが凋落していくのは悲しい。

   

   

●小説を書いていて心配なのは、わたしにはもう若さがないということだ。
実年齢はともかく、小説に若さが、ツヤがなくなるのが怖い。
背筋が粟立つような恐怖。
体がおののくような戦慄を伴っている。
小説はあくまで青春の産物である、とわたしがおもっているからだろう。
ところがこちらは賞味期限切れの作家だ。
いろいろ事情があって、25歳以降、小説を書くことにうちこめなかった。
せっかく雑誌デビュは果たしていたのにと悔やまれる。

●三年ほど前に、塾生が激減した。
これでは老後の生活がヤバイということで、浅ましくもふたたび原稿料がほしくった。三度目のカムバックをめざしてブログで小説を書きだして、現在にいたっているわけである。だから文学年齢は28歳だと自称している。

●同じ志で芸術を選んだ朋は、作家になっている。
文学賞の審査員となり、鬼籍にはいっている仲間もいる。
出版社の社長になっている友だちもいる。
いちばんさきにモノになった者が、あとからくる仲間をひっぱる、助ける。
と……青春のひとコマのなかで約束した仲間だ。
でもいまさらおめおめと……恥ずかしくてそんなことはできない。
「助けて」と連絡はできない。
だいいち、これが木村正一の麻屋与志夫の作品だ、と胸をはって読んでもらえる傑作はまだ書けていない。もし書くことができれば、恩情にすがりたい。

●塾生が増えないかな。
そんな大袈裟なことはかんがえていない。
町内と市の行政から意地悪されていたので国民年金には加入していない。
無収入だ。だから塾の収入がなったら生きていけない。
でも、ものは考えようで、塾で毎晩黒板の前に立っているので心は若いのだ。
孫のような塾生が可愛くてしかたがない。
これであとそうだな……塾生が10人くらい増えれば赤字からぬけだすことができるのだ。月末になるとなけなしの貯金をおろして支払いにあてている。悲しいことだ。

●そんなことをおもって……ウトウトしていた。
朝になっていた。
キッチンからコーヒーの匂いがしてきた。

●朝から雨が降っている。午後には嵐?

●生涯現役。
生涯現役とツブヤキながら、またわが愛するPCのハルちゃんと向かい合った。



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スパークする髪/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-30 01:55:15 | Weblog
3

GGもミイマのよこに並んだ。
目の前ではコウモリが折り重なるようにガラスにへばりついている。
防音効果のあるガラス壁のわけなのに、きこえる。
いや、いままでは、きこえなかった。
確かにきこえなかったのに……。
心がどうかしてしまったのだ。
キーンという音まで耳の奥にひびいてくる。
機械の、たとえばドリルの回転音。
頭蓋骨に穴でも穿たれるような恐怖の音だ。
ガラスに蜘蛛の巣状の微細なヒビが走る。
ヒビは、ツッッと伸びる。
このままではガラス壁が、ビルの外壁がやぶられる。

「みんな、耳をふさいで」

GGもはじめてきくミイマの厳しい声だった。
いわれなくても、モニタールームのスタッフは耳をおさえていた。
くるしんでいた。ムンクの叫びのような表情。
「わたしはダイジョウブだから」
玲加がGGにかわってミイマのとなりの位置に立つ。

「このままでは……やぶられるわ」
玲加がつぶやく。
このとき、ミイマがガラスに額をよせた。
曇りでも拭っているようだ。
ワイパーのように何度かガラスを手の平で拭いている。
そして、両手をひろげてガラスにあてた。
ミイマの長い髪の毛がパッとひろがった。
花王のアジェンス。
東洋美髪処方で、芯からしなやかな髪へ。
というCMさながら。
美しい髪がガラス一面にひろがった。

髪が――青白くスパーク。

室内の照明が切れる。

闇のなかで無数の髪の毛が光っている。

「ミイマ」
GGが声をかけて走り寄る。
照明が元にもどった。
ガラス壁も……何事もなかったようにそこに在る。
コウモリは消えていた。
あれほどの数のコウモリが消えた!!!

