田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

病院の怪談 イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-09-30 01:08:32 | Weblog


自動扉が開く。
フロアーには人影はまばらだ。
磨き上げられた、清潔すぎるリノリームの床。
誠の薄い影がたよりなくゆらいでいた。

受付の病院職員の視線は冷ややかなものだった。
石にむけられているようだった。
そうした視線に反発しながら、誠はエレベーターに向かった。

エレベーターは二基あった。
先に降りてきたほうに乗った。
看護婦とすれちがった。
ステンレスの容器を両手でささげるように運んでいた。
容器の中で金属の触れ合う音がしていた。
翔太の病室が三階小児病棟であることは推察できた。
せまい立方体の空間が上昇を開始した。

途端に激しい眩暈がおそってきた。
空間が狭ま過ぎるせいだった。
ひとりだけで閉じこめられている不安があった。
田舎住いがながく、外的環境の変化に脆弱になっていた。
それで、緊張したためかもしれない。
眩暈に耐えているうちに、振動をともなってエレベーターは停止した。
階位表示の文字板で目指す三階であることを確認してから降りた。

ナースステーションがあった。
誠の姿を見ると看護婦がとんできた。
面会時間外の面会は、ご遠慮ねがいます。
えんりょねがいます。
エンリョネガイマス。
それぞれ異なった口から異なったイントネーションでいいながら、誠に肉薄する。
おとうさんでも、だめです。
駄目です。
damedesu。
誠は激怒して、腕を横に振った。
看護婦は紙人形のように廊下に倒れなかった。
なにもおきなかった。
すべて、誠の幻想だ。

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翔太に闇がふたたび…… イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-09-29 07:31:11 | Weblog


午後になっても妻からは連絡がない。

時間は過ぎていく。

どうなっているのか。

さっぱりわからない。

いつもの……連絡下手の妻の仕打ちにいらいらする。
神沼と東京の隔たりが恨めしくもある。
西早稲田のマンションになんど電話してもつながらない。
病院の翔太に付き添っているのだろうか。

直ぐに入院させなければ……。
とりかえしのつかないことになる……。

とは……。
どういうことか。
どうして、直ぐでなければいけないのか。
そんなに緊急を要する容態なのか。
説明をもとめようとしたが、呼びだし音に応答はない。

翔太はどうなっているのか?
容態の経過を聞こうにも、連絡がつかない。
時間はたつばかりだ。
(わたしに相談する猶予もあたえず、急遽入院させるほど、差し迫った病状だということは、やはり肺炎をおこしているのではないか)

いくら考えてもわからない。
わからないことを、わからないままにしておくわけにはいかない。

翔太が向こう側にとりこまれてしまう。
翔太は病気だけではない。
また〈闇〉が翔太をとりこもうとしている。

不安はつのるばかりだ。

上京する。

4駆動で上京したが、地理不案内なので車は有料駐車場にあずけた。
高田馬場の駅前から、誠はタクシーにのった。
運転手が、ひどく機嫌がわるかったはずだ。
あっという間に、井波病院の車寄せについた。
病院ばかりどでかくなって……と……。
運転手は嫌悪をこめた、すてゼリフを吐いた。
乗り込んだときからとげとげしい雰囲気だった。
快適な気分で病院につけるとは期待していなかった。
田舎で、塾生相手に暮らしている。
大人の悪態には慣れていない。
唖然とする。
悪態の対象がじぶんである。
そんな気がしてしまった。
その言動には、身に危険さいおよびそうな過激さがあった。
虫のいどころが悪かったのだろうが――。
客の面前でわめくことばではあるまい。
ごていねいに、窓から唾をはきすてた。

