電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

水温む春〜井戸水を汲み上げて

2020年03月16日 06時01分26秒 | 季節と行事
水温む春です。三寒四温を繰り返しながら、次第に気温が高くなってきています。さすがに、もう氷点下で凍結するようなことはなくなったでしょうから、井戸水の汲み上げを開始しました。宿り植えしていた自家栽培のネギや大根を洗うにも、井戸水は便利です。忘れないように、手順をメモしておきましょう。

  1. 汲み上げ管と送水管のバルブを開栓する。
  2. 井戸ポンプのカバーを取り外し、呼び水を入れる。
  3. 200Vの電源スイッチを入れる。

  4. 水が安定して出ることを確認し、本体カバーをして、OK


昨年までは何かとトラブルがあり、業者さんに来てもらうことがあったのですが、今回は一発で汲み上げを開始することができました。水の恵みに感謝です。この冬の暖冬少雪で地下水が枯れるようなことがないように祈ります。

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山形交響楽団第283回定期演奏会をライブ配信で聴く〜シューマンとチャイコフスキー

2020年03月15日 06時10分58秒 | -オーケストラ
新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐために、様々な催し物が中止あるいは延期になる中、山形交響楽団は定期演奏会の無聴衆ライブ配信という選択をしました。さて、どんなふうに実施されるのか興味深い第283回定期演奏会は、次のようなプログラムです。

  1. シューマン 序曲とスケルツォ、フィナーレ 作品52
  2. チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲 神尾真由子(Vn)
  3. シューマン 交響曲第2番
     指揮:阪哲朗、山形交響楽団

おそらく初めて聴いたという方も少なくないことでしょうから、当方の演奏会レポートもちょっと趣向を変えて、あまりクラシックの演奏会などに馴染みのない方を想定して、少し説明的にやってみたいと思います。

まず、演奏前に西濱事務局長と今回の指揮者の阪哲朗さんが登場して話をしましたが、これは山響の恒例のプレコンサートトークというもので、プログラムの曲目について、作曲家や作品の聴きどころなどが話題になることが多いのですが、今回はライブ配信となったことやサーバー事情が中心となっていました。

続いて演奏家が登場して配置につきますが、今回の楽器編成と配置は、ステージ左から第1ヴァイオリン(1st-Vn:8)、チェロ(Vc:5? 6?)、ヴィオラ(Vla:5? 6?)、第2ヴァイオリン(2nd-Vn:7)、そして左奥にコントラバス(Cb:3)という弦楽5部で、こういう形を第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが左右に分かれて位置するため、両翼配置と言われたりします。古典派やロマン派の時代は、こういう配置を取ることが多かったそうです。なお、数字はその楽器の人数です。
正面奥には、木管楽器として前列にフルート(Fl:2)とオーボエ(Ob:2)、その奥にクラリネット(Cl:2)とファゴット(Fg:2)が、さらにその奥には金管楽器のホルン(Hrn:2)、トランペット(Tp:2)、トロンボーン(Tb:3、うち1はバストロンボーン)、右奥には音の抜けが良いバロック・ティンパニという配置です。
また、ホルンやトランペットも、大きな音量は出ないけれども自然な響きの、バルブのないナチュラル・タイプの楽器が使われています。このあたりは、作曲された時代に使われていたものとできるだけ同じタイプの楽器を用いることで、よりよく作曲家の意図を表現しようという演奏家の意欲の現れかと思います。



1曲め:シューマンの「序曲、スケルツォとフィナーレ」Op.52 です。Op. というのは Opus の略で、作品番号を意味します。山響ホームページからダウンロードしたプログラム冊子の解説によれば、本作品は1840年にクララと結婚できて大喜びのシューマンが、「交響曲の年」と呼ばれる翌1841年に作曲したもので、緩徐楽章を欠いているけれども「立派な交響曲」とのことです。
実際の演奏のほうは、聴衆が入らない環境での演奏家のとまどいや、聴衆が入らないことから通常とは異なるホールの響きにマイクロフォンやミキサーがどう対応するかなど、随時調整しながらの出だしでしたが、次第に調子が上がってきたようでした。

演奏が終わった後で、ステージ左側の第1ヴァイオリンやチェロ奏者が席を立つのは、椅子と譜面台を少し後方に下げることで協奏曲のソリストが立つスペースを確保するためです。この時間に、女性が指揮台に譜面を運んでいますが、これは楽譜の調達や管理を専門に行うライブラリアンという役割だそうです。また、ティンパニがバロック・ティンパニからモダン・ティンパニに変更されていますが、これは次の曲目、チャイコフスキーの時代には、モダン楽器に変化していたことに合わせるためでしょう。同様に、金管楽器奏者も右袖に引っ込みましたから、たぶんホルンやトランペットなどがバルブのついたモダン・タイプの楽器に持ち替えるためではないかと思われます。このように、作曲された時代の様式に合わせて楽器が選ばれ、響きが変わるのを楽しめることも、山響の特色となっています。

