電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山形弦楽四重奏団第27回定期演奏会を聴く

2008年04月13日 08時33分16秒 | -室内楽
昨日の土曜日、午後から老父が入院先の病院から一時帰宅、入浴して一休みし、さっぱりして、喜んで行きました。腸閉塞の手術の経過はまずまず順調なようで、食事も全がゆになりました。もう少し経過を見て、抗ガン剤の化学療法を再開する予定です。気力がおとろえていないのがなによりです。

そんなこんなで、山形弦楽四重奏団の第27回定期演奏会、アンサンブル・ピノによるプレ・コンサートには間に合わず。ヴァイオリンの中島光之さんのプレトークに、ようやく間に合いました。会場となる文翔館議場ホール、いつもは前列のほうに陣取るのですが、今回はおとなしく一番後ろのほうへ。ホールの特性でしょうか、中島さんの声がマイク無しでもよく聞こえます。内容は本日の曲目の解説ですが、特にフォーレについて詳しく説明してくれました。

ドイツ・ロマン派が行き着いたワーグナーなどのドイツ音楽に対し、フォーレはフランスの音楽を求めます。グレゴリオ聖歌などに遡り、新しい響きを追求。フォーレの「レクイエム」には「怒りの日」がないように、派手な表現を嫌い、内面的な作風が特徴。弦楽四重奏曲は最後の作品で、心の平安に向かって行くものです。響きは穏やかで、心に浸みて行く音楽、とのことです。

お客さんの入りはほぼ満席に近いくらい、かなり多かったのではないでしょうか。演奏は、まずハイドンの弦楽四重奏曲 ニ短調 作品76の2「五度」から。ステージ左から、第1ヴァイオリンを中島さん、第2ヴァイオリンが駒込綾さん、チェロが茂木さん、そしてヴィオラが倉田さんです。
第1楽章、アレグロ。短調のビッグベン。流れるようなハイドン、ふわっとやわらかいハイドンです。コントラストの強い場面でも、バランスを崩しません。こういうハイドン、好きですねぇ(^_^)/
第2楽章、アンダンテ・オ・ピウ・トスト・アレグレット。第1ヴァイオリンの主題に3人がピツィカートで。変奏が伸びやかで美しい。
第3楽章、メヌエット。アレグロ・マ・ノン・トロッポ。どことなくオリエンタルな、とても面白いメヌエットです。後半はカノン風の展開に。
第4楽章、フィナーレ。ヴィヴァーチェ・アッサイ。四人の奏者が全休止することで作られる間合いが印象的。静寂から再び第1ヴァイオリンで音楽が立ち上がって来ます。

個人的にハイドンの弦楽四重奏曲が大好き、特にこの作品76の六曲はお気に入りの作品が多く、嬉しい時間でした。

続いてベートーヴェンの弦楽四重奏曲第6番、変ロ長調、作品16の2です。第1ヴァイオリンが駒込さんに、第2ヴァイオリンが中島さんに交代します。
第1楽章、アレグロ・コン・ブリオ。小鳥の鳴くようなところもある、牧歌的な出だし。少し音程に不安なところもありましたが、全体に軽やかでリズミカルでいい感じです。
第2楽章、アダージョ・マ・ノン・トロッポ。第3楽章、スケルツォ。アンサンブルの緊密さが問われるところです。
第4楽章、La Malinconia (Adagio~Allegretto quasi Allegro) これ、メランコリックに、という意味なのかな。序奏部、第2ヴァイオリンとヴィオラとチェロが沈んだ響きを奏でる中で、第1ヴァイオリンも憂鬱な嘆きの曲想。チェロの音がしだいに高まる不安を表すのでしょうか。アレグレットも、軽やかですが晴れ晴れとはしていない。再びアダージョ、ことさらに深刻にしてはいないけれど、実は深刻な問題に直面しているようです。ベートーヴェンの演奏は、終楽章に近付くにつれて、ぐっとのってきたようです。

10分間の休憩の後、いよいよフォーレの弦楽四重奏曲が始まります。再び中島さんと駒込さんが交代し、第1楽章、アレグロ・モデラート。倉田さんのヴィオラから始まります。いい音です。全体に中低音域中心の中から、第1ヴァイオリンだけが高音と低音を行き来します。不思議なフォーレの響きです。
第2楽章、アンダンテ。静かで瞑想的な響き。4つの楽器が単独で聞こえるのではなくて、全体の響きの中に存在が見分けられる、といったあり方。絵の具が盛り上がったような絵画ではなくて、表面はつるっと平らなのに色調には陰影がある絵画のよう。
第3楽章、アレグロ。チェロから始まります。チェロのピツィカートの付点リズムがとても面白く印象的。ヴァイオリンやヴィオラも付点リズムを再現しますが、その間に他の楽器が響かせるゆらめくような旋律が繊細で美しい。

遺作となったフォーレの音楽は、意外にも、無調の音楽はすぐそこまで来ているのだな、と感じました。わかりやすい山場や見せ場といったものの少ない地味な曲を、見事にまとめた努力に拍手~です。

アンコールに演奏したハイドンの「皇帝」の第3楽章、メヌエットは、ぱっと窓が開いて外の景色が見えて来る感じ。やっぱりハイドンの弦楽四重奏曲はいいなぁ。

今回の定期演奏会、なかなか聴けないであろうフォーレの弦楽四重奏曲の実演に接することができたという点と、ハイドンの「五度」を楽しみ満足したことと、ベートーヴェンの初期の弦楽四重奏曲の意外な(?)難しさを認識したという点で、大きな収穫でした。山形弦楽四重奏団の皆さん、ありがとうございました。



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2 コメント

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ありがとうございました (中爺)
2008-04-13 11:20:36
 いつも来て下さって、しかも素晴らしい演奏会評まで書いて頂きうれしく思います。トークの内容も話してる本人より、よく整理して下さいました。

 ハイドンがお好きとの事、全曲演奏の企画はまだまだ中盤にさしかかったばかりですので、今後も応援して頂きたいと思います。

 フォーレは我々が意図した事を、それ以上に聴いて感じ取ってもらえたようで逆にこちらが感激します。

 お父上の回復をお祈りしています。。。
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中爺 さん、 (narkejp)
2008-04-13 12:19:50
コメントありがとうございます。山形弦楽四重奏団の演奏会は、以前の夜間勤務の頃はなかなか行けなかったのですが、最近は行けるようになりました。楽しみが増えたようで、ありがたいです。今回は、フォーレの遺作の弦楽四重奏曲という地味な曲目でしたのに、ずいぶんお客さんが多く、びっくりしました。季節もありましょうが、皆さんの活動の成果の一つかな、と思います。規模は小さいものの、山形に室内楽の楽しさが着実に根付いているようで、嬉しいことです。次の機会も、楽しみにしております。
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