田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

闇に潜み捕食するもの/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-11-17 06:02:06 | Weblog
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「いこうか?」
翔子はとても竹下通りに戻る気はしない。
こうなんども吸血鬼と遭遇するようではヤバイことになる。
携帯で撮られている。吸血鬼は映らない。
映らないからこそ、みんなが怪しみだす。
わたしたちは映っている。話題になっているにちがいない。
顔をしられると動きにくくなる。

「待って。ココおかしいよ。テントの跡、空洞ができている」
「ほんとだ。このまま放置しておいては、危険だわ」
「工事中というコーン標識でもたてようか」
歩きだしていた翔子に百子が笑いながら話しかけている。
「あの手榴弾には、こんな破壊力ないよ」
翔子も穴をのぞきこむ。
「階段がある。これって翔子、地下からの出口の上にテント張っていた。骨董店をよそおって仲間の死体回収に励んでいたってことよ」
「とんでもないもの見つけちゃった」

ここで引きかえせば、あたりまえの女子高生。
ここで地下への階段に踏みこまなければクノイチ48のリーダーじゃない。

あたりまえでない翔子は階段を降りだした。
女忍者の首領。百子は先頭切って……すでに先に進んでいる。

「携帯、ケッコウ、結合するよ」
「なによ。その結合って」
「ツナガルってこと。むかしはそういう重々しい言葉使ったんだて」
「メールなんかするようになって、日本語が軽くなったなんて……」
「だれが……?」
「うちの『白川郷』のにごり酒好きなオジイチャンも同じこというよ。どこにメールしてるの」
「バレタカ。まだまだ修行が足りないな」
「ゴマカサナイデ。百ちゃん……もしかして、彼氏? かな??」
「忍者に恋はご法度でござる。なぁんてね」

不安を隠すための陽気なオシャベリ。
薄暗い地下道をふたりは進んでいる。
ときどき、地下鉄の音がする。副都心線かしら。
地下鉄のシールド(トンネル掘削)工事のときに、この通路は堀った穴なのだろう。
施工主かゼネコンの経営陣にまで、吸血鬼のテリトリーはひろがっている。
そしてふたりは幻のホームにでた。ぐっと扉を押すとホームにいた。
あっと翔子はこころの中で声をだした。
これって、アノときの。
そうだ、翔子が見ている前で、池袋の地下鉄の通路が膨らんで吸血鬼を分娩した。
壁が膨らみスポッ吸血鬼を産みだしたように見えた。
すべてはあのときから始まった。お兄ちゃんにSOSのメールをした。
純、大好きな、彼氏。

「なに考えてるの」
「ベッニ」
「彼のことでしょう」

もしこのホームに人がいれば、わたしたちが壁から抜けだしたようにみえた。
あのときの吸血鬼もこうした、幻の通路からあらわれたのだ。
翔子は怖くなった。
この東京にはわたしたちの知らない地下通路が、吸血鬼回廊が至る所にある。
そうおもうと鳥肌だった。
人が消える。これでは当たり前だ。
アンダーグランドに引きずりこまれたら、お終いだ。
年間どれくらいの行方不明者がいるのかしら。
もどってきても吸血鬼になっている。
異妖を知覚する勘の鋭い人間でないとわからない。
戻ってきたものが、もはやニンゲンでないことを。

電車の来るはずのない地下鉄駅。ところが轟音を響かせて、来た。
駅名、到着をしらるアナウンスもない。
だが、ふたりは乗りこんだ。
行く先の表示もない。
幽霊電車に乗りこんだ。



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