2曲めは、ホルンが4本に増強され、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、独奏者(ソリスト)は神尾真由子さんです。2007年のチャイコフスキー国際コンクール優勝者で、文字通り世界的な名演奏家ですが、大勢の聴衆を迎えて演奏会を開くことができない中で初の無聴衆ライブ配信という今回。演奏の始まりで、もう「いっぱい思いの詰まっているチャイコフスキー」だなあと感じました。チャイコフスキーという作曲家自体、他人には言えない思いをしていた人なのだろうと思いますが、曲の持つ複雑な性格と、今回の演奏会事情と、演奏家の気迫とがあいまって、素晴らしい演奏となりました。第1楽章:アレグロ・モデラートの中で、オーケストラが休み、独奏者が自由に即興的に技巧を披露して見せる「カデンツァ」というところがありますが、ここも素晴らしい集中で、思わず惚れ惚れする見事なものでした。第2楽章の途中、独奏ヴァイオリンとオーボエやクラリネットとが交わす緊張感のある、しかし親密なやりとりは、なんとも言えず素晴らしい。第3楽章の盛り上がりは、ソリストとオーケストラの、プロの音楽家同士が互いに触発され力を発揮した真剣さが生み出したものでしょう。指揮棒が降ろされた後、ソリストをたたえる拍手がオーケストラの中から自然に出てきました。



そして独奏者アンコールは、J.S.バッハの「無伴奏パルティータ第1番」の第1楽章。これも素晴らしかった。オーケストラの団員が楽器を置いて手で拍手をするのは、最高の賞賛を表すものだと聞いたことがありますが、さもありなんと思えた状況でした。

ここで、演奏会の前半が終了し、団員、ソリスト、指揮者が一礼し、ステージからいったん下がります。届かないもどかしさを覚えながら、こちらも大きな拍手をおくりましたですよ!

休憩の間、同じCMが繰り返し流れます。ですが、休憩が何分間なのか、何時ころに再開されるのか、まったくわかりません。定期演奏会では「15分間の休憩です」というアナウンスが流れ、5分前のチャイムもなりますので、慌てて席に戻ることになりますが、今回はじめてクラシックの演奏会を聴く人にとっては、CMの間に「◯◯分の休憩、再開予定は◯◯分頃です」くらいは表示する必要があるのではないかと感じました。実際、第1曲めのシューマンでは「1.7千人」と表示されていたのが第2曲めのチャイコフスキーでは「2.3千人」となり、CMの間には「1.9千人」→「1.6千人」→「1.4千人」と減っていきました。私はトイレ休憩の後、サクランボ酒のお湯割りを手に、休憩中の西濱事務局長と指揮者の阪哲朗さんのトークを聞いていましたが、シューマンの病気の症状が小康状態にあった1845年に作曲されたこと、山形の、またオーケストラの印象などが話題になりました。なお、このときは「1.3千人」と表示されていました。

後半の部は、シューマンの交響曲第2番ですが、まずは音合わせ、チューニングから。オーボエが出す音を標準に、コンサートマスターの髙橋和貴さんが音を合わせ、これに続いて各パートの楽器が音を合わせて、あのサウンドが出来上がっていきます。このときのアクセス数は少し戻って「1.6千人」。シューマンの交響曲第2番が作曲された頃はまだナチュラルタイプの金管楽器が使われていたことから、ホルンはチャイコフスキーの4本から2本に減り、しかもバルブなしのナチュラル・ホルンになります。当然、トランペットやティンパニ等も当時のタイプのものに交替しています。指揮者は指揮棒無しで登場。ヨーロッパの歌劇場等で実績を積んできた常任指揮者は、やわらかい指揮ぶりの中で、シューマンの憧れに満ちた音楽を紡ぎ出します。第1・第2楽章は、アタッカといって楽章間の休み無しに続けて演奏されましたが、例えばスケルツォの軽やかな曲想のところは見事なアンサンブルを聴くことができましたし、第3楽章:アダージョ・エスプレッシーヴォはしっとりとした実に美しい音楽です。第4楽章:アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェは、堂々とした見事な音楽になっていました。このとき、アクセス数は「1.7千人」。

やったね! 無事に終演まで来れたね! いい演奏になったね! いろんな意味をこめて、指揮者は首席奏者たちと握手……じゃなくて肘をぶつけ合って、団員から笑い声も出る和やかな雰囲気の中で、終演。最後、みんなで聴衆のいない客席に向かって一礼したのは、おそらくネットの向こうにいる多くの山響ファン、音楽ファンへの挨拶であり、応援を願う気持ちの現れだったのではなかろうか。



ナマの演奏会でなく、インターネットを通じたライブ配信ということもあり、何枚かスクリーンショットを撮りました。ただし、演奏家には肖像権があり、それぞれの事務所が管理していると思われますので、当日の雰囲気を示すステージ全体の風景を何枚か、しかもごく小さくして挿入したいと思います。もし、支障があれば、コメントしていただければ削除いたします m(_'_)m

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ブルゴーニュと白軸カクノとプレジールに古典BBインクを補充

2020年03月14日 06時01分25秒 | 手帳文具書斎
※記事の終わりに、本日の山響定期のライブ配信ご案内(URL)があります。

ふだん手帳用等に愛用しているプラチナ社の万年筆#3776ブルゴーニュ(F)のインクがなくなりそうだったので、古典ブルーブラック・インクを補充しました。プラチナ社のインクコンバータはさほど大容量というわけではありませんが、細字のせいか、無補給でけっこう長期間使えます。書きやすく、適度に細すぎず視認性が高い、好ましいものです。



