田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

夜のパトロール 2 /奥様はvampire 麻屋与志夫

2009-06-30 17:00:03 | Weblog
奥様はvampire 14

○「夜のパトロール」にでかけます。閉じられた薔薇図鑑の上に付箋がはりつけて

あった。いままでも、こういうことはあった。カミサンはふいに消える。なんの予

告もなく夜ふいに消える。

でも今夜はなにかしらいつもと違っているようだ。カミサンが玲加ちゃんを伴って

消えたこことには異次元からの働きかけがあった、と推察して慄いた。わたしはカ

ミサンがまだ恋人であったころから小説をかきづけている。すでに小説と取り組ん

でいたわたしは周りの劣悪な環境と刺激のない田舎暮らし中で勘だけをたよりに書

いてきた。直感能力には自信がある。

わたしは、あわてて窓辺によった。夜の庭がみえる。網戸越しにばらの芳香がただ

よってくる。ふたりの姿は見あたらない。緊急の場合なのに、わたしは庭からたち

のぼってくるここちよいばらの香りにみをゆだねている。こういうときだからそ、

冷静にならなければ……。しかし体は部屋の中を移動して、武装のための準備

をしている。今宵は満月。予期せぬトラブルにまきこまれるような予感がする。

カミサンは来る日も来る日も、ばらの話を際限なくわたしの耳もとでささやきつづ

けた。いまではおかげで庭のばらの品種はほとんどそらんじている。

庭に出る。ばら園を横切ることのできるとはいまのところわたしとカミサンだけ

だ。迷路のような植え込みなので知らないひとがはいりこむとばらの棘に阻まれて

一歩もすすめなくなる。棘でバリアをはってあるようなものだ。

わたしは妻の残り香を追いかけた。まるで臭跡をたどる犬のようだ。いまのところ

臭いには異常はない。事態が急変すれば匂いもかわる。ふたりの匂いは黒川べり貝

島のほうにむいていた。貝島橋をわたって犬飼地区にはいるのは危険だ。人狼神社

のある方角だ。

「小説を書いているようだったから」

足もとを流れる川風をほほにうけてふたりは欄干にもたれていた。くつろいだよう

な雰囲気だがなにかおかしい。パトロールにでかけると書き残したことだっていつ

ものパターンではない。だいいち玲加がひどく緊張している。中州に人影があっ

た。

「捕食中なの。間にあわなかった」

この気配を感知してカミサンは飛びだしたのだ。ひどく残念そうだ。

「風向きがかわった。わたしたちに気づいたわ。くるわよ。玲加」



●カミサンの薔薇ブログ「猫と亭主とわたし」もご愛読ください。vampireには薔

薇がよく似合いますよね。薔薇のピクチャはすべてカミサンの提供です。

リルケの薔薇…バラをこよなく愛した詩人ライナア・マリア・リルケ。     この赤いバラは名前がわからなかったのでリルケにわたしたちが捧げたバラです。
       

       

