■第13番Sinfonia 冒頭「a¹」に「1」のfingeringが意味すること■
~モーリス・アンドレの CD「Trumpet Maestro」の魅力~
2015.10.11 中村洋子
★「Maurice André Trumpet Maestro, Le Mâitre de la trompette
モーリス・アンドレ トランペット マエストロ」
というCD(INDE075)を聴いています。
★オーケストラの華ともいえるトランペット。
Karl Richter カール・リヒター(1926-1981)指揮の
Bach「 Weihnachts-Oratorium クリスマスオラトリオ」の trumpetも
Maurice André(1933- 2012)モーリス・アンドレでした。
ソプラノ Gundula Janowitz グンドゥラ・ヤノヴィッツ(1937- )、
アルト Christa Ludwig クリスタ・ルートヴィヒ(1928 - )の、
譬えようもない Aria アリアと、アンドレのトランペットが、
クリスマスの喜びを、天も突き抜けんばかりに高らかに歌い上げます。
★学校の卒業論文のような、現代のBach 演奏には、
触手が向きません。
Bachはそのような、しかめっ面をした演奏、
喜びや楽しみがこぼれてこない演奏を、望んでいたのでしょうか。
★Bachは、当時の最先端を突っ走っていた作曲家です。
21世紀の現代音楽もまだ、彼には追い付いてはいないのです。
★アンドレに話を戻しますと、この二枚組のCDにはよく知られた名曲、
Hummel フンメル(1778 - 1837)、
Franz Joseph Haydnハイドン (1732~1809) 、
Albinoni アルビノーニ(1671- 1751)、
Torelli トレッリ(1658 - 1709)、
Antonio Vivaldi アントニオ・ヴィヴァルディ(1678~1741)などの、
Trumpet concertoトランペット協奏曲も収録されています。
溜息の出るような名演です。
★それらを堪能しました後は、 Bachの「Brandenburg Concerto
ブランデンブルグ協奏曲」Nr.2 第1、3楽章が、待っています。
★それだけでなく、いくつかの近代曲も含まれています。
これらの近代曲をお聴きになりますと、あらあら、
有名な日本の現代曲の“そっくりさん”が、
顔を覗かせていることに、驚かれることでしょう。
実は、日本の現代曲のほうが “そっくりさん” で、
こちらが、本家本元だったのです。
ばれてしまいますね。
★やはり、どうしてもまた、Bach「Brandenburg Concerto」
に戻って、聴きたくなります。
このCDを聴きながら、夕食をとっていても、
Bach になりますと、箸が止まってしまいます。
“ながら”では、聞けないのです。
★話は飛びますが、Pascal パスカル(1623-1662)の
「Pensées パンセ」が、岩波文庫から新訳で出ました。
まだ、上巻だけですが、この訳は翻訳調でないため、
ストレスなしにスラスラと読めます。
★その中に、次のような言葉がありました。
≪自分の作品を眺めるのに、仕上げた直後だと、まだ、それで頭がいっぱいだ。
あまり時間を置くと、もはや作品の中に入っていけいない≫
★私は、これまで講座などで、作曲家と「Manuscript Autograph 自筆譜」
との関係や、作曲家がどのように、作品を演奏して欲しかったか、
作曲家が自分の作品をどのように弾いていたか・・・をずっと、
探求してきました。
★パスカルの言葉は、共感するところが多いのです。
例えば、一般的に作曲家は、出版譜の校訂については冷淡、あるいは、
きちんとしないことが、往々にしてよくあるのです。
これは、作曲家が曲を完成させると、次の構想に頭が移り、
校訂、校正をあまり、熱心にしなかったり、
お弟子さんに任せたりするのです。
私も、出版する際、作曲時の熱狂を忘れ去っており、
自分で考え込むことも、よくあります。
★14日(水)は、KAWAI 金沢で Bach「Inventionインヴェンション」
アナリーゼ講座、第13番 Invention & Sinfonia を開催いたします。
そのため、Bach 「Manuscript Autograph 自筆譜」を読み、
Edwin Fischer エドウィン・フィッシャー(1886-1960)版を基に、
再度、解読しております。
★これまで、東京、横浜、名古屋で Invention analyze
アナリーゼ講座を、開いてきましたが、後になるほど、
それまでに発見できず、新たに理解したことが、
次々と出てきます。
★例えば、第13番 Sinfonia シンフォニアのFischer版では、
冒頭第1小節目1拍目「a¹」に、「1」の fingeringが付けられています。
何故、言わずもがなの「1」を付けたのでしょうか。
★この「1」により、楽譜を見ている人は、「a¹」からの motif
モティーフを、非常に強く印象付けられます。
それが、4小節目下声2拍目の「a」から始まる16分音符
「a - h - c¹」が、1小節目の≪縮小形カノン≫であることが、
分かります。
★このように fingering を頼りに、この曲全体を見渡していきますと、
例えば、18小節目の上声「a¹ - g¹ - a¹ - h¹ - c² - d²」に、
「3 2 1 2 3 4 」という fingering を付けていますが、
これは、「 1 2 3 4 」を辿っていけば、1~2小節目の
「a¹ - h¹ - c² - d²」の motif モティーフの、
これまた≪縮小形カノン≫であることが、判明してきます。
★ Bachの「Manuscript Autograph 自筆譜 」は、
この全64小節からなる曲を、左3段、右3段の見開きで、
記譜しています。
★左ページの2段目(12小節から22小節まで書かれている)の、
ほぼ真ん中に、この「18小節目」が位置しています。
つまり、左ページのど真ん中に据えているのです。
★このことからも、この18小節目の motif モティーフ が、
いかに重要であるか、 fingering から読み取れるのです。
----------------------------------------------------------------------
■日 時 : 2015年 10月14日(水) 午前 10時 ~ 12時 30分
■会 場 : カワイ金沢ショップ 金沢市南町5-9
( 尾山神社前 南町バス停より徒歩3分 )
■予 約 : Tel.076-262-8236 金沢ショップ
----------------------------------------------------------------------
■講師 : 作曲家 中村 洋子 Yoko Nakamura
東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。
2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。
07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。
08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。
08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
Analysis インヴェンション・アナリーゼ講座 」
全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。
09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。
10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集 」の楽譜を、
ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。
11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
チェロ二重奏のための 10の曲集 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」の楽譜を、
Musikverlag Hauke Hack Dortmund 社から出版。
13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
14年:「 Suite Nr.2、4、5、6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 2、4、5、6番 」 の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
SACD 『 Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 1, 2, 3, 4, 5, 6番 』 を、
「disk UNION 」社から、≪GOLDEN RULE≫ レーベルで発表。
スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
自作品が演奏される。
★上記の 楽譜 & CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/
「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/academia/s.php?mode=list&author=Nakamura,Y.&gname=%A5%C1%A5%A7%A5%ED
https://www.academia-music.com/ で販売中。
★私の作品の SACD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
disk Union や全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。
http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/
※copyright © Yoko Nakamura
All Rights Reserved
▼▲▽△無断での転載、引用は固くお断りいたします▽△▼▲