音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■世界で大人気の映画「 最強のふたり Intouchables 」は、“仏版寅さん その1■

2012-12-05 22:39:28 | ■楽しいやら、悲しいやら色々なお話■

■世界で大人気の映画「 最強のふたり Intouchables 」は、“仏版寅さん その1■

                               2012.12.5   中村洋子

 


★フランス映画「 最強のふたり Intouchables 」を、見てきました。

脊椎損傷で、首から下が完全麻痺になり、全く動けない白人の超大金持ち、

40代後半とおぼしき、この白人への介護人として、

偶然に雇われた、スラム街出身のアウトロー黒人青年。

この二人による、楽しく暖かい、心の通い合い物語です。


★弓のようにしなやかな肉体をもち、ビート音楽と美人へのちょっかいが楽しみ、

権威、地位、肩書き、教養、芸術、法、社会秩序には、一切無関心で無知、

何ものにも囚われず、気ままに生きることに徹している“ 完全自由人”の青年。

その打算のない “ 無垢のおせっかい ” により、二人の心が熱く通じ合います。

体は動かなくとも、大金持ちも、一緒に自由に羽ばたくことができた、

というハッピーエンドの物語です。


★≪ Intouchables  ≫   

Realisateur / Scenario : Eric Toledono  /  Olivier Nalache
  監督 / 脚本 : エリック・トレダノ / オリビエ・ナカシュ

Cast  Philippe : François Cluzet  Driss : Omar Sy
  キャスト フィリップ:フランソワ・クリュゼ、ドリス:オマール・シー、