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夜のパトロール/奥様はvampire 麻屋与志夫

2009-06-29 16:59:11 | Weblog
奥様はvampire 13

○GGは小説を書きだしていた。

孫の麻耶の人気のおかげでGGにも次回作の依頼がはいっている。

いつごろから、こうして夜になると文章を書く習慣がついているのだろうか。

二階の部屋ではカミサンが玲加と話し込んでいる。

ときどき足音がする。

○華奢な体躯なのに、足音はどんどんと大きく響く。

長い年月生きながらえてきているので、外見よりもと緻密な密度で体ができあがっ

ているのかもしれない。

蹄で歩いているようだ。

長い年月の重みをその体に溜めこんでいるので、歩くとあんなに重々しい音がする

のだ。

○足音が途絶えた。

○GGは不吉なものを感じて二階にかけあがった。



●薔薇ブログ「猫と亭主とわたし」もぜひご愛読ください。この小説の書かれてい

る現場を裏から見るような雰囲気のブログですよ。

      アイスバーグ
       






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歴女へのレクチャー/奥様はvampire  麻屋与志夫

2009-06-24 14:15:53 | Weblog
奥様はvampire 12

○幼い時から美智子オバサマの話は、薔薇のおじいちゃんからさんざんきかされて

きた。北関東のさらに北の果てに薔薇の好きな、その町の人のことが大好きな、町

を守ることに使命を感じている娘が住みついている。娘はおじいちゃんの反対を押

し切って50年ほど前にヒトと結婚してしまった。その町には、わたしたち一族の

敵、人狼もずっと昔からいる。そいつは肉食系の今風にいえば吸血鬼だ。わたした

ちの一族が都落ちしてきた玉藻の前を守護して東北まで落ちのびようとしたとき食

らってしまったヤツラダ。どのへんで枝分かれしたかわからないが、もとは同族。

それで頼りにしていた、無防備だった。それをいいことにして那須野が原の林の奥

でわたしたち一族を、襲い、血を吸い、たべてしまった野蛮な人狼一族。その拮抗

はいまだにつづいている。そんな危険な地域で必死に人としての暮らしをしてい

る。美智子オバサマ。いまその伝説の夫婦の家にわたしはいる。寄宿することにな

った。歴女としてこんなわくわくすることはない。

○そうなのよ。玲加ちゃん。この町の人はこの町を支配しているのは、自分たちと

おもっているの。自分たち人間以外に住みついているものはいないと信じている

の。かってに、周囲の森や林や原野を耕してしまった。人外のものが住むには劣悪

な環境にしてしまった。いまそのリベンジにあおうとしているのがわからないの

よ。

○黒川の水は昔の豊かな流ではない。街路樹まで社の森まで消えていく。寂しいこ

とだ。

山の木が伐採されたままだから雨が降ると黒川は濁流となって増水する。でもそれ

は一昼夜くらいでまたいつもの細々とした流に戻ってしまう。町の中央を黒川のよ

うな清流が貫通しているのはめずらしいらしい。山の動物たちも町におりてくる。

そして人狼も例外ではない。

○歴史に興味をもつことはすばらしい。この町ではいまや伝説となる事件がおきょ

うとしているのだよ。玲加クン。この町の伝説の生成過程にキミは参加することに

なる。人狼吸血鬼とvampireの闘いのはじめに立ち会うことになったのだよ。終わ

ってしまった歴史ではなくてこれから歴史にのこるようなことに名をとどめること

になるだろう。

○ますますすごいことになるわ。



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歴女のスケット/奥様はvampire 麻屋与志夫

2009-06-23 06:05:50 | Weblog
奥様はvampire 11


〇「そのことばはそつくりあんたらふたりにお返しするぜ。じゃまなんだよ。あんた

らが」

おう、痛いぜよ。と薔薇の枝でたたかれた傷跡をなめている。

爪をぐいっとひくと剣のようにのびる。

ざっと剣風をともなって切りこんでくる。

わたしとカミサンは後ろへ退った。


化沼高校の二階。

一年B組の教室。

窓から転校生の見園玲加が道路一つ隔てた日曜大工の店Kを見下ろしている。

ただ見下ろしているわけではない。

異常を感じるセンサが稼働した。たしかにおかしい。

広い駐車場に黒い竜巻が発生している。

ただの竜巻ではない。円筒状なのだ。

そして、その中心から殺気がもれている。


これだったのね。ぴぴぴっとわたしの感覚を刺激したの……。

そうわかると玲加は教室をとびたした。

「見園どこへいくの」

「玲加どこへいくのよ」

血相かえて飛びだす玲加に何人かのクラスメイトから声がとぶ。

長い黒髪が五月の風になびいていた。美しい。

玲加の姿はしかしもうそこにはなかった。

校庭を走っている。

校門を出た。

黒い竜巻はない。

円筒状の異空間がある。飛びこむ。

「やつぱり美智子おばさまだぁ。」

「神代寺の歴女クラブの玲加さんじゃないないの」

「なにおとぼけだぇ。スケットを呼ぶということは、徹底抗戦の気が前とみたよ、

麻生の千年ババァ」

「美智子おばさまのこと……。そういうあなたはゆるしませんよ」

「ひとまずひく。あとがこわいからね」


「こんなにはやくきてくれるとはおもわなかった」

「うちに下宿したらいい」

転校してきたばかりで、まだ土地カンのない玲加にGGはすすめた。

カミサンは薔薇の鉢植え、ゴールドバニーを買ってごきげんだ。

       

       

       

