田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

正体の見えた敵からの最後の誘惑/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-11-30 08:05:55 | Weblog
9

「あっ。純が呼んでいる。わたし、いくね。はやくGG、きてよ」
「GG!! どうしたの。はやくきて」

ミイマも呼んでいる。
ミイマが真っ直ぐ伸びた道路の先に見える。
小柄なミイマがさらに小さく見える。

「どうだ。署名しないか」
蛇のようにしっこい。
煙幕のなかの男の声をきいていると、でも……なつかしい。
なぜか、男の周りだけまだ煙が漂っている。
たのしかったゴールデン街での日々がよみがえる。 

『初めての恋も友情もともによみがえってくる』

おかしなものだ。
あの黒光りのするカウンターにHと並んで飲んでいる。
小説家になりたいと彼が言う。
おかしい。
Hはバーテンのはずだ。
一晩で50枚も書いた。
と控えめに彼は言う。
「おれにお宅の半分でもソレだけ書ける筆力があったらな。良しとするのだかな。遅筆でいやになるよ」とGGが言っている。
「村木……半分で、良し……それ……ペンネームにイイな」
Hはとなりの小男をみている。
GGがいることなど忘れてしまったようだ。
「収穫の時期だけは、わたしにまかせてくれますか」
だめだ、そんな契約をするな。とはGGは言えなかった。
Hが文壇に華々しく登場うしたのはそれからまもなくだった。
そのころ、GGは田舎にもどっていた。
「私に小説書いて」と口癖のように言う女がHのそばにいた。
ふたりはむすばれたのだろうか。

「そうだ。よく覚えているな。収穫の時期だけ任せてくれればいいのだ」
GGは無視して走りだした。

「イイ条件だと思うぞ。もうジジイだ。いい加減でわが軍門に下れ」

GGはミイマの待つ街角にむかって走った。
「後悔するぞ!! バカもの!!! 最後のお誘いだぞ」
ミイマまでの距離が遠い。
妖物の――Vの気配を感じる。
鬼切丸をふるう。
Vを斬った手ごたえはある。
だが。
気配は迫ってくる。
斬る。
気配はうじゃうじゃしている。
あのまま東京にのこっていても……半分どころではない。
Hの十分の一の才能もないおれだ。
どうせゴールデン街で飲んだくれて死んでいたろう。
ミイマと会って平凡な日常をたのしく過ごすことができた。
これでよかったのだろう。
斬る。
突く。
斬る。
遠くでミイマが呼んでいる。
いくから。
いまいくから。
「村木。お前さん、田舎かから小説を応募するときは、ペンネームを使うのだろう」
「ああ。これから田舎で継がなければならない家業が麻屋なんだ。ウソ屋のきみのこともいろいろバラスゾ。麻屋がウソ屋を真似ても怒らないよな」
「クヤシカツタら、真似てみろ。チクショウ。バカやろう」
最高の別れの言葉だった。

「GG見てよ。ヤッラを壊滅させたのよ。青山で戦時中の地下壕の跡が陥没だって。うまくツクロッタものね。援軍が来るからね。百子たちが来るから。異能部隊も駆けつけてくれるから」
翔子が携帯を見せてくれている。なにも、見えない。
GGのみみには単車群のドドっという音が聞こえる。クノイチ48の美少女が近寄ってくる。ミイマが顔を寄せてくる。

「あなた、しっかりして。こんなのってウソよね」
ウソ。
Hが迎えに来たのかもしれない。
ない才能をふりしぼって、小説をかくことはない。
村木、お前の人生そのものが小説みたいだ。
いい小説は書かなかったが、小説の中にいるような人生を歩んだではないか。
それで、良しとするのだ。

「噛んでけばよかった。噛んでおけば、こんな、こんな別れに、ならなかった」

なにが起きているのだ? 
なにが?

「火炎放射器を装備すればよかった。銃器ではVに歯がたたない」
勝則の声がする。

おれたちは負けたのか????

