■一瞬にして f-Moll を b-Moll に転調する Bach の天才■
~平均律第2巻最終アナリーゼ講座 12番 f-Moll ~
2015.7.11 中村洋子
★7月に入り、蝉の声も初めて聞こえてきました。
14日は KAWAI 表参道、22日は KAWAI 金沢で、
アナリーゼ講座を開催いたします。
★14日の表参道「Wohltemperirte Clavier Ⅱ
平均律クラヴィーア曲集 第 2巻」 analyze アナリーゼ講座は、
いよいよ、第2巻の最終会となりました。
これまで、Bach の「Manuscript Autograph 自筆譜」が
残っている順に、講座を終え、
その後、 「Manuscript Autograph 自筆譜 」が失われている、
第4番(cis-Moll)、第5番(D-Dur)、第12番(f-Moll) の順に
進めることとし、最後の第12番(f-Moll) となりました。
★偶然の一致とはいえ、「 D-Dur 」と「 f-Moll 」は、
主音が「短3度」の関係にあります。
Bach が平均律第1巻で追求した、≪調性を規定する3度≫の関係を
もっている二曲(5番と12番)を、最後に扱うことができるのは、
Bach先生の“ご配慮”ともいえます。
★第5番 D-Dur と 第12番 f-Moll は、互いに好対照の曲です。
イエス生誕の喜びに満ちた明るい5番に対し、
12番は、深い嘆きに沈潜する曲想です。
★特に、12番 には、Bach の典型的な和声 Bach harmony が、
網羅されています。
講座では、それらをいくつかの類型に分け、綿密にご説明いたします。
★例えば、「ナポリのⅡの和音」は、どの作曲家も使いますが、
Bachが使いますと、なぜかくも美しいのか、
どこが、「Bach的」であるのか・・・ということをご説明します。
★例えば、 12番 Fugaの55小節目2拍目は、
「f-Moll」のⅣから始まりますが、その下声に目を移しますと、
「 B As Ges F 」 の16分音符ですが、
≪f-Moll≫であるならば、この3番目の「Ges」は「G」であるべきはずです。
★≪f-Moll≫のⅡの和音は、「 G B des 」の「減三和音」なのですが、
この根音「G」を半音下げて、「Ges」とすることにより、
「長三和音」となります。
★半音下げて「減三和音」を、「長三和音」に変化させることにより、
暗く厳しい「減三和音」が、ほのかに明るく暖かい「長三和音」へと、
性格が一変してしまうのです。
★ここまでは、それほど驚くべき手法でもありませんが、
Bach は次の56小節目で、「 f-Moll ナポリのⅡの和音 」 の
「 Ges B des 」 をなんと、 「b-Moll のⅥ」 と読み替えて、
やすやすと、≪b-Moll≫に転調してしまうのです。
一瞬にして、別世界に運ばれた心地がします。
ここが、 Bach の天才でしょう。
★Bach は、この55小節目の後半の≪f-Moll≫から、
56小節目≪b-Moll≫への転調に、深い思いを込めていたことは、
次のような記譜からも、推察できます。
★ Bachの「Manuscript Autograph 自筆譜 」は残っていませんが、
Bach の意図を色濃く反映して写譜した、と思われる「筆写譜」を
見ますと、ここの転調部分が、視覚的に実に分かりやすく、
レイアウトされています。
★この筆写譜は、1ページ7段で書かれています。
5段目最後に、55小節目を配置し、
55小節の1拍目で、5段目が終わっています。
そして、6段目の冒頭から、この55小節目の後半が始まります。
★もう一度、このページを注意深く眺めますと、
最上段の1段目冒頭の上声は、
「 g¹ as¹ b¹」 の16分音符で、始まっています。
これは、55小節目2拍目の下声「 B As Ges 」と、
見事に対応しています。
★さらに、視線を4段目冒頭に移しますと、
43小節目1拍目「 b as g 」が、同様に対応しているのが
分かります。
この「筆写譜」は、Bachの自筆譜を忠実に写したとみて、
間違いないでしょう。
これだけのレイアウトは、やはり Bach によるものでしょう。
★1段目の24小節目は、「 g¹ as¹ b¹」で、
2回目は「 b as g 」というように、
「g¹」であったり「g」であった音が、
3回目の55小節目2拍目では、「♭」が付されて「Ges」に
なっています。
★即ち、同型反復3回目に変化させる、という原則にも
則っています。
いかに55小節目2拍目が、この曲中で重要な位置を占めているか、
よく分かる例です。
★そして、その「ソ ラ シ」の三つの音から成る motif モティーフを、
Julius Röntgen ユリウス・レントゲン (1855~1932)が、
彼の校訂版でどのように扱っているか、それを見ますと、
Röntgen の着眼点の深さに圧倒されます。
講座で、解説いたします。
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●中村洋子・平均律第2巻・アナリーゼ講座
第24回 第 12 番 f-Moll BWV881 Prelude & Fuga
■日 時 : 2015年 7月14日(火) 午前 10時 ~ 12時 30分
■会 場 : カワイ表参道 2F コンサートサロン・パウゼ