玲加はカバン一つで早退してきた。
 
歴女という言葉はまだあまり知られていない。

歴史に興味をもつ女性のことだとGGは解説された。

カミサンが薔薇園の父を訪ねた時に今日あることを予期してスケットを頼んでおい

たのだ。さきほどの身のこなしから見ても相当の戦力になる。

「だったら、この化沼は興味津津だ。ここには那須野が原の九尾の狐、玉藻の前伝

説がある。そして出来上がってしまった伝説ではなくこれからいくらでもフイルド

ワークで掘り起こせるおもしろさがある」

「わあ、ぞくぞくするな。歴史発見ね」

「それにね、ここは化沼。化生の悪霊、人狼――今風にいうなら吸血鬼。わたしに

いわせれば、BK(ブラックバンパイア)の拠点が奈良のむかしはからあるのよ」

「ますますカンゲキ。歴女クラブの友だちにはしたらジラシーものね」
 


●奥さまはvampireをよりよく理解していただくために、カミサンのプロク、mima

の「猫と亭主とわたし」もぜひぜひご愛読ください。わたしがどういう環境でこの

小説を書いているか…‥さらに興味がわくことうけあいです。





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薔薇の棘/奥さまはvampire  麻屋与志夫

2009-06-20 15:10:31 | Weblog
奥様はvampire 10

○カミサンを守るためにジャンプした。

一瞬、まだまだやれるとい感情がわきあがった。

任務遂行。

脳裏にうかんだことばだ。

だが、そのとばは尻の肉への激痛に消された。

あたりはマロニエの幻のときのように暗くなった。

すぐそばに人がいる。

そのはずなのに、見えない。

周囲にはだれもいないよただ。

カミサンが薔薇の枝をかまえている。

「BVね。うちのダーリンに何の恨みがあるの」

「かっこつけるんじゃないよ。この千年ババァ」

背丈が倍近くなり、脚もたくましくまっすぐにのびていた。

そのために衣類がはじけていた。

露呈された青黒い爬虫類のようなごつごつし膚。

顔はまさに吸血鬼のものだった。

般若に似た顔。

乱杭歯に長い犬歯。

歯を剥いて襲いかかってきた。

わたしは全身に若やいだエネルギーが満ちていた。

さっきからおかしい。

体が柔軟に動く。

尻の痛みも消えている。

出血もとまった。

「お、おまえは」

BKがたじろいだ。

「おまえは……わたしたちの……そんなわけはない。人間のはずだ」

わたしは吸血鬼をみてもさほど怖いとは感じなかった。

想像を絶するほど醜悪な顔だ。

でも恐怖は感じなかった。

唇からは黄色く濁った涎をたらしていた。

「食らってやる」

眉間には深い二本の縦じわが刻まれていた。

目は白濁してぶよぶよながれだしそうだ。

カミサンが薔薇の枝でうちかかった。

叩かれた顔面から青い液体がふきだした。

いやなにおいがする。

まるで膿だ。

「薔薇の棘は美しいものを守るためにある。あんたは消えなさい」



●カミサンの薔薇ブログ「猫と亭主とわたし」もぜひご愛読ください。






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巣ごもり  麻屋与志夫

2009-06-19 07:21:23 | Weblog
6月19日 金曜日

●今日は、巣ごもり的に終日拙い文章を書きつづる予定だ。

カミサンとの愛の巣に閉じこもることなんとなんと半世紀。

元祖巣ごもり男だから一日外にでないでHAL(可愛いわたしのPC)と向かい合うこと

などカルイ軽い。

●ときあたかも、梅雨。利休ネズミ色に垂れこめた空からはいまにも雨がふりだし

そうだ。

湿り気をおびてぼってりと重くなりなおかつすこし臭くなっている掘りコタツのか

け布団を乾かすためにもいちにち家にいようとおもう。

いつもブラッキがコタツでは同伴するので猫チャンの臭いもする。

●掘りコタツの隣に並べた座卓の上のアスパラの空き箱で構築した本棚。

ご覧のようにヤッタネ、五段になった。

       

