■クリプス指揮のオペラ「椿姫」と、ルートヴィヒの「カルメン」を聴く■
~永井荷風は最期まで、勉強、勉強の日々だった~
2021.10.10 中村洋子
★10月も三分の一を過ぎましたが、真夏のような暑さ、
各地で大きな地震が、連続して起きています。
"大鯰"にはおとなしく、地下でじっとしていてもらいたいものです。
相変わらず仕事が忙しく、ブログ更新も滞りがちになっています。
仕事の合間に、チラチラと本は読めますので、読書量は相変わらず
ですが、まとめてじっくり音楽を聴く時間が取れません。
★それでも、オペラの楽しそうなところを、CDで少し聴きかじっています。
大好きな指揮者 Josef Krips ヨーゼフ・クリプス(1902-1974)指揮の
オペラ「La traviata 椿姫」(Giuseppe Verdiヴェルディ 1853年の作曲)
=1971年12月25日ウィーンでの録音=
Kripsの命日は、1974年10月13日ですから、亡くなる3年前の録音。
今週がお命日なのですね。https://tower.jp/item/3007260
★クリプスの Mozart 交響曲は、いつ聴いてもため息で出るほど
素晴らしいです。
これまでクリプスの指揮では、交響曲を聴くことが多かったので、
オペラの演奏は新鮮でした。
このCDを聴いているとき、オーケストラ部分にのみ、耳を集中させていた
ことに気がつきました。
オーケストラがまるで生き物のように「うねって、呼吸している」のが、
心地よく、「あっ!歌もあったのね」と時々思い出す、という感じです。
★わがままな歌手の"自己顕示のショーケース"のような、
イタリアオペラの演奏は、あまり好きではないのですが、
Krips の素晴らしい指揮で聴きますと、作品が輝きます。
★第3幕前奏曲の弦楽器のピツィカートの美しさ。
Verdi の作曲技法の大元まで、暴いてしまうところが凄いです。
たくさんの作曲家の作品が、次々と"顔"を出してきます。
Verdi(1813-1901)も「勉強、勉強」の人だったのですね。
★Federico Fellini フェデリコ・フェリーニ監督(1920-1993)の
「E LA NAVE VA/THE SHIP SAILS ON そして船は行く」(1983年)の
最終場面で、この「椿姫」の第2幕 第2場の最後、
椿姫の「ヴィオレッタ」が、仮面舞踏会で恋人の「アルフレード」に
侮辱され、気を失った後に歌う歌「Dio dai rimorsi ti salvi allora;
Io spenta ancora - pur t'amerò.そうすれば、神はあなたを後悔から
救ってくれるでしょう。」を、実に効果的に使っていました。
★この映画は、何か浮世離れした筋書きでした。
1914年、第一次世界大戦勃直前の時代が舞台です。
世紀の大ソプラノ歌手が望んだ「自分の遺骨は、故郷の地中海のエリモ島の
海に散骨して欲しい」という願いをかなえるために、世界中から集まった、
貴族、王族、音楽家、新聞記者が豪華客船に乗り込んだところから
お話は始まります。
★作り物めいた、おとぎ話のようなお話です。
その最後に、豪華客船が突然軍艦に爆撃されてしまいます。
その後のドタバタはタイタニック号の沈没を思わせるセットなのですが、
船が、右へ左へ大きく揺れる場面に、この音楽「神はあなたを後悔から
救ってくれるでしょう。」が流れるのです。
★さすがフェリーニです。
この映画は、トリックや暗喩に満ちています。
豪華客船に乗り込んだ「立派な肩書の皆様」。
「海」も本物でないセットの「嘘臭い海」。
虚構の海で、大波に揺られ翻弄される上流階級の俗物さんたち。
極めつけが、この「椿姫」からのこの音楽。
歌詞を理解しますと、フェリーニの辛辣な笑いがよく聞こえてきます。
「神はあなたを、後悔から救ってくれるでしょう」・・・からかっています。
大いに楽しめ、笑いました。
★多忙の中の、気晴らしといっては大変失礼ですが、
大好きなメゾソプラノ歌手の Christa Ludwig クリスタ・ルートヴィヒ
(1928-2021)のカルメンのCDも少し聴きました。
ルートヴィヒは今年4月24日、93歳でこの世を去られました。
★彼女の Bach「クリスマスオラトリオ」は何度聴いても、胸の中が
ほんわりと暖まります。
シューベルトの歌曲「An die Musik 楽に寄す」を、これだけ核心に
迫って歌える声楽家は、いないのではないかしら。
知性あふれて、気高い人なので、彼女の歌うカルメンは、
はすっぱなカルメンではなく、貴婦人のように高貴なのです。
とてもドン・ホセを裏切るようなことができない女性です。
素敵ですね。 https://tower.jp/item/2402157
★読書は相変わらず半藤一利さんを読み続けています。
「荷風さんの昭和」「荷風さんの戦後」の2冊を読了しました。
「荷風さんの戦後」は月刊のPR誌「ちくま」で毎月楽しみに読んで
いたので、再読になりますが、「あとがき」が2006年5月となって
いますから、これも随分昔の読書ですね。
★今回再読して特に印象深かったのは、荷風さんが亡くなったとき、
半藤さんはいち早く、荷風さんの自宅に駆けつけたところです。
「荷風さんが亡くなったとき、比較的早く駆けつけたわたくしは、
入り口の次の間からしっかりと認めたのであるが、六畳の庭に
向かって左手の奥に、幅一間、高さ一間の、硝子戸つきの本棚があり、
その最上段に森鴎外全集、つづいて幸田露伴全集と自分の全集が
ぎっしりと並んでいた。
★一緒に何冊かの日本の本も挟まれているようだったが、とにかく
あとはすべてフランス装の洋書ばかりが本棚いっぱいに背を見せていた。
後に知ったが、その数 一四〇冊、なかにアラゴン『現実世界』三部作や
サルトル『壁』などがあったとか。もっとも、そんな文学書にまじって、
ひどく低俗な猥本に近いものまであったそうな。
ついでにいえば、亡くなったその日、小さな机の上に眼鏡とならんで
開かれていたのも洋書であったと記憶している。
★息苦しくなってその場に倒れ伏すまで、荷風さんは原書でフランスの
小説でも読んでいたにちがいないのである。
みずからが言うとおり、たえず勉強をつづけるという小説家の日常を
守りとおしていたのである。」
★格好いいなぁ!
森鴎外、幸田露伴は荷風さんが尊敬する数少ない日本の作家です。
私は、Bach バッハと Beethoven ベートーヴェンの全集に
自分のわずかな出版された楽譜、それに残りは大作曲家の
自筆譜ファクシミリだけの仕事部屋が理想のような気もしますが、
★現実は、豈図らんや。
多種多様の楽譜と書籍に、埋もれるような仕事場です。
荷風さんは、胃からの大量出血と心臓麻痺による急死でした。
昭和34年4月30日未明です。
その日の朝、通いのお手伝いさんに発見されます。
最後まで「勉強、勉強」の日々だったのですね。
★追記
私の著書”クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!” に
一箇所誤記がありましたので、訂正いたします。
25ページ「ベートーヴェンの自筆譜は、指摘されているように
乱雑なのでしょうか?」の本文12行目
誤:「4分の4拍子ですが」、→ 正:「2分の2拍子ですが」、
お詫びして訂正いたします。
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