僕のほそ道   ~ のん日記 ~

  
これと言ったテーマはなく、話はバラバラです。 つい昔の思い出話が多くなるのは年のせい? 

なぜ 「故障中」 なのか

2014年10月01日 | 日常のいろいろなこと

言葉というのは、時の移り変わりと共に、その解釈も、変化したり広がったりする。たとえば「鳥肌が立つ」という表現だけど、もともと「ぞっとする」という意味だったのが、いつ頃からか、スポーツで日本選手が大逆転勝利を収めた時などに「すご~い。鳥肌が立ったわ」という使われ方もするようになった。


この使い方は間違っている…と僕は思っていたが、辞書で調べると、「近年、感動した場合にも用いる」と末尾に付け加えられていた。へえぇ~、まんざら間違った表現でもなくなっているんだ。うむ…。この調子ではやがて「身の毛がよだつ」という言葉も、感動したときに使うようになるかもしれないなぁ。「AKB48のコンサートには、身の毛がよだちました」な~んてね。


他にも気になる言葉は沢山ある。「耳障りがよい」という表現はどうか? 「耳障り」というのは聞いていやな感じがする意味なのに、その「耳障り」が、よいはずないではないか…と思うのだが、けっこうこれを使う人がいる。辞書で調べると、こちらは「『耳障りがよい』というのは誤用」と書かれていたので、当然だけど社会的に認められていないわけだ。


真逆(まぎゃく)という言い方にも違和感がある。「正反対」と言えばいいのに、なぜか最近の人たちは「真逆」を使いたがる。政治家やコメンテーターまでも使っている。「正反対」より「真逆」と言ったほうがカッコいいと思っているのか、インパクトが強いと思っているのか。聞いているほうも何となくその気になってくるから不思議である。でも辞書に「真逆」という言葉は存在しない。TVから「真逆」なんて言葉が流れてくると、とても「耳障り」なのだ~。


こんなふうに“造語”が増えていくのは、使うのに便利だから、ということもあるだろう。たとえば「ヤバい」などは、今では危険な時にも楽しい時にも両方使える「便利表現」の代表的なものだ。かつて日本語が持っていた微妙で美しい表現は、このあわただしいご時世ではだんだん見向きもされなくなってきている。


そこで今日、特に言いたいのは、近年増えてきている「故障中」という表現である。故障中…って、ひと昔前までは絶対に使わない表現だった。それが今では、自動販売機が故障したら「故障」ではなく、「故障中」の札が貼られ、スポーツクラブのトレーニングマシンにも、いくつか「故障中」が貼られている。


なんとか中…というふうに「中」を接尾語として使うのは、ある営みをあらわす言葉として使う…と僕は思うのだ。営業中、授業中、運転中等々。しかし故障というのは営みではない。単に状態である。そんな営みでもないモノに「…中」とつけるから話がややこしくなる。


先日、大手スーパーへ行ったら、ある商品スペースの場所に「品切れ中となっております」というメモが貼ってあった。「品切れ」も営みではないから、これも「…中」をつけるのはおかしい。ま、「…となっております」もヘンですけど。


「故障中」は「故障」でいいし、「品切れ中」は「品切れ」でいい。どうしても「…中」をつけたいのであれば、故障の場合は「調整中」とか「修理中」と書き、品切れの場合は「取り寄せ中」とすれば、それでわかるのではないか。


なのにぃ、なぜぇ~?(こんな歌がありましたっけ)、やたらに「…中」をつけたがるのだろうか…と不思議に思っていた。


そんなある日、コスパのマシンに貼られている「故障中」の札をぼんやり眺め中(なんやそら)に、「あ、そうか!」と、突然ヒラめいた。そうだ、そうなんだ。これも今の時代、何でも丁寧に言ったり書いたりしておけば、うるさい客からのクレームも減るだろう…という考慮の上の表現なのだ。僕は、はたと膝を打ち(いててて)、なるほど、そういうこっちゃなぁ、と1人で合点した。


どういうこっちゃねん…と言うと、「故障」とだけ貼ると、客から「いつ直すねん」と文句を言われ、「品切れ」とだけ貼ると「いつ品物が入るねん」と詰め寄られる。その点「故障中」とか「品切れ中」と貼っておけば「今は故障していますけどすぐに修理しますから怒らんといてね」「今は品切れですが取り寄せていますので文句言わんといてね」という雰囲気をほのめかせる。だから「…中」をあえて入れるんだろ。「なんでも表面上は低姿勢にしておけば、文句言われへんやろ」という今の時代を反映した“便利造語”の一つとも言えるようだ。


でもねぇ。
こんな“造語”がどんどん広がっていくと、この先、ひょっとして、親を亡くした人が「うちの親は死亡中です」と言うケースが出てくるかもしれない。


「死亡中…? はて、どういう意味ですかな?」と問うと、「来世にまた、すぐに何かに生まれ変わって来ますので、今はとりあえず死亡中ですわ…」 


うぅ。いくらなんでも…。そこまでは、いきませんか?

 

 

 

 

コメント (6)
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