田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

人狼と戦う意味 イジメ教師は悪魔の顔/麻屋与志夫

2011-10-14 04:52:15 | Weblog
3

翔太がおとなになっていくとき。
どんな若者になっていくのだろうか。
今宵のこの戦いが。
翔太の未来の記憶のなかで。
どんなふうにおもいだされるのだろうか。
たのしみだ。

おれはそのころまで、生きているか。
そうあってほしい。
たのしみだ。

九尾の正義の心は永久に生き続けている。
あのときは幼かった並子をのぞいては。
並子がたったひとりの生き残りだった。 
だがいまは、ことごとく体は失われている。
母の貞子も並子も。
もはや――。
この世界に肉体は存在していない。

だが誠がいる。
翔太がこうして。
おれの脇にひかえている。

血脈は。
どこまでも。
とだえることなく。
つづいていく。

勝平は妻の並子や。
母の貞子。
最後のの長であった母の姉。
――鹿子に。
そして。
千年を越すの祖霊に。
語りかけていた。

悪の波動を感じる能力。
悪のはびこるのをゆるせない心。
悪と戦う勇気を持つ。
そうしたものが。
ひとりでも増えるように。
いまここでおれたちは戦うから――。
と話しかけていた。

あの殺戮にどのような意味があり。
どのような形で実施されたのか?
いま、そのナゾはとけかけている。

勝平はあの日。
あの敗戦の8月のある夏の日。
蝉しぐれのはげしかった午後。

の女人が皆殺しにされる場を目撃したのだ。
そしてたったひとりの生き残り。
幼い並子と出会った。
並子は長じて勝平の妻となった。

日光例幣使街道。
青黒く天空にのびる杉並木の梢。
雲間にでたばかりの満月が光っている。
ここには尾形一族のかつては女人だけのがあった。
の入口に道祖神の小さな祠がある。
すっかり苔でおおわれている。
すこし離れて、野辺の地蔵が寂しく並んでいる。
廃墟としてうちすてられて半世紀以上も過ぎた。

しかし今宵はいつもとちがっていた。
勝平、誠、翔太がいた。
尾形の血をひくものが3世代そろった。
それも、九尾族武闘派成尾家の血を優性遺伝している男が3人。
ふたたび、人狼と戦える日が到来するのを。
3世代にわたって嫡子がそろったのは幾世代ぶりであろうか。
いや何世代を経ながら待ち望んだことか。
勝平はなんの躊躇もなく、決闘の場をここに選んだことを。
じぶんでもおどろいていた。
この場所が勝平を呼んだ。



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