土曜日に近郊のスーパーへ行った時のこと。
トイレに行こうと、案内マークを目印に歩いた。
やがてトイレが見えてきた。かなり前方に一人、
高齢者らしき男性がそのトイレに入って行った。
で、僕もその少し後に、トイレに入った。
そこでびっくりしたのは…
トイレの中には誰もいなかったのだ。
「あれっ? さっきのおじさんは?」
個室も全部、戸が開いている。
そのおじさんは間違いなくトイレに入ったのに、
トイレの中には誰一人として人の姿が見えない。
ぞぉ~~~~
あれは幽霊か?
いや。ひょっとして…
どこかに隠れているのでは。
そしていきなり「金を出せ!」
などと、襲いかかってこられるのでは…。
ぎゃっ、トイレ強盗!?
思わず身構え、周囲を見回し、天井まで見た。
上から襲撃してくることだって考えられる。
どこかの忍者の子孫かも知れないし…。
…と、不安に駆られていると、急に
バ~ン
…と、一番奥の個室の戸が閉まったのである。
思い切り閉めたようで、けたたましい音が響いた。
な~んだ。そこにいたんじゃないか。でも…
戸を開けたまま用を足すつもりだったのか?
僕の気配に気づいて、閉めたのだろうか。
それとも、うっかり閉めるのを忘れていた?
なんだか、わからないけれど。
まったくもう、びっくりするじゃないか。
でも、なんですぐにドアを閉めなかったのか。
おじさんがトイレに入ってから僕が入るまで、
時間にしたら10秒以上は充分に経過していた。
ふつう、個室に入ったら、まず戸を閉めるだろう。
そこで僕は「なんで?」と考えた。
思い当たることが、なくもない。
たとえば…
配偶者を亡くし独居老人の生活になると、
まずトイレの鍵をかけなくなり、やがて、
戸も開けっぱなしで用を足すようになる、
というようなことを、聞いたことがある。
ひょっとして、その人は独居老人なんだろうか。
で、日頃のクセが出て、閉め忘れた…とか。
あるいは、さらにひょっとして…
このおじさんは中国人だったかも知れない。
中国の北京で、トイレの個室を開けたまま、
用を足している人を何度も見たことがある。
あそこは、女性ですら開けたまま用を足していた、
と、一緒に旅行した妻が驚いていた。
ふ~む。
独居老人なのか…
中国人の系統なのか…
…と、僕はオシッコをしながら、
あれこれ考えをめぐらせたのである。