あわせて白軸カクノ(M)とプレジール(F)にも同じ古典BBインクを補充。白軸カクノは、書き味はブルゴーニュに負けますが、乾きやすい反面、一部空気酸化されているであろう黒っぽい色で、かっちりとした書字は好ましいものです。カヴェコのクリップを後付けしたため、いささかリアヘビーではありますが、もう慣れました。



プレジールは、使い馴染んだプレッピーの首軸を交換したもので、カートリッジに先細ガラスの自作スポイトで。学生時代にガラス細工実習で作ったスポイトですが、中心が合わない失敗作でも充分に実用になります。





昨年から記録しているインク補充記録を見ると、昨年もこの時期にインクを補給しているペンが多いようです。



万年筆にインクを補給するというのは、とくになんということもない行為ですが、気持ちが静まり、落ち着く面があります。貴重なルーティン・ワークです。



本日、19時から、山響こと山形交響楽団の第283回定期演奏会が無料ライブ配信されます。URLは

ここです。

新型コロナウィルスの対応で全中止にするよりはと考えた対応策のようではありますが、逆に全国の、クラシック音楽には特に強い関心があるわけではないけれど、興味を持って聴いてみようかと思われる方もいるかもしれません。お時間のある方は、お試しください。「山形のオーケストラ?野暮ったいんじゃないの?」などという偏見はなしで、ぜひ、まっさらな状態で、日本初の「モーツァルト交響曲全集」を完成したオーケストラの響きをお聴きください(^o^)/

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「大根カレーうどん」を作る

2020年03月13日 06時01分46秒 | 料理住居衣服
お昼に何か作ろうとしましたが、あいにくネタがなく、『きょうの料理』2020/2月号をもとに「大根カレーうどん」を作ってみました。

    【材料と準備】(2人分)
  • 冷凍うどん 2玉
  • 大根 500g 細切り
  • 混合調味料 だし:カップ4 醤油:大さじ1 みりん:大さじ1/2
  • カレールー 約70g
  • 細ねぎ 適量 

実は細ねぎが見当たらなかったので、省略しました。また、ちゃんとだしを取る時間もなかったので、水にだしの素で間に合わせました。


  1. 細切りの大根と混合調味料を鍋に入れ、強火にかけてひと煮立ちさせたら火を止め、カレールーを加えて溶かす。

  2. 冷凍うどんを表示どおりに電子レンジで解凍して軽くほぐした後、大根カレーに加えて弱火にかけ、温まったら器に盛り、細ねぎを散らして供する。


写真はピントが後ろになったのか、少々ぼけていますが、彩りのアクセントとなる細ねぎは、やっぱりあったほうがいいなあ。お味は「大根で増量したカレーうどん」でした。でも、かんたんに作れてあたたまる点は Good ですが、あとでお腹がすきやすいかな(^o^)/



うどんなのにラーメン丼なのはご愛嬌。まあ、某有名写真サイトじゃないから(^o^)/



ところで、大根を切るときに感じましたが、和包丁は切れますね! 片刃なので片方だけを研ぐことと、素材がステンレスでないためサビを出さないように気をつける必要がありますが、刃物としては抜群の切れ味だと感じます。

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山響第283回定期演奏会は無料動画配信で

2020年03月12日 06時01分09秒 | -オーケストラ
山形交響楽団の第283回定期演奏会は、週末の3月14日(土)19時と15日(日)15時の2回開催される予定でしたが、新型コロナウィルスの感染防止のため、14日(土)に無聴衆で行われ、インターネットで無料動画配信されることになった(*1)そうです。

(*1):「第283回定期演奏会」無観客ライブ配信のお知らせ〜山響ホームページより

これによれば、配信は14日(土)19時から、クラシック専門生放送プラットフォーム「カーテンコール」(*2)で行われる予定とのこと。曲目は、

  1. シューマン/序曲、スケルツォとフィナーレ 作品52
  2. チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35 神尾真由子(Vn)
  3. シューマン/交響曲 第2番 ハ長調 作品61
     阪 哲朗 指揮、山形交響楽団

というもので、ずっと楽しみにしていた演奏会です。ナマの演奏に接することができないのは残念ですが、まるっきり中止になるのではなくこうした形で演奏に接することができるのはありがたい。

そういえば、昔のFM放送では、演奏会を生中継でよく聴いたものでした。今はインターネットで映像とともに配信されるということになり、時代の変化を感じます。当日は、予定を全部シャットアウトして、といってもまた一つ中止の連絡が入り、まるで真っ白なのですが、飲み物でも用意して PC-audio の前に陣取ることにいたしましょう。
お時間が合えば皆様も一度いかがですか(^o^)/

(*2):CURTAIN CALL〜クラシック・コンサート専門ライブ配信サービス この中に山響の定期演奏会のページが作られることになるのでしょうか?詳細は山響ホームページで発表されるとのことです。

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3月11日、あの頃はどうだったか

2020年03月11日 06時03分41秒 | ブログ運営
時が経つと、いろいろなことが記憶の彼方に薄れていきます。それはある意味で幸せなことで、いやな、辛い記憶や感情もしだいにやわらいでくることを意味します。でも、思い出すことに意味があることもあるでしょう。2011年、このブログを開始して8年目の3月に起こった東日本大震災と福島第一原発事故の頃の記事を読み返していると、当時の記憶が蘇ります。