「ミイマ。いまのは……」
「あなた、初めてのデートの時、打ち明けたでしょう」
「……?????……」
「しばらく使わなかったので……疲れたわ」
ミイマはGGの腕に支えられていた。
「わたしはマインドバンパイアだって……話したわよね」
そこまでいうと、ぐったりとしてしまった。
「わたしがなんとかする」
玲加がミイマの額に額を合わせた。
こんどは玲加の体が青白く光輝を放った。
「わたしたちの念波が青くみえるの。いま補給している」
わたしたち神代寺バラ園のものには特殊な能力があるの。
玲加がそっとGGにささやいた。



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蝙蝠、こうもり、コウモリだ!!!/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-29 04:39:45 | Weblog
2

「品川の街を映してみて」
「どうなってるんだ。これは?」
 いつもの夜とかわりない。
 改札をでてすぐの広いコンコースが映っている。
 帰宅ラッシュでこみあっている。
「街よ。街は」
 とミイマがまた催促した。
 街もかわりない。
 いつものあわただしい宵の街がモニターには映し出されている。
「どうかしたの? ミイマ」
 キーボードを操作していた玲加がふりかえる。
「ミイマ。ミイマ。どうしたの」
 こんどは、携帯の中で翔子の声がする。
 余にとりみだした。翔子に携帯したのを忘れていた。
「ああ、翔子。品川にいるの。なにも変わりない」
「わたしは新宿。純も一緒よ。日名子の行くえ追っているのよ。病院をぬけだしたきりなの」
 そのことはミイマも連絡をうけていた。
 純が街にさまよい出たのに前後してまた日名子は行方不明になっている。
 純が一時は疑われた。もう一週間にもなる。
「あの部屋ね。風俗店になってるの。わたしたちではどうしょうもない。調べようがないの。それで紅子のとこの芝原さんにたのんだの。芝山さんとふたりで入店したとこなのよ」
「品川がおかしいのよ」
 ミイマはいま屋上でみてきたことを知らせる。
「まって。父から連絡がきた」
 ミイマは携帯を耳にあてたままで玲加にいった。
「百子ちゃんたちに、ここに集合するように緊急れんらくして」
「ああ、ミイマ。こちらはいいから……大森にいけって父にいわれた。バイクで向かってる」
 ペンタゴンの日本支部は襲われているのかもしれない。
 支部は品川のMビルの最上階にある。
 街のようすには変化がない。
 そう思いながらミイマは一枚ガラスの壁。
 品川に面したプラスチックのブラインドからのぞいた。
 ぎょっとした。
 ガラス窓にネズミの顔がおしつけられていた。
 いや、ネズミではないコウモリだ。
「なんだ。これは!! ……どうなってるんだ」
 ガラスは厚く、気密性がある。鳴き声はきこえない。
 一匹ではなかった。びっしりとガラス壁にへばりついている。
 あしが吸盤になっているのか。
 ペタッとガラスにすいついて、ときどき移動している。
 平地を歩くようだ。
 品川のビル街がみられない。
 窓いっぱいに、くろいクロスが張られてしまったようだ。
 いや布ではない。
 コウモリだ。
 コウモリの小さな、だが鋭い歯がガラスを噛み砕こうとしている。
 赤い目がこちらをにらんでいる。


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戦いのいま/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-28 10:14:24 | Weblog
第六章 懐かしい過去、悲惨な現実

1

その羽ばたく飛翔体は宵闇の空で乱舞していた。
羽田空港のほうから大森の夕空に飛んできた。
そして、いまは品川方面に向かってとんでいる。
空一面に黒い邪悪な波がひろがっていく。
まさしくコウモリだった。どこにいままで潜んでいたのか???
そう思わせるほど、藍色の空を埋め尽くしてた。

「翔子と純クンが勝則さんのチームに所属したのでさびしくなったわね」
「目指すところはおなじだから。それにエクササイズのインストラクターとして週にいちどはきているじゃないか」
「毎日のように会っていたのよ。さびしいわ」