★≪ フーテンの寅さん、こと車寅次郎 ≫ を、フランス版に焼直したら、

このような立派な作品が生まれた、という見本である、と思います。

これを作った二人の監督は、 決して“ 白状 ” しないとは思いますが、

≪ 寅さん ≫ を学び尽くしたのでしょう。

素晴らしい作品の手法を、徹底的に学ぶ、まさに作曲と同じですね。

この作品を、作曲のようにアナリーゼしてみました。


★ストーリーは、練りに練られています。

飽きさせず、最後まで一気に引っ張られ、

見終わると 「 幸福感 」 を、共有していました。


★冒頭のシーン

真っ黒、精悍なスポーツカーのハンドルを握る黒人 Driss ドリス、

助手席には、無精髭が伸び放題、憔悴気味の Philippe フィリップ。

ブンブーン、咆哮する狼のようにアクセルをふかす。

時速200㌔を越える猛速、高速道を走っている車たちを蹴散らすように、

追い抜き追い抜き、小気味よく疾走します。

しかし、遂にパトカーに挟み撃ちにされ、

Driss は短銃を突きつけられ、危うく逮捕されそう。

「 身障者が発作を起こしているんだ、早く病院に運ばないと死ぬぞ。

お前たちも、責任を問われるぞ!!! 」と、

Driss の恫喝 インプロビゼーション。

フィリップも、激しい咳き込みと涎ダラダラ、瀕死を装います。

二人とも、見事な役者です。

危機を脱したふたりは、明け方の海を目指し、軽やかに走り去ります。


★次のシーンは、Chopin の夜想曲が美しく流れる Philippe の大邸宅。

いままさに、介護士の面接をしています。

「 応募の動機は? 」と、尋ねる美人秘書。

「 お金・・・、人間に・・・、身障者の自立と社会参加に・・・ 」など、

もっともらしいことを言う、白人の応募者たち。

小役人に見えます。


★一人だけ安物のズック靴を履いたドリスが、順番を無視し、

「 不採用の印鑑を押してくれ、三件不採用なら、失業保険が下りるからだ 」と、

ずけずけ、面接室に入り込みます。

 Driss の言葉は、家族や親しい仲で使う、馴れ馴れしい言葉使い。

それまで、しかめっ面をして面接をしていた Philippe は、ニコニコ顔に。

「 明朝、9時に来てください。」と、紳士的に Vous を使います。


★それまで、ほとんどの介護士が気難しい Philippe と合わず、

2週間ともたずに辞めていった、と後になって分かるのですが、

あくまで契約として働き、他人行儀で間違いがないように、

事務的な介護に徹する人たちに、

Philippeは、吐き気がしていたのでしょう。

心の触れ合いが、なかったからです。


★自分勝手で、回りに配慮せず、言いたいことを臆面も無く言う、

地位も階級も肩書きも通用しない、そんな Driss の天衣無縫な人格に、

Philippe は直感的に、惚れたのだと思います。

実は、これは、寅さんの性格そのものでもあるのです。


★一ヶ月の試用期間を与えられた Driss は、

Philippe を、身障者とはみずに普通に接します。

Philippe の外出は、それまで、

車椅子を固定できるワゴン車を、使っていました。

まるで、囚人護送車。

Driss は、シートを被せられたままの車を、目敏く見つけます。

めくり上げると、真っ黒なスポーツカー、怪しく光るエンブレム。

すぐさま、Philippeを抱きかかえ、助手席に。

ホーホーと喜びの奇声を発して、走り出します。

電動車椅子も、マラソン並みにスピードが出るように、

改造してしまいます。


★この映画では、フランスの富豪のお金持ち具合が分かります。

道路に面した通用路を車で入りますと、

美しい中庭があり、園丁が働いています。

その奥に、広大な邸宅があります。

外側からでは、全く分かりません。

秘書だけでなく、50代の女性執事もいます。

コックもいます。

Driss 用の広い部屋も肖像画が飾られ、隣の浴室は、本当に一部屋あり、

真ん中に大きなバスタブが、据えられています。

salle de bain の由来が、納得できます。


★それはさておき、寅さん同様、Driss は汚い下品な言葉も頻繁に使います。

お下の世話もすることになるのですが、≪●●取りなんぞ出来ねーよ≫・・・。

Philippe の親戚が訪ね、

「 法務省に尋ねたら、Driss は、宝石強盗で6ヶ月も服役していた。危険だ 」と、

忠告に来ます。


★寅さんは、的屋とか香具師(やし)と呼ばれる大道露天商、

広義ではアウトローの仕事。

いつも文無し、財布には五百円札が一枚だけ。

家族は叔父さん家族と妹のみ、妻も家庭もなく、住所不定の放浪生活。

トランク一つの寅さんに対し、Driss はズタ袋一つ。

中身は、飛び出しナイフとヌンチャクだけ。

環境設定を、似せています。


★Philippeは、親類に「 Je ne veux aucune pitié いささかも同情されたくない

Driss はそのように自分を扱ってくれる 」と、忠告に取り合いません。

Driss の仕事の一つは、たくさん届く手紙類の仕分けです。

弁護士に渡すもの、ゴミ箱行き、親書など・・・。

ブルーの封筒、女性からの手紙に気付きます。

