音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ W.Boettcher & U.Trede‐Boettcher のMozart CD ■

2009-09-15 19:17:11 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■
■ W.Boettcher & U.Trede‐Boettcher のMozart CD ■
                     09.9.15 中村洋子



★9月13日、「シューベルト・アナリーゼ講座」を開催いたしました。

『シューベルトのピアノ曲には、構築性がなく、岩の間から湧き出る

清水のように、彼の心から湧き出たものである』という、

日本の音楽学者による、誤った認識を、払拭し、真のシューベルトの姿を、

ご提示できたことと、思っております。


★シューベルトの音楽は、「構築性」のみならず、

「対位法」の宝庫、「形式の塊」と、いうべき音楽なのです。

「 Vier Impromptus Op90-1 4つの即興曲 作品90の1 」の、

62、63の2小節を、例にとりますと、

62小節目のバス、F- Es の2分音符の2度音程の動きは、

右手内声の1拍目、2拍目のEs-D の2度音程の動きの、

「カノン」であると、いえます。

同じく、3拍目、4拍目ソプラノの、As-Gの2度音程とも、

「カノン」に、なっております。

この3つの2度音程は、すべて、音価が異なっています。


★これは、バッハがよく使った、一つのモティーフを、

「拡大」、「縮小」し、異なる声部に配置するという手法です。

この場合は、ソプラノ、アルト、バスの3声による

「拡大縮小のカノン」と、いえます。

さらに、ソプラノに、もう一声部、異なったモティーフが、

追加されています。

つまり、2小節目で提示された「歩行」=同音連続奏の音形が、

62小節目の、1拍目、2拍目、3拍目に、Asの同音連続奏として、

3回奏され、ここまでで、既に4声になっています。

さらに、As As Bのテノール声部を、加えますと、

「5声の対位法音楽」と、言えます。


★63小節目も、同様の作り方をしていますが、

内声のアルトで、1拍目、2拍目、3拍目に、B-H-Cと、

半音階進行が、組み込まれています。

これは、バッハの対位法音楽の世界と、どこが、異なるのでしょうか?。

練習をなさる時、私が、インヴェンション講座でお話しています、

勉強方法、暗譜の方法に拠りませんと、シューベルトを弾いたとは

いえないでしょう。

形式についても、対位法などに気が付かず、貧弱であると、

感じている音楽学の先生が、いらっしゃるのは、嘆かわしいことです。



★講座が、無事に終了し、ほっとして、CDを3枚聴きました。

ベルリンにお帰りになったベッチャー先生が、すぐに、

「モーツァルトを、姉と演奏した僕のCDです。聴いて下さい」と、

送ってくださった2枚、それに、お能の素晴らしい1枚です。

ベッチャー先生のお姉さんの、Ursula Trede‐Boettcher

ウルズラ.トレーデ-ベッチャーさんについては、09年6月8日の当ブログで、

ご紹介しております。


★「 Cellomusik um Mozart 」( RBM 463 058 ) RBM Musikproduktion GmbH

 「 モーツァルトのチェロ音楽 」

 「 Perles musicales Pieces celebres pour violoncelle et piano」
           ( RBM 463 112 ) RBM Musikproduktion GmbH

 「 チェロとピアノのための、珠玉の小品集 」

 「 砧、羽衣   観世寿夫 至花の二曲 」( VZCG 8429~30 )
                  ビクターエンターテインメント


★「 Cellomusik um Mozart 」の解説には、次のように書かれています。

1800年前後、つまり、モーツァルト(1756~1791)の存命中のころ、

「チェロ」という楽器は、音楽学的に重要な地位をもち始めていた。

従来の、室内楽で低音部だけを受け持つ( Basso-Continuo )地位から、

解放され、ソロ楽器として、さらには、室内楽やオーケストラで、

活躍できるよう、名人たちが、チェロのもつ、さまざまな可能性を

探り、引き出していました。


★このCDに収録されている、モーツァルトの「 Andantino

KV374 (Anhang46)fuer Violoncello und Piano 」は、

1781年の夏、書き始められ、未完のまま、その手稿譜が、

ザルツブルクに、残されていました。

「 Violoncello チェロ 」と「obligates Klavier オブリガートクラヴィーア」、

または、「 Cembalo チェンバロ 」のために、書かれたとみられる作品で、

「チェロ」と「鍵盤楽器」との「 Duo デュオ 」として、

音楽史上、初の作品と、位置付けられる、大変に貴重な曲です。


★先生とお姉さまの演奏は、モーツァルトの「溜息の2度」を、

本当に溜息がでるように、美しく演奏されていました。

この「2度」は、最初の音が「倚音」で、

次の音が、「和声音」に解決します。

同型反復(ゼクエンツ)の頂点に、この「2度」を使う、

モーツァルトの、典型的な旋律の形です。

また、他の部分では、旋律の頂点から、半音階で、ゆったりと

下行するモーツァルトならではの、音型が使われます。

7分足らずの曲ですが、モーツァルト独特の作曲素材が、

すべて含まれている、と言ってもいいでしょう。


★シューベルトも、同じ「2度」の和声進行をよく使いますが、

シューベルトの場合、最初の「倚音」に、

アクセントやフォルツァンドが、付され、

より深い「嘆き」を表現しようとする場合に、多く見られます。


★モーツァルトとシューベルトの個性を比較する上で、

興味深い「2度音程」と、いえます。


★ベートーヴェンは、「チェロソナタ Op 5」を、

1796年に、作曲しています。

ベッチャー先生は、この曲について、「ピアノとチェロのバランスが

いまひとつである」という、感想を述べられています。

モーツァルトの「デュオ」についても、同様に、

バランスを良く演奏することは、かなり困難を伴ったと、

推測されますが、少しも、そのような印象を与えず、

ただ、音楽の喜びに、満ちている演奏となっています。


★お能のCDにつきましては、ゆっくりと書きますが、

観世寿夫さんが、1976年、ジャン・ルイ・バローの主催する、

Paris パリ「オルセイ劇場」で、上演された「砧」と、

1965年、日本で上演された「羽衣」の、歴史的名演です。


★この2、3日、上記CDに、心を奪われておりましたが、

それにより、また、音楽への新鮮な気持ちが、湧いてきました。

実は、「2度」音程の大本は、バッハにあるのです。

9月29日のカワイ・表参道での「第13回インヴェンション・アナリーゼ講座」、

10月21日のカワイ・名古屋での「「第1回インヴェンション・アナリーゼ講座」

では、モーツァルトやシューベルトを、心に描きながら、バッハについて、

詳しくお話したいと、思います。


                         (山椒の実)
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