GGが握っていた鬼切丸。
ミイマの手にある。
翔子の手の鬼切丸。
純の鬼切丸。
勝則の鬼切丸。

「決着はやはり刀でか」
勝則が戦闘にもどっていく。

ミイマ、翔子、純が敵陣にむかって斬りこむ。

作者注。『』の内はゲーテのファウストからの引用です。
Hとはさてだれでしょう?
作者からのあなたへの挑戦です。
ヒントは、イーデスハンソンをペンネームとしたという1933生まれの作家です。




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いまここで、羊皮紙に署名を/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-11-29 06:37:02 | Weblog
8  

「悪意の波動を感じるわ、ミイマ」
「わたしも感じる。街で感じる波動の発信源はここだったのよ。殺せ。殺せっていっている」
「刺せ。刺し殺せ。刺せ」
そうGGにもきこえてきた。
いまや翔子たちは、Vのアングラ基地深く潜入した。
「おれには城塞のように見える」
「あなたさっきは、亞空間のように感じるといっていたわ。ここはわたしたちの想像が生みだした世界でもあるのよ。GGは感じやすい人間だからはやくこのV空間になじもうとしているの。だから現実がいろんな様相にみえる。そのどれを選ぶか頭がまよっているの」
「時代感覚もおかしいよ。ミイマとはまだ知りあっていないようだ」
「GG!! しっかりして。これからVと戦うのよ」

街のいたるところで、銃声がしている。
はやく参戦したい。
オブザーバーとしているわけにはいかない。
ものたりない。
闘争本能がそう翔子に語りかけている。
戦いたい。

「Vが翔子には、みえるのか」
「わたしには、ふつうのヒトに思えるけど、やつぱあれはVよ」
「わたしにははつきりと人とは別のモノにみえますけど」
「おしゃべりが過ぎた」

GGと翔子は鬼切丸をぬきはなった。
ミイマはまだバラの鞭をださない。
バラ手裏剣で相対する気なのだ。

翔子とミイマが先を行く。
みるまに、その距離が開く。

「いまからでも……遅くはない。どうだこの羊皮紙に署名しないか。お前は若返ること
が出来る。このままでは死ぬぞ。若いときの夢はどうした。物書きとして大成したくはないのか」

ゴールデン街できいた。

あの悪魔のささやき。

あの悪魔の誘惑。
熱病に罹ったような青春の思いが。
老いた村木に襲いかかる。

「GG。はやく」

翔子がもどってきた。

前方でミイマがバラ手裏剣をなげている。

それをGGはじぶんの体でうけているように痛みを感じる。

バラ手裏剣をうけているのは、おれだ!!

なにがなんだかわからない。

混乱している。

「目くらまし。GGしつかりしてVの目くらましにあっているの」

「これは……Vにできる技てはない。この幻惑はルシファーの技だ」

魔界にいる。

魔界にいる。



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Vのこのアングラは亜空間なの? /さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-11-27 04:38:39 | Weblog
7

翔子が案内した。
百人町から追いかけてきた。
Vとテロリストの逃げこんだ場所。
あの、廃ビルだった。

あの廃ビルの地下にある飲み屋横丁。
廃ビル。偽装と翔子にはおもえてきた。
あいかわらずの賑わい。
古びた引き戸に貼られた。
コピー。宣伝文句。

濃厚ワイン。
新鮮ワイン。
とりたてしぼりたてだよ!!
純生ワイン。

「エゲツナイ。Vらしいコピーだな」
翔子がもらしたと同じ感想を父が口にした。
あのときは、百子とふたりだった。
いまは、父の勝則のチームの道案内だ。
異能部隊の面々とちがう。
ありきたりの服装だったのがよかった。
白人、だけでなく日本人も交じっている混成チームなのがよかった。
そこへきてGGとミイマ。純。
路地から路地へと酔客を装って歩く。
目立たなかった。

「このさきにゲートがあるの」
父に話しかけた。報告するような口調になる。
「わたしがゲートあけさせるね」
勝則が指でサインをたす。チームが遅足となる。
歩調をゆるめる。翔子から距離を置く。

門衛をかねた少女がいた。
翔子はなれたものでニコニコ笑いながら……。
「きょうは、イラついてるんだ。わたし自傷願望があるみたい」
この前来たとき、教わったとおりのセリフを言ってみた。
話しながらIDカードと赤のアミュレットを提示する。
「だつたら、どうぞ。どうぞおはいりになって」
カウンターのしたに隠しスイッチがあるらしい。
少女がもぞもぞと手を動かしている。

