音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■■ シューベルトのピアノソナタ変ロ長調D960 ■■

2007-12-24 16:19:50 | ★旧・私のアナリーゼ講座
2007/4/13(金)

★9回目の「アナリーゼ講座>が明後日の15日となりました。

シューベルトの「ピアノソナタ変ロ長調D960」について、つぶさに分析いたしました。

いろいろと新しい発見がありましたので、さわりの部分を一部、ご紹介いたします。


★シューベルトの曲は、次々に美しいメロディーが繰り広げられるため、

骨格の確かさに目が行かず、「思い浮かぶまま、流れるように作曲した」、

「構成が弱い」などという極めて表層的な通説が、幅広く流布しているようです。

大変、嘆かわしいことです。

そのような見方で演奏したり、聴いたりしますと、

シューベルトの世界を、さらに「見誤る」という結果になります。


★20世紀における「調性崩壊」の源流も、実はシューベルトにあるのです。

「思いがけない遠隔調への転調」は、彼の特徴ですが、

これも、思い付きでしているのではなく、緻密な調設計のうえでの作為です。

これを、気付かない人が「思いがけない転調」といっているだけなのです。

これは、バッハに端を発し、ベートーヴェン、シューベルトに受け継がれ、

ショパンへの流れていきます。


★「ピアノソナタ変ロ長調D960」は、シューベルトの最後のピアノソナタです。

ベートーヴェンとは異なる、全く新しい構成が見られました。

第1楽章、第1テーマの後に、通常は「確保」といって、

第1テーマをもう一度、少し形を変えて再度、演奏することが行われます。

その後、ブリッジ(推移)という、第2テーマにつながる橋渡しの部分が現れます。

ところが、シューベルトは「確保」と「推移」の位置を、逆にしてしまいました。


★第1テーマの後、19小節目から直ぐに「推移」が現れ、次々と「変奏」をしていきます。

そして、おもむろに36小節目から、「確保」が現れます。

この≪テーマを変奏していく≫という考え方が、全く新しいのです。

この変奏の考え方は、ブラームスを経て、

20世紀のシェーンベルク、ヴェーベルンへと脈々と、受け継がれていきます。


★また、音響面でも、9小節目のフェルマータのついた休符、112小節目の休符、

同じく331小節目は、オーケストラの総休止(ゲネラルパウゼ)に匹敵する休符です。

ゲネラルパウゼを、日本語は「休」という字を当て、音がなにも無いようなイメージですが、

実際には、空間に、その前のピアノの響きが美しく漂っています。

シューベルトの亡くなる1828年、ベーゼンドルファーが設立されました。

この時代は、ピアノの機能が日に日に進歩しており、

オーケストラに匹敵するような楽器として、成長を遂げています。


★このような休符の使い方は、モーツァルトがピアノソナタで使っていますが、

シューベルトは、モーツァルト研究も密かに深く積み、

最後のソナタで、全く新しい音響を作り上げていたのです。


★シューベルトに関する本は、あまり多くありません。

なぜなら、彼はめぼしいエピソードに乏しいからです。

通常の「音楽論文」は、「楽曲の分析」より、「エピソード」に依存して書くことが多いためです。

音楽は、作曲家の残した楽譜の上にこそあります。

是非、彼の楽譜を基に、研究していただきたいものです。

シューベルトの短い31年の生涯は、ただただ、作曲をするために費やされたのです。

ですから、面白おかしい逸話などは、残っていなくて当然なのです。



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