![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/00/c1/687fba97c940b6c7d6ddcf26f861854f.jpg)
■■山形新聞文化欄に私のエッセイが掲載されました■■
08.9.20 中村洋子
★ことし2月1日、山形新聞の連載企画「滔々と 最上川今昔」で、
私の作曲しましたギター二重奏曲「もがみ川」が紹介されました。
そのご縁で、9月9日に山形新聞夕刊・文化欄に、私が「奥の細道」に
どのように触発されて「もがみ川」を作曲しましたか、などを
綴りましたエッセイが、掲載されました。
★ギター二重奏曲「もがみ川」を作曲して 中村洋子
見出し 『感じてほしい芭蕉の世界』
『舟唄主題に「もがみ川」作曲』
●俳人松尾芭蕉(一六四四―九四年)は四十六歳の八九(元禄二)年
旧暦三月、「おくのほそ道」へと旅立ちました。
西洋で言えば、クラシック音楽の父バッハが四歳のころです。
四十年ほどずれているとはいえ、ドイツと日本の最高の芸術家が、
江戸時代のほぼ同時期に活躍したことになります。
同年六月三日(新暦七月十九日)、最上川で川舟に乗り、
六月十三日(新暦七月二十九日)、酒田の港まで下りました。
●私は東京生まれで、実は最上川を見たことはないのですが、
芭蕉の最上川の句に触発され、「もがみ川」という曲を作りました。
芭蕉の文にそれだけ大きな力があったからです。
川を目の当たりにしなくても、あたかも自分が川下りを
体験したかのように想像させる芭蕉の文の力。
今度は、音楽でその最上川を感じることができるように願い、
作曲しました。
●二〇〇六年七月、東京・小石川にある徳川家ゆかりの
名刹・伝通院本堂で、「おくのほそ道」の旅立ちから
旅の終わりまでの幾つかの場面を、ギターや楽琵琶、
龍笛などで描く個展リサイタル「東北への路」を開催しました。
最上川の川下りは、二台のギターのための「もがみ川」という
曲にこめました。
最上川舟唄を主題とした六つの変奏曲から成ります。
●最上川舟唄は、船頭さんの「掛け声」や、
口ずさむ「松前くずし」という歌、さらに「酒田追分」の
歌詞の幾つかを組み合わせ、戦前にまとめられた歌です。
ブラームスが生涯にわたって民謡を収集し、それを
編曲することによって、自分の作曲の源泉としていたように、
私もこの舟歌をよりどころとして、芭蕉の世界を縦横に構築しました。
●テーマは、クラシックのバルカローレ(舟歌)の形式です。
波と舟の揺れを模した、単純な伴奏を繰り返すのが特徴です。
最上川舟唄をその形式に当てはめてみますと、
新しい魅力を発見できます。
最上川上流の繊細な流れが、変奏によって勢いづき、
岩に当たって泡立ちます。
次に静かな「子守唄」。幼子がお母さんに抱かれ安心して眠るように、
川のおおらかさ、懐の深さを表現します。
さらに間断なく五月雨が降り、霧にけぶった川が滔々と流れます。
「五月雨を集めて早し最上川」。
ちなみに「五月雨」は陰暦五月、現在の梅雨に当たるようです。
●ここで、私は芭蕉の旅姿に思いを馳せます。
芭蕉は夜の帳が下りた旅籠で、昼間の光景を行灯の下でしたためます。
ゆっくりとした音が時を刻みます。
最後の変奏は「暑き日を海に入れたり最上川」。
盛暑の焦げるような暑さが、激しい動きの変拍子で奏され、
クライマックスを迎えます。
●ギター演奏は斎藤明子さん、尾尻雅弘さんのお二人。
斎藤さんは、米ニューヨークのカーネギーホールでソロリサイタルを
開くなど、国際的に活躍中です。
新作は、なかなか再演機会に恵まれないことが多いのですが、
この曲は、不思議に聴いてくださった方の「もう一度聴きたい」
という要望で、度々演奏いただいております。
ことし七月にも、長野・あずみ野コンサートホールで演奏されました。
●「五月雨を集めて早し最上川」「暑き日を海に入れたり最上川」。
この句だけで、まだ見ぬ“芭蕉の最上川”が、
時空を超えて読者の心の中で流れ続けます。
●私は昨年、日本の冬から春、夏へと移り変わる時の流れを
表現した曲「無伴奏チェロ組曲第一番」を作曲し、
ベルリン芸大教授のチェリスト、ボルフガング・ベッチャー先生が
CD録音してくださいました。
ドイツ各地での演奏会で、深くドイツ人に共感をもって
迎えられているそうです。
ことし六月、先生率いる「ベルリンの十二人のチェリストたち」
によって、私の新作「みじか夜」が初演されました。
●「もがみ川」の十二人のチェリスト版も、ドイツに送りましたので、
間もなくドイツの地でも“芭蕉の最上川”が流れることでしょう。
ギター版「もがみ川」は来年、CD録音の予定です。(作曲家)
▽なかむら・ようこさんは東京生まれ。東京芸大作曲科卒。
故池内友次郎氏などに作曲を師事。独奏や室内楽、
さらに雅楽など和楽器のための作品を作曲している。
2003|05年「東京の夏音楽祭」で新作を発表。
今月、CD「龍笛とピアノのためのデュオ」、
ソプラノとギターの「星の林に月の船」を発表した。
