田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

竹下通りに血の雨が降る/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-11-16 10:50:09 | Weblog
9

女子学生がオカシイ。
妙にうつろだ。ぼんやりとしている。
宙をみすえたようなメで竹下通りに群れている。
百子がまずそれに気づいた。
「どうみても、なにかに憑かれているようにみえる。ね、翔子。どう」

ふたりはoff。
めずらしくふたりだけで街に遊びに出た。
「ねね。泉さんがいないのでさびしいの」
「ああ、ごめん……」
翔子もこころが虚ろだった。
同世代の女の子と同じだった。
わたしも、あんな表情しているのだろうな。
そこへ、百子に話しかけられた。
リアクションが遅れたのだ。

「日名子は、とうぶん女子医大病院からでられないみたい。セキュリティつきの特室に入っているの。PTSD――心的外傷後ストレス障害……こころが正常に戻っていないの。自殺願望もあるシ。時穴に墜ちたりしてるシ。立ち直るのたいへんみたい。ソレデネ、純が日名子センパイのパパにたのまれて警護してるの」
「ああ、やつぱし泉さんのと考えていたんだ。副総理じきじきのオファーじしかたないわね」
「からかわないで、まじて゛心配してるんだから。美人の看護婦さんもおおぜいいるし」

ヘンに同情しない。
それはご心配ですこと。
などと大人びたこも言わない。百子らしい。

こうして竹下通りをながしていると普通の女の子。
タレントショップで小物をあさったりしてふつうの女の子。
かわいいシュシュにムネときめかせ、フツウの女の子。

百子がそれ気づいた。
翔子の髪にシュシュを着けてやっていた。
その手の甲にポツンと落ちた。
あら、天気雨。
ちがう。
赤い雫。
血。
血と思ったのは吸血鬼との戦いで見てきた。
毎日のようにす蘇芳色の血を見てきた。
初冬の空は雲ひとつない。ピンとはりつめた青空。
ポッンポッン。ポツポツ。ザ―。
キャァ。悲鳴がおきた。

降ってきた。血の雨が降ってきた。
そして肉の塊。
肉のコマ切れ。
多毛な腕。
足。
脚。
首。
どうみても鬼のもの。こうみても鬼のパーツだ。
キャァ。
竹下通りはときならぬ、ファフロッキ現象(そらから降ってくるはずのないものがふってくる現象)に見舞われた。
空がにわかに暗くなった。雷鳴はきこえないのに、稲妻が光る。
「来るわよ。百子」
「ヌカリないわ」
百子もギラリと刀を抜き放った。

明治通りに面した建築中のビルのわきにテントが張ってある。
お店のようだ。骨董屋かしら。古い鬼の面がテントの周囲にビッチリと飾りつけられている。
「あそこよ、あのテントに鬼さんの部位が集まっていく」

血の雨でぬらついている舗道。
逃げまどうギャルたちを押しのける。
彼女たちは真っ赤に血を浴びている。不気味だ。

「あのテントに鬼のパーツを入れないで」
「あのテントに蘇生装置があるのかも……」
「そうなたら……いままで鬼を倒したのがすべて」
「水の泡」

テントからBVとびだしてきた。
テツとトオルだ。
「あんたら、手広くいろいろやってくれるじゃないの」
と百子。
「なんで、おまえらがここにいる」
「わたしたちだって女の子よ」

雷鳴がとどろく。
通りのいたるところに鬼火がもえあがる。
プラズマだ。
空の稲妻と呼応して鬼火がさらに燃え広がる。
舗道に流れた血がイヤナ臭いをたてて蒸発する。
この臭い、この悪臭は翔子にはトラウマとなっている。
嫌悪感。頭がこんらんする。

「やるわよ」
翔子の手に手榴弾がにぎられていた。
GGにまねてサイドバック。
だが、手裏剣ではない。
翔子の持参したのはペンタゴン特製。
テロ制圧用の小型手榴弾。

それでもテントがふっとんだ。
「なんてことしてくれた」
テツとトオルが襲ってくる。
いき場を失った鬼のパーツは――。
ジュジュと音を立てて舗道で溶けていく。

「なんてことを――」
「これで再生はむりね」

「キル・ビルのロケみたい」
「ちがうわよ。サヤじゃない」
「セーラ服だよ。ラスト・ブラッドのチョン・ジヒョンよ」
「あれ池袋学園の制服だシ」
「吸血鬼ハンター美少女彩音だシ」

かたや、翔子と百子。
テツとトオルのナイフのような鉤爪をかわして斬り結んでいる。
テツとトオルは戦うたびにパワーアップしている。

空があかるくなってきた。
翔子と百子は光りに助けられた。

吸血鬼のふたりはまぶしそうに目をすぼめた。

明治通りを青山方面に消えていった。


作者注「吸血鬼ハンター美少女彩音」拙作は「のべぷろ」サイトに載っています。




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