2007/10/6(土)
★前々回のブログで、「ベッチャー先生のCDが完成」をお知らせしました。
そこで、「マスタリング」という言葉を使いました。
耳慣れない「マスタリング」とはどういうものか、ご説明いたします。
製品となる「CD」をプレスする前に、CD原盤を作る必要があります。
そのCD原盤に刻み込む音を、最良の状態にする作業です。
★テープ、DAT 、CD-Rなどに録音されたデータには、
さまざまな雑音が、不可避的に入ってきます。
さらに、録音現場で、人の耳には聴こえていた最弱音も、
データを再現してみると、あまりよく聴こえなかったり、
弦を弓で擦(こする)る音は、うまく出ていても、
指で弾(はじ)くピッチカートの音が、現場で聴こえたように、
エネルギーをもって飛んで来なかったりします。
また、高音や特定の音が、耳障りに聴こえたり、
暖かい厚みのあった音が、痩せて聴こえる・・・・などなど、
記録された録音データには、録音現場での生演奏が、そのまま
再現されていることは、全く、ありません。
★CD原盤に、いかにして、実演時の生の音楽に近いものを、埋め込むか、
それが、マスタリングの使命です。
あたかも、オーケストラの指揮者のような知的営為です。
録音データに含まれている、膨大な万華鏡のような音の群れの中から、
あるものは“救い出し”、でしゃばったものには、“自重してもらう”、
か細くなって漂っている音を盛り立て、生演奏に近い臨場感を生み出す、など
どの要素を拾い出すか、捨てるか、強めるか、弱めるか、殺すか、
狙い通りの結果に辿り着くためには、高度な技術が要求されます。
真の名人芸です。
★それは、ほとんど創作に近いといえます。
音楽を完全に理解し、優れた演奏家と同等か、それ以上の
音楽的感性を備えた人だけが、成功します。
そうした努力の結果、
録音現場に立ち会っていた作曲家、演奏家が、
心から納得する“音楽”が、「CD」から生まれ出るのです。
そのように満足できるCDは、なかなか存在しないようです。
過度にお化粧した“整形美人CD”も多いようです。
★意外に思われるかもしれませんが、
CDを通して聴く場合、一曲が終わり、次の曲が流れるまでの
「なにも聴こえない時間」(ポーズ)の長さが、とても重要です。
聴く人の頭の中で“聴こえない音楽”が、滑らかに、
音楽的余韻をもって流れ、そして、自然に次の曲へと繋がっていくか、
あるいは、流れが分断され、興ざめを起こしてしまうか、
それを決める要が、「ポーズの長さ」なのです。
音楽で最も大切な要素である「リズム感」を、
マスタリング技術者がもっているかどうか?、
そのリズム感の良し悪しが、
ポーズの質を、左右します。
★今回、ベッチャー先生のCDマスタリングは、たくさんの方のご支援の結果、
JVCの「杉本一家」さんに、奇跡的にも、お願いすることができました。
(「一家」は、ファーストネームで、「かずいえ」とお読みするそうで、
おどろおどろしい組織とは、決して、関係ございません)
杉本さんは、前々回で触れましたが、ピアティゴルスキーの名演奏、さらに、
フリッツ・ライナー指揮、シカゴ交響楽団のバルトーク作曲
「弦楽器、打楽器、チェレスタのため音楽」、
アルトゥーロ・トスカニーニによるNBC交響楽団の指揮など、
歴史的な名演を復活させる、「リマスタリング」のお仕事を、
精力的になさっています。
依頼が殺到して、寝る間もないほど多忙だそうです。
また、マスタリングだけでなく、ギュンター・ヴァント指揮の
北ドイツ放送交響楽団「ブルックナー、マーラー」や、来日した演奏家、
例えば、マイスキー、アルゲリッチなどの録音も
依頼され、数多くなさっています。
★今回、ベッチャー先生の録音を聴いた瞬間、
杉本さんは一言、「マエストロですね!!!」。
そして、全身全霊を込め、長時間没頭して、このCD原盤を、作っていただきました。
私もスタジオでその作業に立会い、いろいろな意見を申し上げました。
それがすべて、CDに反映されました。
会心の出来のようです。
「音楽という“産業”は、このような方々の努力によって、支えられている」と
感動しました。
★事情により、DAT録音を録音データとすることができず、
杉本さんは、CD-R から原盤を作られました。
にもかかわらず、その結果は、録音の現場に立ち会った作曲家として、
「よくぞ、ここまで再現していただきました」の一言です。
目を瞑り、恍惚とした表情で、チェロを弾いていらっしゃった
ベッチャー先生の顔が、息づかいまでが、よみがえってきます。
言葉でいくら表現しても、音は再現できません。
どうぞ是非、お聴きください。
▼▲▽△▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲▽△▼▲