通路の奥。
百子と潜入したときは、ここから引きかえした。
MDGと親切にも真紅の文字がうきでた。
ピカピカよく光る扉・
最危険地帯。

扉がするすると開いた。
換気が悪いのかいやな臭いが鼻を突く。

ばっとかかえこまれた。
外に出て狩りをする度胸のないヤッラだ。

ずるずるひきずられる。
ゲートをくぐってくる。
迷える羊を待ち受けている。
モノグサなヤッラだ。


この音だ。
この音が扉越しにかすかにきこえていた。
あのとき。百子といっしょだった。
ヤッラガ餌を捕獲した。
引きずっていく音だった。
どおりで、不気味な音に感じたわけだ。

「娘、怖がるな。すこし血をすうだけだ」
「そうなの……」
「娘。スリルをもとめてくるビジターだな。初めてではないな」
「そうなのよ。あんたらとは、なんどもたたかっている」
「ゲッ。ハンターか? そうなのか」

勝則がVの目をくらますために発煙手榴弾を転がす。
 
Vは翔子を放り投げて逃げた。
Vには煙で見えない。
勝則の背後からついてくる者たちの動きや位置は隠蔽されている。

茶褐色の煙に遮られてなにもみえない。
必死で逃げまどうV。
「Vの一般市民なのだろう。逃げ足の速いことだ」
とGGが翔子の脇に立つ。
「翔子。やるな」
と純がほめてくれる。
純にほめられてうれしい翔子だった。

「異能部隊の百々(どど)隊長から連絡がはいった。彼らも、青山墓地の地下に突入した」

「よくよくアナクロなんだから。墓地の地下に街をつくるなんて古いのよね。すこしも進歩していないみたい」
とミイマ。
彼らを追い越していったチームの猛者たち。
前方ではやくも市街戦を展開している気配。
怒号。
銃声。
格闘の気配。

「いや……ここはVが築いた亞空間なのかもしれない」
GGがミイマの言葉をひきついでの発言だった。

そう言われてみれば、煙幕の中で街が奇妙に歪んでいるようだ。

足もとの側溝をなにが流れているのだろう。

生臭い。
腐臭もする。
足元から無数の手が伸びて……。
生臭い腐臭のなかに引きこまれそうだ。


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報復はわたしたちの使命/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-11-26 03:20:16 | Weblog
6

遅かった。駆けつけるのが遅かった。
 
点呼をとっていると百子の携帯がなった。
メールだった。
「さようなら。いっぱい、いっぱいの友情ありがとう……」
そこで途切れていた。
もっとなにか言いたかったのだろうが。

遅かった。青山墓地まで駆けつけた。
黒のめだたない服。
クノイチ装束が、なにかのジョークのように墓石にしがみついていた。
墓石にしがみつかなければ立っていられない。
墓石に顎をのせ、左手で墓石をだいていた。
そして、みぎてでメールをうった。
さようなら。いっぱい、いっぱいの友情ありがとう。
「小太郎!! 」
百子がつぶやくように、ささやきかけ頬をよせる。

それは百子の涙。
あるいは小太郎がながした涙かもしれなかった。
まだ頬にはぬくもりがあった。

母の胎内にいるうちに、男の子であることを期待されて名付けられた。
小太郎。そう呼ばれるのを恥じていた。
恥ずかしいよ「コタ」と呼んで。
さわやかな、あどけない童女のような笑い声が百子のこころにひびいてくる。

大地に横たえる。
骨と皮ばかり。
あとは溶かされ、飲みこまれてしまった。
クノイチのフイギァを、衣裳だけをそこに横にしたみたい。
目だたない古布、ぼろ布のようにも見える。