■予 約 : Tel.03-3409-1958
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■講師 : 作曲家 中村 洋子 Yoko Nakamura
東京芸術大学作曲科卒。作曲を故池内友次郎氏などに師事。
日本作曲家協議会・会員。ピアノ、チェロ、室内楽など作品多数。
2003 ~ 05年:アリオン音楽財団 ≪東京の夏音楽祭≫で新作を発表。
07年:自作品 「 Suite Nr.1 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 1番 」 などをチェロの巨匠
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー氏が演奏した
CD 『 W.Boettcher Plays JAPAN
ヴォルフガング・ベッチャー日本を弾く 』 を発表。
08年: CD 『 龍笛 & ピアノのためのデュオ 』
CD 『 星の林に月の船 』 ( ソプラノとギター ) を発表。
08~09年: 「 Open seminar on Bach Inventionen und Sinfonien
Analysis インヴェンション・アナリーゼ講座 」
全 15回を、 KAWAI 表参道で開催。
09年: 「 Suite Nr.1 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 1番 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
10~12年: 「 Open seminar on Bach Wohltemperirte Clavier Ⅰ
Analysis 平均律クラヴィーア曲集 第 1巻 アナリーゼ講座 」
全 24回を、 KAWAI 表参道で開催。
10年: CD 『 Suite Nr.3 & 2 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 3番、2番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Regenbogen-Cellotrios 虹のチェロ三重奏曲集 」の楽譜を、
ドイツ・ドルトムントのハウケハック社
Musikverlag Hauke Hack Dortmund から出版。
11年: 「 10 Duette für 2 Violoncelli
チェロ二重奏のための 10の曲集 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
12年: 「 Zehn Phantasien für Celloquartett (Band 1,Nr.1-5)
チェロ四重奏のための 10のファンタジー (第 1巻、1~5番)」の楽譜を、
Musikverlag Hauke Hack Dortmund 社から出版。
13年: CD 『 Suite Nr.4 & 5 & 6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 4、5、6番 』
Wolfgang Boettcher 演奏を発表 。
「 Suite Nr.3 für Violoncello 無伴奏チェロ組曲 第 3番 」の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
14年:「 Suite Nr.2、4、5、6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 2、4、5、6番 」 の楽譜を、
ベルリン・リース&エアラー社 「 Ries & Erler Berlin 」 から出版。
SACD 『 Suite Nr.1、2、3、4、5、6 für Violoncello
無伴奏チェロ組曲 第 1, 2, 3, 4, 5, 6番 』 を、
「disk UNION 」社から、≪GOLDEN RULE≫ レーベルで発表。
スイス、ドイツ、トルコ、フランス、チリ、イタリアの音楽祭で、
自作品が演奏される。
★上記の 楽譜 & CDは、
「 カワイ・表参道 」 http://shop.kawai.co.jp/omotesando/
「アカデミア・ミュージック 」 https://www.academia-music.com/academia/s.php?mode=list&author=Nakamura,Y.&gname=%A5%C1%A5%A7%A5%ED
https://www.academia-music.com/ で販売中。
★私の作品の SACD 「 無伴奏チェロ組曲 第 1 ~ 6番 」
Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏は、
disk Union や全国のCDショップ、ネットショップで、購入できます。
http://blog-shinjuku-classic.diskunion.net/Entry/2208/
※copyright © Yoko Nakamura
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