音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ブーレーズ死去、音楽のアイデアが溢れんばかりに湧き上がる人でした■

2016-01-10 18:32:57 | ■ 感動のCD、論文、追憶等■

■ブーレーズ死去、音楽のアイデアが溢れんばかりに湧き上がる人でした■
      ~ブーレーズの本領は、オーケストラ作品に~
     ー金沢アナリーゼ講座「Moonlight Sonata Op.27 No.2」 ー

                               2016.1.10          中村洋子

 

 


★2016年初めてのブログです。

ことしのお正月は、山積みになったお仕事を、

淡々とこなす日々、それなりに充実したお正月でした。


★元旦の東京(中日)新聞、「平和の俳句」という欄、

昨年一年間の中での、五つの秀句が掲載されていました。

「平和とは/一杯の飯/初日の出」、という18歳の男子の句。

暖かい美味しいご飯を食べる、元気よく食べてさあ行こう!

平和だからこそ、美味しく食べられる、

ご飯を食べることができる、その当たり前さこそが「平和」。

力強い好感がもてる句です。


仏作曲家P・ブーレーズ氏死去、90歳 大統領府も哀悼声明
 1月6日、現代音楽の第一人者で実験的な活動を行ってきたことで知られる仏作曲家、指揮者のピエール・ブーレーズ氏が5日午後、独バーデンバーデンで死去した。
  [パリ 6日 ロイター] - 現代音楽の第一人者で実験的な活動を行ってきたことで知られるフランスの作曲家、指揮者のピエール・ブーレーズ氏が5日午後、独バーデンバーデンで死去した。90歳だった。家族が6日に発表した。

多くの世界的な主要楽団で指揮者を務めたほか、電子音楽の発展に寄与したことでも知られる。1960年にはフランスの植民地だったアルジェリアでの戦争に反対する抗議声明に署名。当時居住していたドイツからフランスへの帰国を禁止された。帰国禁止措置は解除されたものの、その後の人生の多くをドイツで過ごした。
  ブーレーズ氏の死去を受け、仏大統領府は哀悼声明を発表。「ピエール・ブーレーズ氏はフランス音楽に光を当てた。作曲家および指揮者として、彼は常に自身の時代を考察しようとしていた」と追悼した。

★ピエール・ブーレーズさん死去 仏の作曲家・指揮者
              2016年1月6日 朝日新聞

 世界的に知られるフランスの作曲家、指揮者のピエール・ブーレーズさんが5日、居住するドイツ西部バーデンバーデンで死去した。90歳だった。家族らが6日、声明で発表した。
 最先端の音響・科学技術、思想、哲学など、多くのジャンルをとりこんで表現し、現代音楽界を牽引(けんいん)した。25年、仏モンブリゾン生まれ。パリ国立音楽院で作曲家メシアンに師事。代表作に「アンセム2」などがある。教育者としても活動し、「現代音楽を考える」など論考を多数執筆。70年代、パリにIRCAM(音響・音楽の探究と調整の研究所)を創設、所長に。科学の最先端技術を作曲や演奏の世界と結び、現代音楽の潮流を作った。
 音の塊で聴衆を圧倒する傾向に背を向け、音楽の構造を冷静に分析し、緻密(ちみつ)かつ透明感のある響きで内側から熱狂させてゆくスタイルの演奏を貫いた。
 76年、気鋭の若手演出家パトリス・シェローを起用し、ワーグナーの殿堂であるバイロイト音楽祭で「ニーベルングの指環」を上演。産業革命の時代に舞台を置き換え、社会批判を鮮明に打ち出したことで、音楽界を超えるスキャンダルを巻き起こした。米クリーブランド管弦楽団、ニューヨーク・フィルハーモニックなどで要職を歴任した。
 67年、バイロイト祝祭劇場初の日本公演のため初来日した。95年、東京で「ブーレーズ・フェスティバル」開催。89年世界文化賞、09年京都賞。(青田秀樹=パリ、吉田純子)

 

 