「コタ。コタ。コタ。あなたのことは、わたしたちが覚えている。死ぬまでわすれない。死んでも、次の世代に語り継ぐ。伊賀の小太郎。クノイチの小太郎。コタ」

百子がすっくとたちあがった。
クノイチ48、いや100人もの仲間が黙とうから顔を上げた。

「みんなリベンジだよ。やられれば、やりかえす。弱腰はだめ。敵に攻め込まれれば、攻めかえす。殺されれば、殺す。なめられたら、お終いだからね。仲間の仇は、生きている者が果たす」

異能部隊も到着した。
百子の檄をきいてた父。
百子の肩をだいた。
「敵は鬼だ。もしものときのために言っておく。悲しんでいるのに悪い。甲賀のタカはお前の父親ちがいの姉さんだった。甲賀の飯降家でかあさんが生んだお前の姉さんだ。勘七さんが夭逝した」
それで父と再婚した。
だからわたしのこと、知っていたのだ。
わたしが、百々百子だとしっていたのだ。
「ますますファイトがわいてきた。ふたりのクノイチのために、みんなの命ははあずかったよ」
「オス」

鬨の声をあげた。

タカの働きで知った地下への入り口。
マンホール。
墓石の影の落ち葉の下の階段。
墓石の土台石をずらしたところ。

クノイチ・ガールズが突入する。

「別働隊が原宿のテントあとからすでに侵入しているからな」

と異能部隊長の顔にもどった父。

百子はにっこりとほほ笑む。

敬礼をかえす。


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わたしに名乗るほどの価値があったかしら? /さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-11-25 10:29:24 | Weblog
5

仲間のクノイチとはわかれてしまった。
みんなそれぞれの敵を追っているのだろう。
百子さんは、麻衣さんはいまどんな敵とたたかっているのだろうか。
霧雨もあがった。いや、百々異能部隊長が突入を指令した。
あのときはすでに、青空がみえていた。
わたしはなにをかんがえているのだろうか……?
……Vを追いかけているのに。

アイツの姿を見失わないように。
アイツの後姿に意識を集中するのよ。
でも隊長、かっこいい。わたしも大人になったら入隊したい。
なにか特別な能力がないとだめらしいけど……。
わたしになにかあればいいのに。クノイチの劣等生。オチコボレ。

水溜りはのこっている。空はすんでいる。風が冷たい。
アイツ、何処まで逃げる気だ。
信濃街の慶応病院は過ぎた。
直に、青山一丁目のホンダビルが見えてくるはずだ。

わたしバイクおりたほうがいいみたい。
アイツ、もう走っていない。
のんびりとパーカーのフードをかぶって、顔は隠しているが歩道を歩いている。
わたしがつけているのはわかっている。
わかっているはずなのに……でもあいかわらず吸血鬼WALKING。
めくらましにあったみたい。のんびりと歩いているようだが、速い。
ときどき姿が消える。
なんてヤツなの。

青山墓地。
危険地帯。

翔子さんと百子さんがこの地下で危険なめに会っている。
甲賀のタカさんに救われた。
タカさんの調べ上げた情報はわたしたちの携帯に記録されている。
リツパだったよ。タカさん。
「娘なにをぼそぼそかんがえている。おれの餌になれ」

バイクをすててつけてきたきた。
ひっそりとつけてきたはずなのに。

やはり……Vには、わかってしまっていた。
男がフードをはねのけた。
なんて醜いの。
茶色の渦をまいているような肌。

「おれがたべてやる」

不気味な説得するような声。
十字手裏剣を胸元をねらって投げこむ。
当たった。
でも深くくいこまない。
アクセサリーみたいに手裏剣がアイツの胸元で揺れている。
小太刀をぬいた。斬りつけた。
「おおこわい。こわい。峰が、銀になっている。よく工夫したな」
ぜんぜん戦にならない。
わたしの技では歯がたたない。

「娘、名前はなんという。さいごに名前をきいておいてやる」

わたしに名のるほどの名前があったろうか。
でも……仲間とVを追いかけて、Vを倒そうとしてここまで生きてきた。
それで……いではないか。
あとは……百子さんたちがなんとかしてくれる。
戦いつづけ。かならず敵は倒してくれる。

……みなさん、みんな、いっしょに戦えてうれしかった。
いままでありがとう……。
わたしは……伊賀のクノイチ。
下忍に名前なんかない。
なのるほどの名前はない。
それでいいではないか……。