白い化粧レンガタイルの総合病院は高台にあった。
遥か遠景に都庁や新都心の超高層ビル群が見える。
建物の両サイドの広々とした駐車場。
奇妙なことにほとんど車はなかった。
車の区画表示の白い線が冬の日光にあぶられていた。
白線にはそこだけ立体的に盛り上がっている印象があった。
車の棺のようだった。
埃っぽい風が無人のだだっ広い空間を吹きぬけていった。
急ぎ足で病院の正面玄関に移動する。
誠の目に、揺らぐ木々の樹頭が映っていた。
群葉のざわめきは翔太が苦しんでいるように感じられた。



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闇からの電話 イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-09-28 16:09:20 | Weblog
第5章 翔太の奪還。

 父親は少女を見た。そしてわめいた。
「でるんだ。こんなわけのわからない病院なんかでて、別のところに行こう」
                      町井登志夫『蛇』異形コレクション
 
 1

ひどく遠いところだ。

電話の呼び出し音が跳ねている。
月光を浴びた流れに魚が跳ねている。
音はそんなふうにきこえた。
音に、魚に、光が乱反射している。

音のするほうに、誠は腕を延ばす。
受話器を掴もうとする。
銀鱗をきらめかせた魚のようにぬらぬらする。
すべってしう。
取り落とした受話器が流されていく。

受話器は幼い翔太に変貌する。  
激流にのまれ……。
流される……。

翔太に大声で呼び掛ける声で……。

こんどこそはっきりと目覚めた。
やはり電話は鳴っていた。

幼い翔太が……。
都会の舗道に……。
虚ろに空いた穴に……。
吸い込まれる。

あれはマンホールだったのだろうか。
と。
夢の残滓を反芻しながら。
受話器を取り上げる。

ひどく遠いところから。
美智子の声がひびいてくる。

声はとぎれ…。
もつれ……。
空隙があり……。
内容が聞き取れない。

「落ち着くんだ」    

と誠は大声を出してしまう。

翔太が風邪をこじらせてしまった。
微熱がさがらない。
井波病院にきたところ。
今直ぐにも入院しないととりかえしのつかないことになる……。
ご主人には事後承諾ということで。
入院手続きしてくださいといわれた……。
いいでしょう……そうするしか……しかたなかったのよ。
それに子供さんはノイロゼーだから風邪も治らないのだ。
といわれた……という妻の言葉を理解するまでには。
すっかり目覚めていた。

今直ぐ入院しなければ手遅れになる。
ご主人に連絡している余裕なんかありませんよ。
という女医の言葉はなにを意味しているのだろうか。
おおむねそんなことを告げられたらしい。

こんどは、誠が動転してしまった。
翔太はすでに扁桃腺をはらしていた。
二週間も学校をやすんでいる。
一昨日も……妻が、心配して。
かかりつけの近所の医院でレントゲンをとってもらっている。        
肺炎はおこしていないと連絡をしてきたばかりだった。
入院してしまったものは……しかたがないが。
なんとも釈然としない。

医師と妻で会話がかわされた診察室に同席したわけではない。

妻の電話での言葉から、この神沼にいて推察することしかできなかった。

ノイロゼーだから熱がさがらないなどということがあるわけがない。
手遅れになる。
などという言葉は誠実な医師が安易に使うはずがない。
心をおちつかせようと、部屋の中を歩き回った。
手遅れの説明を医師に問い質さない妻のふがいなさにもひどくいらだった。

『手遅れ』などという具体性を欠いた診断がますます硬質化する。

翔太がそのことばの糸で繭の中に閉じ込められる。

「お父さん、苦しいよ。なんだかよくわからないんだ。お母さんは帰ってしまった。」
そんな翔太の悲鳴がきこえる。
翔太が繭の中で窒息してしまうのではないか。
いくら抜け出ようとしてもますます繭の外壁は厚くなるばかりだ。
なにか得体のしれないものに翔太が呪われている。
とらわれている。
とりこまれ解体されてしまうのではないか。
溶かされてしまうのではないか。
消化されてしまうのではないかと不安になる。