★Pierre Boulez ピエール・ブーレーズ

(1925- 2016年1月5日)が、亡くなりました。

海外の記事は、彼の政治的側面も報道していますが、

日本の記事は、音楽家としての側面しか紹介していませんね。

また、評価の焦点を、電子音楽に当てている記事が多いのですが、

彼の本領は、オーケストラ作品に発揮されていました。


★私の学生時代は、ブーレーズが作曲をしていた最後の時代でした。

彼の作曲が発表されますと、すぐに楽譜が出版されていました。

私はその楽譜とレコードを図書館から借り、貪るように勉強した

憶えがあります。

ブーレーズは、Olivier Messiaenオリヴィエ・メシアン

(1908-1992)の弟子でもあり、世間では、

難解な現代音楽を書く作曲家というイメージが強かったと

思います。


★私から見ますと、ブーレーズはFranz Joseph Haydn

フランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732-1809)のように、

音楽のアイデアが絶えず豊かに、沸々と湧き上がってくるような、

非常に才能に恵まれた人でした。

そして、そのアイデアを惜しげもなく、一つの曲の中で、

繰り出した人でした。


一般の方にとっては、その次々と繰り出す、繰り出し過ぎる

音楽のアイデアを覚えきれず、その結果、馴染みにくく、

漠然とつかみ処のない、難しい作曲家という

印象だったのかもしれません。


アイデアとは、次のように言えるかもしれません。

オーケストラが奏でるある一瞬、その独特な音の配列

(広い意味での「和声」でしょう)から、

非常に美しい響きが、流れ出てきます。

そして、驚くべきことに、全く別の美しい音の配列(アイデア)が、

次々と連続して、繰り出されてくるのです。

同じものではないのです。

メシアン譲りの、響きもうかがえます。

 

 

日本の武満徹もその頃、盛んに作曲活動をしていました。

ブーレーズの新作とその録音が出そろってから半年ほどしますと、

武満は、ブーレーズの溢れるばかりのアイデアのうちの

たった一つをピックアップし、それを変化、反復させて、

曲を作り上げていました。

それには、つくづく驚きました。


★日本人の真似をする能力は、高いのです。

武満が高度な技法をもちえ、

ブーレーズのアイデアをさらに展開していく能力があったならば、

ブーレーズを凌ぐことが、出来たかもしれませんが・・・。


★武満徹の死去後、NHKによる武満特集の番組を見ました。

あまり音楽を理解しているとは思えないような人たちが登場し、

号泣したり、美辞麗句を並べている中、

ブーレーズもコメントを求められていました。

彼は“そういう名前の人は知っているが、曲については知らないので、

コメントしようがない”という趣旨のことを、

冷たく言い放っていたのを、覚えています。


実は、ブーレーズはメシアン同様、西洋クラシックの基本である

「和声」、「対位法」、「フーガ」を徹底的に学んだ後に、

いわゆる“現代音楽”という様式の作品を書くようになったのです。

日本の現在の現代音楽のように、出来上がった現代音楽の響きや、

書法をなんとなく真似て、作曲してみるというのとは、

根本的に異なります。

エルメスのバッグを見ながら、それに近い物を作り上げる

ブランドコピー商品に似ているかもしれません。

エルメスのバッグは、長い歴史のなかから、

その設計を確立し、素材を厳選し、その結果として、

最良の物を製品としています。

同等の物を作りたいのでしたら、

その歴史を学ぶ必要があるでしょう。

そうでなければ、コピーはコピーのままでしょう。


★ブーレーズの楽譜は高価でしたので、当時の私は、

購入することができず、いま手元にございません。

以上の話は、私の記憶話です。

 

 


1月20日(水)にKAWAI金沢で開催します

「アナリーゼ講座」のために、

Beethoven の「Moonlight Sonata Op.27 No.2 月光ソナタ

の勉強を、続けています。


第1楽章冒頭の1~13小節目までの「自筆譜」は欠落していますが、

他の部分は、完全に残っています。

「初版」も、Beethoven の音楽的意図を完全に、

汲み取って作られており、素晴らしい楽譜になっています。

現代の実用譜がこうであったら・・・と、溜息が出るほどです。

音楽を本当に理解し、心から音楽を愛していた人が、

作っています。


★どうしてそんなに素晴らしいか、具体例を一つ。

「第58小節」が顕著です。

 

自筆譜を見ますと、当初、Beethoven は、

47~60小節目までを、1枚の紙に、4段で記譜していました。

47~49小節目 を1段目
50~53小節目 を2段目
54~57小節目 を3段目、

 

3段目が終わり、4段目は、現在の59小節目に相当する譜から、

始まっていました。


現在ある、この美しい「58小節目」は、Beethoven が後から、

書き加えたことになります。

57小節の後、いきなり59小節を弾いても、全く齟齬なく、

素晴らしい音楽となっているのは、驚嘆しますが。


そしてこの「58小節」の追加が、

この第1章の深みを、さらに増していくのです。

詳しくは講座でお話いたします。

「初版」は、この第1楽章を1ページ5段、

全3ページで記譜しています。

初版を作ったengraver(銅板に譜を彫る人)が、

この58小節の重要性を、鋭く見抜いていたのか、あるいは

Beethovenの指示通りに、忠実に彫ったのか、

結果は、

なんと、「58小節」が、3ページ2段目の真ん中、

つまり、最も視線が行く、コアの部分に、

鎮座しているのです。

見事です、感動します。

 

 

※copyright © Yoko Nakamura    
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