田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

思い出のリルケのバラ/麻屋与志夫

2010-11-06 23:07:42 | Weblog
プログです

11月5日 金曜日
●塾の教室の引き戸を開けた。
塾生を送りだした。
これで一日の授業時間は無事終わったことになる。
22時になる。
黒々とした狭小庭園にバラが光っている。
ウナギの寝床みたいな庭だ。
25mほどの長さはあるが、幅は3mほどしかない。
そのささやかな広がりの中。
ミイマの庭のシンボルフラワー。
赤いリルケのバラが咲いている。
わたしの好きな白いアイスバーク、初恋の花。
塾生が去って静寂をとりもどした教室からわたしは眺めている。
黄色いバラ。
紫のバラ。
淡いピンクのバラ。
赤く小さく愛らしいマザーズデイ。

●K病院でSクンのお母さんに声をかけられた。
最近街などを歩いていてもときどきすれちがうときに挨拶される。
かつての塾生のお母さんたちだ。
いままでに何人の塾生を世に送り出したことだろう。
一時期は270人も在塾生がいた。
いろいろな職業について、社会でみんな元気に働いている。
工事現場などから「先生」と声が飛ぶ。
こんなときが一番うれしい。
ああ、元気に働いているな。

●バラの庭をみながら塾をはじめたころのことを考えていた。
よくもいままでつづいてきたものだ。
教育熱心な家庭にささえられてこまできた。
そろそろ新入生の増える時期だ。
おおぜい入塾してくれるといいな。
師走にかけての毎年の悩みだ。
ことしはどんな子供たちとの出会いがあるだろうか。

●昭和の雰囲気をのこしたままの、昔とすこしもかわらない教室。
立派な社会人となったみんなの、落書きがある机。
教室の壁。
Kクンが初恋のN嬢の名前を彫った机を先日たまたまみつけた。
今、ふたりはどこにいるのだろうか。
むすばれたのだろうか?

●リルケのバラを見あげる。
「さすらいの塾講師」の裏ネタがあふれているわが生活をかえりみていた。
鹿沼での塾生との生活が小説のなかに生きている。
それがどの場面かは読む人が楽しみながら探りあてていくことだろう。

●小説のなかでは、ミイマが元彼のFとリルケのバラの鞭で戦っている。




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ミイマ、Fの怨念を断つ/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-11-06 00:59:38 | Weblog
10

「美魔、おまえが、玉藻の前の護衛で都を去らなければ、わたしは失脚しなかった。美魔、おまえさえわたしの制止をふりきって玉藻の前の護衛につかなければ。歌人にして大政大臣の地位が約束されていた。よも、失脚するようなことにはならなかった」
「それで鬼ですか。それで政権を追われたものの恨み、道真公のように怨霊と化しましたか。鬼とおなりあそばしましたか」
「青丹よし奈良の都を呪った。わたしを陥れた者、皆を呪った。都は京都に移された。それで満足した。呪ってやったもの者どもは、早世した。それでよしとした」
「それで、わたしだけがのこっていた。くやしかったことでしょうね」
Fはバリバリと大型の将棋駒のような牙で歯ぎしりした。
翔子たちには、Fとミイマのあいだにどんな経緯があったのかわからない。

歴女にして神代寺族のMV(マインドバンパイア)の玲加にはなんとなく推察できる。
玉藻の前が九尾の狐であるわけがない。
平安時代、鳥羽上皇の寵愛をうけた傾国の美女。
不滅の吸血鬼Fはそのころミイマと会ったのだろう。
玉藻はほかの女官たちの嫉妬で都をおわれた。
同情したものが美魔、神代寺一族を護衛として玉藻を下野の地に落したのだ。

「あなたは長く生きすぎています。時代がずっと下がったところでわたしはF、あなたに会った気がしますけど」
「平城だろうが、平安だろうが、どうでもいい。いまは平成だ。時代なんかいつでもいい。恨はつづく。わたしがこうしているあいだは……」
「恋の恨みですか。権力の座に着けなかった恨みですか」
「その両方だ」
「あわれな方」
「なんとでもほざけ」
Fの腕がミイマをつかまえようとふいに伸びてきた。
「斬」
百子がふたたびFの腕を輪切りにした。すばやくクノイチガールズがその一切れ一切れを抱えると四方に散った。

「ぬかった!!」
「バラ縛り!!!」

ミイマがバラの鞭をFに叩きつけた。
鞭はFの体にツルバラよろしく巻きついた。
バラの棘がFの体に深くくいこんでいく。
青い粘液がふきだした。
Fが苦痛に咆哮する。
あたりの樹木の枝を震わせた。
雷鳴がとどろく。
ミイマが翔子から鬼切丸をうけとった。

「せめて、わたしの手で……」
ミイマの振るう鬼切丸。
Fの首をはねた。
首ははったとミイマをにらんでいる。

「たたるぞ。呪うぞ」

Fの思念がミイマの脳裏に沁みた。

Fはドロドロと青い粘塊となって溶けていく。
吐き気がした。
すごい悪臭だ。
不気味な色だ。
嘔吐しているものもいる。
Fの現世への恨みがこもった溶解だ。
ミイマはなぜか悲しくなった。
涙がほほを伝っていた。
思慕していた男を葬ったのだ。



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