まただ。

安住の地と信じて東京に逃がしたのにヤツラがいる。

まただ。

〈闇〉の触手が翔太にのびてきたのだ。

シュールな幻覚に悩まされた。
妻や子供達の不在の部屋がにわかにだだっ広くなる。
寂寞とした感がある。
いつもなら、起き出してくるミューもムックもどこかにに潜んでいる。
家具や調度品、流しの影にまだ夜がわだかまっている。
部屋に流れ出してくる、冷気を帯びた〈闇〉に。
とらえられてしまうのではないかという恐れが重くのしかかってくる。


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子どもに死なれた父からの手紙 イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-09-28 09:34:04 | Weblog
14

小野崎からのものだった。
誠はなにか不吉な予感にあわただしく封を切った。

成尾誠様

ずっと前に成尾、きみが翔太君のことで悩んでいたときにぼくはなにもしてあげられなかった。
tellにもけんもほろほろの対応しかしなかった。
手紙までもらったのに返事も書かなかった。

ぼくは悪い友だちだ。
友だちの名にふさわしくない。
でもだいぶ、数年も遅れしまったが返事を書かせてくれ。
実は、香取から電話があってきみがあの夜、わざわざわが家の門前までかけつけたことを知った。
ありがとう。
ほんとうにありがとう。
慧もよろこんでいることだろう。
霊になってしまえばなんでも見えてくるだろうから……。

きみがきてくれたという、あの時ぼくは義父と言い争ってっていた。
知ってのとおり、彼は県の教育長をしていて、東大出の高級官僚だ。
来年の衆議院の選挙には党から立候補を打診されている。
大切に時期だ。
ぼくは妻と結婚するまえから彼を尊敬していた。
よく彼の家にでいりしていて彼女ともごくしぜんにひたしくなり結婚した。
このことはきみもしっているとおりだ。
妻を愛している。
慧のこともかけがえのないひとり息子だ、愛していないわけがない。
ぼくはいろいろなことを知っているし、わかっていると思って生きてきた。

ぼくは理系の人間だ。
成尾のように文系ではないので、こんなときどうしたらいいのか判断できなくなってしまう。
文学書や哲学や心理学の本などはよんでいない。
だからいまになってみると人間のことなどなにもわかっていない。
無知同然だとおもう。

ぼくの尊敬する義父は、慧ののこした遺書は公表するなとぼくに命令調でいった。
慧がどんなにクラスでイジメられていたか、それをけしかけているのが教師だったということが、ことこまかに書き記されていた。
いやむしろ、教師が率先して慧をいじめていたのだ。
体刑がともなっていた。

妻は父に反対して、ぼくのほうについてくれるとおもったのに……。
妻は父に反対して遺書を公開することに賛成してくれると期待していたのに。
父の命令に従順に従った。

慧の遺書には慧をおいつめたものの卑劣な手口のかずかずが列挙されていた。
箇条書きされていたそれらのことについては、いまは、ぼくは語るまい。

ぼくはいままでしっかりとふみしめていた地盤が、がらがらと崩れてしまった困惑に苦しめられている。
ぼくは慧の悩みは何も理解してやれないでいた。
それどころか、自殺するほどの苦しみを何も感知してやれなかった。
ぼくは父親として失格だ。
義父が慧の遺書を持ち帰るのにもさからえなかった。
ことを公にしたくない彼の気持ちは理解できる。
でも死んだのは慧だ。
彼にとっても初孫だ。
かわいくないわけがない。
それなのに、どんなことがあってもこの事件は公にして、県の教育界にたいする不信感を募らせることはできないと泣いていうのだ。
ぼくらはもうおわりかもしれない。
ぼくはいま離婚を考えている。
なんだか無様なことばかり書いてしまった。
ごめん。
悲しいよ。
じぶん自身がふがいなくて恥ずかしい。
                                  小野崎 俊