風雲五重塔ならぬ、五段重ね紙製本棚。

どこが風雲かというと、ちょっとした振動でも倒壊の危機に瀕しているからであ

る。

カミサンは40キロ。

お淑やかな歩き方だから心配ないが、わたしのほうはその倍も体重がある。

棚のそばではそろりそろりと歩くこととあいなった。

●奥様はvampireはこれからますます現実離れした超怪奇伝奇小説となっていくよ

うです。

よろしくご愛読ください。

●かみさんのブログ「猫と亭主とわたし」もよろしく。

亭主との愛の巣ごもりぶりがよめますよ。

わたしのぐうたら亭主ぶりがみごとに書かれている、とまあわたし的にはおもって

います。

バラの好きな方にも楽しいブログですよ。



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襲われる/奥様はvampire 麻屋与志夫

2009-06-18 23:19:09 | Weblog
奥様はvampire 9

○街路樹――マロニエが切り倒されたくらいで、どうしておおげさに騒ぎ立てるの

だろうか。

だれもサワガナイカラGGくらいはマロニエの切り株に腰を下ろして涙をこぼしてあ

げなければ……。

朱の涙をこぼそう。

そうおもったのだ。

校庭の桜はむぞうさに切る。

神社のイチョウの枝は切りまくる。

あげくのはてに神社そのものを壊してしまう。

樹木が町からきえる。

黒川べりにマンションがたった。

桜並木が何本か消えた。

山の木が伐採される。

黒川の水量は減るばかり。

林が消えて団地となる。

そういうことに、腹を立てていたからだ。

樹木の精霊が泣いている。

そうおもっていたから、ブラック・バンパイア(BV)のめくらましに容易にひっかか

ったのだ。

おはずかしい。

ばらの鉢をカミサンはまだ眺めている。

花を咲かせているものもある。

異様な風体の中年女が彼女に近寄っていく。

醜く太っている。

あしが0脚に開いていてガマガエルでも歩いているようだ。

よたよたと彼女のそばに寄りなにかいっている。

彼女から悪意がながれでている。

彼女から邪悪な想念がカミサンに放射された。

わたしはカミサンのところに走る。

「バラなんかきらいだ。棘がある。棘がある。バラなんかきらいだ」

呪うような、悪意のこもった音声でことばをくりかえしている。

わたしをみてカミサンが当惑したような顔をした。

とりあわないようにという顔をした。

「mima。逃げるんだ」

女が鉤づめもあらわにカミサンの顔に手をのばした。

まにあわない。とうしてもっとはやく気づかなかったのだ。

わたしは女とカミサンのあいだにジャンプした。




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目くらまし/ 奥様はvampire    麻屋与志夫

2009-06-17 15:01:18 | Weblog
奥様はvampire 8

○化沼(あだしぬま)高校の前のマロニエ並木をカミサンと歩いていた。

日曜大工の店Kでばらの新苗をみるためにでかけてきた。

ふいに雷雨でもくるのか暗雲が垂れこめて暗くなった。

北関東の北端に位置するこの化沼の雷様は有名である。

ともかくサマと敬称をつけて敬われている。

いや、あまりにその雷鳴がはげしいので、おそれおののき、あげくのはてに敬って

遠ざけたい、というむかしからの庶民の知恵がそう呼ばせているのだろう。

一点の光もない高密度の闇。

高密度の闇なんて表現が成り立つのだろうかとぼんやりと考えていた。

「たすけて。たすけてください。このマロニエの木もうすぐ切り倒されてしまう

の」

闇のなかから少女が走りだした。

闇の中なのに少女の姿が見えるのはおかしい。

とは……おもわなかった。

マロニエの根元に少女がはりついていた。

マロニエの木をかかえるようにして少女がはしりだした。

無数の少女の姿がまるで毛根のように付着している。

そんな感じだった。

「ゆっくりわかるように話して」

わたしは少女に応えていた。

「あなた、だまされないで。幻覚よ。吸血鬼のめくらましよ」

そういうカミサンじしんがバンパイアなのだからまちがいないだろう。

「ついていかないで」

わたしは立ち止まった。

ばらの苗をかうことにきめていたKの店は通り越して黒川の土手っぷちにいた。

あぶないところだった。


「なんだぁ。つまらない」

どこかで少女の声だけがしていた。

「しっかりしてよ。わたしがいなくなったら……いまみたいなときどうするのよ」

かみさんは先日、神代薔薇園を訪れた折に、父親からまたなにかいわれてきたのだ

ろう。

一年とくぎられたわたしたちのこの化沼での暮らしについてなにかいやみでもいわ

れてきたのではないだろうか。

もっとはやく帰ってこい。

などと……。あれからまたいちだんとわたしにやさしくしてくれる。


「たすけて」と呼びかけられた声は現実のものとしかおもえない。

吸血鬼がまたわるさをはじめたのか。

この町では不可解な事件や残酷な事件が多発してきた。

いまになってまた……。

消えていった少女の声に意識を今更のように集中してみた。

川の流れる音だけが聞こえている。

やはり幻聴だったのか。

あの震えるような慄く声はほんものだった。

そうとしかおもえない。

あたりは白昼の光。

カミサンはUVカット美白ハット。

UVカット日傘。

UVカット美白クリームの重装備。

べつだんそんな配慮は彼女にとっては必要のないことなのだが心理的な安心感に依

存しているのだろう。

「さきがおもいやられるわ。しつかりしてよ」

眩しそうに太陽を見上げている。

「あいつらはこの町の人が苦しめるのがたのしいのよ。ひとの恐怖心や苦しみ、悩

みを吸っていきているのだから。それにあきれば血を吸うわよ」

そういう吸血鬼の生態に明るいカミサンがこの町からいなくなったらわたしたちは

どうして災害の根を認識すればいいのだ。

おぞましい吸血鬼のイメージが脳裏に浮かんだ。

たしかにこの瞬間にもかれらはわたしたちの弱点をつこうとうかがっているのだ。

虚実のはざまでわたしは迷っていた。

どうすればいいのだ。

襲ってくるものがあれば本能的に戦うしかないのだ。

マロニエ並木はもののみごとに、すでに切り倒されていた。

すくなくと、あの少女の悲鳴には現実味があったのだ。

カミサンはいつものようにばらの苗木を選んでいる。

       

       

       


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連載再開 ばら園にばらの花降る(奥さまはvampire)