(2011年3月撮影)

3月11日の朝の記事は、セカンドバッグの中でPHSの電源が入ってしまうというのんびりした話題でした。で、翌12日と13日は停電と震災対応のため記事投稿はなし。再開したのは14日で、「なんとか、元気です。」という記事からでした。
(下線部・記事タイトルを右クリックし「別窓で開く」を選択すると便利かも。)

これらの記録を読むと、文体もまっすぐで、当時の緊張感が感じられます。自分の文章なのに、思わず背筋がぴんと伸びるようです。

その後、震災関連の記事をいくつか書きましたが、福島第一原発の未曾有の事故に対し、お隣の宮城県にある女川原発が事故を免れたのはなぜか、という考察が記憶に残ります。

あの頃、多くの人々は助け合って生きていました。昨今の新型コロナウィルス関連の問題点は、人々の疑惑と不信を助長し、互いの助け合いを壊す作用があるところにもあるのではなかろうか?

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剪定枝の片付けに終わりが見えてきた

2020年03月10日 06時02分24秒 | 週末農業・定年農業
昨日はいいお天気に恵まれ、気温もぐんぐん上昇し、4月下旬並みの20度近い暖かさでした。おかげで農作業が進みます。ほぼ一週間となる2つめの園地での剪定枝片付け作業は、ようやく終わりが見えてきました。



根本に集めていた枝を拾い、適当な大きさに切り、束ねて一箇所に集積します。要するにこの繰り返しです。作業を始める前は、園地いっぱいに広がる剪定枝を見て、これを自分だけで片付けられるのかと気力が萎えます。でも、気合を入れてまず手近な樹の周囲から。ようやく一本を拾い終わると、それだけで腰が痛くなりますし、飽きていやになります。



軽トラックの荷台に腰を掛けて、コーヒーで休憩します。この時間がなんとも言えないホッとする時間です。どんなに大変な仕事でも、まず取り掛かり、この一本を終えたら休もうと心に決めて、辛抱辛抱。ときにはラジオで興味深い番組を放送していることもあり、それも楽しみの一つです。ほぼ一週間をかけて終わりが見えてきた昨日は、珍しく国会中継などに耳を傾けました。

普段は、論戦のプロたちが言質を取ろうと手ぐすね引いて質問し、答える方はうまくはぐらかすのを常とするのだけれど、昨日の新型コロナウィルスに関する質疑には、実はお医者さんらしいセンセイが専門家の観点から具体的に聞いていて、いつもと違った雰囲気でおもしろく聞きました。

そんなこんなで、積み上げた剪定枝の束。これでおよそ半分くらい。



これを燃やすのが、またひと仕事です。
剪定ノコギリで負傷して以来、今年は革の手袋を使っていますが、これが作業しやすくたいへん便利です。実は綿の薄い白手袋を内側にしてから革手袋をしているので、わりに汗のにおいもしないようです。

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急な買いだめの心理と事情

2020年03月09日 06時02分59秒 | Weblog
新型コロナウィルスの感染を防ぐために、当地でも医師会から行政の長に要請があり、例年の地域自治会の総会を中止するようになったらしいです。当然、その後の懇親会もなし。飲ん兵衛諸氏は不平不満をもらすでしょうが、大多数の人たちはほっとしたというのが正直なところかも。

ところで、マスク不足に端を発したトイレットペーパー等の急な買いだめ騒ぎ、この心理と事情が興味深く感じられます。おそらくは、収納スペースに限りがある住宅事情の場合、ふだんから余計な分量を買わない、必要になったら必要な分だけ購入する、というスタイルを取っているのではなかろうかと想像します。いわば、トヨタのかんばん方式と似たやり方です。すぐ近くのコンビニやスーパー、ドラッグストアなどで、必要なときに必要なだけ買ってくればよい。こういった店舗の棚が、共同倉庫のような使われ方だったのでしょう。ところが、外出を控えて自宅で巣ごもり生活をすることを考えると、在庫を最小限にしか持たないこの方式では破綻します。そこで、無理に収納スペースを確保し、日常生活に必要な物品を購入し、在庫を確保しようという動きが始まると、店舗の棚があっという間にスカスカになる、ということなのでしょう。

これに対し、「ど」がつくほどの田舎に住み、買い物は数日〜一週間分を車でまとめ買いする習慣のあるわが家では、無駄に広い田舎家の住環境を活かして、マスク、トイレットペーパー、ティッシュペーパー、石鹸、歯ブラシ、電池などの日用品は常に予備の在庫があるように心がけていますので、今回は逆に買わずにすませることができました。トヨタの生産方式の観点からすれば、無駄、不経済なのかもしれませんが、逆に災害や危機に強いのかもしれません。持たない暮らし、シンプルライフもいいけれど、災害や危機には弱いのかな、と感じてしまいます。

※誤解のないように、一部の表現を手直しをしました。

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ジェットストリームのピュアモルト多機能ペンの10年後

2020年03月08日 06時03分04秒 | 手帳文具書斎
ジェットストリーム・ボールペンが気に入って使い始めてからだいぶ経ちました。最初はプラスチック製の単色軸でびっくりし、次に三色ボールペンでハマり、多機能ペンにおお喜びしました。もう少し落ち着いた高級感のある製品がほしいと思っていたら、ウィスキー樽材を首軸に用いた「ピュアモルト・ジェットストリーム・インサイド」という長い名前の製品が発表され、2010年の冬に2,000円の4+1タイプと1,000円の2+1タイプの二本を購入して使い始め、すでに10年になります。で、その評価は?

