田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

歌舞伎町の吸血鬼/さすらいの塾講師  麻屋与志夫

2010-11-11 07:34:50 | Weblog
4

「ほんとうなの、パパ」
「公安から連絡が入った。日名子さんの失踪はみずからのもので、原因はどうも家庭にあるしい」
品川にあるペンタゴン日本Vセクション支局長のプライベートルームだ。
翔子は父と向かい合っていた。純もいた。
「さらにおどろいたことには、テロが絡んでいる」
「それは? 」
「テロ組織の暗躍があるという推察は、わたし達のソシキの見かただ」
「アメリカはテロ被害の先進国だものね。わたしたちにはテロといわれてもあのオウム真理教が起こした事件くらいしか思い当たらないものね。敵はアルカイダみたいな組織?」
「わからない。いままでの吸血鬼がらみの刺殺事件はこれからもつづくだろうがな……」

若者が、なにも知らずにいる。
男が髪型に悩んでいる。それもいい。
男がやファッションに悩んでいる。悪くはない。
男がガールフレンドへのプレゼント。
彼女の歓心を捕らえようと必死だ。
いいなぁ。平和すぎる。
でも国の未来に心をはせるものはいないのか。
平成の竜馬はいないのか。
正義に生きる。
信念にいきる仲間はいないのか。
純は元先生、いまはVセクションの室長。
勝則の言葉を聴いて思った。

翔子の携帯が鳴った。
麻衣からだった。
GGがいまは、酔いから覚めたが、バイクのうしろにはまだ乗せられない。
大立ち回りしたあとだから疲れてるみたい……。

「純の車でいくね。歌舞伎町交番。百目鬼さんのとこね」

宵の街。
このところめっきり冷え込んできた。
交番をでると魔界だった。
酔いの冷めたGGは交番にじっとしていられなかった。
酔っていた。
かつての親友ジャズマンの沼尾聖のことをあの刹那。
想いだしていた。
フラッシュバックのようだった。
沼尾は遠いむかし、湾岸道路がてぎたころバイクで自爆していた。
ダンプとの衝突事故だった。
木馬だって、廃業している。
GGの青春がいっぱい詰まったジャズ喫茶だ。
沼尾と別れたのもここだった。
沼尾とは故郷の北小学校で一緒だった。
おれはまだ沼尾の伝記を書いていない。
沼尾との約束を果たしていない。
GGはまた、年寄の感傷にひたっていた。
「早く戻ってこいよ」と別れ際に沼尾がいった。
おれは確かにもどってきた。
この街に。
だが……もう聖ゃんはいない。
あれから何年過ぎていると思うのだ。
歌舞伎町を歩きだしていた。
麻衣たち、ガールズがひそかに影護衛をつとめていた。
いまなら見える。
死神が。
吸血鬼が。
若者の新鮮なエネルギーを吸い取る。
文字通り生き血を吸うようなヤツらがいる。

「おれたちが見えるのか? おれたちがみえるのか」

ここは魔界だった。
あの頃見えていれば。
沼尾のそばにいれば。
死神が見えていれば。
事故は未然に止められていた。
なにも見えていない。それが若さだ。羨ましい。
見えないほうがいいこともある。

「おれたちが、みえているのか」

学生だ。酔って早稲田の応援歌を喚いている。
野球と駅伝のダブル優勝で盛り上がっているのだろう。
スクラムを組んでさわいでいる。

その背後に声の主はいた。
「おれたちが、みえるのか」
「よせ!!」
GGは絶句した。止めるには遅かった。

スクラムを破るように暴漢が学生に体当たりをした。
ナイフを手にしている。
ナイフから血がしたたっている。
学生のわき腹から抜いたナイフだ。
男は明らかに憑かれていた。
憑依されている。

GGの目前での殺傷事件だ。
刺殺魔は虚ろな目をしている。
GGに声をかけていたモノたちの姿。
浮き出てきた。さらに鮮明になった。

鮮血をなめだした。
鮮血をすすりだした。
吸いだした。
吸血鬼の群れが学生に覆いかぶさった。
ズルズルと血を吸っている音がする。
見る間に――。
学生の顔から血の気がひいていく。
またしても、止められなかった。
GGは吸血鬼の群れに斬りこもうとした。

「だめ。GGやめて。いまはヤバイよ。ここではヤバイよ。パフォーマンスでした……では、すませられないよ」

麻衣に背後からとめられた。
はがいじめだ。
GGは動けない。
体が急速に冷え込んだ。

冬の棺の中にいるようだった。



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