『GG刀エクササイズ』の入っているビルの屋上にミイマとGGはいた。
夕空を眺めていた。
むかし、この大森にはなんどかきたことがあった。
シナリオ研究所の四期生の仲間と『0の会』を結成した。
『シナリオ現代』を創刊した。
北村篤子さんは卒業をまたずプロデビューをはたしていた。
それにつづけとばかり大森に下宿していた松元が呼びかけてできた会だった。
板坂は作家に、野口は出版社の会長、松元はシナリオライターとして大成した。

懐かしいおもいでだ。
このような未来があるとは、おもってもみなかった。
あのまま東京に残っていたらどうなっていただろうか?
希望をもって若者が生きることのできたいい時代だった。
このような絶望的な異常性にとりこまれた未来ががあるとあのころわかっていたらもっとちがった生き方ができたろうか。わからない。

吸血鬼との戦いにまきこまれた日々があるとは想像もできなかった。
GGはミイマをかえりみた。
妹の娘が西早稲田に少林寺と練馬夢道流の道場をもつ村上家に嫁いだ。
おれのオヤジが野州夢道流の師範だった縁故からだった。
そして翔子がいる。ミイマとGGにとつては孫のような存在だ。
まめに会えなくてさびしくおもうのはGGもおなじだった。

回想は上空のコウモリの群れの異常な動きによってやぶられた。
トルネードのような黒い渦となって品川のKビルを襲っている。
「勝則さんの、ペンタゴン日本支部のあるあたりだ」
すばやくミイマが反応した。
携帯をとりだして翔子を呼んでいる。
ふたりは階段をおりてモニター室に急いだ。

作者注。実名をだしてしまった古い朋よ、お許しのほど。木村正一。



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シロアリの恐怖/麻屋与志夫

2010-10-27 15:24:35 | Weblog
プログです。


9月25日 土曜日
 朝5,30分に起床。台風が来ているので風が強い。門扉が片側だけ風の勢いではずれ、倒れていた。底部を白アリに食われて弱くなっていたのだ。
 寒い。室温16°。薄いたタートルのセェタを着た。うえに長袖のポロシャツ。きゅうに寒くなったので昨夜は喉がいがらっぽかった。ベンザ飲む。お酒は風薬を飲んだので飲めなかった。

9月30日 木曜日 曇り、小雨
 節ちゃんがホリゴタツ、門扉の修理に来てくれた。
 ホリゴタツの床がぼろぼろに朽ちていたのには驚いた。白アリに侵食されたのだ。
 夜飲む。連れがあると酒がうまい。カミサンがおつまみをなにかと作ってくれた。

10月1日 金曜日
 節ちゃんとVIVAホームセンターに材木を買いに行く。
 夜飲む。おつまみがたくさんあって美味しかった。
 
10月2日 土曜日

 大引き。根太。床板。すべてボロボロ。白アリに食われて、腐蝕していた。すさまじい惨状。このうえで原稿書きをしていたのかとおもうと、オゾマシイ気分になった。
 目に見えないところで、気がつかないうちに腐蝕、白アリの侵食が進んでいた。気がついた時には、もう遅い。恐怖で背筋が粟立った。吸血鬼小説を書いているが、わたしの考えているは吸血鬼あまり現実の世界では見ることが出来ない。でも闇の世界で跳梁跋扈して昼の世界の人間の血を吸う結果になる。昼は夜に支配されつつある。怖いことだ。 
夜、節ちゃんと飲む。カミサン酔う。

10月10日 日曜日
 焼酎、鍛高譚。紫蘇小町。飲む。鍛高譚のほうがうまかった。
 深夜三時に二階の寝室へ。眠れず四時までかがってブログ小説を書き継ぐ。

10月23日 土曜日
 節ちゃんきてくれる。いよいよ仏間が新しくなる。ココで小説書くことのできる幸せ。思っただけでも、心がわくわくする。

10月25日 月曜日
 喉をはらして病院。ムコダイン錠500mgを処方してもらう。飲む。早速効き目あり。体が軽くなった。咳も出なくなった。埃のつもった書籍を移動して吸った埃が悪かったのだろう。

10月27日 水曜日
 今日は「さすらいの塾講師」はお休み。章を改めて書き継ぎます。ご期待ください。


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日名子の秘密/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-26 15:27:19 | Weblog
30

