音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■■ヴォルフガング・ベッチャー先生との録音 その2 アナリーゼの必要性■■

2007-12-24 17:06:14 | ★旧・曲が初演されるまで
2007/5/15(火)

★5月3日は、練習日の2日目でした。

朝10時から夜の9時まで、濃厚な練習が続きました。

前回、書きましたように、先生は、作曲家の譜面を尊重され、

なんとか、それをそのまま演奏できるように努力される方です。

その先生が、たった一回だけ、大変丁寧に、

「ヨウコ、この音を一つだけ高いFに替えたらどうですか」と、ご提案されました。

先生は、2ページ前を示し、「このモティーフ(要素)は、なだらかな山型に

展開しながら上昇しています。高いFに替えると、そこが山の頂点になり、

数ページにわたって、美しいチェロの旋律線が形作られていきます」

と、説明してくださいました。

そのように変更すると、そのページが、突然、輝き始めました。

曇りガラスが、一気にプラチナの輝きとなりました。

これぞ、巨匠マエストロによる“絶品の一筆”でした。


★演奏家が音を変更したがる場合は、演奏が困難な時や、派手に聞こえるように、など

作品の構成とは関係ない理由で、要求されることがあります。

しかし、今回は、曲の構成を深く見通したうえで、一つの音を変更することにより、

さらに、曲の完成度を高めようとする提案でした。


★先生にお伺いしましたところ、ベルリン芸大で、

ドイツの著名な作曲家ボリス・ブラッヒャーに、アナリーゼを学ばれ、

エルンスト・ペッピングに対位法を学ばれたそうです。

先生が年齢を重ねて、ますます音楽に輝きを増してきたのは、

音の構造物である「音楽」の骨組みが、どのように出来ているか、

それをしっかりと分析する力を、若いときから十分に養われ、

その上に、卓越した技量と音楽への熱い情熱、愛情に満ちているからだと思います。

そのどれ一つが欠けても駄目なのです。

「大作曲家メシアンも、アナリーゼの先生だったよ」とベッチャー先生は

おっしゃっていました。


★クラシック音楽をいま、学ぼうとされている方に、私から提案したいことは、

どんな簡単な作品であっても、バッハやシューマンのような大作曲家の作品は、

非常にガッチリとした和声や対位法の構造をもっています。

是非、それを早い時期から学び始めて欲しいものです。

それは、指の訓練やテクニックの修練と同じくらいに、

あるいは、それ以上に大切なことです。

何歳からでも遅くはありません。

たとえ大人になってから音楽を学び始めた方でも、年齢は関係ありません。

そうすることによって、真の音楽家、本当の音楽愛好家に

一歩一歩近づいていくことが出来るのです。


▼▲▽△▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲▽△▼▲

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