まず、明るい色調の2+1タイプですが、こちらは黒と赤のボールペンに0.5mmのシャープペンシルという組み合わせが実用的で、使用頻度も高く替え芯を何度も交換して、現在までずっと愛用しています。10年後の現在も、変色も故障もなく、十分に実用になっています。



一方、マットブラック塗装の4+1タイプの方は、いかにも黒っぽい見た目が災いしたのか手にする頻度が低く、買った当時から一度も替え芯に交換することがないままでした。しばらくぶりにペンケースから出してみたら、なんだか手触りが悪くベタベタします。よく見ると、マットブラック塗装が変質して接着剤が浮いてきているような状況です。書く機能のほうは大丈夫ですが、高級感は全く無し。2+1タイプの倍のお値段とはとても思えない無残な姿になっていました。ティッシュで拭き取ろうとすると紙の繊維がくっつくし、消しゴムでゴシゴシしたら余計に悪化する始末。



これは奥の手の石けん洗浄しかなかろうと、温水と石鹸と歯ブラシを用意してゴシゴシ洗い、水分をティッシュで拭き取ると、あらまあ! つや消しマットブラック塗装が剥げ落ちて、ツルツルピカピカの黒い塗装が残りました。うーむ、これはお値段半分の2+1にも劣る見た目だなあ(^o^)/
写真の一番下の黒いやつは、普通の4+1多機能ジェットストリーム。





このシリーズは、すでにカタログ落ちして久しいようです。こうしたマットブラック塗装の劣化は、私が身近に体験していないだけで、他社製品でもあるのかもしれません。良質の素材を採用することは賛成ですが、普及品の見た目だけを高級っぽく変えるやり方は、時間の経過により文字通りメッキが剥がれる結果になりやすい、ということでしょうか。

教訓:長く使いたいならマットブラック塗装には手を出すな。

いや、塗装が落ちてツルピカになったかわいそうなピュアモルト4+1ペン、実用上は全く問題ないので、今後はときどき使ってあげたいと思います(^o^)/

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退職後の変化:確定申告を終え、あらためて家計管理の重要性に気づく

2020年03月07日 06時02分35秒 | Weblog
ようやく確定申告の作業が終わり、税務署に提出して来ました。例年通りならもっと早く出来上がったはずなのに、今年は例年通りではない要因が多く、ずいぶん時間がかかりました。

  • 1月〜3月のフルタイムの勤務と4月からの非常勤の勤務による給与所得に、11月〜12月の別の非常勤の仕事が加わり、さらに年金所得の源泉徴収票も老齢基礎年金の分が加わったけれど、額面は激減したため従来のフルタイムのときの計算式が使えず、ワークシートを修正するのに手間取り、準備する添付書類の枚数はやけに多くなった。
  • 農業所得は、思いがけない農機具の故障による修理や更新、作業小屋の屋根塗装の費用などがかかり、かなり赤字になったため、一部を退職所得で補填したが、退職所得は課税対象外であることに後から気がついて計算をやり直した。また、減価償却費の算定が一部変わっていることに気づいた。
  • 医療費控除の計算も、従来の領収書添付から一覧表形式に変わり、確定申告ワークシート集計表の様式を一部変更して作り直した。

それでも、ようやく自由な時間が多い身の上になったことが幸いして、当初の締切日の前に提出することができました。

確定申告用の自作ワークシートは、基礎的な集計部分はそのまま使えましたが、税額の計算の部分はそのままは使えず、やはり農家兼業のフルタイム勤め人と年金生活者では違うなあと感じた次第です。



退職前には、年金額は毎月決まった額が入ってくるのだろうと思っていましたが、けっこうたびたび変わります。退職して在職停止分が増えたりするのはありがたいけれど、介護保険料や後期高齢者医療保険料、国民健康保険料(税)、個人住民税等が特別徴収で引かれたりすると、がたっと下がります。支給総額は決まっておりますが、給与生活者の月給のように一定の金額が毎月入ってくるわけではなく、隔月に入ってくる額はけっこう変動すると考えたほうがよいようです。最初の頃は、けっこうもらえるんだと思って喜びますが、後になるとヌカ喜びだったことがわかってがっかりします。特に退職したばかりの年は、税金も前年の所得に見合う額が課されますし、健康保険料も自分で納めなければいけませんから、出ていくお金がやけに多く感じます。本当は自分の給料から天引きされていただけなのですが(^o^)/

源泉徴収に慣れてしまっているサラリーマン時代は、あまり税金や家計管理には意識を向けないで来ましたが、農業所得を含めた確定申告をするようになり、家計管理の大切さが感じられるようになりました。老後破綻などということがないように、家族を含め、家計管理は意識的にきちんとしておいたほうが良いようです。