純の顔に精気がもどった。
リアルな世界に――記憶の表層に浮かびあがってきた。
「ここは? 」
どこにいるのか、わからないらしい。認知できないでいる。
そんな純に勝則が声をかけた。

「純、心配かけたな」

呼びかけられるまで、勝則がそこにいることすら純は視認していなかった。
「それにしても純ほどの若者が憑依されるとは……」
純がとんでもないことを言いだす。
勝則の話に応じていない話題だ。
まだこの場の雰囲気はわかっていないみたいだ。

「日名子さんは……偽装誘拐かもしれません。次元のスリットからもどったときに、彼女の意識がいっきにわたしの頭にながれこんできました。日名子さんは、家に帰るのをいやがっていました」

日名子はどろどろとしていた。
ねばねばしていた。
そうした陰湿な意識にとらわれていた。
そこから必死で逃げだそうとしていた。
「だれか、わたしを連れだして。助けて。わたしと逃げて」
そんなこころの訴えが伝わってきた。

「純の感覚はたしかなものだったろう」
日名子が逃げようとしているのは、確かだろう。
勝則のほうで純の話に同調する。

日名子の恐怖が時穴を開通させた。
日名子は逃げようとしていた。なにから……?
わからない。純は時穴に彼女と墜ちた。
あのまま堕ちつづけていたら。

下層からとてつもなく邪悪なものが接触してきた。
その気配を感じただけで、体ががくがくふるえてきた。
抱えている日名子を手放しそうになった。
気配は迫ってきた。追ってきた。
だが下から押し上げる力でもあった。
その恐怖の気配が――。下のほうで、獣の咆哮がしていた。
純は気がつくとあの部屋にもどっていた。
日名子を片腕で抱えて現実の部屋にもどっていた。
そして翔子がいた。

『アケロン川にさしかかっていたようだった。ぼくはダンテの描く辺獄をどこまでも堕ちていくような感覚にとらわれていた。だれかがぼくを押し上げてくれた。それがこのひとだった。三途の川の渡し守、カロンかと思ったが、ちがっていた』

「ちがうんだ。ぼくはこのヒトに助けられた」
それだけ言うのが、やっとだった。

純はこんどこそ、うっすらと目をひらいたままでいる。
周囲からそそがれる視線を、その顔を個別に視認できた。
意識がしっかりしてきた。
光がまぶしい。光が網膜を刺激した。
さらに、意識が鮮明なものとなった。

「先生!……先生」
「憑依されていた。発見するのが遅れていたら大惨事になるところだった。GPS機能とはありがたいものだ」
翔子は純がすぐに見つかった理由がわかった。
父の車にはGPSの追跡装置が装備されていたのだ。
翔子は純にしがみついた。
「よかった。純こんどこそリアル世界にようこそ」
翔子はまたふるえていた。
歓喜からくるふるえだった。
純の意識が冴えてきた。
なんども、なんどもくりかえしてあの部屋でのことを考えた。
多層的に時穴から、あの部屋にもどったときのことを想っていた。
記憶を確かめていたので、復元できた。
時穴からもどったときの、その記憶は正確なモノとなった。

「日名子さんが危ない」   


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純を助ける。父の帰還/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-25 02:02:34 | Weblog
29

翔子は顔から血の気が失せた。
背筋が粟立ち、寒気がした。
純がふらふらと歩いている。
後ろ姿だった。鬼切丸をさげている。
何度か、歩道から車道に下りてしまう。
車が警笛を鳴らして通過する。

「酔つてるの?」
「いや、意識がない。憑依されてる」

歩道すれすれにくるまが進む。
追い越した。
翔子は助手席側からとびだした。
純を抱きとめた。
そのまま後部座席につれこんだ。
「純。純。しっかりして。わたしよ。翔子よ」
純の体が、さきほどの翔子のように冷たい。
震えている。
「純――」
「頬にパンチだ」
父の声がしている。
翔子はそれどころではない。
純といっしょに震えだした。

時間が止まってしまったようだ。
父の声だけがきこえる。
「翔子。うろたえるな。耳もとで呼びかけるんだ。もっと大声で、純を呼べ」
車は戸山高校の前を通過した。
高田馬場の駅前を西早稲田に向かう。
「純、純!!! 純」
翔子は必死で呼びかけた。