2009-06-13 08:14:31 | Weblog
連載再開 奥様はvampire 7

●おまたせしました。連載再開です。と書くとお恥ずかしい。一月以上も休んでし

まった。

●初めて読んでいただく方に。●は現実のわたしがでしゃばります。○はフイクシ

ョンです。●+○ ノンフィクション+フイクションをない交ぜにした作品と思っ

てご愛読ください。




○ばら園にばらの花降る

 大温室が無数の窓群で構成されているように光っていた。矩形に格子で仕切られ

ているので遠目には窓のようにみえたのだろう。五月の薫風にのってばら園からは

かぐわしい芳香がただよってきた。

 彼女はまだこない。

「五月の第一金曜日に会おう」そう決めていたのに彼女は現れない。

 どうしてきてくれないのだろう。もう少し待てば彼女は長い黒髪を風になびかせ

て颯爽と現れるはずだ。温室の方角から来るだろうか。藤棚の方からかな? ああ

早く会いたい。

 彼女とは二月ほど前に一度あったきりだった。

 彼女はバラ園を眺めていた。白いワンピースに真紅細いベルトをしていた。その

後ろ姿をみただけで彼は動悸がたかなるのを覚えた。ヴイルヘルム・ハンマースホ

イの画がいた女性、後ろ姿のイーダの哀愁ある立ち姿だった。襟足にほつれた髪が

風にかすかにそよいでいた。細い襟首から肩にかけてのカーブがしんなりとしてい

かにも女性的だった。それも贅肉がまったくついていない若やいだ肩の稜線だっ

た。どきどきする胸の鼓動をおさえておもいきって声をかけた。静寂をみだすこと

を恐れながら……。

「ばらの季節にきたらもっときれいでしょうね」

 ふいに話しかけられて彼女はおどろいたようにふりかえった。

「どんなバラがお好きですか」

「アイスバーグ。白い花がぼくはすきです」



「あらわたしもよ。小さなアパートのベランダで白いバラの鉢植えをそだてるのが

夢なの」

 会話がはずみ、いつしか二人は花にはまだ間のあるばら園の小道を歩いていた。

「ぼくは大きなばら園を経営して毎日ばらと話しながら過ごしたい。……そしてそ

こにあなたがいてくれたら」もちろん会ったばかりの彼女に後のことばはいえなか

った。

 かれは見栄をはることはなかった。彼女は裕福な家庭に育ち、逆シンデレラ願望

にとらわれていた。ビンボーな生活に憧れていたのだから。彼は恵まれた生活をし

ているふりなどしないほうがよかったのだ。細々としたパートタイムワークで食い

つなぎアパートの家賃をかろうじて払っているとイエバヨカッタのだ。彼女は好意

こそもち、彼を軽蔑するようなことはなかったろう。彼の貧困生活こそ彼女の理想

だったのに。昼間でも部屋の中には薄っすらと闇がとどこうっているようなアパー

トで明るく夫を支えて健気な妻として生きること。それが彼女のねがいだった。裕

福ではあるが父と母のように距離のある家庭で生きることはいやだった。

 彼のはなしをきいているうちに彼女は少し落胆した。でもなにかほのぼのとした

心になっている。だからもういちど会いましょうという彼のもうしでを拒むわけに

はいかなかった。

 ばらが見事に開花していた。アイスバーグも咲いている。シテイオブヨークの白

い花弁も美しい。彼女の面影を追い求めながら彼は待っていた。

 彼女ははまだこない。

       

       