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予定が見事になくなった〜3月のスケジュール

2020年03月06日 06時01分53秒 | 季節と行事
手帳のスケジュールらんで、テープ字消しで修正しながら今月の予定を再確認し、あらためて驚きました。これまでそこそこ入っていた予定が、見事に消えて真っ白になってしまっています。あと残っているのは三つだけで、うち1つは『本好きの下克上』第5部第1巻の発売予定というものですから、まるで真っ白です。

従来は、年度末といえばけっこう多忙な時期ではなかったかと思いますが、フルタイムの仕事から退職し、確定申告の締切も一ヶ月延びて、暖冬のおかげで果樹園の仕事も順調に進んでいますので、まずはゆうゆうと生活できている、かな? 3月の嵐と雪降りも、どうせすぐ消えるだろうと予想されますので、あわてず騒がず。

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新型コロナウィルスの脅威〜山響を応援しよう

2020年03月05日 06時03分00秒 | -オーケストラ
新型コロナウィルスへの対応に苦慮し、各地で諸行事を実施するか中止するか、ぎりぎりの判断が迫られているところかと思います。あるいはすでに中止や延期が決定されているものも少なくないでしょう。実際、義理で渋々参加する人が多かった行事などは、欠席が多くなって開催できない状況になっているようです。主催者側にはいわゆる正常化バイアスが働きますが、一般の人は「クラスター」で集団感染するのが怖いので、人がぎっしり集まるところへは行きたくない。なに、新型といっても大したことはないのじゃないか、などと横着根性がちらりと顔をのぞかせることもありますが、いまのところ治療法が定まっていない新しい病気ということで、やはり敬遠したくなります。となると、学校のほかに影響を受けるのは飲食店、ホテル、結婚式場など大勢の人が集まる場所です。映画館や演奏会などもこれに入るでしょう。

では、せっかく経営の再建が軌道に乗りつつあった、我らが山響はどうなるのか。いくつかの演奏会はすでにキャンセルが発表されており、経営的な打撃は大きいと考えられます。事柄の性格上、新規の感染者が減少し、疫学上の判断に基づいた一定の宣言が出るまで、この事態は続くと考えられます。だとしたら、集中型がだめなら分散型ではどうだろう。幸い、山響にはこれまでの演奏の録音を蓄積した自主レーベルがあります。CDを購入し、自宅で引きこもり生活の潤いに、あるいは通勤の車中等で聴くことで、山響を応援したらどうだろう。家族や親戚知人に、山響のCDをプレゼントしてはどうでしょうか。幸いに、山響ホームページには、CDやGOODSの販売のページ(*1)があります。

(*1):ここです。

実際は、CDの売上でカバーできるような状況ではないことはあきらかですが、今はタイヤを失った四輪駆動車みたいなものでしょう。

そうそう、以前「さくらんぼテレビ」が制作し、FNS ドキュメンタリー大賞を受賞したテレビ番組が、YouTube に公開されていました。私も、当時はテレビを見逃した組で、今回あらためて見て良質の番組だなと感じました。また、同じく YouTube の山響チャンネルにも、団員インタビューなどの動画が公開されています。これらをご覧になって共感していただいた方は、ぜひ山響を応援してくださるように、心からお願いをいたします。

【384kbps】山形交響楽団(Yamagata Symphony Orchestra)ドキュメンタリーTV(2017年放送)


新型コロナウィルス騒動も、季節的な流行で夏場には自然に終息するインフルエンザのように、春のおとずれとともに終わってほしいと願っていますが、おそらくはリーマン・ショックや東日本大震災以来の経済的苦境が残ると思われる現在の状況です。まずは健康で、次に可能な試みを工夫することにいたしましょう。

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1980年代中頃のファミリー向けOA機器カタログ〜キャノン

2020年03月04日 06時03分57秒 | 手帳文具書斎
書棚を整理していたら、古いキャノンのカタログを見つけました。「わが家にだって事務はある」として、ミニOA機器のラインナップを紹介したものです。石坂浩二さんには「僕のOA」、ビートたけしさんには「俺のOA」というキャッチフレーズがありますが、製品の発売時期をみると、おそらくは1984年ころのものと思われ、お二人の笑顔が実に若々しいことにびっくりし、また当時を知るものには懐かしく思い出されます。



全体は4区分に分かれており、(1)パーソナル複写機、(2)パーソナル電子タイプライタ、(3)パーソナルコンピュータ、(4)日本語ワードプロセッサ、そして最後にカード電卓がちょこんと紹介されている、というものです。

(1)パーソナル複写機


複写したい資料を上に載せ、それが移動してスキャンされるしくみで、百科事典のような大型のものは苦手としていました。

(2)パーソナル電子タイプライタ

2書体内蔵の電子式の英文タイプライタで、32×26ドットの熱転写プリンタを持っていました。

(3)パーソナルコンピュータ


8ビットのMSXパソコンに加えて、アップル社の Apple IIc が掲載されています。当時、キャノンはアップルの代理店契約を結んでいたはずです。

(4)日本語ワードプロセッサ


キャノワード・ミニCM-5が1983年の発売で、CM-3が1984年、また50音図キー配列のワードボーイが1984年の発売です。キャノワードが QWERTY配列のキーボードなのに、ワードボーイは50音図配列と、なんとも腰が引けたどっちつかずの戦略です。それだけキーボードへの抵抗感は大きかったのでしょうし、逆に日本語ワープロへの期待は大きかったのでしょう。PW-10J に「新・発・売」と赤字で記してありますので、1984年のカタログのようです。