「あっ。おれだ。これから帰る。氷を用意しといてくれ」

「あなた。お帰りなさい」
母が静かに父に挨拶する。
この冷静さは、どこからくるの。
おじいちゃんはただうなずいている。
毎日帰ってくる勝則を迎える顔だ。
サムライだ。武士の家庭だ。
 Good old days、の日本の武士階級の家のシグサがこんなところにのこっていた。
翔子は祖父と母の振る舞いをみた。
静謐な立ち居振る舞いをみて冷静になった。

純を布団に寝せた。
アイスノンのバンドで頭を冷やした。

「氷なんていうようじゃ、おれも古いな」
「そうですよ、いまはこんなベンリなものがあります」

母が父をみてシトヤカニ応えている。

「おとうさん。勝則ただいまもどりました」
畳の部屋のためか、父が両手をついて帰還の挨拶している。

「わあ、ラストサムライの世界だ」
翔子が小声ではしゃぐ。
純がムクッと起きあがる。
「ここは、あっ、先生」
翔子が喜びのあまりその場にへたりこんだ。



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耳元でささやく声/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-24 01:42:08 | Weblog
28

「いちど向こう側にひきこまれると、なかなかもとにもどれない」
「そんな……、どうすればいいのパパ」
「精神的外傷体験後遺症。トラウマからの回復には時間がかかるかも」
むずかしい言葉でひとりごとをいう父を翔子はだまってみつめていた。
父の運転する車で夜の新宿に向かっている。
5年ぶりで会った父だった。

異次元からの干渉かある。
策動がある。
不穏な動きがあるとペンタゴンの予測だ。
そして、経済的不安。
国と国との領土あらそい。
民衆を情報操作して不満を外国に向けさせる。
国粋主義が台頭する。
戦争の辞さない。
そうした雰囲気を国際的につくりあげる。
株安。円高。
民衆の苦しみを糧としていきる巨大な魔の胎動。

「吸血鬼はその魔王の先兵なのだ」
「わたしたちが戦ってきたのはそんな小物だったの」
「いや、小物とか大物といったことではない。背後にもっとおおがかりな陰謀がかくされていたのだ。それに気づいたのでわたしはアメリカに密かに渡航した」

純は新宿をさまよっていた。
歩くのはすきだ。
ひとは常に歩く速度でものを考えるのがいい。
だがいま純は半覚せいの状態で歩いている。
耳の奥で声がする。
殺せ。
殺せ。
殺せ。
だれだ!! おれに命令するのは。
じぶんの意志が統制されている。
じぶんの動きが自由にならない恐怖。
おれは、どうしてしまったのだ。
病院をぬけだしたのはわかる。
夜の新宿の街を歩いているのもわかっている。
それなのにどこにいこうとしているのか。
なにをしようとしているのか。
まさか、命令どおり、ひとを殺す気ではあるまい。
耳鳴りがひどい。
原色のネオンきらめく街も、
さすがに大殺戮事件が起きたので、
人影もまばらだ。と思いたいが、あいかわらずの雑踏だ。
ただ、おかしい。
おかしいいぞ。
あれが人間なのか。
異様な姿にうつる。
ガニマタでよちよち歩きしている。
腕は素足は、甲殻類みたいな堅い殻に覆われている。
殺せ!
なんて醜いんだ!!
殺せ!!!
あいつらは異形の者。
純を見る目は白濁している。
口元には哄笑がうかんでいる。
おれを軽蔑しているのだ。
純は鬼切丸の柄をにぎっていた。
これはナイフなんかより殺戮力はあるぞ。
ともかく鬼切丸だからな。
だが……抜けない。
鬼切丸は鍔なりがしている。
カチカチと音をたてている。
それは警告のようだ。
ぬいてはねダメ。
だめ。
「だめだだよ、純。あやつられているよ」
翔子だ。
そうだ、翔子はどこだ。
翔子の声が聞こえる。
翔子、どこだ!!?
おれはおかいのか。
どうかしちまっているのか。
翔子。翔子。翔子!!!

「お父さん、あれ――純だ。止めて」



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