ペンパルのようです。


★風俗の宣伝レターを、ゴミ箱に捨てません。

Driss は早速、自室にいかがわしい女性を招き寄せています。

遠慮もなく、Philippeに「 あっちのほうは? 」と尋ねてしまいます。

Philippe は正直に「 首から上は感じることができる、特に耳が 」と、

恥ずかしそうに、打ち明けます。

次のシーンは、

東洋風の美女から、耳マッサージを受けている二人の、楽しそうな顔。

マリファナも、吸っています。

寅さん映画は、セックスについては厳格に、俎上にのせませんが、

ここは汚い言葉の延長線、発展型か、

ヨーロッパでは、映画の要素として、本質的に必要なのかもしれません。


★次々と、ブルジョワ階級の生活を見せてくれます。

画廊で、抽象絵画を1時間以上も眺める Philippe に、

「 鼻血ブーのように、赤いインキがこびりついているだけじゃないか 」と Driss 。

しかし、買い気を示す Philippe 。

敵もさるもの引っ掻くもの、「 先ほどお知らせしました価格は、間違っていました、

3万フランでなく 4万 1500フランでした 」。

意に介せず、 Philippe は購入します。


★「 芸術は何か 」 という Philippe の問いに、Driss は「 商売だ 」と一言。

「 自分の跡を残すことである 」 と、 Philippe 。


★雪が降ると、公園に Philippe を車椅子で連れ出し雪合戦、

「 お前も、オレに雪をぶつけてみろよ 」と Driss 。

未明に Philippe が激しい息づかい。

Driss は、車椅子で外に出し、早朝のパリ、河畔を散歩させます。

「 午前 4時に散歩するのは、本当に久しぶり、ああ気持ちいい !!! 」。

職業としての介護では、思いつかない、出来ない行為でしょう。


★ Philippe はどうやら、自家用小型ジェットも保有しているようです。

ある夜、突然、夜間飛行に誘います。

地上では勇猛な Driss ですが、ちょっとした騒音にも怯え、震え上ります。

ハングライダーが趣味だった Philippe は、その事故で麻痺になったのですが、

補助付きで、あえてまた、挑戦します。

 Driss はといえば、滑稽なほど怯えまくり、足をばたばた抵抗します。

これも、寅さんそっくり、以外に臆病なのです。


★ Philippe に「 最大の悲しみは何か?」と、 Driss が問いかけます。

「 最愛の妻を、病気でなくしたことである 」。

子供がいないため、 Philippe は女の子を養子にしています。

ティーンエイジャーの彼女には、 Driss は、最初からまるで、

親のようにズケズケと話し、ボーイフレンドのことで、

叱りつけたりもします。

使用人という意識は、まるでないのです。

 

★文学にも教養の深い  Philippe は、青の封筒の女性に、

詩について、薀蓄を傾けた抽象的な手紙を代筆させ、せっせと出します。

「 いつから出してんだい?、6ヶ月前からだって。手紙だけか。

あれ!、電話番号が書いてある。≪・・・≫ という印もあるぞ。

その気があるんだ 」。

 Driss は、強引に携帯電話を掛けます。

渋る Philippe も遂に、意を決して話し始めます。

「 絶対、体重を聴くんだぞ 」 と、横からチョッカイを出す寅さん Driss。

女性から「 写真が欲しい 」、「 近く、ダンケルクからパリに出かけます 」、

次々と、進行していきます。


★Driss は、ありのままの写真を出すべきだ、と主張して譲りません。

しかし、 Philippe  は最後のところで、元気な時代に写真にすり替えます。

そして、パリのレストランでのデートに、漕ぎ着けます。

しかし、執事と一緒の Philippe は、女性が現れる直前、

逃げ出してしまいました。

障害者であることを、知らせていなかったことに忸怩たる思いがあったのでしょう。


★ Driss は、画廊でみたような抽象絵画は「 オレでも描ける 」と、

ペンキを塗りたくり、それらしい作品に仕上げます。

「 ロンドンとベルリンで個展を開いた新進画家の絵だ 」 と、

 Philippe は、金持ちの親類に売り込みます。

「 有名になってからでは高くなっているかもしれないし・・・」と、

親類は迷った末、遂に 1万 2000フランで買ってしまいました。

 Philippe と Driss は、一緒に悪ふざけをする、対等の親友になっています。  


★しかし、破局が訪れます。

Driss の弟がやってきました。

顔に殴られた跡があり、やっかいなことに巻き込まれているようです。

Driss はやっと、身の上話をします。

本名は別、母親は実母でない、子供がいない叔母の養子になったが、

その後、叔母に子供がたくさんでき、いまでは家から追い出されていること。

「 弟たちのために、帰ったほうがいい。ここは一生の仕事ではない 」 と、

 Philippe は、自分から別れを告げます。                         ( 続 )

 

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