 ああ会いたい。彼女に会いたい。名前すら聞きはぐった彼女。たった一度しか会

っていない彼女。

会いたい。話したい。ばらのはなしをしたい。愛している。人目でも会いたい。

あなたのことは昔から知っていたような気がする。

あなたのことをおもっているとこう胸のあたりがほのぼのとしてくる。前世から知

っていたのかもしれない。

愛している。交際してください。そしてぼくがきらいでなかったら結婚して下さ

い。いまは、ビンボーだけれどもあなたのために、あなたをしあわせにするためな

ら粉骨砕身、毎日一生懸命に働きます。

あなたのいない人生なんてかんがえられません。

彼女はまだこない。

 あなたにひとことだけ好きですと伝えたい。

それからというもの、毎年五月の第一金曜日になると彼はばら園にやってきた。さ

いきんでは、記憶もあいまいになって、五月でなくても一週目の金曜日、いや体さ

え許せば金曜日にはいつも彼女の姿を求めてばら園にきていた。

 彼は彼女をおもうことで、いつかかならずまた彼女に会えるというおもいがあっ

たので、人生の苦難をのりきることができた。この歳まで生きてこられたのは、彼

女との再会を夢みていたからだ……。胸のおもいを彼女につたえたいという希望を

もつことで、生きてこられたのだ。彼女の姿はもう見られないかもしれたい。……

でも、彼女をおもう心はかわらない。姿は見ることができなくても、彼女のイメー

ジは消えることはない。

「春になったら、あのヘンスに咲き乱れる蔓バラを見にきませんか」

だれかとそんな約束をしたような記憶が心の隅にひっかかっている。それは誤って

刺してしまった薔薇の棘のようにちくちくと記憶を刺激するのだった。

「そうね。思いでベンチであいましょう」

彼女はそう応えてくれたな気がする。彼には遠い記憶の美化がはじまっていた。

 来る年も、来る月も、ほとんど毎日のように彼は彼女との再会を夢見てばら園に

かよいつめた。彼女と過したあの一瞬のきらめきをもう一度だけでもいいから、感

じたかった。彼女はマインド・バンパイァだったのかもしれない。彼女をひとめみ

たものは、そのイメージが網膜にやきつき、もう忘れられなくなる。彼女にかしず

き、彼女のよろこびが彼のよろこびとなる。彼女のためならなんでもしてやりた

い。その心の高揚が彼女がさらに彼女をよろこばせる。

 ほかの女の子と知り合いたいとはおもわなかった。それは熱烈なロゼリアンが自

分だけの、世界でたったひとつのばらをつくりだそうという情熱に似ていた。じぶ

んだけが初めて出会う、このばらはわたしだけのものだという心情。


 しかし、彼には彼女と再び会うチャンスは訪れなかった。

 どんなに愛していても、会えない彼女をおもっていた。

 彼女を待ちわびて、年月だけがとぶように過ぎていった。


 ふいに何に驚いたのか鳩の羽音も高くとびたった。彼女がこちらに向かって走っ

てくる。彼はうっとりと眺めていた。「おかあさん」彼女が彼を貫けて走りさって

いく。そのかなたに年老いた女性が薔薇のほほ笑みでこちらをみている。彼女は彼

にはきづかなかった。
 
 だが、かれは走り去っていく女性の顔を老婆にかさねていた。

 いい顔してるな。まるで初恋の彼女に会ったような顔をしている。冷たくなって

いる老人の枕もと、といってもベンチなので枕などあるわけがないが、一茎の白い

バラが彼によりそうように、朝の光のなかで芳香をはなっていた。


●「という話を書いた」ととなりのカミサンにいった。
 
 わたしたちは「思いでベンチ」に仲よく並んで座っていた。
 
 かみさんはどれどれというようにわたしのPCをのぞきこんだ。

 わたしは二十代のはじめに「抒情文芸」で雑誌デビューをした。

 五年ほど書き続けた。そのころわたしはここでカミサンとしりあった。

 わたしは結婚して田舎にもどった。そして小説のほうは諸般の事情で書けなくな

ってしまった。そのご、カムバックをめざしてがんばったがミューズは二度とほほ

えんではくれなかった。

 いまだに書きつづけてはいるが、どうやらこんなところらしい。

 初恋の相手を待つ主人公にわたしのミューズのほほ笑みを待つ心情を託した。

「ラストシーンね。空からばらの花が降って来て彼の姿を埋もれさせた。そう書い

たほうが派手でいわよ」

「ファフロッキ現象か」

「ばら園でばらの花が降る。あたりまえかもしれないけど。遙天空から降ってきた

となると意外性があるでしょう。そう書いたら」

 わたしはたしかにミューズとのであいをあれからずっと待ち続けているのだろ

う。だが……。生きている限り二度と小説が売れだし、フルタイムの作家になるこ

とはないらしい。
 
 寂しいことだが。



●カミサンが「http://blog.goo.ne.jp/mima_002」というブログを書いています。

どうぞ、そちらもご愛読ください。



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連載再開 奥様はvampire

2009-06-12 01:54:30 | Weblog
●先ずはいままでのストーリをお読みください


奥様はvampire 1


09、4月16日

○一本の座敷箒がある。

空間に横になっている。

いつでもひらりとお乗りください。

飛び立つ準備はできています。

そんな風情だ。

箒は鹿沼特産のものだ。

もちろん、箒が飛び立ちたくてもじもじしているのは、わたしの空想の世界でのこ

とだ。

「mimaは魔法使いだよね。自由が丘まで飛んできて」

孫娘の麻耶が三歳の時だ。

麻耶はオバアチャンのmimaをお友だちとおもっていた。

いまでもそうだが。

だが、麻耶はまちがっていた。mimaは魔法使いではなかった。

彼女は吸血鬼だったのだ。彼女はマインド・バンパイアなのだ。

●夕刻、雷鳴が轟き、雹がふった。

たった一人の塾生に英語の授業をしていた。

宣伝をしないので塾生は減る一方だ。

教えているわたしがGGになったのだからしかたないか。

これからは、小説を書いて生きていきたい。

●夕日の中の理沙子(2)はへんな終わり方をした。

終わったわけではありません。

これからpart3の準備に入る。

東京の大学に通う理沙子とコウジの恋の行方。

翔太とエレナの恋。

玲菜と翔太の関係は。

宇都宮にのこったキヨミと宝木。

まだまだ書きこみたいことはたくさんある。

●印のところは現在のわたしの生活に基づいたブログです。

○はフイクション。

筋のながれとはまったく関係のない断片が混入することもあります。

例えば夕日の中……に挿入したい文章が唐突に入ることもあります。

わたしのイメージの世界。

わたしの言語空間にあなたたちをご招待します。

●+○=すべてわたしの世界。

ということでしょうか。

GGワールドをお楽しみください。

奥様はvampire 2

4月17日 金曜日

●15日(水)のこと。

T歯科に行くので「荒針回り」のバスにのった。

JR鹿沼駅の手前で左折して停留所。

駅側がすっかり更地になっていた。

なにか建物でもできるのかな? 