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クノイチ48、吸血鬼を追討する/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-11-24 22:04:22 | Weblog
4

 ルーマニア出身のVの紅子がいうのだからまちがいない。
 目の前の敵。吸血鬼にはみえない。
 とても、そうはみえない。
「病院、あとでいく。これがすんだら、すぐいくね」
 紅子は救急隊員によってキャリヤーで運ばれていった。

 ビルから逃走してきた敵を追って、床に開いた地下通路から勝則があらわれた。
「これだけではない。もっさと大勢いたはずだ」
 異能部隊が庭や屋内で戦っている。
 そのかず20ニンほどの敵と。
「これでは、すくないあとの敵は――」
 目前で火炎放射器の直射をあびた。
 ひげ面の男が燃え上がった。
 その絶叫にまじって、コンクリートの高い塀の外でも叫び声があがった。
「しまった。塀の外に抜ける通路もあった」
 勝則はようやくこの場に翔子も純もいないことに気づいた。
「うちの娘と翔子さんはすでに、外で戦っています」

 翔子と純が持ち場を離れた。
 道をへだてた日本家屋のほうに走り去った。
 GGとミイマもふたりの後を追うことにした。

 GGとミイマが道の向こうに見たものは。
 外人の集団と戦う、クノイチ。
 そこへ、門扉から百子があらわれて参戦した。
 百子が来たので、クノイチの少女たは活気をおびる。
 門扉はさらに翔子と純を噴出させた。

「みなん!! あとには引かないで。日名子さんのお父さんを、日本の副総理を自殺に追い込んだ敵よ」
 ミイマが中空を飛んで一気に敵のまっただなかに降り立った。
 降りた時には、バラ鞭で吸血鬼を前後左右に倒していた。
 青い血が飛び散り。
 青い粘塊の小さな山がそこかしこにできる。
 それでも吸血鬼が多すぎる。
 多すぎるが吸血鬼は追いたてられている。
 彼らを攻め立てる日本の若者の気迫に打たれている。
 GGが鬼切丸で首をはねた。
 勝則がきいたのは、この首をはねられた吸血鬼の悲鳴だった。

 門扉からぞくぞくとVセクションのメンバーが走り出てきた。
 走りながら拳銃を発射している。
 吸血鬼がゲームの世界みたいにバタバタ倒れる。
 かれらは――逃走をはじめた。
 吸血鬼ウオーク。
 速い。
 コマ落としの映像を見ているようだ。
 クノイチ48も負けてはいない。
 バイクを始動させると吸血鬼を追って、街に散っていった。



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死にかけている紅子/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-11-24 07:36:20 | Weblog
3

雑居ビルに突入したVセクションのメンバーが発砲している。
SMGの連射音もする。
なにか判断のつかないような音もする。
テロリストが反抗しているのだろう。

翔子はそれらの音から遠ざかる。
全速力で走りだした。
〈翔子。翔子。翔子……〉紅子が呼んでいる。

コンクリートの塀に身をかがめ警戒しているクノイチ48。
その頭の百子が翔子に気づいた。

「翔子!」

おどろいている。
咎めている声。

「紅子、呼んでいる。紅子がわたしを呼んでいる。なんどもわたし危ないところ助けてもらった。彼女に助けてもらった。その彼女が呼んでいる。いかせて」
「それはいいけど」
百子はあとを麻衣にまかせた。
翔子と並んで百子も土足のまま廊下から部屋にとびこむ。

異能部隊の隊員が棒立ちになっていた。
ふりかえったものもいた。
なにもいわれない。
百子の父がゆびさした。
そのさきには肉片が散乱していた。
遺体は異常な破損。
異常な形で散らばっていた。
うっと吐き気がした。
翔子はこらえた。
百子は顔面蒼白。
「これは?」
「突入したときは――これだ。全員やられていた」

