イグアスの滝は、広大で、鬱蒼としたジャングルの中にある。
観光客用に、道は整備されているが、周囲はやはりジャングルである。
前回も書いたが、川のそばにワニが寝そべっていた。
ガイドのフェルナンデス君が「あそこにワニがいます」と指差す先を見て、わかった。
ワニは、ピクっとも動かず、まるで置物のようにじっとしていた。
ほんまモンかいな、と一瞬は疑ったが、紛れもなく「天然」のワニであった。
また、滝へ行く道すがら、猫のようなものがチョロチョロ歩いている後姿が見えた。
「ん…?」
猫にしては尻尾が太くて長い。体長は50センチぐらい。
猫よりも、たくましい体つきをしている。
こちらを向いた。やはり、猫ではない。
なんじゃ、この動物は…?
よく見れば、あちらにも、こちらにもいる。
「あ、あれは、アナグマです」 とフェルナンデス君が教えてくれた。
「アナグマ…? あ~、ラスカルかいな…」
それは、アライグマや…っちゅうねん。
人間を怖がる様子もなく、悠々と歩き回っている。
カフェテラスでは、食べ物を求めてウロウロしている。
日本で言えば、人にいるところに寄ってくるハトみたいなものだ。
そんなことひとつにも、「う~む、さすがジャングルやなぁ」 と感心する僕である。
人がいても知らん顔。 悠々と闊歩するアナグマ君。
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滝を見たあと、駐車場へ引き返す汽車の中で、小学生の団体と一緒になった。
遠足か何かでここへ来ているのだろう。
もちろん、アルゼンチンの子どもたちだから、キャアキャアとスペイン語で騒いでいる。
僕の席の横や前の狭い場所に、何人もの子どもたちが詰めかけて座ってくる。
小さな汽車は、この小学生たちが乗ってきたので、たちまち超満員になった。
汽車に揺られながら、騒がしい子どもたちを眺めているうちに…
「そうや。ちょうどええわ、子ども相手に、スペイン語会話の練習をしよう」
この旅行に備えて勉強してきたスペイン語である。
こういうチャンスを逃してはならない。
僕は、横にいる子どもたちに、「クワントス・アニョス?」 と尋ねた。
「あんたら、年いくつや?」 という意味である。
子どもたちは一瞬お互いの顔を見合わせたが、一人がニィっと白い歯を見せ、
「オンセ!(11歳)」 と元気良く答えた。
お~っ、よかった。 わがスペイン語が、子どもたちに通じたぞ。
しかし、「おっちゃんは、いくつやねん?」
と聞き返されたときはドキっとした。
「ヨ…(僕は…)」 と、次に繰り出す言葉が出てこない。
じっと頭の中で、「30…、40…、50…。え~っと、60は…60は何やった?」
「セセンタ(60歳)」 と、ようやく言ったら、
みんな、そ~か、という顔をしていた。
言ってから僕は、「もっと若く言っといた方がよかったかなぁ…」
と思ったけれど、まぁ、こんなところで年をごまかしてもしゃ~ないわ。
次に僕は 「デ・ドンデ・ビエネ?(どこから来たの?)」 と質問した。
すると、子どもたちは口々に、
「ホニャラヘニャラポンポコリンオッパッピ~」 と叫んだ。
…わかるはず、ないがな。
すると、今度もまた、子どもたちから、
「ところで、おっちゃんは、どこから来たんや?」 と質問をされた。
僕はちょっと胸を張り、
「ハポン(日本)!」 と、相手にわかりやすいように、ゆっくり、はっきりと発音した。
当然 「あ~、日本か。日本からやって来たのか!」 という反応を期待していた。
…が、どの子どもにも、反応らしいものが見えない。
ポカ~ンとした顔つきをしている。
「ハポンやで、ハポン。私はハポネス(日本人)ですがな」
と、両手をひろげ、オーバーアクションで子どもたちに訴える僕。
ひとりの男の子が、「わかった」 と大きくうなずいた。
「やっとわかったか」 と、ホッとする僕の横で、その子どもは笑顔を見せながら、
「アローハ」 と言い、片手を上げ、親指と小指を立てて揺らめかせた。
あのなぁ…
それはハワイやろ。
汽車は途中から小学生たちが乗ってきて、超満員に…
カメラを向けるとサングラスをかけてポーズをとる男の子。
しかしまぁ、サングラスもいいけれど…
日本とハワイは全然別の国ですよ。 覚えておいてね~。