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死の糾明 イジメ教師は悪魔の顔 麻屋与志夫

2011-09-27 14:54:52 | Weblog
13

朝から、テレビは慧君事件で大騒ぎとなった。

「そっとしておいてください」

画面では……、小野崎がうなだれていた。
伏し目がちだった。
意気消沈。
いまにも泣きだしそうだった。
おなじ言葉をくりかえしていた。
小野崎に誠は歯がゆかった。

父親だろう。
子供が死を賭して、抗議しようとしたことを。
糾明する立場になぜ立たないのだ。
それで、教師としての立場が危うくなるのなら。
教師なんかやめてしまえばいいのだ。

なぜなんだ。
息子が、死をもって抗議したことを糾明しない。
なぜ慧君が追い詰められたのか。
客観的に事件をあきらかにする方向で。
発言できないのか。
またこの問題も。
不明瞭なまま。
解決されず。
世間から忘れさられていくのか。

それでいいのか。
それでいいのか。
小野崎が目前にいるように、誠はめずらしく激していた。

教師であるまえに父親なんだ。
父親は命を賭して家族を守るべきなんだ。
それが義務だとか、そんなもんだいじゃない。
男としての本能だろうが。

電話がなった。
テレビをみた妻からのものだった。

翔太を転校させてよかったわ。
誠ちゃんが感じていた不安ってこういうことだったのね。
慧君かわいそう。
妻は泣き出していた。
妻の声をきいているうちに誠は冷静になることができた。
香取と会話を交わしていて……。
口からついてでた。
《われわれは暴力の国にすんでいる》というのは。
フオークナーの言葉だったかもしれないと唐突におもった。
 
冷えた朝食をひとりですませた。

スーパーで買い物をした。
あいかわらず、妻は子供たちのところだ。
単身残留の、独りだけの生活がつづいている。
帰宅したときの習慣で。
大谷石の塀にはめこまれている大型の郵便受けを。
のぞいた。
白い封書が底のほうに落ちていた。
 

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友だちが友だちを殺す? イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-09-27 09:03:35 | Weblog
12

(体育館のマットのなかで中学生が窒息し、
殺されていた問題もなにも解決していない。
刑は確定したもの動機などは解明されていない。
そこえきてこのところ毎日のようにイジメによる自殺がテレビをで報じられている。
どうしてそういうことが起こるのか。
なぜ友だちを死においこむそんな残酷なことのできる子供が育つのか。
わたしたちの敵には姿がないのかもしれない。
あるいは、絶えず姿をかえるモノにわたしたちはとりこまれてしまうのかもしれないのだ。それが学校にはながいこと棲みついているのだ。学校ほど、外部の人間には未知の領域はない。
教師とまだ認識力の曖昧な子供たちしかいない広がり。
闇だな)

それは、学校が、教室が密室を形作っているということによるものだろう。
おおぜいの人間がいるのに、密室というのはおかしい……と誠はながいことかんがえてきた。
教師のまわりは、認識力の低い子供たちばかりだ。
なにか、事件がおきても、けっして客観的な判断はできない。
翔太が鞄の蓋をカッターナイフできられたときも曖昧なまま事件にもならずに、無視され……担任教師の一存で処理されてしまった。

もし、あのまま転校しないでいたら、どうなったろうか、刃物が事物にむいているうちはいい。      

翔太の体にむけられていたらとおもうとふるえがくる。

現に翔太の姉の冴子は小学3年のとき男の子にコンパスのとがった先で胸をつかれたことがあった。
じぶんたちが、暴力の国にすんでいるのをあらためて思いおこした。
暴力は形をかえて、いまだにいきのこり、われわれの理性を麻痺させ、われわれを支配しょうとしているのだ。

「それは、問題をおおきくとらえすぎるよ。誠はいつも、そうなんだ。かわっていないな……おまえさんの思考パターンからすれば、……」
「いや、おおきくとらえることが、小野崎はじめ、教育の現場にいるひとたちへのおもいやり、遠慮なのさ。個人攻撃はこのさいつつしむべきなのだ」
「教育だけが……マスコミの手つかずの……伏魔殿みたいなもんだ……。なにがおきても根本的な反省や解決策がこうじられない」