おまけで、カード型電卓です。


当時、OA化というのは、コピーと日本語ワードプロセッサが本命の、文書処理が中心だったことがよくわかります。私自身は、こうしたパーソナルOA機器に魅力を感じながらも、まだ職場の 8ビットの PC-8001MkII で BASIC プログラミングをやっていた時代です。この数年後に、16ビットのパソコンが普及し、自分でも購入して日常的に利用するようになりました。その時には、ワープロだけでなく表計算やデータベース、パソコン通信といった利用が、できるようになっていたのでした。この時期、1980年代後半のわずか数年の出来事が、OA化への姿勢やOAに関する素養の度合いを決定してしまう第一関門だったように思います。

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ジャガイモのポタージュ・スープを作る

2020年03月03日 06時03分51秒 | 料理住居衣服
新型コロナウィルスの影響で実質的に引きこもり生活が続いておりますが、逆に自家製の保存食材を消化するためにせっせと料理を作る良い機会でもあります。先日、妻のヘルプにより一品を担当することになり、「ジャガイモのポタージュ・スープ」に挑戦しました。もちろん、初めてのチャレンジです。

【材料と準備】
ジャガイモ 2個(約300g) 皮をむいて細切り (※)
玉ねぎ   1/4個(約50g)
牛乳    400cc
パセリ   少々  みじん切り
固形スープの素 1/2個
バター   10g
水     400cc
塩、コショウ 適量
バゲット等の残り あればサイコロ大に切っておく

 (※)ジャガイモは、芽が出ているところは有毒ですので、きちんと取り去ります。

    【作り方】
  1. 刻んだジャガイモは、器に入れてラップをし、レンジで3分くらいチンしておきます。
  2. 鍋にバターを入れて弱火で熱し、融けたら玉ねぎを加え、透き通るまで1〜2分ほど炒めます。

  3. 水、ジャガイモを入れ、固形スープの素を加えて、ふたをしてジャガイモが煮崩れるくらいまで弱めの中火で煮込みます。約10〜15分くらいですが、焦げ付かないように時々かきまぜながらジャガイモを潰すようにしました。

  4. 本当はスープを濾したほうが良いのでしょうが、時間の関係で省略し、牛乳を加えて煮立ったら塩とコショウで味を調えます。

  5. 器に盛り、パセリ、バゲット等の残りをのせて供します。


出来上がりの様子を写真に撮るのを忘れて、食べている途中で思い出しました(^o^)/

お味の方は、ちゃんとした「ジャガイモのポタージュ・スープ」で、たいへん美味でした。

こちらは妻が作ったイカを使った料理です。さすがに年季が入っており、見た目も美味しそうで、実際に食べても美味しかったです。

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宮田親平『愛国心を裏切られた天才』を読む

2020年03月02日 06時01分20秒 | -ノンフィクション
だいぶ前に購入していた朝日文庫で、宮田親平著『愛国心を裏切られた天才〜ノーベル賞科学者ハーバーの栄光と悲劇』を読み終えました。空中窒素を固定しアンモニアを合成するハーバー・ボッシュ法を開発した功績でノーベル賞を受賞した化学者ですが、夫の毒ガス研究を嫌って妻が自殺したというようなエピソードは断片的に承知しておりました。けれども、まとまった伝記的な書物は見たことがなく、たいへん興味深く読みました。

本書の構成は次のとおりです。

    プロローグ
  1. 生い立ち
  2. 挫折と苦闘の日々
  3. 陽の当たる場所へ
  4. 空中窒素固定法の成功
  5. 家庭崩壊の兆し
  6. 毒ガス戦の先頭に立つ
  7. 死の抗議と第二のロマンス
  8. 敗戦と逃亡
  9. ノーベル賞、星基金、チクロンB
  10. 海水から金を採取せよ
  11. 日本訪問
  12. 報酬は国外追放
  13. 最愛の国家に裏切られて
    エピローグ

1868年にプロイセンのユダヤ系の両親のもとに生まれたフリッツ・ハーバーは、産後の不良のために生母を亡くし、勤勉な父と聡明な継母と兄たちからなる家族の中で育ちます。上昇機運にあった家業は染色業でしたので、自宅や織物倉庫を実験室として化学に親しみます。父ジークフリートはフリッツを取引関係のあった染料商に弟子入りさせますが、うまくいきません。叔父と継母の応援もあって、ベルリン大学へ、後にハイデルベルグ大学のブンゼンの下に学び、軍務についた後、ベルリンのシャルロッテンブルク工科大学に編入し、有機化学で学位を得ます。しかし、尊敬するオストワルドの下で研究をするという望みは叶わず、醸造会社や肥料会社に職を求め、実務経験を経た後に、スイスのチューリヒ工科大学を経て父の染料会社に入りますが、父子相克があきらかとなり、イエナ大学からカールスルーエ工科大学の無給助手として採用されることとなります。このあたりは、ユダヤ人の出自が不利に働いた面が強かったようで、キリスト教に改宗し、本物の「ドイツ人」として社会に溶け込もうとしたようです。