と見ていると、カミサンはそんなわたしにはかまわず、すたすた歩きだしていた。

その彼女のグレイのカーディガンの背に赤い亀裂。

赤い裂傷は首筋にむかって伸びていく。

「動かないで。動かないでよ」低い声で前を行くカミサンの歩行を止める。

「ムカデがはっている。動かないでよ」百足の素早さ、刺された時の痛みをわたし

は身をもって経験している。

シャツの袖で、刺されないように注意しながらさっとカミサンの背中を薙ぐ。

百足をうまく舗道に落とすことができた。

見る間に、歩道の脇の草むらにもぐりこんでしまつた。

掌サイズの長さはあった。

巨大百足。

それをみてカミサンは恐怖に呆然と立ちすくんだ。

「どこで付いたのかしら」

●昨日。千手山公園。

いつもご紹介する「恋空」の観覧車があるので有名になった公園だ。

桜の後、つつじの真紅の群落がみごとだった。

仁王門を後にして石段を下りる。

カミサンが悲鳴をあげる。甲高い悲鳴。

「蛇踏んだ」なるほど一メートルはある蛇がつつじの根元に逃げていく。

このところ何かおかしいことばかり起きる。

●そして昨夜の時ならぬ雷鳴。雹。

これはなにかのomenなのだろうか。

いいことの起きる前知らせだといいのだが。

奥様はvampire 3

○それは、長いこと孤独だった。

もう耐えられないほど長い歳月を北関東の小さな田舎町で過ごしてきた。

町は人口四万ほどのほんとうに小さな町だった。

町の名は「化沼」といった。

でもだれも正確に「あだしぬま」と読めなかった。

読めたとしても自嘲をこめて「ばけぬま」という人がおおかった。

妖怪の話にはことかかない町だ。

youkaiと表現できるような現代性のある怪談はない。

……が、街の至る所に精霊が住んでいるようだった。

街の至る所に「玉藻の前」の、九尾の狐の伝説が残っていた。

わたしはこの故郷にかれこれ50年ほど前に帰省した。

父が病に倒れたためだった。

母はすでに患っていた。

そのものは長い孤独から目覚めようとしていた。

そしてわたしと出会った。

わたしも一目で、彼女を好きになった。

○あれからまさに50年。都の身振りも話し方もすっかり忘れてしまった。

「ギャップ」の店員が店の傍らのベンチでPCを打っていたわたしのところに駆け寄

ってきた。

「ほんとに、おくさんシルバーパスを貰えるお年なんですか? 失礼ですが70歳に

なるのですか??」

「まちがいありませんよ」

「信じられない。みんなでカケをしたのです。本当だったらあのひとたちがお給料

からおくさまの買物の肩代わりをするって」

買いものは細めのジーンズたろうからたいした負担にはなるまい。

彼女は店内からこちらを注視している仲間にガツッポーズを送った。

「若さの秘訣はなんですか」

「ああ、うちの奥さんは吸血鬼なんですよ」

「エエエエ!!!!!!!!!!!!」

「いやね、わたしのカミサンは紫外線にあたらないのです。冬でもパラソルを使い

ます。だいいち昼の間はあまりであるきません」

「紫外線にあたらない。参考になりましたわ」

わたしが、先に言った「吸血鬼」なんて言葉は全く信じてはいない。

初めの言葉ではカラカワレタ。ジョークをとばされた。

後の言葉が真実を語っている。そう思っている顔だ。 

店員は頭をさげて、うれしそうに、店にもどっていった。

mimaこと、わたしのカミサンが店から紙袋を提げてでてくる。

「彼女は吸血鬼なのですよ」

そう、シラッと言えるようになるまでに。

50年の時の経緯があったことなど店員は知るまい。

○mimaは出会った時のままの美貌に、微笑をうかべてわたしに近寄ってくる。

奥様はvampire 4

○つきあいはじめてまもない頃、打ち明けられた。

「わたしは人間ではあるけど、人間のカテゴリイには、入らないかもしれないの」

「それでもいい。なんでもいい。結婚しよう」

うそだぁ。わたしのような男が、こんな美人と結婚できるわけがない。

「ほんとにいいのね。ほんとに、ほんとにいいのね」

「ああ、いい。いいよ。はやく結婚しょう」

つまりおそらくだれの場合でも同じなのだろう。

むかしからいわれてきた「結婚は人生の墓場」ということの真の意味をしらずに結

婚して、それを認知せずに死んでいったものは幸いななり。

それをしてしまって、それでも幸せに暮らせたものは、さらにさらに幸せな賢者な

のだ。

○「mima!! それって、すごいと思うよ。mimaってどんどん若くなっていくみた

い」

孫娘の麻耶がいった。

お化粧しているカミサンの後ろで鏡を覗き込んでいた。

三歳の時のことだ。

○愛とはHすること。

Hのない愛なんて「クリープのないコーヒーみたい」なものだぁ。

とわたし的には考える。

「わたしはね、麻耶。子どもをつくるときしかHしなかったの」

「それって、すごい……」

12歳なった孫に話すことではないと思ったのは、わたしだけだった。

孫からは完全理解の回答が戻ってきた。「それって、すごいと思うよ」

普通の人間は愛していればHする。

Hして。Hして。HHHHHHHHHHHHHHHHHして赤ちゃんが生まれる。

わたしは新婚初夜に子どもが欲しい時だけ……。

といわれて仰天した。

逃げるのなら今だ。

○孫の麻耶はごく普通の女の子には育たなかった。

現在完了進行形。

では……今をときめく女流作家。

それでいてT大学医学部の新入生。

これでマスコミが騒がない方がおかしい。

○「父に会いに行きたいの」

心臓が止まるほどわたしはおどろいた。

この50年というものカミサンに家族がいるなどとはきいたこともなかった。

彼女は戦災孤児だと思っていた。東京は渋谷初台の生まれだとは聞いていた。

○「50年。……だけ許されていたの。あなたとはその歳月だけ一緒にいる許可がで

てたの。いままで……それをいわずにほんとうにごめんなさい」

○永遠に生きられる種族にとっては――彼女にとっては、わたしとの50年の結婚生

活はほんの一瞬だったのかもしれない。あと一年来年薔薇が咲くころには彼女はわ

たしから離れていかなければならないらしい。

悲しいことだ。胸が張り裂けるようだ。

○カミサンの父は、神代薔薇園の園長をしていた。

これは一族のものには、既知のことだいう。

わたしは部外者だったのでしらされていなかつたのだ。

○あたりは馥郁たる薔薇の芳香に満ちていた。

いうまでもないことだが、義父はわたしよりも若かった。