組織の中で生きたことのない人間がなにをいうという、中島や小野崎の声がふいによみがえった。
 

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唇にチャック イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-09-27 06:07:10 | Weblog
11

おどろくほど早く、注文したクリームシチュウはテーブルにきた。
ゆげをたてている。
解凍コックが作ったものだろう。
レトルト食品をチンしてだすだけの。
レストランのコックを誠はそう呼んでいた。
だが、下手に素材から調理するより旨かった。
ひとくちすると体があたたかくなった。
それでかえって、じぶんが寒さでひえきっているのをかんじた。
むろん悪寒は、寒さのためだけではない。

「あいつの女房のおやじがきてからあんなふうに扉をしめたきりになった」
小野崎の義父は県の教育長をしていた。
結婚当時は夫婦ともども出世コースだ。
などと、ずいぶんと友人やっかまれた。
「それで……クチビルニはチャックさ」
香取が非情な動作で唇の上で指を横にひいてみせた。
「そんなバカな。かりにも一人息子が抗議の自殺をしているんだ。真相の糾明があってしかるべきじゃないか」
「そっとしておいてください……。とりつくしまもない、というところにおまえさんがかけつけたというわけだ」
「なんだ、最初から、ぼくがきたのをみていたのか、ひどいやつだ」
「いや誠ならなかにいれてもらえると、期待していたのだ」
「期待がはずれて、ざんねんだったな」
「まあ、あんなもんだろう。あの状況でインターホンを押せるほど、誠は強面じゃないからな。期待するほうがまちがっていた。プレス人間の悲しい性だな」

慧君は5日前に家出をしていた。
詳細な内容は発表されていないが。
担任の体育教師の暴力に死の抗議をするという。
遺書がのこされていたのだという。
暴力をうけ。
虐待され。
しだいに追い詰められていく状況が。
どうやら、こまごまとノートに記録されていたらしい。
それで、はやい段階から捜査願いがだされ、ひそかに警察も動いていた。
それが、今夜。
野犬があまりほえるので。
パトカーをとめて八幡山公園内にはいった警官が。
首をつって死んでいる慧をさがしあてた。
事件は公にされてしまった。

そういう経緯を誠は香取からきかされた。

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ハイエナの報道陣 イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-09-26 13:49:32 | Weblog
10

小野崎の家の周囲には何台か車が止まっていた。 
報道関係とわかる社旗を立てた車がおおい。
あたりが、ぼうっと霞んでいた。
ヘッドライトの光りで照らされていた。
薄明に雪がまっている。

「慧君の学校関係のかたですか」

ふいに、マイクをつきつけられた。
戸惑いながらも、否定した。

アプローチを玄関にいそぐ。
インターホンで何人かが内部と話しをしている。

「なにか、お話しはありませんか」
などと、マイクで無表情なインターホンに問いかけている。
それはまるで、どんなことがあっても、情報をとろうとしている――。
腐肉にむらがるハエエナの鼻先のようだった。

スチール製の扉は冷ややかに沈黙している。
いっこうに開きそうもない。
堅く閉ざされていた。
外部からの声には応えはもどってこない。
誠が報道陣をおしわけて自分が声をかけても。
扉からはなんの返事も得られないだろう。
また、小野崎には迷惑だろうと判断した。
車にもどることにした。
小野崎の苦悶を思った。
とてもインターホンを押すことはできなかった。

誠の車の脇に男がいた。
雪が肩先につもっている。 
キルテングのジャンバー。
深刻な顔。  
香取だった。
香取も小野崎とはクラスメイトだった。
そして野州新聞の記者であることを誠は思い出した。
瞬時にそう判断できないほど誠は困惑していた。
疲労していた。 