カールスルーエでは炭化水素の熱分解に関する実験的研究により物理化学的な解釈を行い、高い評価を受け注目を集めて、無給助手からようやく私講師の地位を得ることとなります。このあたりの経緯から、先生が弟子を推薦し道を開いてやるというような様子が見られず、おそらくハーバーは先生に可愛がられるタイプではなく、「一匹狼」に近い存在だったのではなかろうかと想像されます。その気質は、逆に独創的な発想を生み、本来の専門分野である有機化学に電気化学を結びつけて、ニトロベンゼンを電解還元しアニリンを製造するという技術的成果(*1)を生み出します。同時に、フライブルグで行われた学会で、かつて想いを寄せ、今は女性化学者となっていたクララ・インマーヴァーと再会し、同様にユダヤ系であった二人は結婚します。しかし、幸福な結婚生活も、長男ヘルマンの誕生と育児はクララの肩にのしかかり、夫フリッツは研究一筋の多忙な生活に追われるばかりで、妻自身の持つ化学者としての希望を助けようとしてはくれません。

19世紀末から20世紀の初頭、窒素肥料の欠乏は飢餓を招く重大な問題でした。多くの化学者が、水を分解して得られる水素と空気中の窒素とを原料としてアンモニアを合成する方法に取り組んでいましたが、当時は誰も成功していませんでした。原料としての水素と窒素は、生成物としてのアンモニアと平衡状態にあるとき、アンモニアの生成の方に平衡を移動させるにはどうするか? というのは、化学平衡に関する高校化学の代表的なテーマです。実は、ハーバーが取り組んだのはまさしくこの問題であり、温度、圧力、そして触媒というのが結論でした。実用化にはBASF社の技術者であるボッシュが引き継ぎ、鉄が触媒として優れていることを発見し、工業化を実現したため、現在はハーバー・ボッシュ法と呼ばれている、というわけです。

夫フリッツ・ハーバーは、アンモニア合成という花道を得て、カイザー・ウィルヘルム研究所の所長というポストに登り、ますます多忙な毎日を送りますが、妻クララは失意に沈み、家庭は崩壊の危機に至ります。何よりも、第一次世界大戦に際し、「早く戦争を終わらせるため」として夫が毒ガス戦の研究にのめり込んだことが、妻にはおそらく理解できなかったのでしょう。1915年5月、妻クララは抗議自殺します。

しかし、ベルリンの社交クラブの若い秘書で、同じくユダヤ系のシャルロッテを妻に迎え、ハーバーの毒ガス研究はやみません。塩素ガスやジホスゲンなどは防毒マスクで防御できますが、さらにイペリットの開発となると、皮膚に触れただけでびらん状態になるという凶悪さで、防毒マスクさえ無効になってしまいます。チューリヒ工科大学のシュタウジンガー教授等からハーバーの毒ガス研究が痛烈に批判される中でドイツは敗戦を迎え、ハーバーはスイスに逃亡しますが、1918年、アンモニア合成法の開発研究の業績で、ハーバーはノーベル化学賞を受賞、ドイツに復帰します。

両大戦の間の時期に、ハーバーはドイツ科学の再生に力を尽くしますが、ここでもシャルロッテとの間に不和を生じて離婚、反ユダヤ主義を掲げるナチス党の台頭によりユダヤ人の全追放が行われます。ドイツ化学工業界のトップであったボッシュはこれに反対し、「ユダヤ系の科学者を追放することは、ドイツから物理や化学を追放することである」と警告しますが、ヒトラーは「それならこれから百年、ドイツは物理も化学もなしにやっていこうではないか」と答えたそうな(p.218)。ハーバーは辞職し、国外追放となります。この後のドイツの歩む道は歴史が示すとおりですし、ハーバーもまた失意の道を歩みます。



いやはや、これまでよく知らなかったハーバーの生涯が、具体的にわかりました。と同時に、合成の技術的な困難さの反面の、風向きにより「敵を倒すだけでなく味方にも犠牲を出してしまう」毒ガスという兵器の本質的愚かしさを感じます。二人の妻に去られる人間性は、仕事中毒により地位と権力を手にした一匹狼が、持ち前の組織力を活かし「傑出した科学的才能を大量殺戮のために使っている」(*2)ようなものだと思います。

『愛国心を裏切られた天才』という表題について、国を愛するという言葉もいささか漠然としているように思います。「国民」を愛することや「国土」を愛するということはすんなりと理解できますが、「国家機構」は無条件に愛するとは限らない。国民を迫害収奪し、国土を破壊するようなら、その国家機構は果たして愛するに値するのかどうか。同様に、ハーバーの愛国心は歪んでいなかったのかどうか。

(*1):ハーバーの業績など何も知らなかった若い頃、某高校でニトロベンゼンを入れたビーカー中で水の電気分解を行い、発生する水素でニトロベンゼンが還元されてアニリンができるかどうかを調べ、さらし粉が赤紫色に変化するのを確かめて喜んだ記憶があります。
(*2):アインシュタインがハーバーを批判した言葉だそうです。(p.159)

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