「残留思念がながれています。押し入れです」
思念をリーデングすることに優れた隊員がいる。
翔子もその思念の源流に気づいた。

フスマをあけるために近寄る。
散らばった人の骨。
肉片。内臓の悪臭。
――をもろともせず。進む。
隊員より素早くフスマにたどりつく。
「紅子!!」

そして、いた!?
紅子はいた。
腕。
肩。
足。
そして、ああ!!! 顔が――。

「来てくれると信じていた。翔子になら紅子の声きこえると信じていた」

翔子は絶句した。

「硫酸、かけられた。ヤッラ、わたしたちを溶かす気だった」
「すぐ、病院につれていってあげる」
翔子の声。やっと、紅子にかけられた言葉だ。
唇だけがやけただれた顔の中でマトモモだった。
「わたしを裏切りものだって。翔子のお父さんに携帯したのバレタの」
「そうだよ。紅子は裏切ったのでない。表にもどったのよ」

周囲では隊員が黒のビニール袋に遺体を納めていた。
その光景をみて紅子が嘔吐した。
「わたしも死にたい」
「Vらしくもない。そんな弱音はかないで。紅子はもっと強い。つよい女よ」
 
ふいに、畳が下からはねあげられた。
遺体を収集していた隊員。はねとばされた。
死体であった肉片。袋からまた散らばった。
アラブ系の顔。
そして人種のルッボ。
黒人。
白人。
黄色人種。
どっとあらわれた。
裏のビルからここに地下通路で逃げてきたのだ。

表も騒がしい。
クノイチの戦う声。
女の子のすこし甲高いだが勇ましい声。

「敵が逃亡をはかっている。ワルイ。翔子いくね」
百子が庭を抜けた。
門扉の向こうに消えた。
「わたしにかまわずいって。仇きとって。アイツラ吸血鬼よ」




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紅子、ほんとに裏切り者なの? /さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-11-23 06:45:23 | Weblog
2

百人町。
『シナそば屋』にできた行列の人がギョッと顔を上げた。
迷彩服の自衛官が、整然と小走りに、路地を駆けぬけていく。
驚きながらも、彼らは素早く店のガラス戸に背をおしつけた。
なれている。動乱の地かこの日本に出稼ぎにきている。

「ロケだね。この日本治安いい。デモとかテロ、ちがうね」

みんながうなづいた。
だれもが、冷笑を浮かべた。
平和ボケの経済大国に――。

路地を通りぬけていった迷彩服。
迷彩服の色がほとんど黒。
『ninjya』の装束に似ていた。
百子の父が指揮する百々異能部隊だとは、だれもしらなかった。

だれも予知できなかった。
それから数分後。
またガラス戸に背をおしつけるとは――。
ゴウゴウ。
ドドドドット。
クノイチ48。
アキバ系の美少女がバイクで通過するとは――。

同じころ。
日名子が投身したあのビルの外壁面にヘバリツイタ外人。
勝則のVセクションのチームだ。
翔子と純がいる。

「百子たちもあの紅子たちのルーマニヤ協会の付近に忍んでいるはずよね」
「翔子。紅子に裏切られるとはおもわなかったのか。あいては吸血鬼のホンバモンだ」
「いまでも、信じられない。紅子が中近東のテロ組織のメンバーだなんて。そんなこと、信じられないよ」

翔子の視線の先には通りの向こう側。
『在京ルーマニヤ人協会』の瓦屋根がみえている。

勝則が携帯で時刻をみていた。
「GO」サインをだした。
一緒に突入することは許されていなかった。
銃器による戦闘になることを恐れての父の配慮だった。

翔子は衝動的に紅子の家のほうに走りだしていた。

紅子の悲鳴をきいた。
紅子の呼ぶこえがきこえた。
そう聴覚がしらせている。
共に闘ってきた紅子。
なんども危ないところを助けてくれた。紅子。
紅子がわたしを裏切るわけがない。
わたしは紅子を信じる。
信じている。

「翔子! ぼくもいく」
恋人どうしだ。
止められると翔子はおもった。
でも、純はわたしの気持ちを瞬時に悟ったみたい。
恋人どうしだ。
わたしのこころが理解できたのだ。
悟るとかる
理解する。
そんなものではない。
わたしたちのこころは、通底している。
通いあっている。
ふたりで一つのこころ。
一心同体。

ロマンチック。


 
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敵の正体がみえてきた? /さすらいの塾講師  麻屋与志夫

