田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

死にかけている紅子/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-11-24 07:36:20 | Weblog
3

雑居ビルに突入したVセクションのメンバーが発砲している。
SMGの連射音もする。
なにか判断のつかないような音もする。
テロリストが反抗しているのだろう。

翔子はそれらの音から遠ざかる。
全速力で走りだした。
〈翔子。翔子。翔子……〉紅子が呼んでいる。

コンクリートの塀に身をかがめ警戒しているクノイチ48。
その頭の百子が翔子に気づいた。

「翔子!」

おどろいている。
咎めている声。

「紅子、呼んでいる。紅子がわたしを呼んでいる。なんどもわたし危ないところ助けてもらった。彼女に助けてもらった。その彼女が呼んでいる。いかせて」
「それはいいけど」
百子はあとを麻衣にまかせた。
翔子と並んで百子も土足のまま廊下から部屋にとびこむ。

異能部隊の隊員が棒立ちになっていた。
ふりかえったものもいた。
なにもいわれない。
百子の父がゆびさした。
そのさきには肉片が散乱していた。
遺体は異常な破損。
異常な形で散らばっていた。
うっと吐き気がした。
翔子はこらえた。
百子は顔面蒼白。
「これは?」
「突入したときは――これだ。全員やられていた」

「残留思念がながれています。押し入れです」
思念をリーデングすることに優れた隊員がいる。
翔子もその思念の源流に気づいた。

フスマをあけるために近寄る。
散らばった人の骨。
肉片。内臓の悪臭。
――をもろともせず。進む。
隊員より素早くフスマにたどりつく。
「紅子!!」

そして、いた!?
紅子はいた。
腕。
肩。
足。
そして、ああ!!! 顔が――。

「来てくれると信じていた。翔子になら紅子の声きこえると信じていた」

翔子は絶句した。

「硫酸、かけられた。ヤッラ、わたしたちを溶かす気だった」
「すぐ、病院につれていってあげる」
翔子の声。やっと、紅子にかけられた言葉だ。
唇だけがやけただれた顔の中でマトモモだった。
「わたしを裏切りものだって。翔子のお父さんに携帯したのバレタの」
「そうだよ。紅子は裏切ったのでない。表にもどったのよ」

周囲では隊員が黒のビニール袋に遺体を納めていた。
その光景をみて紅子が嘔吐した。
「わたしも死にたい」
「Vらしくもない。そんな弱音はかないで。紅子はもっと強い。つよい女よ」
 
ふいに、畳が下からはねあげられた。
遺体を収集していた隊員。はねとばされた。
死体であった肉片。袋からまた散らばった。
アラブ系の顔。
そして人種のルッボ。
黒人。
白人。
黄色人種。
どっとあらわれた。
裏のビルからここに地下通路で逃げてきたのだ。

表も騒がしい。
クノイチの戦う声。
女の子のすこし甲高いだが勇ましい声。

「敵が逃亡をはかっている。ワルイ。翔子いくね」
百子が庭を抜けた。
門扉の向こうに消えた。
「わたしにかまわずいって。仇きとって。アイツラ吸血鬼よ」




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