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲
08.9.20 中村洋子
★ことし2月1日、山形新聞の連載企画「滔々と 最上川今昔」で、
私の作曲しましたギター二重奏曲「もがみ川」が紹介されました。
そのご縁で、9月9日に山形新聞夕刊・文化欄に、私が「奥の細道」に
どのように触発されて「もがみ川」を作曲しましたか、などを
綴りましたエッセイが、掲載されました。
★ギター二重奏曲「もがみ川」を作曲して 中村洋子
見出し 『感じてほしい芭蕉の世界』
『舟唄主題に「もがみ川」作曲』
●俳人松尾芭蕉(一六四四―九四年)は四十六歳の八九(元禄二)年
旧暦三月、「おくのほそ道」へと旅立ちました。
西洋で言えば、クラシック音楽の父バッハが四歳のころです。
四十年ほどずれているとはいえ、ドイツと日本の最高の芸術家が、
江戸時代のほぼ同時期に活躍したことになります。
同年六月三日(新暦七月十九日)、最上川で川舟に乗り、
六月十三日(新暦七月二十九日)、酒田の港まで下りました。
●私は東京生まれで、実は最上川を見たことはないのですが、
芭蕉の最上川の句に触発され、「もがみ川」という曲を作りました。
芭蕉の文にそれだけ大きな力があったからです。
川を目の当たりにしなくても、あたかも自分が川下りを
体験したかのように想像させる芭蕉の文の力。
今度は、音楽でその最上川を感じることができるように願い、
作曲しました。
●二〇〇六年七月、東京・小石川にある徳川家ゆかりの
名刹・伝通院本堂で、「おくのほそ道」の旅立ちから
旅の終わりまでの幾つかの場面を、ギターや楽琵琶、
龍笛などで描く個展リサイタル「東北への路」を開催しました。
最上川の川下りは、二台のギターのための「もがみ川」という
曲にこめました。
最上川舟唄を主題とした六つの変奏曲から成ります。
●最上川舟唄は、船頭さんの「掛け声」や、
口ずさむ「松前くずし」という歌、さらに「酒田追分」の
歌詞の幾つかを組み合わせ、戦前にまとめられた歌です。
ブラームスが生涯にわたって民謡を収集し、それを
編曲することによって、自分の作曲の源泉としていたように、
私もこの舟歌をよりどころとして、芭蕉の世界を縦横に構築しました。
●テーマは、クラシックのバルカローレ(舟歌)の形式です。
波と舟の揺れを模した、単純な伴奏を繰り返すのが特徴です。
最上川舟唄をその形式に当てはめてみますと、
新しい魅力を発見できます。
最上川上流の繊細な流れが、変奏によって勢いづき、
岩に当たって泡立ちます。
次に静かな「子守唄」。幼子がお母さんに抱かれ安心して眠るように、
川のおおらかさ、懐の深さを表現します。
さらに間断なく五月雨が降り、霧にけぶった川が滔々と流れます。
「五月雨を集めて早し最上川」。
ちなみに「五月雨」は陰暦五月、現在の梅雨に当たるようです。
●ここで、私は芭蕉の旅姿に思いを馳せます。
芭蕉は夜の帳が下りた旅籠で、昼間の光景を行灯の下でしたためます。
ゆっくりとした音が時を刻みます。
最後の変奏は「暑き日を海に入れたり最上川」。
盛暑の焦げるような暑さが、激しい動きの変拍子で奏され、
クライマックスを迎えます。
●ギター演奏は斎藤明子さん、尾尻雅弘さんのお二人。
斎藤さんは、米ニューヨークのカーネギーホールでソロリサイタルを
開くなど、国際的に活躍中です。
新作は、なかなか再演機会に恵まれないことが多いのですが、
この曲は、不思議に聴いてくださった方の「もう一度聴きたい」
という要望で、度々演奏いただいております。
ことし七月にも、長野・あずみ野コンサートホールで演奏されました。
●「五月雨を集めて早し最上川」「暑き日を海に入れたり最上川」。
この句だけで、まだ見ぬ“芭蕉の最上川”が、
時空を超えて読者の心の中で流れ続けます。
●私は昨年、日本の冬から春、夏へと移り変わる時の流れを
表現した曲「無伴奏チェロ組曲第一番」を作曲し、
ベルリン芸大教授のチェリスト、ボルフガング・ベッチャー先生が
CD録音してくださいました。
ドイツ各地での演奏会で、深くドイツ人に共感をもって
迎えられているそうです。
ことし六月、先生率いる「ベルリンの十二人のチェリストたち」
によって、私の新作「みじか夜」が初演されました。
●「もがみ川」の十二人のチェリスト版も、ドイツに送りましたので、
間もなくドイツの地でも“芭蕉の最上川”が流れることでしょう。
ギター版「もがみ川」は来年、CD録音の予定です。(作曲家)
▽なかむら・ようこさんは東京生まれ。東京芸大作曲科卒。
故池内友次郎氏などに作曲を師事。独奏や室内楽、
さらに雅楽など和楽器のための作品を作曲している。
2003|05年「東京の夏音楽祭」で新作を発表。
今月、CD「龍笛とピアノのためのデュオ」、
ソプラノとギターの「星の林に月の船」を発表した。
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