音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■■ 山の恵みとチェロ組曲第一番 ■■

2007-12-24 17:15:21 | ★旧・曲が初演されるまで
2007/11/19(月)

★山形県の置賜地方に在住のお友達から、素敵な秋の恵みを頂きました。

天然のナメコです。

包み紙の地方新聞をゴソゴソとほどき、ビニール袋をあけますと、

生命力で弾けそうなナメコたちが、押し合いへし合い、こぼれんばかり。

大きなものはシイタケと間違うほどです。

黄、茶、黒、白、透明な粘液までが、キラキラと光り、

自己主張しています。

秋の色、秋の森の色です。

陳腐ですが、宝石より輝いています。


★不思議なことに、森の底知れない静けさ、そう!、魂を包み込んでくれる

あの静けさまで、ナメコの饗宴を見つめておりますと、聞こえてきました。

ナメコの根っこにくっ付いている腐葉土からは、

森奥に踏み分けて入っていったような、錯覚を覚えるほど、

心休まる土の匂い、森の冷気が伝わってきます。

自然の森はなんと豊かなのでしょう。


★お手紙によりますと、彼女は、小国町の森を七時間ほど、

友人とさまよってナメコを採ってきたそうです。

一句添えられていました『きのこ汁 椀に盛らるる 木霊(こだま)かな』

さまよいながら、山の精たちのおしゃべりや歌声、溜息が、

きっと木霊となって聞こえたのでしょう。


★お手紙の続きです。

『今秋は、雨が少なくてきのこは不作です。でも、人の入らないところでは、

一本のブナの倒木から、二キロぐらいもナメコが採れたりします。

今回の収穫は、六キロでした。

ナメコは、ブナにしか生えません。』

彼女は、開発の手からブナの森を守る活動も一生懸命なさっています。

歯に滲みるような美味しい日本酒の里として、東京ではつとに有名ですが、

この置賜地方は、溜息の出るような美しい山里です。

どの季節でも素晴らしい。

イザベラ・バードという英国人女性が1885年に出版しました

「日本奥地紀行」(平凡社ライブラリー)という本でも、

置賜を『実り豊かに微笑む大地。美しさ、勤勉、安楽さに満ちた魅惑的な地域。

アジアのアルカデヤ(桃源郷)』と書いています。


★彼女の「ベッチャー、日本を弾く」を聴いての感想です。

『まるでチェロの音色に、土産神が宿っているかのようです。

村の文殊堂のお祭り、外では祭囃子の笛、太鼓、耳元ではチェロ。

なかなかの調和でした。

次は、夏から晩秋までの二番を作っておられるのでは、と想像しています。

素敵な季語の組曲を楽しみにしております』。

そうです、組曲の二番を作り始めています。

しかし、これは、夏から晩秋ではありません。

それは、組曲三番で、存分に書くことになりそうです。


★二番の内容については、まだ内緒ですが、

出来ました部分を、ベッチャー先生にお送りしましたところ、

とても気に入っていただけました。


★彼女と一緒に、ブナを守る運動のリーダーをなさっている男性からも、

心温まるお便りを頂きました。

『葉山(地元の美しいブナの森)も紅く色づき、

間もなく落ち葉とともに、長い冬が訪れます。

光り輝く春のための眠りです。

組曲一番は、雪国のブナの山々を表現した珠玉のチェロ曲です。

“葉山讃歌”として、大切に聴かせていただいております』


★また、都内にお住まいのご高齢の女性からも、

「ベッチャーさんの、低く、深い、祈りの様な旋律を味わい、

美しく、懐かしく、素敵なうたに満ちた日本を、

しみじみと感じております」というお便りを頂きました。


★このように、熱心にお聴きいただき、そして心より喜んでいただけることは、

作曲家冥利に尽きます。

私のほうこそお礼を申し上げます。


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