電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山形テルサホールで「松田理奈が奏でるモーツァルト」を聴く

2015年02月12日 19時47分48秒 | -室内楽
「建国記念の日」で休日となった水曜日の午後、妻と山形テルサホールに出かけました。正式には「松田理奈が奏でるモーツァルトwith池辺晋一郎&飯森範親」というコンサートです。今週末の土曜日に最終回を迎える、山形交響楽団の八年がかりの「モーツァルト交響曲全曲演奏」企画を応援し盛り上げるために計画されたものでしょう。

ステージ上には、真ん中にピアノが配置され、伴奏者と合図が交わせる位置に独奏者の譜面台が置かれています。そして、ステージの右側には弦楽四重奏のための椅子と譜面台が置かれ、ステージの左側にはちょっとした居間のような雰囲気で、三人分の椅子がテーブルを囲みます。おそらく、ここがトークの場所なのでしょう。




客席はほぼ満員で、人気企画であることがうかがえます。開演とともに、ヴァイオリンの松田理奈さんとピアノ伴奏の小森谷裕子(こもりや・ひろこ)さんの登場です。松田理奈さんは、昨年6月の山響モーツァルト定期でヴァイオリン協奏曲第1番を演奏(*1)しています。このときに、アンコールで披露したイザイの無伴奏がステキで、わざわざCDを購入してサインしてもらっていました(^o^)/

最初の曲目は、若いモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ第28番ホ短調K.304です。この曲は、切なさというか哀切さの中にも軽やかに音楽が息づいている、そんなチャーミングな音楽で、私も大好きで聴いております。松田理奈さんと小森谷裕子さんは、この曲の魅力を充分に表現してくれました。松田さんはもちろんですが、小森谷さんのピアノが素晴らしかった!

ヴァイオリン・ソナタの演奏が終わると、飯森さんと池辺晋一郎さんが登場します。わーお、池辺さんはN響アワー以来でしょうか。ずいぶん久しぶりにお顔を拝見するように思いましたが、全然変わらずお元気そうで、音楽の解説の中に恒例のダジャレをぶちかまします(^o^)/
このソナタはホ短調で書かれているけれど、ホ短調というのは私的な感情の表明にしばしば用いられるのだそうです。古典派の曲で用いられる例は少なく、ロマン派になるととたんに増えてくるのだそうで、この曲あたりが先例になるのだそうな。実に見事なのだけれど、モーツァルト君は実に謙虚で、「プロ?いえいえ、アマでぅす」(爆笑)

二曲目は、山響の首席奏者による弦楽四重奏で、第17番「狩り」から第1と第3楽章です。第1ヴァイオリンが犬伏亜里さん、第2ヴァイオリンが舘野ヤンネさん、ヴィオラが成田寛さん、チェロが小川和久さんです。山響のモーツァルト交響曲全曲演奏では、古楽奏法やオリジナル楽器の採用などを採用しておりますが、これを意識して、ヴィヴラートはごく少なく。八年目にもなると、もうすっかり慣れて、独特の澄んだ響きや軽快なリズム感などを楽しむようになりました。

演奏の後の、飯森さんと池辺さんのトークでは、どうしてもダジャレを期待してしまいます(^o^)/
ハイドン以来、モーツァルトもベートーヴェンも、弦楽四重奏曲というジャンルでは、作曲家は真剣に書こうとする。ほんとに難しいので、「しじゅう相談しながら」(爆笑)

三曲目、「ロンド」ハ長調K.373 です。楽しい曲です。松田さんのヴァイオリンと小森谷さんのピアノの呼吸にあらためて注目。素晴らしい!

ここで15分の休憩があり、後半の四曲目は、再び松田さんと小森谷さんによるクライスラー編曲「ハフナー・セレナード」より「ロンド」。こちらは、モーツァルトの原曲を、クライスラーが技巧的に編曲したものでしょうか。イザイの無伴奏を見事に演奏する松田理奈さんのことですから、安定感があり、思わずため息が出ます。

これに対する池辺大先生のコメント:スラーには暗いスラーと明るいスラーと二人いて、今のは暗いほう(爆笑)

続いて5曲目は、再び山響トップによる弦楽四重奏で、第1番ト長調「ローディ」K.80です。これは、正直はじめて聴きました。なかなかステキな曲ですね。うーむ、やっぱりモーツァルトの弦楽四重奏曲の全集が必要だなあ(^o^)/

池辺晋一郎大先生のネタをあまりバラしてはいけないのかもしれませんが、最後に一つだけ:少し前に、モーツァルトのアニヴァーサリー・イヤーがあったときに、世界で一番盛り上がったのは、実は福岡だった。屋台に入ると、「モツ、あると?」オヤジも「モツ、あるとよ!」(爆笑)
うーむ、最近は博多弁もポピュラーになっているからなぁ(^o^)/

松田さんと小森谷さんの二重奏の最後は、「ロンド」変ホ長調K.269です。ピアノ伴奏の小森谷裕子さんは、実は飯森さんの先輩だそうで、山響のオーディションの際のピアノ伴奏もお願いしているのだそうな。ふーむ、すると近年の山響メンバーの方々には、こわいような、ありがたいような、両面的な存在なのでしょうか。でも、ソロを巧みにサポートしつつ音楽を表現する役割は、実に見事なものだと感じました。

松田理奈さんのモーツァルト観は、と飯森さんに問われて、実は「感謝する」人と答えます。それは、小学校四年生のときに転校することになり、学校になじめなくて不登校状態になっていたのだそうです。手許にはヴァイオリンしかなくて、そのときに28番のソナタを練習していたので、この音楽に悲しい気持ちをぶつけていたのだそうな。そうしたら、ヴァイオリンのレッスンの際に、先生が「どうしたの?」とわかってくれた、ということがあり、ヴァイオリンで気持ちを伝えるという原点になっているとのことでした。
飯森さんも、必ずしも完璧ではない、あるいはわざと完璧から外そうとする傾向のあるモーツァルトに、ますます親しみを感じるようになった八年間だったようです。

最後は、山響の弦楽首席奏者4人による弦楽四重奏で、第21番ニ長調K.575から第3楽章「メヌエット」を。アンサンブルの中でも、小川和久さんのチェロの、高音域の甘い音色が素晴らしく、これに加わる成田さんのヴィオラの音色も、ステキにチャーミングです。この曲は、とりわけチェロの役割が大きいものに感じます。

山響モーツァルト定期の完結記念演奏会を期待させる、飯森さんと池辺さんのトークもたいへん楽しい、良い演奏会でした。



帰りは、例によって「ピザリア」で「季節の野菜ピザ」と「気まぐれ野菜パスタ」をいただきました。写真はありませんが、メニューを見たら、チーズフォンデュがあるみたい。山形でチーズフォンデュが食べられる店はそう多くないので、こんど試してみたいところです。

(*1):山響モーツァルト定期第19回でヴァイオリン協奏曲第1番と交響曲第23・28番等を聴く~「電網郊外散歩道」2013年6月


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