2010-11-22 15:57:01 | Weblog
第八章 日常のなかの恐怖

1

初冬のけぶるような氷雨が降る新宿。
傘もさしていない。
両手をポッケにいれている。
前かがみに、俯いてゆらぎただよう人びと。
――歌舞伎町だ。

異様な姿の人の群れ。

霧雨のようになってきた。
雨は上るのかもしれない。
でも人の動きには変化がない。
ただなにか青白い影が彼らのシルエットにダブって見える。
憑かれているものがいる。
操られているものがいる。
彼らであって、彼らではなくなっている。

そんな群衆の中をvividな動きで移動していく女の子。
クノイチ48のチームだ。
だが、100人は超えている。

黒の長めのレインコート。
「翔子。純とまた共闘出来てうれしいでしょう」
先頭をいく百子が、翔子にだけ聞こえる声で言う。
「小山田副総理が自殺するなんて、かんがえられないよ。日名子さんに護衛が集中していたのに……。まさかね……」
ガードするべきは日名子ではなかった。
父の副総理のほうだったのだ。
自殺の経緯も動機も報道されていない。
マスコミは沈黙を余儀なくされている。 
政局は大混乱。
解散総選挙が噂さされている。

「純たちのほうが、さきにつくかしら」
「わたしたちは、オブザバーで、参戦するななんて失礼よね」
それで百子はイジになってチーム全員に招集をかけたのだ。
コマの奥のゲーセンの路地にとめてあるバイクに向かっている。
目指すは新大久保、百人町。
 
同じ雨の中、こちらは車で新大久保へ。
GGとミイマと玲加。
『刀エクササイズ』のメンバーが百人町を目指していた。

「わたしたちは参戦しなくてもいい。敵の姿をひとりでもおおくの関係者にみておいてもらいたい。そう、勝則君がいっていた」とGG。
「陸自の異能部隊、百々さんからも同じ連絡よ」とミイマ。

全員が目指しているのは『在京ルーマニア人協会』だ。



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河畔の散歩道/麻屋与志夫

2010-11-21 21:16:05 | Weblog
プログです。

11月22日 月曜日

●まだ枯れ切っていないススキの葉が初冬の風にそよぎ、白い穂は風にとばされうら寂びてきた河川敷、今年も白鷺が飛来した川面に向かってカミサンがあどけない声をあげた。

      

      

      

●わたしも彼女も鳥のこととなるとまったくの無知で、鷺を渡り鳥だと思っている。
鴨は渡り鳥ですよね。
夏にはみかけないから……。

      

●でも、白鷺は夏でも空に舞っているよな。
などと、会話しながら散策する川べりの遊歩道をはずれ、川の流れにつづくススキの群落をかきわけ、いますこし被写体に近づくとヨイ写真がとれるよ、などと声をかけているわたし。

●今年も稼ぎがすくなかったから、一眼レフを買うのはおあずけ。
せめてもの罪滅ぼしに、カミサンが満足のいく写真がとれますようにとススキをかきわけ踏みかため道を開拓するのだが、カミサンは小柄なのでふと姿が見えなくなる。

●一瞬、入水しようと、流れにひとりで歩みだしているような錯覚にとらわれ、背筋が総毛立つ。

●あと何年こうして、ふたりして元気にこの川べりを散歩できるのだろうか。
精進しているから今、教えている塾生が結婚するころまでは現役続行などと意気盛んだ。

●カミサンがカメラを構えている姿が好きだ。
小柄だがその均整のとれた姿には気迫すらかんじ、わたしは一瞬たじろぐこともあり、じぶんの老いを叱咤する。

●彼女と結婚できれば、5年で死んでもいいです、と寿命を限定して願った病床の白いシーツのなかの青春、あれからもう半世紀は経っている。
まだまだ生きていきたい。
いまのところ、5人の孫に囲まれ、嫡孫の宮参りもすませ、さらに生きたいという欲求が高まるいっぽうだ。

●カミサンは夢中でシャッターを切っている。

●さきほどの流れに誘われるような感覚はなんだったのだろう。

●吸血鬼やルシファーのことばかり書いているので、呪われているのかな。




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