○「あまり娘が嘆くので、長老会であと一年だけ延期してくれた」

「おとうさん。ありがとう」

カミサンは真珠の涙をこぼした。

カミサンが泣いたのは、子どもたちを出産したときだけだった。

○帰路。麻耶の「やがて青空」の出版記念イベントにでた。

麻耶の紹介でわたしの「孫に引かれて文壇デビュー」も売り上げを伸ばしている。

でも麻耶の人気にあやかっての売れ行きなのだ。

孫に引かれてを「孫に引かれて善光寺詣り」のモジリと理解してくれるヤングは少

ないはずだ。

○「いまこの会場に、麻耶さんのGPがおいでになっています。一言どうぞ」

司会者にふいにマイクをわたされた。

○わたしはこのブログでフイクションを書いていることを告白しそうになった。

わたしをみつめるカミサンの目が赤くひかったのでおどろいてやめた。

○いま書いていることがはたしてフイクションなのだろうか。

●印のある部分の記述はまちがいなく神に誓って事実だが――○で書くことが曖昧

になってきた。

事実と虚実の隔たりが短縮され混然としてきた。

わたしにはなにも分からなくなってきた。

カミサンとはあと一年といいわたされて気がおかしくなったのだ。

いやボケチャカボケチャカボケチャッチャツタ。

ということかもしれない。

○あと一年しかカミサンと一緒にいられないなんて……正気でいられるはずがな

い。

4月20日 月曜日

奥様はvampire 5

○「sconeは」

「あっ、忘れた!!」

バスのなかに響きをわたる声。

甲高いmimaの声が回りのひとをおどろかせた。

いっせいに乗客の視線がmimaに注がれる。

「スコーンとどけるためにでかけてきたのだよな」

わたしはscornfulにならないように最善の注意をはらってmimaの耳元で囁く。

二人で途中下車。

「また出直してこようよ」

「だってスコーンは温かなほうが美味しいもの」

停車場坂を小走りに彼女の姿は消えていった。

駅前のブックオフで時間を過した。

20分ほど待った。

なにげなくポケットに手をやった。

チリンと鈴の音、しまったキーを

渡さなかった。

あのとき、最善の注意をはらった。

侮蔑しているようにとられないように冷静に話しかけておいてよかった。

でないと逆襲をうけた。

「物忘れのひどいのはおたがいさまね」

にやりと、邪険な笑みで応酬されたはずだ。

童女のような顔に邪険な微笑みは似合わない。

わたしはあわてて家にむかった。

いまごろどうしているだろうか。

手帳に妻の携帯のナンバーを記しておけばよかった。

なんたる不手際。

なんたる不運。

妻は家に入れずどうするだろうか。

引き返してくる。

わたしが戻ってくるまでと、のんびりと庭の薔薇に水をやっている。

バスにのって戻ってくることもあるだろう。

来た。バスが来た。ちょうど、府中橋の上で止まった。

交差点のシグナルが赤だ。

妻はのんびりとこちらに背中をみせてチョコナンと座席にすわっていた。

わたしはあせってバスの窓越しによびかけた。

「ミマ―」

だめだ。密閉されているので聞こえない。

窓の外からトントンと叩いた。

さすがに気づいた。おどろいている。

「なんども同じ道、行ったり来たりしては……ナンダが恥ずかしい」

「回り道して帰ろう」

彼女が忘れっぽいのはあまりに長いこと生きているからだ。

些細なことをいちいち覚えていたのでは頭がパンクしてしまうだろう。

わたしの元を離れたら、すぐにわたしのことなど忘れてしまうだろう。 

わたしのはボケの始まりではないか。

真剣に、真面目に徹底的に心配になってきた。
 
吸血鬼のカミサンをもつと笑いありスリルありで、楽しいったらありゃしない。

4月21日 火曜日

奥様はvampire 6

○もしかしたら幻覚なのかもしれない。

○もしかしたら錯覚なのかもしれない。

カミサンが若やいで見える。

……わたしの願望からくる幻覚なのかもしれない。

錯覚なのかもしれない。

○「あの一作だけで書くのは止めるの」

彼女のいう一作というのは「孫に引かれて文壇デビュー」のことだ。

麻耶の人気のおかげで出版された。

ほどほどに売れている。

いくらけしかけられても、干からびた頭には新たな作品のイメージが浮かばない。

○「それよりまた薔薇園に行きたいな」

「わたしに気をつかわなくていいから。ねえ、どうなの? 書いてみてよ」

さわやかな五月の薫風が黒川べりの遊歩道をふきぬけていく。

ひんやりとした風が頬に心地よい。

これから作品を書くとしたら、なにをどう書けばいいというのだ。

○不景気のため「巣ごもり消費」などとう言葉がテレビで話題になっていた。

かんがえてみると、わたしたちは「巣ごもり夫婦」だったのかもしれない。

○「そのことは思い出さないほうがいいわ」

カミサンに心を読まれている。やはり錯覚なんかではない。mimaはヤッパ麻耶がい

ったように、魔女なのかもしれない。いや、魔女も、マインドバンパイアも同一の

種族なのだろう。

○「そうよ」とカミサンはけろっとしていう。

「あなたのことはいつまでも忘れないから」別れてしまえば、長い彼女の歴史の中

でわたしとのことなどほんの一瞬のこと。

忘れられてしまうだろう。

昨日わたしがかんがえていたことへの回答だった。

○「うれしいこといつてくれる」

わたしは涙ぐんでいた。

○「けっして忘れないから」

○わたしたちは会話に没頭していた。

向こうから肥満女が急速接近してきた。

太っているのにすごく速く歩いている。

どんとカミサンにつきあたった。

なんの抵抗もなく通り過ぎていく。

カミサンが一瞬消えたようだった。

いや、あの女にはカミサンが目にいらなかったのだ。

他の人には、最近の彼女が見えない。

戦慄が背筋をはしった。

○「そんなことはないわ。よけたのよ。こんなふうに」

確かに、彼女がこんどはよこに飛び退るのがみえた。

○若さがなければだめ。

売れる見込みがなければ相手にされない。

これからなにを書けばいいのだ。

わたしは立ちどまっていた。

風が心地よい。まだ生きている。

まだなにか書けるかもしれない。

彼女が消えるまでに、この一年で新作を発表したいものだ。

それには彼女とすごしたこの半世紀のことを書く。

それしかないだろう。

○五月風がふいている。河川敷の新緑が風に揺れていた。





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