音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■■ベッチャー先生との録音 その6 真の教育とは■■

2007-12-24 17:09:55 | ★旧・曲が初演されるまで
2007/5/29(火)

★ 録音も終了し、5月7日の朝、先生は大阪へ、私は東京へと発ちました。

先生は大阪で、マスタークラスのレッスンがあります。

それまでの6日間、お昼の休憩中や、時差で目が覚めてしまわれた夜中でも、先生は、

私の「無伴奏チェロ組曲」の演奏が困難な二小節を、ボーイングや運指を変えたりして、

なんとか演奏できるように工夫を重ねていらっしゃいました。

お別れするときも、「ベルリンに帰ったらもう一度、研究しなおしてみます」。


★録音の二日間、皆さんが飲み物で、談笑しているときも、先生は控え室で、

その二小節を飽きることなく、弾いていらっしゃいました。

ドア越しに、聴いていました私は、マエストロをここまで、

「追い込んでしまった」ことに、涙がこぼれそうになりました。

作曲家が、一音一音を書くことの重みについて、身をもって教えられたのです。

どんな音の一つ一つでも、決して、安易には書けない、という極当たり前のこと。

分かっているつもりでも、分かっていないことを自覚させ、

私の骨の髄に滲みこませてくださったのです。


★普通のチェリストでしたら、「ここは、演奏困難です、書き直してください」の一言です。

しかし、先生は「I try  my  best」です。

後日、5月12日、先生の帰国二日前のリサイタルを聴きに、大阪へ参りました。

リサイタル後、喫茶店でお茶を飲みながら、先生は「なぜ、あの箇所がそれほど難しいか」、

初めて、懇切丁寧に説明されました。

そして、厳かな顔で「ヨウコ!以後、この5度音程を使うことを固く禁ずる」

と宣告され、そして破顔一笑。

晴れやかなお顔でした。

困難なことに挑戦する背中を、ずっと見せ続け、それを克服し、

それから、理由をおっしゃる。


★「教育」とは、「教え」「育てる」ことです。

このエピソードこそ、教育の本当の意味を、示唆しています。

このブログをご覧になっていらっしゃる方々には、ピアノの先生や

いろいろな意味で、教育に携わっていらっしゃる方がおいでのことと存じます。

今回、私はこのブログで、ベッチャー先生のことを、何回も書きました。

先生の人となりは、幾分かは、皆さまに伝わったことと存じます。

そのなかで、私がもっとも、言いたかったことは、実は、この「教育」の話なのです。


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