「すぐちかくに、深夜営業のレストランがあるから」
「いつ……から……のことだ?」

卓につくとさっそく誠は香取に訊いた。
「宇都宮南署に捜査願いがだされたのは5日まえだ」
「そうか、なにも知らなかったもので。今夜電話もらって、おどろいてかけつけた」
香取と会話をかわしているうちに誠は空腹に気づいた。
親友が、息子の死で嘆き悲しんでいるのに。
食事をすることに後ろめたさはあったが。
クリームシチュウを注文した。


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黒川は濁流/麻屋与志夫

2011-09-26 09:10:29 | Weblog
9月26日 月曜日
ブログです。

●先週の水曜日は台風が来るというので塾は休みにした。
土曜日と振り替えた。
ところが、風はたいしたことはなかった。
雨も夕立ていど。
直に止んでしまった。
これだったら、塾を休みにしなくてもよかったな。
といったところ……。
「影響がなくて、ありかたいことじゃないですか」とカミサンにたしなめられた。
それもそうだ。
この鹿沼は自然の被害にはほとんどあっていない。
アリガタイことなのだろう。

●翌日。木曜日。
かみさんとひさしぶりでベニマルまで買い物に出た。
黒川の土手が増水で崩落していた。
テイセンの幸橋の橋脚に増水で流されてきた木の小枝や藁くずのようなものがひっかかっていた。ああ、上流の日光のほうはかなりの降水量だったのだなと思った。

●平常なら、清流。雨後なので濁流。
黒川がこんなに濁っていることはめずらしい。
しばらく増水して、川音も高まっている流をみていた。

●この黒川の流れをテーマとして、小説をいつか書いてみたい。
川の流れをみながら空想にふけるのが好きだ。
楽しい。

●イジメ教師も半分は書ききった。
後半は劇画調にがらりと趣向が変わります。
これからもお楽しみください。


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死ぬほど辛いイジメ イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-09-25 20:56:37 | Weblog
9

針金のピエロの形がこわれる。
形がするするととける。
一本の……。
がながいハリガネだけの存在になる。
誠の上半身にからみつく。        
ハリガネはどんどんのびる。
銀色の光るハリガネはながくのびる。
触手のように誠にからみつく。
グルグル巻きついてくる。
 
地獄にいこう。

能力もないのに、どうして無理してさからうのだ。
おれのいいなりになっていれば楽なのに。
いいおめさせてあげるのに。
バカだな。
おまえ。
ほんとにバカだ。
ハリガネが誠にからみついて締め上げる。
いまや、ハリガネは……悪魔の触手だ。 
胸がくるしくなった。
息苦しい。
 
慧はどんなイジメにあっていたのだろうか。
死を選ばなければならい。
死にいたるような。
屈辱と苦しみとはどんなものだったのか。
わからない。
体刑だけではない。
殴られるというだけのイジメではない。
なにかもっとヒドイことがあったのだろう。
悪魔の介入があったような気がする。

死ななければならないようなイジメ。
死ななければ逃げられない。
イジメ。

怒りがこみあげてきた。 
慧、慧くん。
おじさんがどんなことがあっても追及してやる。
慧を死においやったものの正体を白日のもとにさらしてやる。
それがどんなものであるかわたしにもわからない。
だがなにかかならず形があるはずだ。
翔太が担任の先生からイジメられた。
やむをえず東京の転校させていた。
慧のことがわが子のことのようにおもえた。
かならず、おいつめてソイツの実態をみきわめてやる。
慧くん、やすらかに眠ってくれ。
慧に無念さはおじさんがはらしてやるからな。
 
どうしてなんだ。
ソイツはそんなに怖い存在だったのか。
慧なにをされたんだ。
おじさんに、なぜ相談してくれなかったのだ。

なぜだ。

誠は危うくハンドルを右にきった。
路肩の車が接触した。
衝撃がハンドルに伝わってきた。
体が凍えていた。
 
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