■次回「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」アナリーゼ講座お知らせ■
~第19、20、21変奏曲、19変奏は≪花の影に隠れた“大砲”(対位法)の曲≫~
2017.1.22 中村洋子
★昨21日、第2期1回「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」
アナリーゼ講座を、開催いたしました。
大寒の中、たくさんの皆さまにご参加頂き、ありがとうございました。
★この第16、17、18変奏曲について、
Bachの音楽の背景を成すであろう Antonio Vivaldi
アントニオ・ヴィヴァルディ(1678-1741)や、
Bachと同い年で当時、スペインの王朝で活躍していました
Domenico Scarlatti ドメニコ・スカルラッティ(1685-1757)や、
Bach自身の作品群から、この変奏曲の背景を探りました。
★それにより、チェンバロという楽器を借りて、
Bachがイメージしたであろう、豊かな色彩で、
豪奢な音色を想起する手段を、お話いたしました。
★また、変奏曲を「四声体」化し、作曲中のBachの頭の中では
“このような声部で聴こえていた”であろうことを、
解説いたしました。
★前回のブログで問題にしました「第17変奏曲」の
29小節目1拍目下声の「h」音の改変についても、
講座では以下のように、補足してご説明いたしました。
★この29小節目1拍目下声の「h」音は、≪要の中の要の音≫であり、
第18変奏曲のある二か所の音、第19変奏曲のある一点の音、計4ヶ所で、
冬の夜空に、煌々と輝く4つの「一等星」のように、
巨大な星座“大四角形”を形成していく、というお話をしました。
この「h」音が「g」になりますと、“大四角形”はあり得ません。
「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」全体の骨格が崩れます。
Bachの構想の壮大さに、感動します。
★≪要の中の要の音≫が、推測により、
恣意的に改変されているということには、とても当惑しております。
★私の講座では、地道に一つ一つの変奏曲を徹底的に、分析します。
法隆寺や桂離宮の美しさも、細部をまず検証することから始まります。
その後、全体の大きな骨格、構想、美しさが理解できると思います。
倦まず弛まず、この地道な作業を続けていきたいと、思います。
★Bachの作品は、どんな細部であろうと、その細部のすべてに、
目に見えない柱や梁、桟が張り巡らされており、
揺るぎない力学構造によって支え合っています。
たとえ一点一画でも、間違って手直しされますと、
大伽藍が一気に崩落してしまうほどの、緊密さです。
Bachの考えに考え抜いた技法が、血管と神経のように、
隅々まで走っています。
その洗練さに感嘆するばかりです。
★これが、西洋クラシック音楽の根本原理なのです。
私は、日本音楽もずいぶんと聴いたり、勉強も致しました。
民族音楽も大好きです。
どの音楽も、固有の原理と構造を持っています。
これらに優劣はないでしょう。
★しかし、西洋クラシックを勉強するのであれば、その根本である
Bachを徹底的に勉強しなくてはならないでしょう。
Bachの基礎となるのが「counterpoint 対位法」なのです。
優れて「論理」の世界です。
そこに、日本的な情緒や情念、雰囲気は関係ないでしょう。
★第17変奏曲の「h」音の重要性を認識することから、
巨大な“大四角形”の星座の勉強が始まっています。
つまり、ここで既に、第19変奏曲の構造分析が始まっているということです。
★第19変奏曲は、Robert Schumann
ロベルト・シューマン(1810-1856)が、
Frederic Chopin ショパン(1810-1849)の曲を評するのに、
形容した文を模しますと、
≪愛らしく、可愛らしい曲のように見えますが、
花の影に隠れた“大砲”(対位法)である≫とも言えましょう。
★次回の第2期第2回アナリーゼ講座は、3月18日(土) 13:30~16:30です。
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■第2期第2回「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」アナリーゼ講座
・メヌエットのような優美で愛らしい第19変奏曲
・交差する両手が所狭しと鍵盤を転げまわる第20変奏曲
・半音階とシンコペーションが憂愁に閉ざされて沈むト短調の第21変奏曲
「Goldberg-Variationen ゴルトベルク変奏曲」の第2期第2回は、
第19、20、21変奏の三曲です。
第19変奏曲は、暮れそうで暮れない春の一日のように、明るく、穏やかな曲です。
いつまでも踊っていたくなるようなメヌエットです。
しかし、その構造は実に堅固です。
主題Ariaがそこここに顔を覗かせてきます。
第20変奏曲は、8分音符の上行モティーフ、
それを反行形で追いかける16分音符の下行モティーフ、
さらに、3連符の音階や分散和音が絡み合います。
いっせいに春の花が咲くかのように、鍵盤上を転げ回ります。
第21変奏曲は、明るく華麗な世界が一転し、同主短調のト短調に暗転します。
15変奏に続く二度目の短調です。
あの明るいインヴェンション1番と同じモティーフを使いながら、
このように暗澹とした深い嘆きに満ちた主題へと変容させる
バッハの天才に驚かされます。
※本講座は、初版譜ファクシミリ(Fuzeau出版社)を基にして進めます。
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■日時:2017年3月18日(土) 13:30~16:30
■会場:文京シビックホール、多目的室(地下1階)
■申し込み先:アカデミアミュージック・企画部
℡:03-3813-6757
E-mail : fuse@academia-music.com (日曜は定休)
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■「ゴルトベルク変奏曲」 アナリーゼ講座 今後の予定
日時: 5月13日(土)、7月8日(土) 各回 13:30~16:30
会場:文京シビックホール 地下1階 多目的室
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■講師:作曲家 中村 洋子
東京芸術大学作曲科卒。
・2008~09年、「インヴェンション・アナリーゼ講座」全15回を、東京で開催。
・2010~15年、「平均律クラヴィーア曲集1、2巻アナリーゼ講座」全48回を、
東京で開催。
自作品「Suite Nr.1~6 für Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」、「10 Duette für 2Violoncelli チェロ二重奏のための10の曲集」の楽譜を、
ベルリン、リース&エアラー社 (Ries & Erler Berlin) より出版。
・2014年、自作品「Suite Nr. 1~6 für Violoncello無伴奏チェロ組曲第1~6番」のSACDを、Wolfgang Boettcher ヴォルフガング・ベッチャー演奏で発表 (disk UNION : GDRL 1001/1002)。
・2016年、ブログ「音楽の大福帳」を書籍化した ≪クラシックの真実は大作曲家の「自筆譜」にあり!≫~バッハ、ショパンの自筆譜をアナリーゼすれば、曲の構造、演奏法までも分かる~(DU BOOKS社)を出版。
・2016年、ドイツのベーレンライター出版社(Bärenreiter-Verlag)が刊行したバッハ「ゴルトベルク変奏曲」 Urtext原典版の「序文」の日本語訳と「訳者による注釈」を担当。
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