★前々回のブログで、「ベッチャー先生のCDが完成」をお知らせしました。
そこで、「マスタリング」という言葉を使いました。
耳慣れない「マスタリング」とはどういうものか、ご説明いたします。
製品となる「CD」をプレスする前に、CD原盤を作る必要があります。
そのCD原盤に刻み込む音を、最良の状態にする作業です。
★テープ、DAT 、CD-Rなどに録音されたデータには、
さまざまな雑音が、不可避的に入ってきます。
さらに、録音現場で、人の耳には聴こえていた最弱音も、
データを再現してみると、あまりよく聴こえなかったり、
弦を弓で擦(こする)る音は、うまく出ていても、
指で弾(はじ)くピッチカートの音が、現場で聴こえたように、
エネルギーをもって飛んで来なかったりします。
また、高音や特定の音が、耳障りに聴こえたり、
暖かい厚みのあった音が、痩せて聴こえる・・・・などなど、
記録された録音データには、録音現場での生演奏が、そのまま
再現されていることは、全く、ありません。
★CD原盤に、いかにして、実演時の生の音楽に近いものを、埋め込むか、
それが、マスタリングの使命です。
あたかも、オーケストラの指揮者のような知的営為です。
録音データに含まれている、膨大な万華鏡のような音の群れの中から、
あるものは“救い出し”、でしゃばったものには、“自重してもらう”、
か細くなって漂っている音を盛り立て、生演奏に近い臨場感を生み出す、など
どの要素を拾い出すか、捨てるか、強めるか、弱めるか、殺すか、
狙い通りの結果に辿り着くためには、高度な技術が要求されます。
真の名人芸です。
★それは、ほとんど創作に近いといえます。
音楽を完全に理解し、優れた演奏家と同等か、それ以上の
音楽的感性を備えた人だけが、成功します。
そうした努力の結果、
録音現場に立ち会っていた作曲家、演奏家が、
心から納得する“音楽”が、「CD」から生まれ出るのです。
そのように満足できるCDは、なかなか存在しないようです。
過度にお化粧した“整形美人CD”も多いようです。
★意外に思われるかもしれませんが、
CDを通して聴く場合、一曲が終わり、次の曲が流れるまでの
「なにも聴こえない時間」(ポーズ)の長さが、とても重要です。
聴く人の頭の中で“聴こえない音楽”が、滑らかに、
音楽的余韻をもって流れ、そして、自然に次の曲へと繋がっていくか、
あるいは、流れが分断され、興ざめを起こしてしまうか、
それを決める要が、「ポーズの長さ」なのです。
音楽で最も大切な要素である「リズム感」を、
マスタリング技術者がもっているかどうか?、
そのリズム感の良し悪しが、
ポーズの質を、左右します。
★今回、ベッチャー先生のCDマスタリングは、たくさんの方のご支援の結果、
JVCの「杉本一家」さんに、奇跡的にも、お願いすることができました。
(「一家」は、ファーストネームで、「かずいえ」とお読みするそうで、
おどろおどろしい組織とは、決して、関係ございません)
杉本さんは、前々回で触れましたが、ピアティゴルスキーの名演奏、さらに、
フリッツ・ライナー指揮、シカゴ交響楽団のバルトーク作曲
「弦楽器、打楽器、チェレスタのため音楽」、
アルトゥーロ・トスカニーニによるNBC交響楽団の指揮など、
歴史的な名演を復活させる、「リマスタリング」のお仕事を、
精力的になさっています。
依頼が殺到して、寝る間もないほど多忙だそうです。
また、マスタリングだけでなく、ギュンター・ヴァント指揮の
北ドイツ放送交響楽団「ブルックナー、マーラー」や、来日した演奏家、
例えば、マイスキー、アルゲリッチなどの録音も
依頼され、数多くなさっています。
★今回、ベッチャー先生の録音を聴いた瞬間、
杉本さんは一言、「マエストロですね!!!」。
そして、全身全霊を込め、長時間没頭して、このCD原盤を、作っていただきました。
私もスタジオでその作業に立会い、いろいろな意見を申し上げました。
それがすべて、CDに反映されました。
会心の出来のようです。
「音楽という“産業”は、このような方々の努力によって、支えられている」と
感動しました。
★事情により、DAT録音を録音データとすることができず、
杉本さんは、CD-R から原盤を作られました。
にもかかわらず、その結果は、録音の現場に立ち会った作曲家として、
「よくぞ、ここまで再現していただきました」の一言です。
目を瞑り、恍惚とした表情で、チェロを弾いていらっしゃった
ベッチャー先生の顔が、息づかいまでが、よみがえってきます。
言葉でいくら表現しても、音は再現できません。
どうぞ是非、お聴きください。
▼▲▽△▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲▽△▼▲