音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■■ヴォルフガング・ベッチャー先生との録音 その1■■

2007-12-24 17:05:07 | ★旧・曲が初演されるまで
2007/5/14(月)

★暫く、ブログをお休みしていました。

5月2日の午前、ベッチャー先生は、関空に到着されました。

私はその時刻、まだ東京で、ピアノ二重奏のチェロ用パート譜を書いていました。

(パート譜とは、ピアノ伴奏を除いたチェロだけの楽譜です。

オーケストラでも、各奏者は、総譜ではなく、自分のパートだけが書かれた譜面を見ています)

インクが乾かぬ間に新幹線に飛び乗り、夕方、先生と半年ぶりの再開をはたしました。


★先生は、関空で「チェロを抱えた怪しい外人」と睨まれ、マリファナの運び屋ではないか、と

別室に連れ込まれ、荷物を徹底的に検査されたそうです。

お煎餅好きな先生が、ポケットのなかにこぼしていたお煎餅の屑まで、

ピンセットで摘み出し、紙の上に置いて、調べられました。

私の送った楽譜のコピーも、一枚一枚めくり、パタパタとはたき、

マリファナの粉末が落ちてこないか、確認されたそうです。

日本のお役人は、先生の高貴な芸術家の顔と態度を、見分けられないのでしょうか。

悲しいことです。

「取調べは、大変丁寧でしたが、イスラエル並みですね」と先生は、笑っていらっしゃいました。



★夜は、先生お好みの清潔で家族的、かつ静寂な日本旅館に宿泊しました。

翌朝、先生は、「時差で、夜中の2時半に目が覚めてしまいました。

あなたの独奏チェロ組曲で技術的に演奏が難しいところを、なんとかうまくいくように、

フィンガリングやボーイングを、さらに工夫していました。

チェロの音が漏れて、あなたを起こさなかったですか」

と、かえって、私を気遣ってくださいました。


★2日から4日までの3日間のリハーサルは、何年分ものレッスンを受けたのと同じくらいの

勉強を先生から、させていただきましたが、

先生も「私は、ヨウコの曲からたくさんのことを学びました」と言われ、却って頭が下がります。


★上記の演奏困難なところについて、後日、先生のマスターコースを受講された

日本人チェリストから「先生は、技術的にどんな難しいところでも、

絶対に“弾けない”とはおっしゃらない方です。作曲家の表現したい音を、意図通りに

そのまま弾くように努力を重ね、最後には困難を乗り越える方です」と伺いました。


★これから、ブログで、録音の様子を少しずつご紹介していきたい、と思います。

ベッチャー先生のような、高潔な芸術家とつきっきりで過ごした6日間は、

私の人生で、最良の日々で、計り知れない影響を受けました。

そのお裾分けを、皆さまにこれから、お伝えしたい、と思います。


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